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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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067 認識阻害

ゲームをログアウトしたタクトは、自宅のシステムキッチンでスパゲティの麺を茹でていた。

「茹で時間は5分、ソースは昨夜作っておいたエビとアボカドのクリームソースを解凍。」

茹で上がったパスタを手際よく湯切りし、フライパンに移すと、解凍しておいたソースをその上に流し込む。

中火で2-3分ほどよく和えると火を止めて、パスタ皿に流し込み、フライパンと菜箸をシンクに持って行って軽く洗う。

キッチンテーブルにフォークを乗せたパスタ皿を置くと、スマホを取り出し時間とスケジュールを確認した。

「マシロさんも居れば、二人で食べれたんだけど、今日もオフィスか。

どちらにしろ、ゆっくり食べれはしないけど。」


ゲームログアウト直後にいつものごとくシキから連絡が入り、少し会話をしていたので昼休憩をゆっくり取っている場合ではない。

といってもゲームテスト中はスタートからエンドまでの時間の曖昧さもあり、休憩時間が何時から何時までと厳密にルール化されている訳では無く、ログアウト中のゲーム内で行われている、ブランのメモリ部分が更新される時間を考えると急いだ方がいいということだ。

「15年分の記憶と、記憶想起条件のデータの更新、すると言ってたな。

その間は主人公を非表示にするとも言ってたっけ。」


「ゲームスタートの主人公は15歳だから、テリトリー2つ目攻略で15歳までの全ての記憶データを追加するけど、リアルな人間の記憶と同じで、すべてを覚えているようにするのではなくて、何かの条件で想起できるようにしている。

例えば、においだな。

母親が作っていたシチューと同じ匂いを感じて、母親を思い出すとか。

田舎道を見て、過去に友人と通った道を思い出し、そこからその時に交わした会話を思い出すとか。

思い出したことから更に、リンクされた他のことを思い出す。

そんな感じだな。」

「記憶の想起か、確かにその方が自然だな。」


「あと記憶を更新する容量は、テリトリー数で計算しているが等分はしていない。

テリトリーが4つだから、1/4づつ記憶を更新するのではなくて、1度目は1/10程度更新して、2度目は1/2更新するように設定している。

15歳までのデータは全体の3/5で、結構な容量のデータ更新するから、2回目の方が1回目より時間がかかる。

それもあって他のプレイヤーに邪魔されないように、主人公の姿は非表示にする仕様にしてる。」

と、言うことらしい。


「非表示設定か、他プレイヤーから隠せるのは便利だな。」

「便利?そうか、じゃメインプレイヤーのチート機能に追加して、今度のゲームデータアップ時に入れとくか。」

即答したシキにタクトは苦笑した。

「シキ、ごめん、入れなくていいよ。

認識阻害だけなら、カメレオンカードを使ったり、他にも方法はあるから。

属性カードを入手するとか、条件付きで行えるようにした方がゲーム的には面白いしね。」

「タクトがそういうなら、わかった、入れないでおく。

そうか、認識阻害のカメレオンカードがあったな。」

「?、シキ?

もしかして、ゲームに来るのか?」

思わぬシキの発言に、シキがカードを使う可能性を感じたタクトは驚いていた。

「え、ああ、うん。

まだ、どうするか決め兼ねてるけど、一度は自分のつくった物を見た方がいいって。

ログテキストではなくて、外から見る線形やグラフデータではなくて。

俺も、それはそうかも、と、ちょっと思ったから、行ってみようかと。」

言い難そうに少し途切れてがちなシキの声に不安が乗っていることが分かる。

だが、タクトとしては自分のつくった物を見てみようとするシキの試みが嬉しかった。

どれだけすごいことをしているのかまったく自覚しないシキが、自分のつくった世界を見たときに何を思うのか、その瞬間に自分も一緒にられたら。

「そうなんだ、うん。

俺もシキに、シキが構築したものを見せてみたいと思ってたんだ。」

「そうか、タクトが見せてくれるなら、いいか。」

「ははっ、何だか立場が逆だな。

俺は好きにやってるから、シキも自由に。」

「おお、とりあえず、見つけたらついて行ってみる。」

「ああ、いつでもどうぞ。」

その時タクトとシキは、学生の頃の校内で、タクトの後ろをついて歩いていたシキの姿を、シキの前を歩くタクトの姿をそれぞれ思い出していた。


シキとの会話をリピートしながら、フォークに巻いたパスタを口にしたタクトはその味に頷いた。

「マシロさんに教えてもらったソース、案外うまく出来てたな。」

今まで何かに拘りを持つことが無かったタクトは、味にもこだわりがなく家で料理をしたことはなかった。

中、高校のときに調理実習の手順通りに作業的に作った料理は、手際の良さを先生やグループの全員から褒めちぎられはしたのでやればできるのだろうが、自分の口に入れるものにも拘らないタクトは、食事を外食か適当に買ったもので済ませていた。


