075 ギルドと城へ
「ということで、ちょっと長いしたくらいで24時間もログオンできないなんて、ひどいペナルティだと思わないか?
お嬢さん。」
早朝、セツキについて来ていたAIキャラたちが寝袋に入りまだぐっすり眠っているところを見ると、セツキはずっと鉱山で作業をしていたように見える。
「お嬢さん、からいつの間にか名前呼びのセンヤ嬢になって、またお嬢さんに戻っているし。
って、じゃ、トンネル貫通させたときにはログアウトしてたんですか?
じゃあ、あのセツキさんてAI?」
「あのセツキ?何を言ってるんだ、俺はここにはいなかっただろう?」
「いえ、いました。
サブプレイヤーは、ログアウトでサブプレイヤーの性格設定のAIに置き代わるんですよ。
知らなかったんですか?」
「そんなことは知らない。
俺じゃない俺がここにいたのか、気持ち悪くないかそれって。」
トンネルになった採掘坑から飛び降りようとするセツキを止めたセンヤは、トンネルの中央辺りに戻り、別方向に鉱石を掘り出していた。
時間になり、一旦ログアウトしたセンヤが戻ってくると、新たに採掘しようとしていた場所までトンネルが掘り進められており、掘ることが目的ではないのにと唖然としていたところに、自分をお嬢さんと言うセツキにペナルティ云々と問われたのだ。
「鳥頭じゃなく、情報共有していなかっただけなんですね。
セツキさんとAIセツキさんの区別もつかないし、入れ替わったことに気がつきもしなかったんですから、気持ち悪いも何もないです。」
肩をガックリと落としたセンヤの顔色は悪い。
「おお、どうした?
顔色が悪いぞ、一旦ギルドに戻って休もう、ペガサスを呼んでやる。」
「いえ、お構いなく、別に気分が悪い訳ではなく、もうここでの採掘を諦めた方がいいのかとどうかを、、」
「よし、外に出るぞ、ペガサスに乗ってギルドまで戻ろう。」
センヤの呟きを聞いていないセツキは、少し腰を落としてセンヤの方と足に手を掛けるとヒョイッと持ち上げた。
「ちょ、ちょっと、お姫様抱っこって、やめてください。
そっちの方が気持ち悪い!」
「何を言ってるんだ、ほら、顔色がさらに悪くなってるじゃないか!
大人しくしてなさい。
大人のいうことは聞くもんだ。」
センヤの叫びも空しく、お姫様抱っこで採掘坑の外まで移動して、セツキがペガサスを呼ぶと間をおかずにペガサスはやってきた。
「おお、今回は早かったな。
呼ばれたら、すぐ来る、少しは勉強したようだな。」
「ボス、何それ?
まさかそのまま俺に乗るの?」
真っ青な顔でお姫様抱っこされているセンヤを見て嫌な顔をしたペガサスに、セツキは首を振った。
いつもなら、ププププッいたずらな笑みを返すペガサスが嫌な顔をしている。
これは、以前にセツキテリトリーの近くにきたお嬢さんたちを乗せるのを嫌がったのと同じく、自分以外を背に乗せるのが嫌なのだろうとセツキは思ったが、今回ばかりはそのわがままを聞くわけにはいかない。
「俺以外を乗せたくないと言うお前の我儘は分かっている。
だから、お前の我儘を聞いて、俺はこのままお前に乗ることにする。
だったら、俺が抱えているこのお嬢さんをお前が乗せていることにならんだろう。」
センヤは大きく何度も首を横に振り、断ってくれと涙目でペガサスに訴えたが、ペガサスは嫌そうではあるが首を縦に振って了承した。
「わかったよ、ボス。
ほら、乗ってくれ。」
ペガサスが足を折ってセツキの前に座ると、足を大きく広げて背に跨り、更にしっかりとセンヤを抱きしめた。
「く、苦しい。」
「落ちては困るからな、少しばかり我慢してくれ。
さあ、ギルドまで飛ぶぞ。」
意気揚々と指示を飛ばすセツキを背にして立ち上がったペガサスは、大きく跳ねを広げて空を走り出した。
ーーーーー
「あ、シキさんがログインしました。」
システム室にいる碧葉から、黒いフード被ったアオバのアバターを通して弾んだ声が聞こえた。
シキがログインする少し前、碧葉と桃里と臙脂の3人もゲーム内にログインしていた。
目の前にはセツキテリトリーの赤い線があり、その内側にある青銅で作られたセツキの銅像がテリトリー線の光を受けて赤く照らされている。
「了解、位置は分かる?」
