052 ココアからの招待状
チャナたちは和風温泉のログインポイントからの移動は、ログアウト、ログインのショートカットではなく、ハトバの提案を採用してを馬を借りて移動することにした。
豊かな自然を満喫しつつ、ココアテリトリーに近いモブのログインポイントを目指して、木々の間に陽の差し込む森の中を進んでいると、陽の光が反射する奇麗な湖を見つけた。
「すごく奇麗な湖、水が透きとおってるわ。
ちょっとここで休んでいこうよ。」
アンズが湖に向かって手を伸ばすと、三人を乗せた三頭の馬がそれを合図だと思ったのか、ゆっくりと湖に近づいていったため、三人はそのまま湖に向かい馬をほとりで休ませることにした。
「こんなところでピクニックもいいわよね。
こんなに奇麗な湖なら、泳いでもいいかも。」
「いいですね、けど、この湖奇麗で水が澄んでいる割には、底が見えないですよ。」
ハトバは湖を覗き込み目を凝らしたが、どう頑張っても湖の底らしきものが見えない。
「えっ、ほんとだ。
どうせ溺れることはないし、底がどうなっているのか見に潜るのも有りかも。」
「そうですねぇ。
案外地球の臍とか、もしかしたら地球の裏側まで繋がってるかもしれないですよね。」
「まさかぁ、チャナマップオープンしてみて。」
「えっ?マップって?」
チャナの真面目な顔にハトバとアンズは顔を見合わせ、恐る恐るハトバがチャナに聞いてみると、
「まさかと思いますけど、マップを知らないんですか?」
「そ、そんな訳ないじゃん。
マップね、知ってるわよ、えっと、ほら、そう、あっ、マップオープン!」
チャナの掌に直径30cm程の地球が現れた。
「わ、忘れて、じゃない、ちゃんと知ってるんだから、ほら、自分たちがいる現在地がちゃんとここに表示されてるの分かってるから。」
チャナはマップのちょうど地軸辺りに緑に点滅している光を「ほら、ほら、これ、私。」と何度も指して見せた。
「えっと、北半球と南半球で、ここの反対側に、、、、湖がある。」
アンズが地球をぐるりと回してみると、ちょうど反対側にも同じようなん湖があることを発見し、目を丸くした。
「繋がってるかも?」
「ほんと?地球の裏側に行ける?
行ってみよう!
最悪溺れそうならログアウトしたらいいんだから。」
チャナがやたら浮き浮きと体を躍らせていると、それを邪魔するように耳の中が波打つようにキィィィーーーンと音が響いた。
「何この音!」
「何か超音波みたいな、耳の奥が痛い!」
三人は顔を歪ませ、耳の奥に響く音に頭を抱えたが、両手で耳を塞いだアンズが二人に向かって叫んだ。
「二人とも耳を塞いで、ましになるから!」
アンズの声でチャナとハトバは硬く耳をふさいだ。
影響は三人だけではなく周りにも。
木々の間から小鳥が羽ばたいて逃げて、静かに草を食んでいた馬たちも落ち着きを無くして、激しく足踏みをしている。
「うーーー、何この音、耳をふさいでるのにどんどん近くなっている?
あれ、いきなりやんだ。
何の音だったの」
安心したのも束の間で、耳をつく音が聞こえなくなった代わりに、羽をばたつかせる耳障りな音が続いた。
三人が見上げた遠い空から羽をばたつかせて迫ってくる蝙蝠の姿があった。
「何あれ、白い蝙蝠の羽根の音?」
突然の蝙蝠の来襲に馬たちは驚き暴れ、馬を扱ったのことの無いチャナたちにそれを宥められるバズもなく、興奮した馬は散り散りに逃げてしまった。
白い蝙蝠が湖のほとりの草をなぎ倒す勢いで降りてくると、ドンッと地面が揺れた。
身構えているチャナたちの目の前で、カーラは姿勢を正して恭しく礼をすると、羽先の手の爪に持っている封筒をチャナの前に差し出した。
「チャナさんですね。、ケケケ。
先ほど、ちょっと音波を出してその存在を確認させてもらいましたらか。」
カーラの怪しい笑みにチャナは隠すことなく怪訝な目を向けた。
「うっ、あの音の正体って音波?あなた何者?