マシロと暮らすようになったことで手料理と言うものを初めてみた。

「今考えたら、マシロさんに告白と同時に俺の部屋に引っ越すよう誘うなんて、俺、完全に舞い上がってたよな。

料理の一つもやってなかったのに。」

マシロの母親が再婚するのを機に、自分の部屋に引っ越してくるように誘った後、色々とあったが無事に一緒に住むまでにたどり着けた。

「お金以外に唯一相続した親が仕事用に使っていたマンションだけど、広くてセキュリティも整っていて、あの時は単純にマシロさん的にも喜ぶと思ったんだよな。

効率優先で、ロマンチックでも何でもなかったかな。」

食べ終わったパスタ皿にフォークを乗せて、椅子を引いたタクトは、マシロと一緒に住むことになったきっかけを思い出し”うーん”と唸る。

元々1人で住んでいたこのマンションは音楽家だった母親が亡くなったときに相続したもので、セキュリティ万全のマンションの一フロアに広いLDK、防音設備の整った部屋が数部屋、メインルーム以外にもゲストルーム数室、と、1人で住むにはかなり広かったのもある。


「あまり経験しない感情だったから、不慣れだったのもあったかな。

あと、マシロさんが可愛かったのも。」

シンクで軽く皿を流すと、食洗器に入れてカバーを下ろす。


「寸前まで他の人と結婚するんだとばかり思ってたから、想いを抑えて、最初から、マシロさんには感情を揺さぶられてたのに気づかなくて。

俺を上目遣いに見てくるマシロさんに怒りさえ沸いたこともあったな。

胸が痛くなる感情が俺にあったなんて知らなかったし、仕方ないよね。」

呆れたように笑ったタクトは、手を上げて大きく伸びをしながら、テスト再開のために自室に向かった。

「書籍があったとは言え、あのゲームキャラクターのブランシュとブランに投影させた容姿こそ、その時点で既に俺がマシロさんに執着していた証だよな。」


以前テストしていた既存リリース済み製品は、主人公や主要キャラのデザインが無く、プレイヤーがその容姿を構築できるようになっていた。

その時のゲームは1人プレイ用で、他プレイヤーと共通させる必要がなかったためプレイヤー本人の好感度が高くなる容姿を反映させるようになっていたのだ。

まだタクトがマシロをリーダーと呼んでいた頃、その製品のテストを行っていたタクトはキャラデザインにマシロの姿を投影させていた。

それが、今回テストしているゲームで使用しているキャラ、ブランだ。

「親兄弟にさえ沸かなかった執着なんて感情だから、俺には縁遠いと思ってたけど、マシロさんには初めて会ったときから持っていたのかも?」


ゲームの中でブランに答えたように、家族のことをあまり覚えていない、と言うのは本当。

というのも音楽家だった親は外出が多かったし、物心ついた時にはすでに兄に避けられていたからだ。

放っておかれても自分のことは自分でできたし、たまに帰ってきた両親の前でピアノの弾き語りや、バイオリンを弾くとかなり喜んでいたくらいしか思い出せない。

最初に入る予定だった音大も両親から強く勧められたからで、そこに入れなかった兄に俺が思うことは何も無かった。

「マシロさんのことを思うと、時々兄さんや両親のことまで思い出すのは何故かな?」


自室に入ると同時にPCからホログラムのホワイトタイガーが駆け寄ってきた。

「何を複雑な顔してるんだ?」

「複雑な顔、ってどんな、、」

タクトが聞き終わらないうちにホワイトタイガーは、モフモフとした両手で自分の顔の眉を下げたあと、若干の弧を描くようにほっぺを抑えて口に丸みを与えた。

「こんな顔だ、ほら、どんな顔か分かっただろ。」

「なるほど?」

「それより、ほら、さっさとログインした方がいいぞ。

もう、数分で主人公のデータ更新が終わりそうだ。」

複雑と言った表情を一瞬でやめたホワイトタイガーが、ピッとパソコンに表示された映像を指さした。

そこには、元ココアテリトリーの拠点城の王座の間にあるディナーテーブルが映し出され声を聞こえないが、チャナがキラキラと瞳を輝かせて周りを見回し、そんなチャナに頷くココアとニコの姿が映っている。

もちろんリアルとの時間差があるため、映像はスローモーションとまではいかないが3倍遅い速さで流れている。


「ログインの前にセツキさんの居場所と様子を確認しておくか。」

タクトはキーをいくつか押してセツキテリトリーにあるカメラ映像をパソコン画面に表示した。

が、セツキテリトリーを映すいくつかのカメラを切り替えてみたがどの映像にもセツキが映らない。

「どこにもセツキさんが映らないということは、カメラで写せる範囲にいないのか。

もしかして、まだ鉱山の中にいるとか?

セツキさん、ちゃんとリアルに戻って休憩取ってるのかな?」

部屋に配置された装置や、装着デバイスで体調データを取得しているため、一定の基準に達しなくなればプレイヤーはゲームから強制ログアウトされる。

初心者やプレイヤーの性格によってはセットした終了予定時間を過ぎてもログアウトしない傾向があるための対策だ。

だがセツキのように体力がありすぎて、精神力も強すぎると、一定の基準を保ちやすく強制ログアウトはされにくい。


「部外者だし、その辺はヨウキさんが管理してる、と思おう。

さて、ブランと一緒に次のセツキテリトリーの攻略を目指すかな。」

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