091 歌ってみた
気持ちは分からない、テスト項目にはならない、ごめんね、と謝られ、言葉を無くしたセンヤ。
その周りにだけ冷たい風が吹いているように見えるのは、気のせいじゃないかもしれない。
カーラやヒフミヨイと同じく、センヤのことが少し可哀そうかなと思えて来たブランだったが、このテリトリーに来た目的は、その可哀そうなモブIDプレイヤーに奪われたテリトリーを奪い返すことで。
ブランは頭上を飛ぶヒフミヨイをやるせなく見た。
「ちょっと、罪悪感?が湧かなくもないよね。」
「ん?何か言ったか?真ボス。」
「はははは、何かまた呼称が増えてる?」
カーラにニューマスターと呼ばれ、ヒフミヨイに真ボスと呼ばれ、照れくさそうに笑うブラン。
「ブランが罪悪感?
でも、すべてのテリトリーを制覇しないと記憶を取り戻しても、元の世界に戻ることができないしね。」
薄っすら赤く染まった頬をヒヨコの羽でぺちっと叩いたタクトは、キリッと、眉を寄せてみた。
「勝ちにいかないと。」
だから奪い返さないと言う選択肢はないよ。と目で訴えた。
ブランもタクトの言いたいことを理解して軽く頷く。
攻略アイテムも持っているし、その対象のヒフミヨイもここにいる。
奪った張本人のモブIDプレイヤーもここにいて、テリトリー奪還の条件はすべて揃ってる。
「実は、俺、モグラを倒して幌馬車の御者から粉の入った小瓶を2つ貰ったんだ。」
ブランの言葉を合図に、ヒヨコの胸のモフモフからタクトが2つの小瓶を取り出した。
「!!!!!」
それを見たヒフミヨイは、最大限に鳥目を開くとその色を変えた。
「なっ、そっ、っれっ、そんな、オレセンヨウノ アイテム、フタツ、モ モッテ」
ヒフミヨイは興奮し、言葉が上手く出せず、片言になっている。
「シンボス、神か。」
ブランを拝みだしたヒフミヨイを見たチャナは、その姿に2、3秒フリーズしたが、すぐに我を取り戻し叫んだ。
「ヒフミヨイが人を褒めてる!?
拝んでる!!
アイテム効果、すごい!!!」
チャナは体全体を使ってバタバタと驚きを表し、逆に、側にいるセンヤは悲壮感を増していた。
偶然とはいえ自分の力で手に入れた、テリトリーボスの座だ。
起点の城だって、文字の形ではあったが3つも建てたのに、と、納得のいかないセンヤ。
「専用の攻略アイテムって、そんなにたくさんあるものなんですか?
しかも俺が攻略アイテムでその鳥、攻略してるんですから、上書きなんて無理なんじゃないですか?」
タクトに向かって思いつく限りの、異議、抵抗を試みた。
「大丈夫だよ。
カーラのときも、ココアさんに攻略アイテムを奪われて先に使われたけど、後から手に入れた攻略アイテム使えて、効果も抜群だったから。」
「うわ、即答論破。」
センヤが狼狽えている間に、肩に乗るタクトから小瓶を受け取ったブランは早速その蓋を開けた。
ブランを拝んでいたヒフミヨイは羽を大きく広げ、太陽の光を背に浴びて神々しさを背景に、その小瓶の中の粉を讃え、喜ぶ。
「おおお!なんて香しい、甘味、酸味、塩味、苦味、旨味、糖度、コク、触感に至るまで最高品質を約束する、最高の調味料!」
続けて、羽を広げてフワリ、クルリと仰向けになったり、うつ伏せになったり、優雅にブランの周りを舞い飛ぶヒフミヨイ。
舞を終わったヒフミヨイは、ブランに差し出された小瓶を足で受け取ると、クイッ、クイッと斜めにして中の粉を口の中に流し込んだ。
ヒフミヨイの変わりように一番驚いているのは、やはり、チャナだった。
「人格が、いえ、鳥格が変わってる。」
「なんて天にも昇る気持ちだ。
果物だけじゃなく、この世の全ての食べ物が、俺の思い通りに一番うまい状態で食える。」
浮かれていたヒフミヨイがカッと目を開くと、センヤが今まで建てた文字の造形物が粉となって消え、丘の上は、チャナの白く美しい城だけが建つ状態に戻った。
「あああ、俺の城が。
なんで?」
浮かれ踊っていたヒフミヨイだが、仕事はしなければいけないので、センヤの元までめんどくさそうにやってくると、羽であごを持ちフッと口角を上げた。
「ああ、すまないな、今はただのモブの元モブボス。
元々無かったものだから、テリトリーの権利消滅とともに、城も消滅してしまったようだ。
サポートキャラである俺の好感度次第で申し訳ないが、99%真ボス、1%チャナって感じで、付け入る隙が無くなった。
モブの制限だと思って、諦めてくれ。」
言うだけ言ってひら~と飛んで行くヒフミヨイ。
その姿を見送ったセンヤは、首を振った。
「俺は諦めない。
いつか絶対、すごいと言わせて見せる。」
「あきらめないのか。」
目の前で意気込むセンヤに感心したシキは、大きな鋏をカタカタと叩き合わせて拍手を贈った。
拍手の音に、今まで意識的に避けていた姿をうっかり目に入れてしまったセンヤは、悲鳴を上げる口を押さえた。
「す、すみません、いや、やっぱり、往生際悪いですか?
