063 カーラの行方
「ブラン様への仕打ちに対して、私の配下ほとんど全員を嘘をついたことが10倍ではなくて倍返しなのは分かったわ。
主人公を篭絡しようとするドラキュラ城の主と、有象無象の配下を可愛くだますヒヨコ。
そう、人数ではなく登場人物としての価値の問題ね!」
正座をのままひれ伏すゾンビや騎士たちに、憐憫の目を向けたココアは大袈裟に両手でマントを広げた。
「んっ?
いや、そこまで打算的に計算してる訳じゃ。」
首を捻るタクトに向かってココアは高らかに声をあげた。
「しかし!
あなたの下にいるカーラに潰されているご馳走たち!
これはどういうことかしら?」
「ご馳走?」
カーラの背に乗っているタクトが、カーラの下を覗き込むと、確かにカーラの下には大皿があり、カーラに隠れて皿の中央に何があったのかまでは分からないが、更の縁まで、色とりどりの野菜や花であしらわれている。
「そうよ、タクト。
それは、ブラン様のためにニコが監修して作らせた、メインディッシュだったのよ。」
「そうですよ、タクトさん。
僕もさっき厨房で手伝っていたので知ってますが、クリスマスとかにテーブル中央に置かれているあれです。
かなり手間のかかる料理なんですよ?」
カーラの乗るメインディッシュの大皿を目の前にして、デザートを食べ終えたハトバが口を拭いたナフキンをテーブルの上に置いた。
「ハトバも手伝っていたのか、それは、悪いことしたな。
とりあえず、時間をかけずに、カーラをテーブルの真ん中で組み倒すことしか考えてなかったから。」
タクトが気まずそうに、羽で頭を掻くと、ココアがここぞとばかりにテーブルの上に腰を落として足を組んだ。
「カーラを解放して、土下座してもらおうかしら。
そしたら許してあげなくもないわ。」
「土下座?いいけど?」
足を折って座るがフワフワした体に隠れている。
座っていることには変わりないので、羽を前に出してそのまま体ごと頭を倒す。
「こんな感じ?」
「ひ、ひどいわ、ただ、可愛いだけじゃない。
許せない、許さないわ。」
頬を膨らませてプルプルと震えるココアに、スンッとした目を向けるタクト。
「そうなると思ったよ。」
「ブラン様に出すお料理を急いで作り直してちょうだい。
あと、何人か崖下に行ってブラン様を、、」
「ココア、なんでブランをブラン様呼びしてるんだ?」
ふと、思いついたようにココアの声を遮ったタクトは、足蹴にしていたカーラからピョンとテーブルの上に下りた。
「ブラン様呼び、当然じゃなくて?」
コテンと首を傾げるタクト。
「ブランを僕にするのなら、呼び方は逆だろ?
ブランがココア様で、ココアがブランを呼び捨て、とか?」
タクトの言葉にココアは赤い瞳から冷たし視線を返した。
「フッ、分かってないわね。
見目麗しい銀髪の美少年、ブラン様に使える怪しくも背の高い美しい紳士。」
「はっ?
前者はそうだけど、後者は、、、。」
「タクトさん、今いいところだから黙って!」
口を挟もうとしたヒヨコの嘴は、緑の髪の美しい美少女によって塞がれてしまった。
「普段は、儚い少年に傅く紳士、だけど!
一度、血を見ると、主である少年を組み伏し、揺れるグレーの瞳に恋情を隠せなくなり、思いのままに、、、」
バシッ
タクトはチャナに嘴を塞がれたまま、目の前でうつ伏せになってスヤスヤと寝ていたカーラを一蹴りすると、ココアの顔面にヒットさせていた。
「ケケケケッ!
ココア様、す、すみません。」
バシッ
驚いたチャナが両手を緩めたすきををついて、タクトはココアの顔面にとまっているカーラを更に窓際に蹴り飛ばした。
「うん、妄想もいいけど、ブランを巻き込むのはやめてくれるかな?」
「タクトさん、いつの間に手から抜け出てるし。
もっと、ココアさんの話聞きたかったのに。」
カーラはヨロヨロと飛びながら、目の前にあったクローゼットを越えて、アーチ状の窓の上に捕まると蝙蝠らしく逆さにぶら下がって、羽のついた手で鼻をさすった。
「ケヒー!蝙蝠の鼻を蹴るなんて、なんて野蛮なことを。」
「本当だわ、カーラになんてことするのよ。
マシロもよくこんな血も涙もなさそうな男と付き合う気になったわよね。」
「ん?いや、確かに今は血も涙もないデータの中にいるけど。
何故マシロさんの名を?」
「なにを、名前を言っただけで、黒目を大きくして可愛く見せているのかしら?
