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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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073 幌馬車でのトラブル

夕方までモブのログインポイントで過ごすことにした、ブランとタクトはキッチンカーの並ぶ街中を通り抜けて、河川敷沿いにある広い公園に来ていた。

公園は区画が分かれており、キャンプ場やレクリエーション広場、野外ステージなどもある。

ブランは御者が手に持っていた小瓶のことを考えていた。

「特別なものって、何だろう?

あの粉自体が攻略アイテムって訳じゃないのかな?」


小石が飛んで行った先の、ゆったりと流れる川の中央では、屋形船で食事をしながら景色を楽しむIDプレイヤーたちがいる。


「基本的には、イベントキャラがくれるものが攻略アイテムだから大丈夫。

そう考えると、白いフクロウの攻略アイテムが白い葉と言うのは分かってるから。

今持ってる食べると死ぬキノコとあの小瓶に入ってる粉が、それぞれセツキテリトリーのサポートキャラか、ヒフミヨイのどちらかの攻略アイテムになるね。」

「そうか、だったら最初に出会ったイベントキャラの歌のお兄さんにもらい損ねたアイテムが、白い葉ってことだ!」

テンションをあげたブランが足元にあった石を川に向かって蹴ると、川の上を水を切って滑るように3回飛ぶと4回目で水に沈んだ。


次の石を蹴ろうとすると屋形船に乗っていたIDプレイヤーたちが手を振っているのに気づき、ブランは両手を上げて手を振り返すと、船上がにわかに騒がしくなった。

屋形船の揺れが大きくなると、光を浴びる船の後に続く水しぶきがさらにキラキラ輝きを増して跳ねだした。

笑い声をあげて光を見ていたブランは、あることを思い出した。

「あの粉、前にどこかで見たことある気がする。」

「えっ?」

「そうだ、チャナが持ってた。

確か、急に倒れたときに手を貸そうとした俺に、対価には足りないけどって、出してた物と同じだと思う。」

ブランの周りをフヨフヨと飛んでいたタクトは目を細めた。

「いつの間に。

でも、ブランに渡そうとしたということは、あれが攻略アイテムだということを知らないってことかな。

けど、チャナに気づかれるとまずいな。

ヒフミヨイに固執しているチャナは、知れば取り戻そうとするだろうし。」

ブランはキョトンと首を傾げた。

「そうかな?

チャナの性格なら強制的に篭絡するようなアイテムを使ってまで、ヒフミヨイを取り返そうとはしないと思う。」

ブランの何の懸念も持たない純粋な瞳は、タクトにマシロの言葉を思い出させた。

ー 楽しんで ー


「そうか、そうだね。

うん、ブランの言う通りだと俺も思うよ。」

攻略に拘らない、そういう点ではチャナが一番この世界を純粋に楽しんでいるのかもしれない。


夕方、モブのログインポイントの鳥居風の出入り口まで戻り、幌馬車が止まっていた馬留まで急ぐと、ちょうど、幌馬車の御者が馬留から二頭の馬を連れて馬車に繋いでいるところだった。

「さあ、お前たち、これから南のポイントまで頑張っておくれ。」

馬の背を軽く2回叩いて声をかけた御者が、近づいてきたブランとタクトに気づいて手をあげている。

ブランが駆け寄ると御者は丁寧にお辞儀をしてくれた。


「剣士さん、きてくれたんですね、馬車に乗りますか?」

「はい、乗せてください。」

ブランの返事に頷いた御者は、御者台の下からステップを取り出した。

幌馬車の後ろに回りステップを設置した御者は、幌馬車後方の幕を上げてブランを呼ぶと中に入るように案内した。

「どうぞ、お乗りください。

暗くなる前には発車しますが、今日は出入りする人も少ないので他にお客様は来ないかもしれません。

様子を見て発車しますので中でお待ちください。」

ブランがステップに足をかけ中を覗くと、外の見た目とは異なり想像以上に広く、下には絨毯が敷かれ、柔らかい毛並みのカバーがかけられたベンチ椅子にクッションが多数置いてあるのが見えた。

中央には細長いテーブルまで固定されて、食事なども落ち着いてできそうな雰囲気である。

「これが馬車の中か。

俺が知ってるのとはだいぶ違う。」

馬車の中に一歩入ると、ブーツの底に柔らかい絨毯の様子が想像とだいぶ違い、ブランが目をパチクリさせていると、後方にいる御者に声をかけられた。

「この馬車は特別仕様ですので、外部からの見た目より、中は1.5倍広くなっています。」

ニコニコと得意げな御者の前を飛んで次にタクトが中に入る。

「お客様方、何かご不便があれば教えて下さい。

随時、追加、改善していきますからね。」

「なるほど、その結果がこの幌馬車の中なのか。」

ブランの後に入ってきたタクトも馬車の中を見回して感心した。


馬車が発車し、その座り心地と馬車の程よい揺れという快適さにブランがウトウトし出すと、タクトはテーブルの上に置いてもらった柔らかい藁と綿毛で作られた鳥の巣に入った。

