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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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065 キャラ愛

タクトがこの城の中庭で舞い踊るゾンビたちを安らかに土に還した後、ブランたちが先に上がった玉座に続く階段に向かうと、階段は頭の無いゴーレムの体で埋め尽くされていた。

玉座のある部屋には中庭に面する窓が無いことから、この階段が使えないとなると一旦城外に出て外側の窓に回り込んで入るしかない。

そう判断したタクトは、その場で即座に勢いをつけて垂直に真上に飛び、城壁を越え更に高度を上げたところで、空から玉座の間の窓の位置を確認するために、城を見下ろすと、暗闇しかないはずの崖の底で何かが動いていることに気がついた。

ヒヨコではあるが、タクトは「アイスコープ」の機能を持っている。

鳥目は暗闇や暗い場所が見えにくいという常識は通じない、さらにこの機能は例えかなりの距離があっても、目的のものを視認することができる。

「スコープアイ」と唱え、崖を見下ろし暗闇を探ると、それは背中にリュックを背負い、ほとんど垂直と言っても過言ではない崖の微かな岩のでっぱりに、指を掛け、足をかけ、ひたすら登り続けるAIキャラの姿が見えた。

その姿を見た瞬間、丸い黒目が細く緩やかな弧を描いた。

そして、さらには、崖の対岸に聳え立ち城を囲む黒い鉄格子の天辺に、ヒフミヨイが止まっている姿まで見つけた。

タクトの中では、崖を登る青い文字のAIキャラの姿と、鉄格子の上で玉座の間の様子を伺っているヒフミヨイの姿を見た瞬間に、ブランを城の外まで逃がす案が出来上がっていた。


即座に崖の底まで下りると、ロッククライミング中の青い文字のAIキャラに話しかけた。

「やあ、大変そうだけど、大丈夫?」

「ああ、問題ないね。

1cmのデッパリがあれば、指1本で体を支えることができるからね。」

「じゃあ、誰かが落ちてきたりしても、十分受け止められるよね?」

「そうだね、僕より体が重くなければね。」

「じゃ、後で誰かが降ってきたら受け止めて欲しいんだけど、いいかな?」

「んー、いいんじゃないかな?」

「じゃあ、そう言うことで、頼むね。」

十数秒の会話の後に、タクトはまっすぐヒフミヨイの方に向かった。

その速さにキンッ!と風を切る音が鳴り、AIキャラは空を見上げた。

「あ、あれ?岩を掴むのに夢中で顔を見てなかったけど、今話しかけていたの、上に飛んで行ったヒヨコだったのか。」


「ヒフミヨイ、後でブランがくると思うから、何かやろうとしてたら手伝って?」

「うわっ!いきなり高速で来るなよ、風圧で落ちるとこだっただろ?」

「これでもスピード抑えてるから、音速よりましだよ?

ところで、中の様子はどう?」

傍からみると、オウムとヒヨコが仲良く寄り添って会話しているように見えなくもないが、ヒフミヨイの顔は真剣そのものだった。

「まずいぞ、新ボスがテリトリーボスに暗示をかけられそうだ。

早く助けに行った方がいいんじゃないか?」

「そうだな、もう1,2分ってとこかな。

ところで、ヒフミヨイは、後でこっちにブランが落ちてきても手を出さないようにね?」

「何言ってんだ?

助けるなってことか?」

「いや、落ちた先に助けてくれる人がいるから、その後、大変そうなら手伝ってやって?」

「お、おう?

何だか分からないが、分かった。

ん、?何やってんだ、羽の中をごそごそして。」

「これ?ちょっと、ケースの蓋をずらしてるんだ、気づかれるようにね。

っと、もうそろそろかな、カウントダウン、5、4、3、2、1、行ってくる。」


そうやって、タクトはタイミングよくブランを助け、その代わりにカーラのいる籠の中に捕まった訳で、今、カーラがいないことに気がついたココアを見て余裕の笑みを見せている。

「な、なんて嫌な笑い方かしら。

何かを達成したような。」

悔しそうに眉を上げ、眉間に皺をよせているココアと、ココアに気を取られていたタクトの後ろから頬を摘まみ横に広げるニコ。

「あら、やっぱり、ピーちゃんのほっぺは良く伸びるわ。

かわいい。」

ココアに見せていた余裕の笑みのまま左右のほっぺをのばされたタクトは、そう言えば、このヒヨコ(アバター)もニコのキャラデザインだったな、キャラ愛の強いニコにこれ以上の害は加えられないだろう、抵抗する必要もないか、と、声に出さずに呟く。


黒い服のメイドと執事は、いつも怪しく落ち着いているココアの取り見出しようを見て、ただ事ではないことを察した。

「先ほどまで、窓にとまっていたのに。」

「ココア様とニコ様、それにチャナさんとヒヨコのやりとりに気を取られていて。」

「「カーラのことはまったく眼中になかった。」」


「まさか、外に出たのでは?」

執事が窓から身を乗り出して、上空や崖下を見るが、白い蝙蝠の姿は無かった。

ただ、執事が身を乗り出した窓のすぐ上には、アーチ状に整えられた窓の少しのデッパリに、カーラの入ったケースを抱えながら両足を踏ん張らせているブランがいたのだが。

「外にはいないようだ、どこに行ったんだ。」

「階段の方は?城壁の方は?」

黒い服のメイドが玉座へのステップを上がろうと振り向くと、ヒフミヨイをフラフラと追いかけ続けていた騎士にぶつかりそうになり、条件反射で手とうを決めていた。

「あなたたち、まだよろけているの?

