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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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057 ココアの城の中庭

リズミカルに演奏されるダンス曲にのって、次々と襲い掛かってくるゾンビの手を取り、ステップを踏んで軽やかに避け、演舞するように戦うブランとタクト。

「何と芸術的な、我々が求めていたのはこれかも知れません。」

赤いシルクハットにタキシードのゾンビたち、1号は赤いマントを翻しステップを踏み、2号は杖を片手に脱帽したシルクハットを胸に抱え、3号はアコーディオンをかき鳴らし仲間たちの消え行く様を涙ながらに語っている。

「マーメイドドレスからしなやかに繰り出したステップを躱され、手をつないでターンからのジャンプ、美しい涼やかな面立ちの淑女、ああ、彼女も満面の笑みで霧になっていく。」

時にはタクトの羽ばたきから繰り出されるカマイタチに、時には軽やかに舞うブランの鋭い剣に切られ、緑の霧となり橋の中に吸い込まれて消えていくゾンビたち。

ダンス衣装を身に纏った彼らは、この美しく舞う戦いに満面の笑みを浮かべて霧となり消えていっているのだが、ブランやタクトにはその表情の違いを読み取ることはできない。

「ああ、最後の紳士が消えていく、何と満足げに。

きちんと墓の下に帰ってますでしょうか、不安です。」

「昇天していなければいいのですが。」

橋の対岸近くまで来たところで、赤い衣装のゾンビたちが最後の仲間の消えゆく姿を見送ると、1号を筆頭にタクトとブランの前に立った。

「わたくしたちが最後ですね。」

1号が恭しくお辞儀をすると、シルクハットの中から白い鳩を取り出した。

骨ばかりのハトは羽が数枚付いているだけで、見た目だけで言えば飛べるのかも怪しい。

ゾンビ1号がハトの嘴に蝙蝠型のカードを挟み空に放すと、哀愁を漂わせたゾンビ2号と3号が飛ぶ鳩を見守った。

羽が数枚しかなくとも立派に飛んだ鳩は、ゾンビたちの頭上を1周して、さらに高く飛ぼうと空を目指したのだが、天井に張り巡らされていた糸に阻まれてすべての羽を散らした。

「おや、これは失敬。」

手元に落ちてきた蝙蝠型のカードをゾンビ1号が受け止めると、足元に羽を散らし落ちた鳩が、他のゾンビたちと同じように緑の霧になって橋に吸い込まれていった。

「仕方がありませんね、あなた方にお願いしましょう。

この手紙を城の扉の前にいる騎士たちに届けてくれませんか?」

更なる哀愁を漂酔わせたゾンビは、霧となった鳩から落とされた蝙蝠型のカードをブランに差し出した。

「城の扉までは、橋から続く石畳を登って行くだけですから、迷うことは無いでしょう。」

目の前で霧散した鳩を見ていたこともあり、とても断れる雰囲気ではない。

「えっと、うん、わかった。

ついでだし届けておくよ。」

カードを受け取ったブランにゾンビたち3人はシルクハットを脱いで頭を下げた。

「有難うございます。

では私たちは次のお客様が来るまで、地中で眠りにつくことにいたします。

本当に楽しゅうございました。」

ゾンビが橋の欄干の親柱に触れると、灯っていた赤い光が消え、両端に点在する黒い街灯も元の消えそうな点滅に戻った。

「うん、こちらこそ楽しかったよ?」

表情は変わらないが、ゾンビの晴れ晴れとした雰囲気を感じとり、仲間たちを切られたゾンビにそう言っていいのか迷いながらもブランが笑顔を返すと、赤い衣装のゾンビたちは頭から緑の霧に変わり、最後には橋の中に吸い込まれていった。

