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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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060 鋸壁からの跳躍

「ブラン、ココアの言葉に惑わされないで。

名前付けの後先に意味なんてないから!」

タクトはココアの背中越しにブランに訴えたが、前に立ちはだかるココアに惑わされているブランにはその訴えが届かない。

ブランの瞳の中では、カーラが食べこぼした飴細工の赤い光と、その中でも一際赤く光るココアの瞳が揺らめいている。


「ゾンビやゴーレムの数が多いだけで、攻撃してきてもすぐに倒せていたのは、ブランをこの流れで追い詰めるためだったんだな、ココア。」

このテリトリーに入ったときから既にココアの策略が始まっていたことを悟ったタクトは、自分が捕まっているこの黒い鳥かごも然りだが、リアルでもゲームの中でも情報収集ができていなかったことを改めて思い知った。

黒い鳥かごの中に拘束されているタクトは、まとわりつく白い糸の中で藻掻きながらもブランに訴え続けた。

「ブラン、お願いだから俺の声を聞いて。

お城の名前なんて関係ない、そんな理由で付けた名前じゃないから、絶対に。

記憶を取り戻せば本当のことが分かる!

情報が足りない今、すぐに答えを出す必要はないから。」

タクトの声がすぐ近くで聞こえるのに、目の前の怪しげに揺れる赤い光が邪魔で思考することが難しい、だけど。

「タクトの言う通りだ、情報が足りないのに、答えを出しちゃいけない。

でも、俺が血を好む人間だったから、そんな名前を付けられた可能性も否定できない。」


ココアは、タクトの言葉と自分の言葉の間で揺らぐブランにさらに追い打ちの言葉を紡いだ。

「情報が足りないなんて、どうしてわかるのかしら?

足りない情報があるのなら、その証拠はあるのかしら?」

”有る”ものを有ると証明することは容易だが、”無い”ものがあると証明することは容易いことではない。

ココアは殊更優しく語りかける。

「そんなものは無いでしょう?

だって、最初から、残酷な城主がいる城の名前と同じなんて、出来すぎではない?

ブランという名前は、本当に偶然なのかしら?

私はそうは思わないし、偶然ではなく必然なのじゃないかしら。

ブラン様、認めて?必然だと。」


「必然?」

「そう、必然。

ブラン様、あなたはこの城のために生まれてきたのよ、きっと。

だから、この城に私と一緒にずっといるべき、ではない?

だから、私の手を取ることが正しいの。

正しいことをすれば、そうすれば、タクトだって解放されるわ。」

ココアはここぞとばかりにタクトの名前を出し、自分の背後にある黒い鳥かごの一部を持つと、ブランの目の前で大きく揺らした。


自分には壊せない黒い鳥かごの中で、糸に拘束されたまま声も出せずに回転するタクトを見たブランは「やめて!」と叫ぶと、籠に抱き着いて揺れを止めた。

「タクトを解放?ほんとに?」

籠に抱きついたまま、縋るような瞳でブランに見上げられ、心境の変化か、ココアの瞳が赤から温かみのあるオレンジに変わった。

ココアは籠を持った手を離して両手を鳥籠を抱えたブランの両手に重ねると、後ろに下がりブランを鳥籠から離した。

「もちろん、ブラン様がこの城で私の(しもべ)になれば、タクトは解放するわ。」


ここぞとばかりに、ブランの後ろから耳打ちするココアに、タクトはある意味関心していた。

しかし、それとこれとは別で、ブランに正気に戻ってもらわなければならない。

「本題をすり替えられてる。

ブラン、解放の言葉は罠だ。

交換条件のように思わされているだけで、きちんと考えれば繋がりがないことは分かるだろう?」

再び、ブランと鳥かごの間に割って入ったココアは、鳥籠を掴むと、勢いをつけてさらに大きく揺らした。

「おしゃべりなヒヨコね。

邪魔だから口は閉じていてね。

さあ、ブラン様、私の手を取って、タクトを解放するために正しい選択を。」

満面の笑みを浮かべたココアは、ブランに白い手を差し伸べた。


「あれ、リアルでされたら絶対酔うやつ。」

晩餐のテーブルについて、ココアたちのやりとりを見ていたハトバは、タクトに思いっきり同情していた。

「んー、ココアさん、すごい。

あんな風に相手を追い詰めるのね、勉強になります。」

「チャナはああいうの向いてないから、うちのチームは勢いのあるほのぼの路線を目指すからね?

真似しなくていいからね?」


必死で惑わされまいとするブランだったが、ココアの言葉が頭に響く。

「正しい、選択。」

ブランは思考ができないまま、目の前に差し出されたココアの白い手に自分の手をのばした。

揺れる鳥かごからその姿が見えたタクトだが、上下左右にひどく体が揺れて思うように口が動かせない。


「ブラン、ココアの手を取ると記憶は永遠に取り戻せないよ。」

耳の側で聞こえた穏やかで悲し気なタクトの声に、思考を取り戻したブランは、重ねようとした手をとめた。

「俺は何をしてたんだ?

