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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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055 カーラへの断罪

ココアの城の玉座の間には、騎士や侍従、中庭に待機しているはずのゾンビたちまで集まっていた。

騎士たちの足元には、何故か後ろ手を縛られたチャナ、アンズ、ハトバが正座している。

「どうでもいいけど、私たち、こんなきれいなドレスやタキシードを着てるのに、何でこんな拘束受けてるのよ。」

「成り行きですかね?」

「そう、成り行きよね、石畳の橋を渡りきるまでは友好的だったのに、城に入ってすぐのテストでAIキャラたちにココア様への愛が足りないって。」

「それで、拘束された後の持ち物検査で、チャナさんのポケットの招待状を見た騎士たちが慌てだして。」

「ここに連れてこられて、こんな格好している訳だけど。」


ボソボソと話すチャナたちの後ろに並んでいたAIキャラたちが一斉に声を上げた。

上げると、並ぶAIキャラたちが次々と声を上げた。

「「「「「ココア様、私たちはカーラへの処罰を望みます。」」」」」

「カーラは、ココア様の客人であるチャナ様達を城門の前に落とした挙句に置き去りにしてきたのです。」

「我々は招待客だと知らず、侵入者だと勘違いし、あんなことやこんなことを行ってしまいました。」

「私も侵入者だと勘違いし、客人を拘束してしまいました。」

「我々も勘違いした罰は甘んじてお受けいたします。」

「ですが、これもカーラが客人を城門に置き去りにしたためです。

カーラにもそれ相応の処罰をしていただかなければ、納得できません。」


玉座に座るココアの前で、AIキャラたちがサブプレイヤーのサポートキャラであるカーラへの断罪を始めたのだ。


カーラは広間の隅に置いてある黒い鳥かごの中で、中央にある白い卵型の石にモフモフの胸をのせて、しおらしく頭を垂れていた。

「ワタクシ、ココア様にはくっろいカラスが、黒光りする奇麗なカラスがとてもお似合いになると思うのですが。

私はこの通り白いので、とても不安で、その不安のために趣味に没頭してしまいました。」


「あら、白は何色にも染まるわ。

カーラ、この逢魔が時の暗い黄昏色に染まるあなたはとても美しいわ。

そんなあなたに不安な思いをさせるなんて。」

玉座に座るココアに対して、広間に集まった騎士、侍従、ゾンビたちから悲鳴があがった。

「「「「「ココアさまぁ。」」」」」

「ココア様が不安にさせたなんて、とんでもありません!」

「それはあまりにも、カーラに甘すぎます。」

「処罰を行わなければ、カーラは必ず同じことをするでしょう!」

「ココア様の客人に対して無礼を働くのは、ココア様に対して無礼を働くのも同義です。」


カーラのへの断罪は、一重にこのテリトリーに集まったAIキャラたちのココア愛によるものなのだが、サポートキャラが断罪のやり玉に合うのはココアにとっても想定外のことで、どうしたものかとため息が漏れた。


玉座の後ろに控えていた黒いメイド服のAIキャラがココアの憂いある溜息に反応して、すぐさまココアに耳打ちをした。

「ココア様の御心を曇らすAIキャラたちの処分は、私の方でいかようにもできますので、ご命令いただけますか?」

「抜け駆けはダメですよ。

私にもそれくらいはできますので、ご用命は是非ワタクシの方へ。」

玉座の両脇を固める黒服のやりてメイドと、黒服タキシードの執事が火花を散らす。


「そうね、チャナたちはお客様ですものね。

メイドの貴女はチャナたち三人の拘束を解いて、客室に案内をお願い。

執事の貴男は、広間に集まった皆を元の配置に戻してくれる?」

ココアは玉座を立つと階段を降り、断罪の輪に入っていなかったギャルソンの前で止まった。

「チャナたちへのお詫びの御馳走を用意してね。

それから、数日後にはもっと他の可愛らしいお客様が来るはずだから、さらに素晴らしい御馳走の用意もお願いね。」

ニコのいない広間で、胸の開いた白いマーメイドドレスに黒いレースのボワロを羽織ったココアが、黒いメイド服のAIキャラと、黒服タキシードの執事、当初からこの城にいたギャルソンの三人に、美しい瞳を流し眼にしたアイコンタクトを贈る。

「「「はうっ、承りました。」」」


玉座の間から別室に案内されたチャナたちは疲労困憊していた。

体力的にはまったく問題の無い値なのだが。

「アンズ、ハトバ、ごめんね、ここには一人で来るべきだったわ。

まさか、石畳の上で骸骨とダンスレッスンとか、お城に入る上での礼儀作法の授業とか、ココア様を崇めるレベル格付けテストとかあるとか思わなくって。」

柔らかいソファにダイビングしたチャナは、力強くクッションを抱きしめた。

「いえ、こちらこそ申し訳ないです。

骸骨とダンスレッスンとか、お城に入る上での礼儀作法の授業まではついていけたのですが。

ココア様を崇めるレベル格付けテスト満点のチャナさんの足を引っ張ることになってしまって。」

「そうね、誰が問題を考えたのか知らないけど。

どんな衣装が好きだとか、分かるわけないじゃない?

