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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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058 ココアの城の玉座の間

「あら、チャナ、階段に座り込んでどうしたの?

今日は、ブラン君の先生が出来るって張り切ってたのに?」

階段に座っているチャナに声を掛けたのは厨房で料理の飾りつけを終えて戻ってきたニコだった。

「ニコさん、もう、主人公もタクトさんもチートすぎで。

教えられること殆どなくって、だから今は、中庭でゴーレムとゾンビさんたちを相手にしてるブラン君とタクトさんを見物、じゃない、見学させてもらってるとこです。」


「あら、ほんとだわ。

2人とも戦っているというよりは、優雅に遊んでるようね。」

城の入り口から左右に分かれた建物で囲まれている中庭は幅広く、城の最奥の広間に続くだけあって距離もある。

要するにかなりの広さなのだが、二人はその広さを存分に使い、湿った土をものともせず華麗に滑り、跳躍し、斬撃を飛ばし、這い出てくるゾンビやゴーレムを次々と屠っていく。


「それにしても、ブラン君はゴーレムの頭をかち割って崩しても本体を壊してはいないのね。」

「本体って、ゴーレムは頭を割ったら動かなくなりますよ?」

首を捻るチャナに向かってニコは悪戯な笑顔を向ける。

「しばらくはね。

それも、もうすぐに終わりそうだから、二人に気がつかれる前に私は隠れるわね。」

「ニコさんが隠れるんですか?その必要ありますか?

一緒に行きましょうよ。」

ニコは悪戯な笑みをそのままに、黙って自分の頭上に表示されているIDの文字を指した。

「あ、それ、その文字色、変わってますよね。

初めて会ったときもニコさんのその文字、見えにくくて分からなかったんです。」

「そう、でもタクトにはきっと一目でバレちゃうから、私は隠れるの。」

そう言うとチャナの目の前からニコの姿が消えた。

「すごい、ニコさん、どんなアイテムカード持ってるの?」

チャナが思わず拍手をしていると、ゴーレムの頭をすべて叩き壊したブランが中庭から広間に入ってきた。

「チャナさん、そこが玉座につながる階段ですか?」

拍手の音ですぐに階段前にいるチャナを見つけたブランが剣をしまいながらチャナに駆け寄ると、反対の廊下側から話し声と足音が近づいてきた。

「誰た!」

ブランはしまいかけた剣を再び抜こうと柄を握り直したが、暗い廊下の奥から掛けられた聞き覚えのある明るい声に、柄を握る手を緩めた。


「あ、チャナ、ニコさん来なかった?」

「あ、主人公がいますね。

ダンスや礼儀作法のレッスンに、もしかしてテストも受けましたか?」

チャナテリトリーで会ったことのある二人だ。


「アンズ、ニコさんなら来たけど、なんだかバレちゃまずいからって、消えちゃったわ。

ハトバ、ブラン君たちはダンスや礼儀作法のレッスン何ていらないくらい完ぺきだったの。

テストを受けていないから強行突破してきたんだけど、中庭のゴーレムを倒すブラン君は、すごくかっこよかった!」

チャナは拳を作って力説している。

「はいはい、もうすぐ料理を玉座の広間に運ぶから、ココアさんに伝えに行くのよ。」

アンズは力の入るチャナの肩に手を置いて、落ち着けとばかりに抑えている。

「玉座の広間の正面の入り口に回るより、こっちの裏の階段の方が近いから、こっちに来たんですが正解でしたね。

主人公に会えました。

せっかくですし、一緒に行きましょう。」

戸惑うブランを他所に、ハトバが階段を登り始めると、アンズとチャナもそれに続く。

「ブラン君も一緒に行こう。

お姉さん、手を繋いであげるわよ。」

「でも、タクトが。」

チャナの手を繋いであげるをスルーしたブランが中庭を振り返ると、残り数人のゾンビを相手に、タクトは、カマイタチを飛ばす、ケリを入れる、引き抜いた十字架をぶつけるなどの攻撃を繰り出しているのが見えた。

「タクトさんもすぐ来るでしょ?