アオバの連絡に、エルフ風容貌の桃里が確認を入れる。
「セツキテリトリーのギルドの近くの砂上です。
ログインポイントを更に移動中です。
が、恐らくタクトさんの方に移動しているのだと思います。」
フード付きのコートが魔法使いを思わせる、短い黒髪で少女のような容貌ながら、アオバはキビキビとシキの情報を口にした。
それに、金髪長身で抜群のスタイルを誇る上級冒険者風の臙脂が手を叩いて喜ぶ。
「シキ様がいらっしゃったんですね、私どうしましょう!」
最上位IDでログインしているシキの位置はモブIDやスタッフIDプレイヤーのマップには表示されないため、特殊IDでログインしているアオバがトウリとエンジのアバターにその位置を教えている。
「チャナたちもセツキテリトリー線までは来ているようね。」
今回スタッフIDでログインしたトウリやエンジのマップでも、サブプレイヤーであるチャナのIDは確認することができる。
「その周りにモブIDもあるから、これはきっとグラスチームのメンバーね。
今、セツキテリトリーに来てるってことは、ちゃんと、あのカードのこと思い出して渡してくれたのね。」
以前、ハトバとアンズと合ったときに、イベントカードを渡したものの、そのキャラの発生イベントを行ってくれるかは、かけであったためエンジはとりあえず胸を撫でおろした。
風の音を聞いたトウリが長い耳をピクッと動かした
「遠くでペガサスの羽の音がするわ。」
マップを確認すると、セツキテリトリーのマップ上を、セツキのIDが鉱山からギルドに移動している。
「気づかれないうちに、私たちはチャナたちと合流しましょうか。
セツキテリトリーの起点のお城で。」
トウリの言葉にエンジは素の顔で疑問を投げた。
「えっ?まずはシキ様に挨拶をするのが筋では。」
アオバ:「シキさんは、エンジさんの前に、姿を現さないと思いますよ。」
トウリ:「シキは、エンジの前には姿を現さないと思う。」
二人同時に声をかぶらせて同じことを言われたエンジは、足をよろけさせ後ずさった。
「わかりました、そうですね。
レアなシキ様に行けば会えるなどと考えたのが、間違いでした。
大人しくお二人と一緒に城の方に向かいます。」
そうではないということはあえて言わないアオバとトウリ。
エンジは気を取り直すと、ボンッな胸の間からアイテムカードをさっと取り出して2人に見せた。
「では、これに乗っていきましょうか。」
トウリとアオバは、カードを取り出した場所よりもそのカードの絵に目が点になっている。
「「三人漕ぎの自転車?」」
「はい、そうです、マウンテンバイク仕様で砂の上でも多少の岩道も進むことができます。」
トウリはサラサラの黒髪を手で前に流すと背中から奇麗な妖精の羽を出し、アオバはマントの下に忍ばせておいた杖のカードを手に取り、青紫の杖を出すと足元に飛行の魔法陣を書いて見せた。
「それは、エンジが1人で使って?」
「それは、俺には不要ですので。」
「はい?」
ーーーーー
「セツキテリトリーの境界線まで来たのはいいけど、これからどこに行ったらいいのな?」
チャナは後から追いかけてきたアンズとハトバを振り返った。
その胸には、1つ角ウサギモンスターが抱かれている。
ログアウト前に、白いお城を目前に引き返したチャナ。
セツキテリトリーまでどうやって行くかを考えながら茶畑を通っていると、AI子どもたちがお菓子を配りに来てくれて、その籠の中を覗くと見かけない飴があった。
AI子どもたちに、それは新商品の緑茶飴や抹茶飴で、お勧めであると教えてもらい、チャナは喜々として沢山の飴をもらってポケットに詰め込んだ。
移動手段を何も思いつかないまま、元チャナテリトリーのジェ〇シッ〇パー〇的岩山を通りかかったとき、ウサギモンスターたちがその飴の匂いを嗅ぎつけて次々と集まってきた。
そこで移動手段としてチャナが思いついたのは、プテラノドンである。
人間を襲うプテラノドンだが、ウサギモンスターには弱い。
ウサギモンスターに飴を渡す代わりにプテラノドンにチャナを乗せて移動するように頼ん欲しいと願うと、ウサギモンスターは、自分たちも一緒に行く!と言ってくれたのである。
それによって、ウサギ&チャナ オン プテラノドン によるセツキテリトリーツアーとなったのだ。