4択問題とは言え、チャナは良く満点取れたわよね。」

「んー、でもリアルでもココアさんならきっとこれ選ぶだろうなーって思って選んだら全問正解してただけよ?

でも、二人とも8割はあってたじゃない?」

柔らかい絨毯の上でへたり込んでいたハトバも力なく口を開いた。

「そうですよね。

合格点が満点というのが厳しすぎただけですよね。

ココア愛が無いとか何とか思われたら、後からどんな目にあうか考えるのも怖いです。」


「満点が合格っていうところは、ココアさんの本意じゃないと思うわ。

ココアさんならそんなこと気にしないでしょ?」

チャナの寝そべるソファとはテーブルを挟んで向かいのソファに座ったアンズが冷静に語ると、チャナも同意した。

「満点じゃないからって、一蓮托生みたいに三人とも拘束したのはきっと、AIキャラの暴走よ。

不具合報告しなくっちゃ。」


「そうね、どんな理由があったとしても、モブIDプレイヤーを拘束するAIキャラは問題よね。

勘違いだったとしても。」

「はい、これは優先順位の不具合(バグ)だと思います。

あ、もちろん、確認してみなければ分かりませんが。

少なくとも、元サブプレイヤーで、主人公が攻略済みの現テリトリー代理のチャナさんまで拘束する権限を与えてはいけないと思います。」

ハトバの指摘にチャナは自分が拘束されるまでの経緯を思い出してみた。


不気味さと恐怖に負けて絶叫したチャナたちだったが、城門前のゾンビ執事とゴーレムは叫び声に驚くことも警戒することも無く、鉄格子から骨の見えた手を差し出したまま動かなかった為、叫びつくしたチャナたちが冷静さを取り戻すのにそれほど時間はかからなかった。


「ごめんなさい。

これが、白い蝙蝠のカーラからもらった招待状なんだけど。」

オズオズと差し出した蝙蝠型の招待状をチャナから受け取った執事が、それをココアの城に唯一つながる石橋の欄干に向かって飛ばした。

すると、招待状は本物の蝙蝠のように羽をパタつかせたながら飛び始め、欄干に留まって鍵を取り出し鍵紐を首にかけると、再びゾンビの手元まで戻ってきた。

ゾンビは鍵を受け取ると、鉄格子を止めていた鍵穴に差し込みその施錠を解いた。

ガチャンッと錆びた鈍い音を立てて鍵が開かれると、続いてゴーレムが重い鉄格子のロックを上げて、両手で力任せに観音開きに門を開いた。

「招待状を確認させていただきました。

確かに、ココア様から正式に出された招待状でございます。

お城までの橋の道中をごゆるりと堪能くださいませ。

ただし、決して後ろを振り返らないようにしてください。」

くぼんだ瞳の奥の光をことさら光らせた執事風ゾンビに見送られて、チャナたちは進むことしかできない橋に案内された。


「執事風のゾンビさんに案内されたあの時は、後ろを振り向くたびに十字架の立ったお墓からゾンビが出てきてダンスを申し込まれるとは思わなかったわ。」

三人が大きく何度も頷いていると、客室の扉をノックする音が聞こえた。

「失礼いたします、お食事をお持ちしました。」

客室のドアを開き黒いメイド服の女性が入ってくると、押していたワゴンの上にあった紅茶や茶菓子をテーブルに並べた。

「夕食はココア様とご一緒いただきますので、準備ができましたらご案内いたしますね。

では、失礼いたします。」

洗練されたカーテシーを披露したメイドを、羨望の眼差しで見送る三人。


チャナ、アンズ、ハトバは、ゾンビとのダンスのために着替えさせられた夜会用の衣装を纏ったまま、だされた紅茶に口をつけ、ほぉっと息をついた。

「やっぱり、にわか作りの礼儀作法じゃ駄目よね。

あんなに上品に、しっかりとした挨拶はできないもの。」

「そうですね。

ダンスどころか、パーティ会場でのマナーとか、ウェイターの心得まで習得させられるとは思いませんでした。

にわか仕込みもいいとこです。

テストにしてはモブに厳しすぎませんか?」

「厳しいというよりは、ゲーム的にどうなのかしら?

モブに厳しいというよりも、モブがどんな行動を起こしてもゲーム進行を妨げられないってことが基本でしょ?」

「そうですよね、エンディングまで流れに任せるのがモブの基本ですよね。」

口をつけていたティーカップをソーサーごと大理石のテーブルに戻したチャナは姿勢を正した。

「分かった。

私、ココアさんに直談判してみる。

折角、怖いのを我慢してゾンビ相手にダンスを習得したんだもの。

これからここを攻略しに来る主人公のブラン君と踊らせてほしいって。

何ならそのスチルも解放して欲しいって。」

フンスッと力を込めて両手で拳を作るチャナ。

「そういう話、今してましたか?」

「そんな話今してないと思うけど。」

ぶれないチャナに、アンズとハトバから気の抜けた笑いが漏れた。

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