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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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074 ログイン

オフィス内のテストルームのテストゲーム専用に設置されたシステムの前で、シキは大きく息を吐いていた。

「大丈夫、昨日タクトに確認しといたから、モブのログインポイントSE-1にログインしたらいいだけだ。」

シキはゲームスタートウィンドウを立ち上げると自分のオフィス内のIDを入力した。

ゲームシステム説明のためのサポートキャラ、タクトはホワイトタイガーを使っているが、シキはスキップしてしまい、消えていくキャラたちから残念そうな円らな瞳を向けられ、スキップしたことに罪悪感を覚えてしまった。

「これ、選んだほうがよかったのか?

戻るか?

いや、あの中から誰かを選んでも、選ばれなかったキャラから同じように見られるだけだ。」

しばらく迷っていたが、やはり、そのまま進めることにしたシキはゲームデータをロードし、ゲーム用のIDを登録した。

シキがゲーム内で使用するのは、最上位の特殊権限を付加しているブラックIDだ。

目の前のテーブルに置いてあるハードに手をのばして、それぞれ両耳、両手首に装着し、頭部にヘッドセットを付けた。

目を瞑ってゆっくりと眼鏡をはずしてテーブルの上に置く。

頭部に付けたヘッドセットから目を覆うための薄いスコープを下ろす。

目に張り付けるタイプも試してみたが、接着する感覚になじめず、スポーツサングラスのように軽く薄い形状に変えてもらった。

メガネを外しているのにスコープからの視界は良好で、離れたドアに貼ってあるルームナンバーの文字も難なく読める。

勿論メガネもスコープも無しでは、ぼやけてまったく見えない距離にある文字だ。


ソファに座りそのまま横になると、角度の変化を感知されスコープの内側に黒い幕が下りて闇の色に染まる。

静かな音楽とともに、闇の中に立つと小さな光が広がり、夜空のの星を映し出す。

「うん、想定どおりの動作だな。

視覚から入る明暗の情報、平衡感覚、体の筋肉運動、違和感なく取得できている。」

ゲームへのログイン前の個別ルームで、両手を前に出し手のひらをグッパッと広げ、球状になっている星空を見渡す。

「プレイヤー自身の色覚、リアル世界の光情報とゲーム内表示色情報の照合と整合、網膜を使用しない信号置換。

不具合はなさそうだ。

地球上のすべての色彩をデータ化できればもっと。」

シキが考え込むより早く、夜空を背景に白いテキストが表示された。


<スタート準備ルームへようこそ>

<オールマイティプレイヤー>

<スタート説明を行います よろしいですか?>


「初回は詳細説明だから、設定時間は30分。

簡易式で10分、スキップで0分設定。

説明は簡易式でいい。」


<では、簡易説明を行います>

<まずはアバターを選択してください>

<オールマイティプレイヤーは選択するアバターに制限はありません>

<アバター選択後マップを確認してください>

<オールマイティプレイヤーはログイン位置に制限はなく、マップ上の座標で位置を指定することができます>

<位置を決定後ログインを行ってください>

<ログイン後はいつでもログアウトすることができます>


<オールマイティプレイヤーのゲーム世界での機能制限はありません>

<アイテム、属性カード、AIキャラクターすべてを支配することが可能です>

<ただし、リアル意志を持つIDプレイヤーに対して精神支配を行うことはできません>

<また、ゲーム世界をクローズする場合は、ログアウトする必要があります>

<アイテム、属性カード、AIキャラクターの使用方法を知りたい場合は、女神(説明書)を呼び、説明を受けてください>


「わかった、もういいよ。

各プレイヤーテーブル、項目テーブル、フィールド選択、該当する出来る、出来ないの説明、データベースからの連結、文章化とテキスト表示。

フォントも、こんなものか。

俺的には、もう少し硬めのフォントがいいかも。」


<説明を終了します>

「テキストエンド表示。

余分な言動を除去した反応、さすがにここで不具合は無いよな。」

シキは胸を撫で下ろす。

プログラム作成に関わるシキにとって、ゲーム内にいるのはお化け屋敷にいるような感覚らしい。

もしお化け(バグ)が出てきたらと思うと心臓に悪い。

「大丈夫だ、そのためにタクトたちがあらゆる想定を行ってテストしてくれてる。」


シキは足を軽く上げ、十数センチ高いところに足をおいた。

「うん、遅延なく反応して床が高くなったように感じさせている。」

足をあげ止めてと階段を登るように前に進み、数段登ったところで星空に手をのばす。

「遠近、視覚良好。

アバターカードを出してくれ、オールマイティプレイヤー限定使用アバターカードの1枚だけで良い。」

目の前に1枚のカードが浮かぶ。

シキが使用するアバターカードは、テストルームに入る前に桃里(トウリ)からもらったデータを組み込んだものだ。


手で触れるとカードが霧散し、シキは消えたカードに描かれていたアバターを手に入れた。

「鏡とかは出さなくていいから。」

シキの言葉に反応して、シキの周りの空間で形を作ろうとしていた複数の姿見鏡(すがたみかがみ)が、巻き戻され消えた。

シキはアバターである自分の後ろにある尻尾らしきものを見ると、どう動かを試してみた。