あの人、言ってもチートだもんね。」

「そうですよね、タクトさんがやられてるところって想像つかないし。」

「この階段は玉座の後ろに繋がってるのよ。

階段はカーテンに隠されてるし、上に行っても広間からは見えないの。

タクトさんなら絶対大丈夫だから、先に上に行って隠れて待ってようよ。」


「そうなんだ、それなら。

よし、まずは、玉座がどんな場所なのか、サポートキャラの位置とか確認しておこう。」


ハトバが先にらせん状の煉瓦の壁に沿って階段を登り、その後を続いてアンズとチャナ、ブランが登る。

扉の無いアーチ状の入り口をくぐると、チャナが言っていたように、重厚なカーテンが閉められていた。

「ほら、この横にも登り階段があるでしょう?

ここから登ると城壁に行けるんだって、屋上ってことね。」

チャナが説明していると、ハトバが壁沿いに腰と落として、両手でそっとカーテンを抑えて隙間を作り外を覗いた。

チャナに促されてブランもハトバの後ろから隙間を覗いてみると、数メートル先に玉座の背が見え、その前方に広いステップの階段が数段あり、階段下の広間には甲冑の騎士が並んでいた。

広間の外側にしかないアーチ状の窓すべてから夕陽が差し込み、騎士たちの並ぶ広間、階段そして玉座の間を暗い茜色に染めている。

「あの階段下の窓際にある黒い鳥かごの中、オレンジ?赤?の蝙蝠がいるけど、もしかしてサポートキャラ?」

階段下すぐに吊るし棒にぶら下げられた大きな黒い鳥かごが見たブランは、息をのんだ。


「カーラは白い蝙蝠よ。」

ブランの呟きに、玉座から柔らかな男性の声で返事が返された。

「ココアさん、そこに座ってたんですか?

気がつきませんでした。」

ハトバが恥ずかしそうに頭を掻くと、ブランは意を決してカーテンを翻して前に出た。

「ようこそ、私、ココアの城へ。

初めまして、私がこの城の城主のココアです。

お待ちしておりましたわ。」

玉座から立ち上がるとマントを翻してゆっくりとブランの前に歩を進めたココアは、赤く輝く瞳でブランを見つめた。

夕日を背にしたココアの顔は逆光となり、自分を見つめる赤く輝く瞳の怪しさはブランの緊張感を高めるには十分だった。

「ブラン様からの自己紹介は無用です。

よく存じてますから、それより食事の準備が整っているみたいね。」

ココアがブランの後ろに視線を移すと、ハトバとアンズが大きく頷いた。

「では、支度をさせましょう。」

ココアが両手をパンッと叩くと、緊張感を高めていたブランは肩を震わせたが、それと同時に広間の扉が両側に大きく開いた。

階下は俄かに騒がしくなり、入ってきた使用人たちによってテーブルにクロスが整えられ、あっという間に晩餐の支度が整った。

「わっ、おいしそー。」

チャナたち三人はカーテン裏から出ると料理の並ぶテーブルを目指して玉座の前の広いステップの階段をおりた。

「チャナさん、さっきニコさんと一緒に厨房にいたんですけど、特にトマト料理が絶品ですよ。」


玉座の間に残ったのは、ブランとココア。

襟の高い白いブラウスの緩やかなフリルが漂う袖から白くしなやかな手を差し出したココアは、ブランの横に跪いた。

「さあ、ブラン様、席までご一緒しましょう。」

「その、ブラン様ってやめてくれる?

敵同士でしょ?」

ココアから差し出された手を拒んだブランは、先ほどあがってきた階段を気にするが、タクトが登ってくる気配は感じられない。

ヨウキテリトリーでタクトと離れることの危なさを知っていたはずなのに、どうして離れてしまったのか、ブランは同じ失敗を繰り返した自分に腹立たしさを感じていた。


「どうして、タクトを置いてきたか?気に病む必要はないのよ。

そういうところがチャナマジックなのよね。

あの、雰囲気で、まあいいかって思わせてしまう。

だから、誰が悪いわけでもないの、さあ、私の手を取って。」

ブランは隣にいる怪しげな男性に自分の心を見透かされたと感じ、顔に熱を感じた。


「ふふふ、可愛らしいわ。

大丈夫よ、この夕闇の世界では、どんな顔をしても、その色を隠してくれるわ。」

長い黒いマントを翻して、広間に下りる階段のステップを踏んだココアは、再びブランに手を差し伸べた。

「さあ、エスコートさせて?