「終わり、みたいだね?」

ブランが渡ってきた橋を振り返ると、先ほどまでの華やかさも賑わいも、何事もなかったように静まり返り、夕闇の怪しげな雰囲気に戻っていた。

「そうだね。

なんだか数が多かっただけで簡単すぎる気はするけど。」


ゾンビが教えてくれたように橋から続く石畳の坂を上っていくと城の扉前に繋がっていて、大きな観音扉の左右には甲冑を身に付けた騎士が門番として立っていた。

ブランが近づくと騎士は二人同時に槍を1回転させ、お互いの持つ長い槍の先をカシャンッと音を立てて合わせた。

「何者だ、橋を無事わたってきたということはココア様の招待客か?」

前回、招待客であるチャナを拘束してしまうという失態を犯した2人の騎士は、今度は慎重に目の前の人物に用件を訪ねている。

「これ、赤いタキシードのゾンビのおじさんから預かったんだけど。」

臆することなく蝙蝠型のカードを騎士の前に差し出したブランに、二人の騎士は顔を見合わせて頷くと交差した槍を元の体制に戻した。

「ほう、これは、招待状ではなく、メッセージカードだ。

不法侵入者とある。」

「橋の上のゾンビたちからは合格点が出されている。

では、ココア様に合う前に礼儀作法の授業を受けてもらおう!」

ブランの目の前で、騎士二人が観音開きの扉を左右に開くと、天井の高い広間にの中央に勉強机が並べられているのが見えた。

正面の壁には重厚な額に縁どられた大きめの鏡がはめ込まれているようだが、その前に、フリル付きの男女の衣装が、段々に並べられているため鏡の半分以上が隠されている。

「なるほど?

衣装に、化粧品、ウィッグに小道具。

礼儀作法というよりも、ここで、何かしらのココアの好みを叩きこもうとしてるのでは?

これも断ってもいいんじゃないかな?」

スンとした目で抑揚なくこの場の意味を暴いたタクトだが、その横でブランは腕を組んで頭をひねっている。

「でも、教養って言葉がすごく引っかかるんだけど。」

「早くお入りください!」

騎士2人に背中を押されて、広間の中にタクトとブランが入ると、城の扉は固く閉ざされた。

「さあ、座ってください。

ヒヨコ席もありますよ、タクトさん。」

鏡の方から聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、衣装に隠れていたチャナが、タイトスカートにジャケットスーツ、緑の髪を上でまとめた教師風の姿で現れた。

「チャナ?」

「先生と呼んでください。」

ピシッと教師用の鞭を鳴らしたチャナは、目を瞑り感動に震えていた。

「ココアさんに言った甲斐がありました。

ブラン君の礼儀作法教師役、同時にダンス相手となる先生役、ゲット。

スチルまでは無理だったけど、、、。」


しかし張り切っていたチャナは10分後には床に両手両足をついて挫折を味わっていた。

「惨敗です。

王族並みの教養、礼儀作法、男性パート、女性パートのそれぞれのダンス、完璧です。

もう私に教えられることはありません。

でも、一瞬でもブラン君の教師として教壇に立てたことは一生の思い出にします。」

チャナのあまりの哀れさに、タクトはヒヨコ席から羽ばたき、項垂れるチャナの頭の上にのってヨシヨシとなでると、チャナは目をカッと見開き、身を起こし叫んだ。

「しまったーー!

ヒフミヨイのことを忘れていた。

今頃きっと拗ねてるわ!」

頭上にヒヨコが乗ったことで、羽をもつという点では同じ鳥であるヒフミヨイのことを突然思い出したらしい。


ーーーーー


ハックション、と、くしゃみをしたヒフミヨイはチャナの予想通り拗ねていた。

「いやだね。

サポートキャラにクシャミをさせるなんて、どうせ碌なこと言われてないんだ。」

ココアテリトリーの様子を見に来ていたヒフミヨイは、ココアの城に続く橋ではなく、その反対側の門の無い鉄格子の上にとまっていた。

「モブのログインポイントにいつまでたっても来ないし、新しいテリトリーボスが通りかからなかったら、もうテリトリーに帰ってるとこだ。

絶対何かやらかしてると思ったら俺のこと忘れてるし。」

物々と独り言を言う黄と緑の色を持つヒフミヨイは、体の色に暗い空の茜色が重なり、茶色っぽくもオレンジっぽくも見え遠目にはその姿が分からない。


ーーーーー


ワナワナと今更ながら震えて落ち込むチャナにブランが手を差し伸べると、チャナの視線はその手とブランの顔を数回往復した。

「ほら、何見てるの?