御者が言ったようにほかの乗客は

「冗談で言ったんだが、本当にこんな快適な鳥の巣を出すとは思わなかった。

あの御者、やるな。」

御者に感心しつつ「ログアウト」と口にし、AIタクトとなったヒヨコは目を閉じた。


ブランが椅子に体を倒して本格的に眠りに落ちた頃、幌馬車がガタンと大きく揺れた。

幌馬車の揺れと音で大きく目を開いたブランは、すぐに体を起こし御者台に向かって声をかけようとするが、続いて大きく揺れたためそのままテーブルにしがみついた。

テーブルの上にあったはずの鳥の巣が無いことに気づき、焦って周りを見ると御者台側まで飛ばされ落ちていた。

「タクト、大丈夫?」

「大丈夫だ。

絨毯も柔らかいし、何よりこの鳥の巣がクッションになった。

様子を見てくるから、ちょっと待ってて。」

鳥の巣の下から這い出したAIタクトは、月あかりを頼りに幌馬車後方から外に飛び出すと、幌馬車の周りをモグラたちが囲んでおり、その周りに山賊と思われるAIキャラがいた。

「おい、よくも俺のモグラモンスターを虐めてくれたな!」

AI山賊キャラは、大きなモグラに乗って幌馬車と並走し近づくと馬車に体当たりをしている。

「あれが、揺れの原因か。

夜限定で出てくるAIキャラ、そう言えばいたな。」

AIタクトが空から見ていると、AI山賊キャラは馬車を止めないと馬に体当たりすると御者を脅している。

「わかりました!止めますから、しかしお客様には何もしないでください。」

御者は馬を操りながら必死で訴えるが、AI山賊キャラは「それは約束できないなぁ」呟きニヤッと悪い笑みを浮かべ、自分を背に乗せてたモグラの頭を指で2回叩く。

合図を受けたモグラは、AI山賊キャラと同じ悪い笑みを浮かべ、スピードの落ちた馬車の横に頭を勢いよくぶつけてきた。

ぶつけられた衝撃で、馬車の片側の車輪が浮かび横転しかけるほどに傾いたが、何とか持ちこたえ車輪はズンッと音を立てて再び地面についた。

「ブラン!」

AIタクトが叫ぶと同時に、剣を抱えたブランが走る馬車から飛び降りた。

受け身を取りながら地面を転がるブラン。

その転がった先にもモグラがいたため、ブランのクッションになった数匹のモグラがキューッと体から擬音を出し伸びている。

AI山賊キャラがそれに気がつき、ブランに向かって怒鳴ると、ブランは地面を蹴って跳躍した。

「なんだ、お前は!」

「剣士さん!」

高く飛んだブランは、下に落ちる勢いに乗って、AI山賊キャラに鞘に入ったままの剣を振り落とした。

「キューーー!」×モグラの数

ブランの剣(鞘入り)が顔面を見事に直撃し、AI山賊キャラはモグラ(大)の背から振り落とされた。

それを見た周りのモグラ(小)たちは、皆、悲痛な声をあげた。

AI山賊キャラが落ちたことに気がついたモグラ(大)は、シャベル状の前足で急ブレーキをかけ、すぐに振り返り、後方に落ちているAI山賊キャラを救うべく、覆いかぶさった。

「親分に何するだ!

オラたちの親分にひどいことをする奴は、悪いヤツだ!」

モグラ(大)が鞘に入ったままの剣を構えていたブランを責めている。

AI山賊キャラを「親分」と呼ぶモグラたち、敵意に満ちた、あるいは涙目で責めるモグラたちにブランは困惑した。

「でも、先に馬車を攻撃してきたのは君たちの方だよね?」


「違わい!

馬車で仲間のモグラを先に引いたのは、そっちの方だ。」

ブランがモグラたちが一斉に指す、馬車が通ってきた後方の道を見ると、月明かりだが地面に無数の穴が開いているのが見える。

「なるほど、これはそうかもね。」

空の高い位置から見ているAIタクトには、馬車の通ってきた道程に、”キュ~”の文字を浮かばせた小さなモグラが、点々と横たわっているのが見える。

「騙されないでください。」

御者台から降りてきた御者が、眉をハの字に下げて剣を腰につけ直したブランに近づいて来た。

「この道を見てください。」

御者が腕をのばして指した前方の道をみると、そこにもモグラの穴らしきものがそこら中に開いていた。

「この通り、モグラの小さな穴がそこかしこにあって、避けようがないんです。

こんな穴が沢山あるから、この道はモグラ通り何て呼ばれたりもしてるんです。」

御者はため息をつきながら頭を振りかぶる。

「こんな穴をそこら中にほっておいて、普段はいないくせに、馬車が通ると穴から顔を出して引かれようとするものですから、避けようがないんですよ。」

「わざと車にぶつかって、治療代をせびる当たり屋みたいだな。」

タクトが止まった馬車の幌の上まで下りてくると、モグラ(大)に庇われていたAI山賊キャラがはい出してきた。

「ふっ、だから用心棒を乗せるようにしたってことかい?