シャンデリアに止まっているオウムはもういいから、カーラを探すのよ。」


「カーラ!どこにいるの?出てらっしゃい。

もう、このクローゼット邪魔ね!」

窓際にあったクローゼットをイラついたココアが長い足で蹴り倒すと、その後ろの窓から、小さな白い蝙蝠がフラフラと入ってきた。

「カーラ、そんなところにいたのね。」

両手を広げてカーラに差し出すココアに、左右によろけ飛びながらもカーラはその呼び声に応えた。

「ココア、様。」


その声に、倒れた騎士を踏み越えて、城壁に向かおうとしていたメイドと、廊下に出ようとしていた執事は足を止めた。


ココアは両手を揃えて掌を丸め、水をすくうようにおわん型を作ると、カーラはその中にすっぽりと納まった。

「大丈夫?良かったわ。

いなくなったのかと思ったのよ。」

優しく話しかけるココアを見上げたカーラの瞳には涙が溜まり、すぐにあふれ出した。

「申し訳ありません、ワタクシ、ココア様以外の方に心を奪われてしまいました。」

ヒュッ ココアが息を飲んだ。

「ま、まさか、そう言えば、口の周りに色とりどりの、小さな宝石のような粒がついているわ。

いくら小さくなっても、夕闇の中にいる白い蝙蝠でも、主張する光を放って。」

ココアは足をよろけさせながらも、カーラを持った手を維持している。


「ココア様、実はワタクシ!」

「い、言わないでカーラ、それを言ったら私たちもうお別れなのよ。」

跪き、背中のマントを床に広げ、カーラの入っている両手を目線より少し高めにして、カーラを見上げるココアと、ココアを見下ろすカーラ。

2人を遠巻きにして、涙ぐみだしたゾンビ、騎士、ギャルソンそして黒い服のメイドと執事。


広間のディナーテーブルの前でココアとカーラが妙な雰囲気を作っている間に、アーチ状の窓に手を掛けて回転しながらブランが中に入ってきていた。

「何してるの、これとあれ。」

「あ、ブラン君だ!いらっしゃい。

さっきぶり~。」

先ほどまでぼーっとしていたチャナだったが、周りの騒動に加えて、ブランの姿を見たことで意識を取り戻した。

「これ、と言うのは、ニコさんにほっぺを引っ張られている、タクトさんのことですね?」

テーブル越しにモブ位置をキープして傍観していたハトバが、ブランの前者の問いを拾うと、ブランはコクンと頷いた。

「あれ、と言うのは、ココアさんとカーラの寸劇のことですね?」

同じくテーブル越しにモブ位置をキープして傍観していたアンズが、ブランの後者の問いを拾うと、ブランは2度コクンと頷いた。


「これは、ニコさんのキャラ愛と言いましょうか、タクトさんもそれが分かっているので大人しくされてます。」

タクトはハトバの言葉にほっぺを引っ張られたまま頷いた。

「ココアさんとカーラのあれは、私たちにはよくわかりませんが、面白いのでいいのではないかと思っています。」

「それも、もうそろそろ、終わりそうだけどね。

もう、ココアも分かってるから、ラストシーンに突入したみたいだ。」

「タクト、目だけは真面目そうだけど、女の子にほっぺをモフられながら言っても、ふざけているようにしか見えないよ?」

ブランは、残念な生き物を見ているようだ。


「ココア様だけを生涯推していこうと決めておりましたが、ですがワタクシの心は既にほかの方に。」

「いいのよ、カーラ。

自分を責めないで。

無理に、1人に決めることは無いの、心のままに推していいのよ。

何人推しがいようが、愛は減らないでしょう?」

「何人、、、。

うう、ですが、ワタクシの心は、ブラン様に奪われてしまったのです!

最推しはブラン様なのです。」


「とうとう、言ってしまったのね。

さようなら、カーラ。」

サポートキャラが、ボスに新しいボスの名を告げる、新しいボスにつくことを宣言する、そこでテリトリー判断が覆されることを知っているココアは、カーラに別れを告げた。

「マップオープン」

ニコの手から飛び立ち、ブランの頭に乗ったタクトは、ブランの目の前に小さな地球(マップ)をだした。

「これ、オレンジ色の線が薄くなっていく。」

ブランは消えゆくココアテリトリーの線を指でなぞった。

「あ、ほんとだ。

こんな風に消えるんだ。」

ココアの手から飛び立ったカーラが、ブランが見ている地球の上に止まると、恭しくお辞儀をした。

「新しいご主人様、これからよろしくお願いいたします。

ケケケ」

「うん、よろしく。」

ブランはカーラに手を差し出したはずなのだが、その手の先はオレンジの霧に包まれていた。

目の前にあった地球も霧の中に消え、頭の上にいるはずのタクトの重みも何も感じられない、以前にも覚えのある感覚。

「このオレンジの霧は、俺の記憶?」

霧の向こうで影が動き、ブランを呼ぶ声が聞こえた。

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