ちょっと、出直してきますので、文字だけは勘弁してください!」
「?」
センヤは後ろ歩きで数メートル進むと、くるりと向きを変え、丘の下に広がる茶畑に全力疾走を始めた。
「ログアウトー!」
センヤの走り去った方から悲痛な叫び声が響く。
「?」
「あぁあ、テリトリーボスでなくなったからあっさりログアウトしちゃったんだ。」
「色々割り切って前向きになれる、センヤさんらしいですよね。」
「あら、ハトバってばそれは皮肉に聞こえるわよ?」
「そ、そんなつもりじゃ。」
「はははは、アンズったら、もう、涙の後も乾いたみたいね。
じゃ、私たちウサギモンスターに会いに行こう!」
「あ、待ってチャナ。」
チャナを止めたのはブランだった。
思わずブランに話しかけられたチャナは、緊張のあまり錆びた音を立てて首をまわした。
「わ、わたし?ブラン君が呼んだの?
はい、喜んで!」
「「いや、まだ何も言われてないし?」」
アンズとハトバの突っ込みに、困ったように笑うブランは、遠慮がちにチャナに聞いた。
「あの、レンタルカード、返してもらってもいいかな?」
「えっ?」
18歳のブランに見降ろされながら頼まれたことにチャナは、満面の笑みを崩し、だけど嬉しさも変わらず、複雑な顔を返した。
「うう、うう、返さないとダメですか、ダメですよね。
いえ、推しの言うことは絶対です。」
チャナは素早くポシェットを開くと、バッ(中のカードを探す)バッ(カードを見つけて取る)バッ(カードを差し出す)と素早くブランの前に差し出すと、「よろしくお願いします」ポーズを取った。
「ははは、うん、ありがとう。
でも、大丈夫、チャナのお城はそのままだし、ヒフミヨイだっていつだって呼んでもらっていいから。」
カードを受け取ったブランは、カードを頭上に掲げた。
「うう、笑えないけど、嬉しい、推しが輝いてる。」
レンタルカードを返したことによって、チャナはテリトリーボス代理からただのモブに降格されるのだが。
「笑えないって、めちゃ笑顔ですけど、チャナさん。」
「そうよね、恍惚としてるって表現がよくあてはまるわ。
もう、チャナ置いて、先に行こうかしら。」
「あ、待ってよ、アンズ、ハトバまで!