前回は、モグラ(小)たちだけで挑んで、緑の髪の女の子にやられたっていうから、今回は俺が来たのに。

それより強いヤツを乗せてたなんて。」

チッと悔しそうに顔面をさすり、ブランを睨むAI山賊キャラ。

「いえ、用心棒だなんてとんでもない。

前回の可愛らしいお嬢さんも、この剣士さんも偶然です。

お客様に用心棒なんて頼むようなことはしません。」

胸を張る御者だが、絶対”用心棒”のような役割を期待していたことは言うまでもない。


「緑の髪の女の子、前回の可愛らしいお嬢さん。

チャナのことか。

やっぱりチャナはこの幌馬車の御者にアイテムをもらったんだな。」

AI山賊キャラと御者の会話から、ブランが言うようにチャナが攻略アイテムを持っていることを確信したAIタクトは、共有事項としてリアルタクトが戻ってきた時のためにメモリに記録した。


「モグラが本当に大切なら、こんなことはやめた方がいいよ。」

AI山賊キャラに睨まれたブランだが、臆すどころか心配な眼差しを返した。

「なにを。」

「さっき幌馬車から飛び降りたときに俺もモグラを何匹か潰しちゃったから、ごめんなさい、だけど。」

うーん、と唸りながらポシェットの中を探るブラン。

「おい、お前何してるんだ。」

「何か、気付け薬になるものは無いかなと思って。

さすがに持ってないや。」

ブランの行動に心を打たれた御者が前に進み出て、「これを」と差し出した。

「これは、色を変える粉じゃないの?

光っていなくてクスんだ黒に近い灰色だけど。」

御者はフフフと笑うと、瓶の底を持った。

「私が特別に調合しました、クシャミの出る粉です。

振りかけると、どんな状態でもくしゃみが出ますので、伸びているだけのモグラなど、クシャミ一発と同時に目を覚ましますよ。」

瓶の蓋を取った御者が、AI山賊キャラの後ろに控えるモグラ(大)の鼻先でそれを振って粉を散らせると、モグラ(大)の円らな瞳が大きく開かれた。

(と、言っても、ブランたちには、閉じた開いたの大きさの違いは分からない程度)

「ハックション、クション、ハックションッ なんだこれは!ヘックション」

モグラ(大)は鼻を抑え、のたうち回り始めたため、地面が揺れ出した。

小刻みに揺れる幌馬車の上からAIタクトは御者の持つ特別調合された粉をサーチした。

「なるほど?胡椒、調味料にもなるのか。

これも共有事項だな。」


クシャミが止まらないモグラ(大)の周りにモグラ(小)が心配して集まっているが、潰される恐れがあるので下手に近づけずオロオロとしている。

ブランもその様子に呆気にとられ、いっそ殴って気絶させた方が親切なんじゃないかと思い始めていると、AI山賊キャラが眉間に皺をよせ御者を悔しげに睨みつけた。

「てめぇ、うちのモグラ(大)に何しやがる。」

「モグラ通りと呼ばれるほど穴を掘られて、頻繁に馬車を止められましたからね。

私も、もう、そろそろ腹に据えかねまして、対策を取っていたんですよ。」

掴みかかるAI山賊キャラに、御者は怒りを笑みに変えて胡椒を振る真似をした。

すると、AI山賊キャラは一歩引き、クシャミのとまらないモグラ(大)を振り返り、もう一度御者を見た。

「オボエテロヨ。」

風に消えるほど小さく、このセリフだけは言いたくなかった、呟くとモグラ(大)を背負って、道を逸れ山の中にモグラ(小)たちと一緒に消えて行った。


「剣士さん、有難うございました。

おかげで助かりました。」

御者が機嫌よくブランの笑みを向けたが、ブランはAI山賊キャラの言葉が気になる。

「でも、あの人、オボエテロヨとか言ってた。

また、乱暴なことをしてくるかもしれない。」

「大丈夫ですよ、これでも彼とは旧知の中なので、弱点は知り尽くしておりますから。

なんど追い払っても、夜になるとちょっかい掛けてくるんですよね。」

やれやれと肩をすくめる御者。

「さあ、ちょっとしたトラブルがありましたが、お乗りください。

念のために車輪の点検をしますので、終わったら出発します。」


御者の言うちょっとしたトラブルはあったものの、それ以外は寝心地のいい快適さで、次の日の昼過ぎには目的地であるモブのログインポイントに無事についた。

夕方に着く予定だったが、前日に早く出発したのと、お客がブランとヒヨコしかいなかったので、馬の移動速度がいつもより早かったらしい。

幌馬車を降りると、御者が特典だと言っていた小瓶をブランの目の前に広げた。

「剣士さん、有難うございます。

これは、昨日説明しました特典です。

特典と言っても、実はこれは誰にでもお渡ししているものではありません。

優しさと勇気のある方にだけお渡ししているのです。」

「もしかして、昨日のモグラたちのこと?」

ブランがキョトンとして聞くと、御者はそうですと頷き、ブランの手を取ると小瓶を2つ乗せてくれた。

「幌馬車の旅をしたくなったら、また、私をお尋ねください。」


有難うと満面の笑みを返し別れの挨拶をしたブランとタクトを、その姿が見えなくなるまで、御者は手を振って見送ってくれた。

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