仕方ないから、もう立って。」

ブランに差し伸べられた手から目がなせないチャナは、条件反射でジャケットのポケットを漁ると、何かが手にコツンとぶつかった。

「あの、これでいいですか?」

チャナが取り出したのは、和風温泉のモブのログインポイントに行く道中で幌馬車のおじさんと交換した奇麗な砂の入った小さな小瓶だった。

「何が、これでいいですか?なの?」

唐突なチャナの行動に、混乱したブランは何ごとなのかとチャナに問い返すと、チャナは当然とばかりに答える。

「えっ、だって、ただでブラン君の手を使う訳には行かないじゃない。

交換しなきゃ。

この瓶がブラン君の手と等価だとは思わないけど、今はこれしかないから。」


「人の手を借りるのに、交換って!

そんなのいいからほら、起き上がって。」

ブランが両手でチャナの手を引いて起こすと、「尊死(そんし)します。」と言い残し、チャナはそのまま後ろに倒れてしまった。

思いっきり頭を打って倒れたチャナに、慌てるブラン。

ブランの頭の上のタクトは、スンとした顔で、「ほっといていいから」と冷静に言い放った。


その場を立ち去ろうとするブランとタクトの前に、城の扉の前にいた騎士たちが立ちはだかった。

「不法侵入者の方には、これからココア様愛についてテストさせていただきます。

これに不合格の場合は、拘束の上、地下牢に入っていただきます。」

「「お断りします。」」

迷わず答えたタクトとブランの返答は見事に重なった。

ブランは素早く剣を抜いて、先手必勝とばかりに騎士に切り付けると、騎士は避けた拍子に甲冑が重いこともありバランスを崩して、隣の騎士を巻き込んで倒れた。

「ほら、チャナ起きて、タクトも行こう!」

ブランにチャナと呼ばれては、尊死中のチャナも生き返るしかなく、すぐに起き上がりブランの後を追って中庭に出た。

「こっち、全部の部屋からグルっと囲まれた中庭を真っ直ぐ進むと、城の奥側の広間に入れるから、正面のチャペルの扉より向かって右側の廊下にある階段を登ったらすぐに玉座です。」

2人の後を追ったチャナは、玉座の方向を教えることも忘れない。


「あれ?ココア様の客人であるチャナ様ではないですか。

慌ててどうされたんですか?」

何も知らずに中庭を掃除中のゾンビがチャナに話しかけると、チャナは慌てた。

「な、何でもない!

別に不法侵入の手伝いなんかしてないから。

散歩よ、鬼ごっこ散歩。」

「ははは、そうなんですね、この夕闇色の中ではいつ散歩してもいいものですよね。

鬼ごっこ散歩というのも、楽しそうですね。」

表情が変わらないのでよく分からないが、掃除中のゾンビたちはチャナのことを全く疑ってないらしい。


「待て!銀の髪の子どもと、ヒヨコは不法侵入者だ!

捕まえてくれ。」

後を追ってきた騎士が、ゾンビたちに叫ぶと背景に太い文字の「ガーーーンッ」が飛び回った。

「チャナ様がウソをつくなんて、あんまりです。」

腕で目を覆い隠したゾンビが、庭掃除中の箒の柄でドンと地面を叩くと、庭の土が盛り上がり、ゴーレムが這い出てきた。


「この庭はゴーレムが埋まっていたのか。」

鉄格子の城門でゴーレムの頭が回り光線を出すことを知っていたブランは、這い出てきたゴーレムの丸い頭を迷わず叩き割った。

まるでもぐらたたきのように、這い出てきたゴーレムに向かって飛び移り、次々とその頭を割っていく。

「なんだかとても楽しそう。」

正式な客人として知られているチャナには誰も襲いかかってこないので、2人が戦う間をゆっくりと歩きながら進む。

タクトはタクトで、羽を振り回してかまいたちを繰り出し、十字架の墓から出てきたゾンビたちを切り裂いていく。

「こっちも楽しそう。」

チャナは目的の玉座のある階につながる階段までくると腰を下ろした。

「まるで、特等席でアクション映画を見ているみたい。」


中庭の喧騒はココアのいる玉座の間にも届いていた。

「あら、下が騒がしくなってきたわね。

もうそろそろ、タクトと主人公がここにくるかしら。

衣装はニコのお勧めの耽美なドラキュラ風。

この姿で主人公を追い詰めて、ふふふふふ。」


「カーラ、スタンバイはいいですか?」

黒い服のメイドが、鳥かごの扉を開けて中のカーラに確認すると、カーラはケケケッといつものように笑った。

「では、この扉は開けておきますからね。」

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