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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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006 望まない再会

自分を呼び止めて見上げるアオバが何を聞きたいのか、おおよその検討はついたがタクトとしてはこれからこのミーティングの報告書を作成するであろうマシロの手伝いをしたい。

迷ってマシロを見ると、察したマシロはタクトに「先に行ってて。」と小さく手を振っている。

「マシロさん、かわいい。」

「マシロさんは手を振ってるだけじゃないですか、キャラ変スイッチ切り替える前に俺に返事をください。

タクトさん。」


仕事を挟む時と挟まない時で、マシロに対するタクトの態度の変わりようは社内でも有名になっていて、噂にまったく興味のないアオバでも知っていた。

噂を聞いたからというよりは、自分の目でその豹変ぶりを度々目撃しているから、知りたくもないことを知ってしまっただけなのだが。


マシロはマシロでタクトの変わりようをその時々で受け流していて、今も特に何を気にすることもなく平然と対応している、ように見える。

「トウリに手伝ってもらうから大丈夫、トウリ、この後時間いい?」

シキと連れ立っていたトウリが、トウリを呼ぶ少し大きめのマシロの声に気づき、手でOKのサインを作って振ると、隣にいたシキもそれに続いた。

「あ、じゃぁ俺も、一緒に行っていいか?」


「もちろん。

ということで、2、30分くらいで終わると思うから、終わったら追いかけるね。

タクトたちは駅前のカフェかどこかで待ってて。

場所が決まったら連絡お願い。」


「マシロさんがそう言うなら。」

気落ちするタクトに残念な人を見る目を向けたアオバは、本当にこの人で良かったのかと悩んだが、マシロが絡まなければ本来は頼りになる人間であったことを思い直した。

「シキさんには聞けない話だから仕方ないか。

さっさと聞いて、マシロさんと入れかわりに帰ろう。」

その後ろからはヨウキが、残念な人を見る目をアオバに向けていた。

なんの憐みか分からないが生温かな視線の気配に気づいたアオバは後ろを睨みながら振り返るが、そのときにはヨウキの顔はいつもの白々しい笑顔を讃えていた。

「タクト、アオバ、俺も一緒に出るよ。」


三人が外に出ると辺りは暗くなりかけて路上の街灯がつきだしたところだった。

「こういうのは第三者に話を聞いた方がいいと思うと言ったようなきがしたんですけど。

何で関係者っぽいヨウキさんまでついて来てるんだろう。」

背の高い二人に挟まれたアオバは黒縁メガネを掛けなおすと、前方を見たまま誰にともなく話して見た。


「とりあえず、駅前に行って空いているカフェを探そうか。

場所が決まったらマシロさんに連絡しときたいんで。」

オフィスを出て歩道を駅前の方向に歩くタクトにアオバとヨウキが続いた。

「タクトさんって本当にマシロさんのこと好きですよね。

駅前のカフェって、マシロさんが言ったそのままで従順というか、そういうの俺にはよくわかりません。

さっきは、マシロさんが先に行っているように言ってくれなかったら俺のことスルーしてませんでしたか?」


「えっと、マシロさん優先だから、まぁ、そうなったかも?

でも、アオバをスルーはしないよ?

ちゃんと断りを入れるから。」


「断ってくれるんですね?

ありがとうございます?」

お礼の最後の疑問符には、前を歩くタクトの当然といわんばかりの答えは、マシロと付き合う以前は当然ではなかったんだけどと、若干のあきれを混ざっていた。

「それまで、誰にでも親切でいろんな人と付き合ってるって言われてたのは、噂に疎い俺でも知ってましたが、変わりすぎですね。

噂については本当かどうかは興味ないですけど。」

いつもより言葉の多いアオバだが、喋り方には相変わらず抑揚がない。


「アオバは気配消すの上手いから、いろんな噂聞いてるだろ?

本気にしたり、それを広めたりしてないだけで、何でも知ってるじゃないか?」

後ろから突くヨウキの手を振り払ったアオバは、何でもなかったかのように足を速めてタクトに並んだ。

「分からないついでに良ければ教えてください。

どんな理由で、他人に夢中になれるんですか?」


「俺の言葉はスルーな訳?アオバ?」


ヨウキの言葉に中途半端に笑みをこぼしたタクトは、そのままんーっと手を口に当てて考え出した。

「なんで他人に?、というか俺の場合はマシロさんに夢中になれるか?

夢中にならない理由がないからかな?

美人で可愛くて、愛嬌があって、仕事もできて、話しやすいし、俺の話を真剣に聞いてくれるし?

スタイルもいいし、性格もいい、柔らかくて、優しくて、でも厳しくもあって、時々とぼけるところもいい。

何より、そこにいるだけで、胸が痛むくらい、その存在が尊い。」


一息で言い切ったタクトに、スンッした顔でメガネをかけなおすアオバは「やっぱり、わからない」とつぶやいている。

その後ろ姿を眺めて苦笑しながら歩いていたヨウキが、「そういえば」と思い出しタクトに声をかけた。

「そういえば、今度のテストでは主人公に剣士タイプを選ぶって言っていたのは、半分推し活みたいな感じか?

既存キャラだろ?あれ?」


「ええ、せっかくだから、今度はちゃんと成長を見守ってみようかなと思って。

だから、名前も決めていて、、、」

「おおおおお!」

タクトが主人公の名前を言いかけると、前から歩いて来ていた男性の大きな叫び声が被った。


「アオバくん!久しぶり!

