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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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062 女神たちと空中花壇

「何であんなところに?

見てる先は、玉座の間?

そうだ、俺も戻らなきゃ、隙をついて剣を取り戻して、タクトを助けないと!」

ブランは辺りを見回したが、周りに橋らしいものは無く、城に戻るには城門まで戻って赤いタキシードのゾンビたちがいる橋を渡るしかない。

「遠回りになるけど、また城門前の橋を渡るしか、、、」

走ろうと一歩踏み出したブランの肩に、飴細工師の手がかけられた。

「ふむ、ここに橋を架けたらいいんじゃないかな?」

「えっ?橋を?」

「城の建つ絶壁までは距離があってちょっと大変そうだけど、前よりもっと奇麗で大きな橋がかけられるんじゃないかな?

そうだね、もし飴細工の橋を架けてくれたら、そうしたら、お礼をするよ。」

飴細工師は城の建つ対岸の無い絶壁を見て、頷いている。

「あの絶壁に?

無理だよ、あっちに橋を架ける場所なんか無いし、あってもこんな距離飛ばせない。」

飴細工師とは逆にブランの表情は絶望的だ。


「へー、やっぱりこうなってんだ。

今の俺のボスはお前だからな、協力してやるよ。」

頭上から羽音とともに生意気な口調が聞こえ、見上げたブランはその鳥の名前を呼んだ。

「ヒフミヨイ。」

「おや、さっき鉄格子の上にとまっていた奇麗な羽色の鳥だね。

夕闇の暗さの中でも美しく輝いて見えていたよ。」

飴細工師に羽の色を褒められたヒフミヨイは、2人の頭上を得意気に周回して羽を見せびらかし、ニッと笑うと城の建つ絶壁に向かった。

「他ボスのテリトリーでも、主人公についたサポートキャラはこれくらいはできるんだぜ?

見てな。」

対岸の絶壁の前まできたヒフミヨイが、絶壁に沿って円状に飛ぶと円の中に水が湧いて揺らぎはじめた。

水の揺らぎがおさまると、静かな水面に石膏像で作られた女神が映しだされ、声を発した。

「あら、いきなり何かと思えば、元こチャナテリトリー(ここ)のボスのサポートキャラのヒフミヨイじゃない。

何の用かしら?」

「よっ!女神(説明書)様、今、ココアテリトリーにいるんだけど、こっちの女神(説明書)様に、ちょっとだけこの場所の形変えてくれって頼んでくれないか?」


いきなり現れた水鏡越しに、気安く話し出したヒフミヨイと石膏像の女神を見たブランは目を丸くしていた。

「あ、あれ何?真っ白な石の女神様?」

「そうみたいだね、さすがサポートキャラだ。

発想が大胆だね。」

驚きくブランと感心する飴細工師を他所に、対岸の壁面前では、話がどんどん進んでいる。


「面白そうなことやってるじゃない、退屈してたのよね。

ココアテリトリーね、女神ネットワークで聞いてみるから、ちょっと待ってね。」

元チャナテリトリーの女神が(瞳孔の無い)目を閉じると、水鏡の中央が縦に揺れて水が左右に分かれ、全く同じ顔の石膏像の女神が並んだ。

「ふふふふ、繋がっていたから聞いていたわ、勿論OKよ。

ここのテリトリーボスったら、城を作って以降私に何もさせないから、とっても退屈してたのよ。

さあ、何をして欲しいのかしら?」

絶壁の前の大きな水鏡の中で、硬いはずの女神の石膏の表情が悪党面に歪んだように見えたのは気のせいだろうとブランは目をこすった。

「たいしたことじゃない、この場所に、あっちまで橋を架けたいんだ。

テリトリーボスに気づかれない程度に、ちょっとだけ地形を変えて欲しい。」

ヒフミヨイが鏡の前で羽を羽ばたかせながら、崖を挟んだ対岸にいるブランたちを目で指した。

「あら、それだけでいいの、丈夫な橋を架けることもできるわよ?」

「橋はこっちで奇麗な奴造るからな。」

ヒフミヨイが得意気にいうと、ココアテリトリーの女神はため息をついた。

「わかったわ、気づかれない程度ね。

じゃあこんな感じかしら。」

女神が片手に持っていた槍でトンと床を突くと、ヒフミヨイの目の前の崖が膨れ上がり、まるでアーチ形のバルコニーのような形状で対岸が作られた。

もう一度槍で床を突くと、今度はブランたちの足元が揺れ対称的なアーチ形のバルコニーのような形状が作られ、崖の中央に円形の花壇が浮き上がった。

「空中花壇はおまけよ。」

「す、すごい、有難う女神様!」

あっという間に変わった地形にブランは瞳を輝かせて大きな声でお礼を言うと、隣では「ブラボー」と飴細工師から拍手が送られた。


「じゃあ、折角だから始めようとしようか。」

飴細工師は、おろしたリュックから鍋のカード、砂糖のカード、水飴のカードと必要なものを取り出すと、次々と火を焚いて鍋をかけ、カラフルな飴を煮詰めだした。

「すごい、前より色が増えてる。」

「そうだよ、256色に増やしたんだ。

君の好きな色を使って、好きなように橋を架けてくれ。」

目の前に並べられた沢山の色の飴の鍋にブランは目を輝かせる。

ブランは、まだ鉄格子に絡まったままの白い糸から、1本引き抜くと鍋につけ、糸の橋を持ったまま、解けた飴を絡ませた状態で空中花壇めがけて高く投げた。

「やあ、すごい、糸から雨のつららが降って、それが放物線を描いて花壇に届いたね。」

「「まあ、すごいわ、奇麗だわ。

退屈しのぎには持って来いね。」」

水鏡の向こうの2人の女神も瞳孔の無い目を見開いて喜びの声を上げている。


次々と飴を投げて放物線をつくり、256色の飴がまじりあいところどころが光の三原色よろしく色が抜けたようにはなってはいるものの、空中花壇を繋ぐアーチ形の橋ができあがった。