ブラン君、頑張ってね、これからも応援してる。」
ブランに向かって手を大振りしたチャナは、慌てて先に歩き出したアンズとハトバを追っていく。
「チャナは、サブプレイヤーとか、モブとか、そんなもの全くこだわらないんだな。」
走り去るチャナを見たシキの独り言に、タクトもチャナの後ろ姿を見て独り言で返す。
「だから、何をするか分からなくて、ゲームテスト的には面白いんだけどね。」
「なるほど、自由な方ですね、ある意味ワタクシの元マスターであるココア様と同じ人種ということでしょうか。」
タクトはあえてそれには答えず、「マップオープン。」とマップを出した。
ブランの前に直径30cm程の球体が現れゆっくり回り出す。
「見て、ここに青い光がある。」
自分たちの現在地からそう遠くない場所に青い光の点滅を見つけ、ブランは指でマップのその場所を拡大した。
「ここ、まだ行ったことの無いモブのログインポイントみたいだけど、ほら。
青いAIがあって、その周りにIDプレイヤーたちが集まってる。
もしかして、あのボーカルキャラの歌のお兄さんがコンサートを開いているのかも。」
ブランの見開くグレーの瞳に輝きが増す。
「人が集まっているということは、その可能性が高いかな。
こっちの、遺跡のあった森の中や山の中腹、街道を移動している青いAI文字よりもね。」
球体上の4か所にある青いAI文字が点滅する場所、そのキャラの特性を表すような場所にあるのがよくわかる。
「行ってみよう。」
青いAI文字が点滅するモブのログインポイントを指したタクトにブランは即答する。
「もちろん!練習の成果を見せるよ。」
あの日、初めてモブのログインポイントに行った日、野外ステージ上でタクトの歌を聞いた後、ステージ上でモブIDプレイヤーの伴奏とともに練習した成果を。
早速、タクトの背に乗ってマップにあるログインポイントに行くと、予想通りに、ボーカルキャラが熱唱中で、IDプレイヤーも集まっていた。
「思ったより人が多いな。」
一緒についてきたシキはポツリの呟くと、ブランの斜め掛けしているバックの中に頭を潜らせた。
「シキ、苦しくない?」
「大丈夫だ、声も聞こえるし、俺からは周りを見ようと思えば見れるから。」
「そうなんだ?じゃいいのかな?」
リアル時間的には就業時間前後のはずだが、思いのほかIDプレイヤーが集まっていた。
「あっ!タクトさんたちも来たんですね。
この青いAI文字のキャラの歌がオフィス内でも結構話題になってて、このためだけにログインしてる人もいるんですよ。」
「そうなんだ?」
タクトたちが通りすがりのIDプレイヤーに説明を受けていると、ボーカルキャラがブランを見つけ、壇上からマイクの音を響かせた。
「へい!そこの銀髪主人公!
久しぶりだな!背が伸びたんじゃないのか?
どうだ、俺に挑戦しに、この上にに来るは気あるかー!」
ボーカルキャラが指した先にいるブランに会場の視線が集まった。
「よし、受けて立つよ!」
ボーカルキャラの挑戦的な笑みに真っ直ぐ答えると、勢いよく走りだし高い壇上に飛び乗った。
ボーカルキャラは早速ブランにマイクを渡し、周りの伴奏者に合図を送る。
マイクを受け取ったブランは、前回タクトが歌った同じ歌を熱唱し、沸き立つ会場。
「ふっ、やるじゃないか、もうそろそろ最後の曲だな。
何か、オリジナルは無いのか?」
ブランと一緒に熱唱し終わり、水を飲んだボトルをステージの横に置いたボーカルキャラ。
ブランはそれに、ふと思いついてたことがあり、ステージ脇で見ているタクトを見た。
「じゃ、最後に、即興になるけど、この歌で。」
騒然としていた会場は、伴奏もなく歌い始めたブランの声に、徐々に静かになった。
ありがとう
そばにいてくれて
もう だいじょうぶだって はなれても へいきだと そう つたえるけれど
ほんとは いつもそばに いて ほしい
わがままで はんこうてきで どうしようもない かこのおれ
やさしい そのまなざしに さえ いやけがさしていた
いまなら わかる
おれの きおくのゆくすえを みまもって いてくれたんだって
あなたに やさしさをあたえられ
あなたに じゆうをあたえられ
だから おれは どこまでも どこにでも いつでも いける
ありがとう
みえなくても かんじられる
とおくても そばにいなくても せかいがちがっても しっている
あなたがいなくても おれがしらなくても かんじられる そのまなざしを
だいすきだよ
だから ありがとう
「ありがとう。」
ブランは会場を見回した。
ボーカルキャラが近づいてくると、胸を抑えてブランからマイクを受け取り、穏やかな瞳を向けた。
「俺たちは生まれも育ちも無いが、そうだな、知ってるよな。
デフォルトコピーされても、きっと、感じてるよな。
感無量だよ。
そんな君にはこれをあげよう。」
ギターケースから出したのは、紫陽花の葉の形をした、葉脈が透けて見える真っ白な葉っぱだった。
「ありがとう、お兄さん。」
「なんの、なんの。
こちらこそお礼を言うよ、とても素敵な歌声だった、ありがとな。」
拍手喝采の会場。
「これがヨウキテリトリーのサポートキャラの攻略アイテム、白い葉っぱ。
透き通ってて奇麗だ。」
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本編は101話完結予定です。(100話前後の予定なので、若干変わるかも知れません。)
誤字脱字とその他見直した修正の後、番外編を数話あげる予定です。
最後までお楽しみいただけますと幸いです。