ヨウキ兄さんもお久しぶりです!!!」


男性はタクトたちから見て街灯を背にしていたため、逆光で顔が暗く誰なのか分からなかったが、名前を呼ばれたアオバとヨウキはその声に聞き覚えがあるらしく、かなり驚いている。

「なんて偶然だ、お二人一緒に会えるなんて。」

声が潤んで聞こえる男性とは裏腹に、

「・・・」

無言で眉間に皺を寄せて、怒ってはいないようだが迷惑そうな顔をしているアオバ。

「うわっ。」

半笑いで、口元を引きつらせているヨウキ。


オフィスでは見せない2人の反応に新鮮さを感じつつ、タクトはとりあえず二人と面識があると思われる男性に話しかけてみた。

「えっと、どちら様でしょうか?」

街灯を背にしていた男性が近づいてきて、逆光が薄れだんだんその顔がはっきりと見えてくるとタクトもその顔に見覚えがあり、タクト自身はこの男性と直接話しを交わしたことはなく、そしてあまり会いたい相手でもなかった。


男性は歩くうちに勢いづいて、ヨウキの前まで来ると祈るように手を胸の前で組んだ。

「ヨウキ兄さん、俺です、俺。

以前にゲーセンで兄さんにボコボコに負かされた俺です!

あれからもっと腕を磨いて、今じゃ負け知らずになりました。

こんなとこで会うなんで、神の思し召しですよ。

対戦しましょう!もちろん、アオバ君をかけて!今度は負けませんよ!」

スーツ姿でいかにもリーマン風のやせ型のわりに声の大きな男性に迫られ、ヨウキは片手で相手を制しながら反対の手で片耳を抑えた。

「いや、あんたに兄さんと呼ばれる覚えはないし、以前の対戦もアオバをかけた訳じゃないし、どちらにしろやらないよ?」

以前自分に付きまとっていた男性と二度とかかわりたくないアオバは、自分をスルーしてヨウキに気を取られている男性の隙をついて、タクトの腕を取ると歩道を外れ、進行方向から逆に進むと振り向いてヨウキに声をかけた。

「じゃぁ、俺、タクトさんと話があるから先に行ってますね。

ヨウキさんはゆっくりとその人の対戦相手をしてあげてください。」


「ちょっと待て!だから、やらないってば。」

男性に阻まれてアオバを追うに追えないヨウキは頭を抱える。


アオバに腕を引かれるタクトはタクトで、「触らぬ神に祟りなし」という言葉を頭に浮かべ、これ幸いとアオバに引っ張られるまま足を速めた。

ヨウキともめている男性は、以前にタクトの元カノ関係で、マシロとの仲を一瞬ではあったが誤解したことのある顔だったからだ。


タクトとアオバが駅前の方角とは反対のオフィスの方に戻ってしまうと、そこには軽くウェーブのかかった前髪に、がっしりとした体形にピッタリした高級スーツを身に着けた男性が立っていた。

一目見てセツキだと気がついたタクトの脳裏には「前門の虎、後門の狼」の文字が浮かび、自然と歩くスピードが遅くなり、あと数メートルでセツキにぶつかるというところで足を完全に止まった。

タクトに合わせて歩いていたアオバも足を止めて、隣を見上げるとタクトの視線の先にいる顔は暗くて分からないが、ガタイの良い人物がいる。

その人物は仁王立ちになりオフィスの方を見てつぶやいた。


「う、美しい。」

セツキは、オフィスからスマホを片手に出てきた一人の女性に魅入っていた。


「思ったより早く終わったから、まだタクトから連絡来てないかな。」

マシロは警備の人に挨拶をしてオフィスから出ると、スマホを取り出してタクトからのメッセージが入っていないことを確認し、先に自分からメッセージを送るために画面をタップしていた。

画面を見たまま数歩、歩いたところで、前から徐々に影が近づいてきて大きな影が自分に被さったことに気がつくと、反射的に前にいる人物を横に避けた。

「こんばんわ。

美しい方、このオフィスでお勤めですか?

実は私は、、」

見知らぬ男性に声をかけられ憮然としていたマシロの肩に手を置いて、タクトはセツキの言葉を遮った。

「こんばんは、セツキさん、この間ぶりですね。」


「おお、お?えっと。

そうだな、この間ヨウキと一緒にいたやつだな。

なんだ、この美しい女性と知り合いなのか?」


マシロにセツキが声をかけた瞬間にテレポートでもしたかのように、自分の隣から忽然と姿を消したタクトに唖然としていたアオバだが、「セツキ」という名前を聞いて我に返った。

「あの人が、セツキ、さん?

・・・、ああ、焦げてる人か。

というより、タクトさんを焦がしてるような?

ヨウキさんが話してみたらわかると言ってた?なるほど?

シキさんにとってのなにがNGかは、まだ不明だけど。」

メガネをまたかけ直したアオバは、そこに解があるのか、三人のやりとりを検証(傍観)することにした。


アオバとタクトの後についてオフィスの方に戻ってきていたヨウキも、アオバの更に向こうで対峙しているセツキとタクトを見て、スマホを取り出すとトウリにメッセージを送った。

「キンキュウレンラク、シキ、オフィスカラデナイヨウニ、カフェルームデシバラクタイキ」

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