「せっかくだから、花の飴細工を作ったよ。

これも飾ってくれるかい?」

「もちろん!」


「ああ、すばらしい。

以前にもまして、なんて美しく立派で見ごたえのある芸術的な橋なんだ。

これは、お礼も弾まないといけないね。

ほら、今度は三色の薔薇の飴細工をあげよう。」

飴細工師は頭上のAI文字を青く光らせて、ブランにケースに入った花束を差し出した。

「この薔薇の花光ってる。」

「うん、今度こそ役に立つと良いんだけど。

攻略したいキャラの目の前にこの花を出すと目が離せなくなるよ。

そこでケースの蓋を開けると、何の抵抗もできずに口にするから、タイミングを間違えないようにね。」

「うん、わかった。」

「決して、先にケースの蓋をずらして、匂いを漏らしたりしたらだめだよ。」

「うん、うん?」

飴細工師の念の押しように、ブランは赤い薔薇の飴細工をココアに取られたときのことを思い出し、妙な違和感を感じたが、水鏡からの女神たちの声にそれ以上考えることを遮られた。


「まあ、奇麗、芸術的ってこういうことを言うのね。」

「本当に!真正の美という感じで、この城には合っていないけど、いいんじゃないかしら。」

2人の女神を見上げたブランは、そういえば、とココアテリトリーの女神に尋ねた。

「あの、この空中花壇作ってもらってすごく助かったけど、ここのテリトリーボスに怒られたりはしない?」

ココアテリトリーの女神は、はう!と胸を抑えたが、すぐに姿勢を正した。

「心配してくれているのね、大丈夫よ。

私たちはしがない説明書よ、ふっ。」

自嘲気味に目をそらした女神は、皮肉っぽく片方の口角をあげ、隣に映る元チャナテリトリーの女神に声をかけた。

「自分の言うことだけを聞くようにと言われている訳じゃないから。

ねぇ。」

元チャナテリトリーの女神も頷き賛同した。

「そうよ、許可を取れとも、やってはいけないとも言われていないしね。」


「そうなの?でもボスが言わなくても絶対とかじゃないの?」

ブランの質問に2人の女神とヒフミヨイが揃って笑う。

「説明書はあくまで基本ルールが書かれているだけ、絶対やってはいけないことは書いてあるけど、それだけよ。」

「そうそう、そこで何をするかは人間の判断だわ。」

「そして、書かれていないことからそのルールの抜け穴を見つけるのは人間の発想ってもんだ。」


「人間の?」

「俺たちAIは情報があって、条件づけて結果を出すけど、人間はそんなもん無視して都合のいいこと見つけるってこと。

書かれていないからやっていい、やってはいけないってのは、都度の判断ってこと。

今回みたいにな。」

「今回みたいに?」


「そういえば、羽の美しい君は、この子が落ちてくる前にヒヨコと何か話していたね。

そのヒヨコから、実は僕も頼みごとをされたんだ。」

後付けで出てくる情報に、ブランの中に赤い薔薇の飴細工を取られたときの違和感が戻ってきた。

「ヒヨコからの頼み事って、まさかとは思うけど、俺のこと?」

恐る恐る見上げるブランに、飴細工師は首を振ったが、困った顔をしている。

「まさか君のことだとは思わなかったし、本気にはしてなかったんだよ。

ロッククライミング中の僕に、まるで通りすがりでついでのように軽く言ったんだよ。

”後で誰かが降ってきたら受け止めて欲しい”と。」

「どう考えても、お前のことだよなー。」

「降ってきたらって?」

「そう、あと、捕まえたら、窓から吊るしてほしいとも言われたね。」

「はっ?どういうこと?」

さらに混乱したブランとは裏腹に、ヒフミヨイは、頷き、呆れた声を出した。

「俺の元ボスのチャナと違って、どこまで先読みしてんだか、やれやれ。」

固まったブランを見た女神たちは呑気に、「愛されてるわねー」とキャッキャッと話だし、盛り上がったところで、

「じゃ、ちょっと女神ネットワークで今の話をネタにお茶会するから私たちはこれで。」

と、言ったかと思うと、姿が消えた水鏡の水が崖の下に向かって流れ落ちた。


「あれ?

よく分からないけど、囮にされた挙句吊るされるのかと思ったけど、反対で、女神たちが言うように、俺、愛されてるの?」

「あ?愛されてるだろ?

元ボスのチャナなんか、俺のこと5羽にならないかとか言ってたし。

大違いだよ!」

「5羽ってなに!

切り裂くってこと!?」

混乱しているブランに、憤慨しているヒフミヨイ、困った顔の飴細工師は、それぞれ空中花壇から玉座の間の窓を見上げた。

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