記憶、そうだ、取り戻さなきゃ。」


「どうしたのかしら、雰囲気が変わったわ?」

理由は分からないがブランに自我が戻ったことに気がついたココアは、すぐに広間の壁際に控えている騎士やギャルソンたちに目配せをして合図を送る。

「そのためには、1番大切なタクトを助けなきゃ。」

頭を強く振ったブランは、鳥かごに近づこうとしたが、ココアの手を取る寸でのところで止めていた手をココアに捕まれた。

「ブラン様、もう一度私の目を見て。」


ココアが手を離した為揺れが小さくなった鳥かごの中で、タクトはブランの名を呼んだ。

「ブラン!

大丈夫、俺は自力で脱出できるから、信じて。

だから、今は逃げて、ココアに捕まるな。

崖の下に飛び下りてでも逃げてくれ!」

黒い鳥かごがこの世界の物ではないことは自分の情報不足だったとしても、それだけで負けることはない。

何よりブランをここで終わらせたくないタクトはブランに逃げるよう懇願した。

「俺はタクトが1番大事、だからおいて逃げたくない。

けど、、、。」

ブランは勢いをつけて大きく腕を振って、自分の手を掴んでいたココアの手を振りほどくと広間を見回した。

逃げ道を探したのだが、いつの間にか廊下に続くすべての扉の前に大勢の騎士やゾンビが待機している。

それにブランの剣は、窓際にいる黒服のメイドの足元に転がっていて、拾うことができない。

「もう、もう少しだったのに。

まあ、いいわ、タクトの必死な様子が見れたから。」

振り向いて籠の中のタクトを見下ろしたココアは、常にない満面の笑みを浮かべている。


ブランは、とっさに誰もいない玉座へ駆け上ると、重厚なカーテンを翻して王城の裏手に続く階段に向かった。

「しまった、さっきタクトが言ってたようにゴーレムで埋まってる。」

階段の下は頭のないゴーレムの体で埋め尽くされ、しかも、わずかずつだが上に登ってきている。

「こっちはさっきチャナさんが言ってた城壁に続く階段か。」

ブランは迷わず、城壁への続く階段を駆け上った。


「あら、逃げ場のない階段を登るなんて。

タクトの方がよっぽどブラン君を追い詰めているのではなくて?」


「ブランなら、何とかするさ。」

「糸に絡めとられたかごの鳥のくせに生意気ね。

でも、強がりを言うタクトを見ているのはとっても楽しいわ。」

ココアの側に黒服のメイドと執事が侍る。

「さぁ、もう一歩ね、ここにブラン君を連れてこれたら、私の勝ちよね。」

ココアはタクトにウィンクしてハートを飛ばすと、マントを翻して、メイドと執事と共にブランの後を追って玉座の階段にむかった。


「本当に、ココアは容赦ないよね。」

ココアの後ろ姿が城壁に続く階段の中に消えるのを待ち、タクトは嘴を開いてフッと息と炎を吐いた。

吐いた炎を自分の体に纏わりつく糸に向けると、体を拘束していた糸が見る見るうちに解けて蒸発する。

「伸ばせず、切れなければ、燃やすか溶かすか、凍らせて砕くか、と思ったけど、蒸発とは予想外だったな。」

すべての糸が蒸発すると、タクトはフワフワの羽が膨らませてプルプルと震わせた。

「さてと、ブランはうまく捕まってくれるかな?」



ココアと黒服のメイドが城壁にでると、ブランは夕日を背に鋸壁の上に立っていた。

「ブラン様、危ないわ、こちらにいらっしゃい。

城壁の向こうは暗い崖になってるわ、落ちたら生きて戻れないかもしれない。」

近づいてくるココアたちを避けるために、鋸壁の狭間を飛んで横に逃げようとするが、すぐに三角塔にぶつかりそれ以上横に進めない。

「ココア様の言う通りです。

何も迷うことはありません、何故この方の手を取らないのですか!」

ココア愛の詰まったメイドには、ブランの行動は到底理解できない。


「俺は絶対に手を取らない!」

ブランは鋸壁から崖下を見て、岩のでっぱりや木の枝などが無いか探すが、鋸壁から見える崖下は垂直に切り立っており、飛び降りることができそうな場所は見当たらない。

「私が捕まえてきます。」

メイドが壁を蹴って三角塔に飛び移り始めたため、鋸壁の狭間を反対に飛び越えて逃げたが、その先には執事服を着た男性が待ち構えていた。

「っ、いつの間に?」

「私はできる執事ですので。

もちろんあなたの後ろからくるメイドよりもです。

ですので、ココア様の意図を組み先回りして動くのです。」

「何ですって!、私よりもできるなんて嘘、撤回しなさい。」


三角塔の屋根に足をかけたメイドと、目の前の執事が言い争いをはじめ、城壁にいるココアは仕方ないとばかりに2人を眺めている。

「俺は捕まる訳には行かない、タクトの為にも。

そうだ、崖の下に飛び下りてでも、逃げる。」

ブランはそう呟くと、鋸壁から勢いよく跳躍した。


「何を!」

鋸壁から消えたブランに、ココアは驚きの声を上げた。


「えっ?」

「あっ?」

ココアの叫びに言い争っていた2人が気づき、鋸壁から下を覗き込んで見えたのは、崖下の闇の中に消えて行くブランの姿だった。


「あなたがそんなところにいるから、逃がしてしまったではないですか!」

暗闇に沈むブランを追うことができず、メイドと執事がまた言い争いを始ると、ココアは「困ったわね」と呟いて階段を戻って行った。

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次回更新は 2026年1月5日の予定です。

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