大丈夫、タクトが来るまでお話しでもしていましょう?」


「ケーケケケッケッ」

ココアの手を取りそうになっていたブランは、黒い鳥かごから聞こえた鳴き声に我に返り、ココアを避けて階段を駆けおりた。

「危なかった、何だあの人の目と言葉は。」

「こちらが、ココア様のサポートキャラのカーラです。

手に乗せて見られますか?」

無意識だったが、ブランは玉座の後ろから見えていた黒い鳥かごの前に駆けおりていたようだ。

声をかけてきたのは、鳥かごに付き添うように立っている黒いメイド服の女性だった。


このメイドは、自分がサポートキャラを攻略したがっているのをしらないのだろうか。

「俺が触っても、本当にいいの?」


ブランに問われて、黒いメイド服の女性が主人であるココアを見上げると、ココアはそれに美しく弧を描いた唇を返した。

「はい、ココア様も了承されています。

籠の扉は開いていますのでそこに腕を添えて下さい。

大丈夫ですよ、蝙蝠とは言えカーラは噛みつきませんので。」


サポートキャラの攻略アイテムはタクトが持っている。

しかし、サポートキャラを手にするチャンスを逃がしたくない。

一瞬躊躇したものの、ブランが籠の扉の前に腕を差し出すと中の蝙蝠がゆっくりと頭をあげて体を動かした。

「あ、タクトさん、やっと来た。

遅いですよ。

折角の晩餐が覚めちゃいます。」

すでにテーブルについていたチャナたちが、玉座の後ろ、ではなく、夕日の差し込む窓から現れたタクトを見つけた。


チャナの声が聞こえたとき、ブランの瞳は、カーラの体の下に隠れていた白い卵型の石を映していた。

それがヨウキテリトリーで見た石と全く同じものだと気がついた時には、黒いメイド服の女性が言葉を発していた。

「捕縛」

「うわっ!」

石が割れ黒い鳥かごの間から飛び出てきた無数の糸に囲まれようとした時、ブランは柔らかいものに跳ね飛ばされていた。

気がつくと、扉を閉められた鳥かごの中で糸に絡まれて身動きできなくなっていたのは、黄色いヒヨコだった。


「あら、タクト、いらっしゃい。

ブラン様を鳥かごの方に下りるように誘導した甲斐があったわ。」

「なっ!!」

振り向いたブランに満面の笑みを返したココアは、広いステップをゆっくり踏みながらおりてきて、機嫌よくタクトに声を掛けた。

「予定通り、窓からきてくれて助かったわ。」

「ココア、階段をゴーレムに塞がせたのはこのためか。」

「あら、何のことかしら?」

ゾンビをすべて霧に変えて、ブランたちを追おうと階段に向かったタクトだが、頭の無くなったゴーレムの体で埋め尽くされ登ることができなくなっていたのだ。

「ゴーレムは頭を潰せば動かなくなる。

鉄格子の城門でそう思い込まされたと気付くべきだったよ。

ゴーレムたちがいきなり転がって、階段を埋め尽くした。

壊そうにも煉瓦の階段の間にびっしり詰まっていて、下手したら階段ごと壊しかねなかった。

仕方ないから、一旦、建物の廊下を回って外に出て、騎士たちを脅し・・、尋ねて玉座の間に一番近い窓を吐かせ、、教えてもらった。

そして外側から飛んできたけど、タイミングが良すぎたな。」

ブランが鳥かごの扉を開けようとするが、扉の留め具はまったく動かない。

「タクト、ごめん、俺が浅はかだった。

鳥かごを壊すから、ちょっとだけ我慢していて。」

ブランが腰の剣を抜くと、ココアがフッ笑みを浮かべた。


「あら、無駄よ。

糸は切れるかもしれないけど、その鳥かごは別の世界のアイテムカードでできてるから、この世界のものでは切れないわ。

いわゆる制限ってやつね。」

「「「「「はっ?」」」」」

ブラン、タクト、チャナ、アンズ、ハトバの驚きの声が揃った。

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