と言うより、警戒度MAXみたいね。」
「うわぁ、何だか分かりませんが、お二人の間に火花が見えます。
カーラに乗られて潰されたと思ったターキーが、元の形状に戻ったのは幸いですが、その向こうで火花が散ってます。」
「目の前でココアさんとタクトさんの繰り広げられる戦いを見られるなんて。
モブ冥利に尽きるわね、ねっチャナ。」
「うーん、私はブラン様、より、ブラン君派、何だけど。
確かに美少年と言えるけど、やっぱりかわいい系よね?」
「何言ってるのかしら、この子は、、、、。」
「それなら一つ教えてあげようかしら。
本当は、私、女装バージョンの倒錯的な吸血鬼キャラで登場予定だったの。」
「・・・・それが?」
「過去に大人の男性にひどい目にあわされて、トラウマを持っている美少年ブラン様は、側近に女性を選んだ。
側で自分を支えてくれる側近に、いつしか密かに恋心を抱くようになった美少年のブラン様。
そして、側近も優しく儚げなブラン様にいつしか主以上の想いを抱いて、けど性別を偽っている罪悪感に悩まされ、そんな中。
ある日、ヒヨコの悪だくみによって、ブラン様は攫われてしまった。」
タクト:「ヒヨコの悪だくみね。」
ハトバ:「ヒヨコの悪だくみですね?」
チャナ:「何でヒヨコ?」
アンズ:「し、静かに、まだ続くから。」
「助けに来た側近が実は男だとヒヨコにばらされ、ブラン様は激しく動揺しつつ、恋心を消せないことに気がつくの。」
マントを持った手を胸の前で交差させて、俯き、オレンジ色の髪を前に垂らしたココアは悲壮感に包まれている。
「ヒヨコを倒した側近にお姫様抱っこされて助け出されたブラン様。
騙していたことを詫びて立ち去ろうとする側近に、ブラン様は縋り付いていうの。」
ココアの熱演に、チャナ、アンズ、ハトバは息をのんだ。
正座をしたままの足を絨毯の上で滑らせて、ジリジリと近づき、テーブルを囲んでいたギャルソンと騎士にゾンビたちも顔を赤らめながら話に聞き入っている。
「行かないで!それでも愛してるって!」
「違うわココア、それは解釈違いだと言ったじゃない。」
「「「ニコさーん、今いいとこだったのに~!」」」
「ブラン様は女装男になんか惚れないわ。
穏やかな仮面をかぶって、殺気を隠し、どこか陰りのあるシャープな男に惹かれるのよ。
そして、自分は雇われた身だからと、引き気味な側近を押し押しで、その可愛さで堕とすのがブラン様よ。」
急に現れココアの隣に座ったニコが、フンスッと力強く両手で拳を作った。
ガタンと椅子を引いて立ち上がったチャナが、テーブルを回ってニコの前に行くとおかっぱ頭の幼女の可愛らしい両手を握りしめた。
「なるほど、ブラン様呼びはそのままで、どんな男性に惹かれるのかが解釈違いだと?
助けられる受け身ではなく、引き気味側近を押して攻めるのがブラン様だと。
そう言うことですね、ニコさん。」
「その通りよ、チャナ!」
ディナーテーブルの前で盛り上がる2人に肩をすくめるココアと、スンと表情が抜けたヒヨコ。
テーブルのまわりで正座を続けているギャルソンと騎士にゾンビたちが、膝の上の拳に力を入れて二人を見守っていると、ニッと笑ったチャナがニコの手を離しす。
「じゃーーーん!」
チャナは効果音を口にして、キュロットスカートのポケットから取り出した1枚のカードをタクトの目の前に差し出した。
その頃、ヒフミヨイに助けられて城の鋸壁まで戻ってきたブランは飴細工師とともにカーラ攻略のためのシミュレーションを行っていた。
「このテリトリーボスのサポートキャラである白い蝙蝠が、窓際に来てぶら下がってますね。」
「そうだね、これはチャンスだ。」
「じゃあ、予定通り、私がブラン君を窓際まで吊るしますから、上手くやってくださいね。」
「わかった、まずはカーラを振り向かせて、この飴細工の花束の入ったケースを目の前に突きつける。」
「そうです。」
「カーラがぼーっとなったところでケースの蓋を開ける。」
「はい、その通りです。」
「あとは、カーラが花束を食べつくすまでケースを抑えておく。」
「完璧です。」
鋸壁と鋸壁の間から逆さまにおりてきたブランは、カーラが逆さまに止まっているアーチ状の窓のすぐ上までくると、中の様子を伺った。
広間の方から話し声がして、そちらに気を取られているカーラは、十数センチ後ろにいるブランに気付く気配は全くない。
カーラ越しに中をうかがっているブランからは、カーラとその前にある見覚えのあるクローゼットが邪魔で、広間の中央にあるテーブルの様子までは見えない。
こちらから見えないということは向こうからも見えないということだと判断したブランは、そっとカーラの背中をつついた。
「ケケ、今いいとこなんだから、邪魔するんじゃない。」
後ろ手に振り払おうとするカーラの背中をつつくこと数回。
しびれを切らしたカーラが、やっと体を回転させて振り向くと、すかさずブランはカーラの目の前に飴細工の薔薇花束のケースを差し出した。
「よし、シミュレーション通りだ。」
城壁にぶら下がるブランより少し高めの場所を飛んでいたヒフミヨイが、小さく呟く。
「ケッケケッケ、飴細工の薔薇の、しかも花束、、、。」
カーラは言葉を無くしていくと、目が虚ろになって行き、窓のアーチを掴んでいた足に力が入らなくなってきた。
「まずい、足が窓から離れるぞ!」
ヒフミヨイの叫びにブランは急いで飴細工の薔薇の花束のケースの蓋を開けると、下から上に向けてケースをの中にカーラの顔を突っ込み、落ちないようにケースごと逆さまにギュッと抱きしめた。
虚ろな目をしていたカーラが、瞳をカッと見開いてケースの中の飴細工を無我夢中でかじり出すと、飴細工師は吊るしていたブランを城壁に引き上げ始め、ヒフミヨイがカーラの代わりとばかりに、王座の間のアーチ型の窓辺に止まった。