そうしてチャナテリトリーのプテラノドンに乗って飛んできたチャナの方が、ログアウト後に改めてセツキテリトリー近くのモブのログインポイントにログインしたアンズとハトバより、先にセツキテリトリー線に到着していた。
ただし、今、アンズとハトバの目の前にいるのは、AIチャナである。
ウサギを抱っこして、足元にウサギを纏わりつかせているAIチャナを見てアンズとハトバは頷く。
「やっぱり、AIチャナもリアルチャナも行動パターンは変わらないですね。」
「さすが、トウリさんが組み込んでいるだけあるわ。」
実は、本日のリアルチャナは、テスト項目入力とレポート作成をため込んでしまったため、ログインを断念していた。
「セツキテリトリーに行くのが嫌だから逃げたと思われたくない!」と言うチャナを、アンズとハトバが、これ以上溜め込むと間に合わなくなる。
誰もチャナを逃げる奴だとと思わないしし、終わったらすぐに来たらいいと説得したためだ。
「それで、どこに行くんだっけ?」
「確か、お城の近くでイベントを発生させてほしいと言われていました。
僕たちより目上のヒトっぽかったので、何か大切な意味があるんだとは思いますが。」
「そうね、他に説明は無かったものね。」
「ふーん、ではお城に行けばいいのね。
それにしても相変わらず趣味の悪い銅像よね。」
セツキテリトリーのギルドに向かう道幅を避けて、セツキテリトリー枠の広い範囲をすべて銅像で囲んでいるらしく、左右に続く銅像の途切れる先がまったく見えない。
そんな銅像を怖がっているプテラノドンは、テリトリー線から離れた位置で羽を収めた体を小さくしている。
「本当は、プテラノドンに乗ってお城まで行きたいところだけど、あんなに怖がってるんじゃ無理させることもできないわ。」
「そうかー?」
「俺たちが行けと言えば行くと思うぞ。」
ウサギモンスターたちが無慈悲な言葉をプテラノドンに投げかけると、更に体を小さくしたプテラノドンが「私はいません」アピールをしている。
「お城は普通テリトリーの中央にあるから、ここからだとだいぶ距離があるわね。
何かいいアイテムないかしら。」
「おい、お前ら今からこのテリトリーの中に行くのか?
私もここに用事があるから途中まで乗せて行ってやろうか?
ケケケッ」
聞き覚えるある羽の音、声、3人声の方を見上げると、声をかけてきたのは白い蝙蝠のカーラだった。
「カーラ!
もしかして、ココアさんとニコさんも一緒にいるの?」
AIチャナがカーラの飛んできた方をキョロキョロと見回すが、それらしき人はいない。
「私は今のマスター宛に手紙を託されただけなので、お二人はいませんよ。」
「手紙?」
「はい。
貸し浴衣屋のショーケースの写真についてのご連絡のようですが、いえ、あなた方には全く関係のない話でしたね。
おっと、託された手紙の内容を喋ってしまうとは、ワタクシとしたことが何たる失態。」
カーラの小芝居にアンズとハトバは目を点にしているが、AIチャナは瞳を輝かせ、胸に抱いたウサギを強く抱きしめた。
「グエッ、何だいきなり。」
AIチャナにケリを入れたウサギが、その腕から抜け出し、ついでにAIチャナのポケットに入っていたお茶飴も拝借させてもらったが、カーラの運ぶ手紙に気を取られているAIチャナはまったく気がついていない。
「カーラ、私も手伝う。
一緒に手紙を届けましょう。」
「いや、チャナ、先にセツキテリトリーのお城に向かわなきゃ。」
「はい、大丈夫ですよ、お城に寄った後に、今の主にお手紙を渡せばいいことです。」
カーラは涼やかに笑うと、AIチャナ、アンズ、ハトバの3人と、ついでにプテラノドンとウサギたちが乗れるサイズまで体を大きくした。
「うわー、大きい、こんなに大きくなれるんだ。
ジャンボジェットサイズ?」
「チャナさん、さすがにジャンボジェットサイズ程大きくはないですよ。
プテラノドンの乗れるサイズなんですね。
連れて行くんですか?」
「置いて行くのも可哀そうじゃない?」
結局AIチャナは、ウサギに協力してもらい、小さくなったプテラノドンをカーラに乗せて、みんなでセツキテリトリーの城を目指すことにした。