「うん、上下左右、回転と、大丈夫そうだな。

体の大小や造りに関係なく意志と連動、運動の違和感は感じない。」

いつもより数の多い手足を順に動かし、ヒトの形をしていないアバターの体に想定通りだと頷く。


「マップオープン」

シキの目の前に直径1mの球体、ゲーム世界のマップである地球が現れる。

「近すぎだ。」

シキの一声で球体が1mほど離れた位置に移動し、縦軸を中心として、ゆっくりと回り始める。

「赤い枠のテリトリー線が1つ。

テリトリークリア線が2つに、攻略可能テリトリー線が1つ、貸与(たいよ)中か。」

オールマイティプレイヤーの地球には、他プレイヤーの地球には表示されない情報まで、すべてが表示されている。

球体が一周したところでストップをかけたシキは、セツキテリトリーを拡大した。


「昨日、タクトに聞いた通りだ。

マップ上はあまり高低差が無く、建物はあるが、データタイプとしては砂や岩が多くて、多少の植物がある程度。

西部劇に出てくる荒野のイメージ。

これは、セツキ兄さんらしい、のか?」

いつも何かにつけ世話を焼いてくれるセツキだが、考えるとセツキの好みや趣味が思いつかないシキにはセツキらしいのか、らしくないのか判断ができない。


昨日、ゲーム内にログインすることを伝えるためにタクトのログアウトを待って連絡すると、シキからの通知にすぐ応答してくれたタクト。

幌馬車に乗った時点でログアウトしたタクトは、シキからゲーム進行状態を聞かれると、端的に今までの経緯とこれからの行き先を説明した。

そのときに、シキはタクトがこれから行くセツキテリトリーについてマップ情報をきいていたのだ。


シキが明日ゲームに参加し、タクトのID近くにログインするつもりだと伝えると、嬉しそうに「わかった、待ってる」、とだけ言われた。


「今、タクトのメインプレイヤーIDが位置するのは、セツキテリトリーのギルド、の、近く。

AIキャラもIDプレイヤーも殆どいない、砂漠の上、か。

こんなところで何してるんだ?」

まあ、いいか、と座標を確認するため、さらに拡大すると、近くにスタッフIDを使用しているプレイヤーがいる。

さらに特殊スタッフIDの表示もあることに気がついた。

「スタッフIDはともかく、特殊スタッフID、は、俺かアオバ、後はヨウキしか使えないIDだな。

この間、アオバがトウリに相談して組み込んだID。

アオバがテストしているのか?」


特殊スタッフIDとは、ゲームを監視するスタッフが使用するIDで、通常のスタッフIDとは異なり、アバターの視覚にカメラ機能が搭載されている。

また、AIスタッフを基点とする移動カメラも上空に設置。

特殊スタッフIDのAIスタッフをゲームに参加させることで、その位置範囲情報、視覚情報の2つの映像を常時ゲーム外のリアルディスプレイでモニター監視できるという、アオバのアイデアで新設した機能だ。

また、ゲーム内のAIスタッフをリモートコントロールに切り替えることも可能で、ゲーム内で使用できる権限としてはスタッフIDより上位に位置する。


「こんなアイデアを出せるアオバはすごいな。

俺は言われたことをするだけで、作るだけで。」

球状の星空に囲まれ、目の前のマップに表示されるIDを指すと、その座標が表示された。


「Z座標が高いから、鉱山の中腹くらいにいるのか?

リアルのアオバがシステム室からゲームに疑似参加してるのであれば、モニター監視には問題ないな。」

実際、ゲーム内に何らかのエラーがあればAI判定の元でタイプ別に表示され、補正とともに通知されるので人が厳密にログを追う必要はない。

AI補正に該当しないエラーに対応するだけなので、常駐人数も1人、2人で問題ない。


難しいのは複数の個人が行動するため、倫理的に正否が逆転した場合のエラーの対応である。

その場合も考慮して、今回のゲームには監視スタッフのIDを追加しているが、リリース後のユーザー世界に常駐させるのはAIスタッフのみを想定している。

「リリース後に、特殊スタッフIDが介入しなければいけない問題を起こしたプレイヤーの世界は、それだけですぐにCLOSEした方がいいと俺は思うけど。

猶予のために、一応調査しての精査を行うと言うアオバの発想は優しいよな。」


アオバのアイデアは、シキの不在時に自分もリアルにいながらゲーム世界の様子を見たいとい欲望が元になっているのだが、そんなことを知らないシキはアオバの人となりに感心するばかりだ。


シキはタクトのIDの座標を確認すると、尻尾の先にある黒いとんがりで、その近くの座標に自分のログインポイントを作ると「ログオン」と口にした。

シキのアバターは、ログイン前の個別ルームから、ゲーム世界であるセツキテリトリーの砂上に移動された。


「これがゲーム世界の視覚か。」

砂の上から空を見上げ、ゆっくりと360度方向に体を平行移動させるシキの頭の中に数式が流れる。

「なるほど、想定と作成された物を比較すると、若干違うことがよくわかる。

まあ、想定=作成物になるのであれば、バグは出ないよな。」

シキは離れた位置に背の高い茶色のギルドの塔に目を止めた。

「マップオープン」

シキはマップにあるタクトのID位置を確認した。

「とりあえず、もう少し近くに行ってみるか。

この姿なら、さすがに気づかれないだろうけど、折角だから砂に潜って隠れてついて行くか。」

シキは両手にある大きな鋏を使い、砂をかき分け始めた。

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