急に降ってくるから借りた馬がみんな逃げちゃったし、さっきの耳をつく変な音もすっごい迷惑!」
チャナは目の前に差し出された封筒を受け取るどころか、ジリジリとあとずさりし始めた。
「ケケケケ、変な音とは失礼な、蝙蝠が超音波を出して周りの気配を探るのは常識です。
自己紹介がまだでしたね。
ワタシはカーラ、ココア様からの招待状を持ってきたので受け取ってほしいです。っけ。」
「ココア様、ココアさん!から?」
「それで、今すぐ開けて、今すぐ読んで、今すぐ招待を受ける返事をしてください。」
ココアの名前を聞いて、大きな羽先にある小さな手の鋭い爪で差し出された白い封筒を受け取ったチャナを、両隣でチャナを挟んでいるアンズとハトバに、「怪しいって」「受け取る前にちゃんと確認を!」と忠告をしていた。
チャナが受け取った白い封筒の裏には、薔薇の上に建つ中世のお城が描かれている赤い封蝋で止められていた。
「封蝋だ、こんな手紙もらったの初めて。」
「チャナってば、そんなものに騙されちゃだめよ。」
アンズの忠告もむなしく、封蝋をペリペリと剥がしてチャナが封を開けると中には蝙蝠型のカードが入っていた。
「おい、聞こえているぞ。
私は、ココア様のサポートキャラである白い蝙蝠のカーラだ。
ココア様のサポートキャラである私が直々に来てやってるんだ、何を疑うことがある、崇め奉ってもいいくらいだ。」
白い蝙蝠の態度に、多少のヘイトな揺さぶりを感じたアンズは口を引き攣らせ、ハトバは苦笑しているが、チャナは手で口を覆い瞳を輝かせた。
「ココアさんからの招待状。
す、すごい、私ってば、お城の城主のココアさんから招待状がもらえる私って、すごい。」
「いや、そっち?」
「えっ?自分がすごい?」
「だって、そうでしょ?
この広い世界で、ココアさんからの招待状を受け取ったのって、きっと私だけよね?
ほら招待状にも書いてある。」
チャナは、アンズとハトバに自慢げに招待状を見せた。
招待状
チャナヘ
夕日の沈まない私のテリトリーの中央の離れ小島にあるお城にあなたを招待するわ。
このお城ではきっとあなたの一番の願いが叶うわ。
ココアからの短い分の中には意味深なことが書かれているのだが、チャナはその意味を全く考えていなかった。
「この世界が広いかどうかは分かりかねますが、確かにココア様が招待状を送られたのはチャナ様だけです。」
「どう思うハトバ。」
「どう思うも何も、行くしかありませんよね。
ココアさんからの招待ですし、チャナさんの違いが叶うっていうのが気になりますが。」
白い蝙蝠とチャナの目の前で堂々とコソコソと内緒話をする二人。
「もう、アンズもハトバも、そんなことどうでもいいから。
ココアさんからの招待状なのよ、行かなくてどうするの。」
「では招待を受けていただくということで、参りましょう!」
チャナの言葉を聞いたカーラが待ってましたとばかりに、チャナの背後に回ると襟首をつかんで空に素早く舞い上がった。
「きゃーーー、ちょっと待って、ちょっと待って。
いきなりはダメーーーー!
ヒフミヨイを迎えに行かなくちゃいけないんだってば!」
「「チャナ(さん)!!」」
暴れるチャナの足を、アンズとハトバがしっかりと両手で掴むとカーラはその2人ごと持ち上げて、空高く舞い上がった。
「さぁさぁ、善は急げですよ。
お連れ様は、後からきていただけばいいではないですか、先ほども言いましたが私が迎えに来たからには逃がしは致しませんよ。」
「逃げないってばーーー。」
チャナの声はむなしく青空に響き渡り、散り散りに逃げていた馬たちが木陰から空を舞うカーラと三人を見送っていた。
「ああ、馬たちは割と近くにいたんですね。」
「そうみたい、賢い子たちだから目的地に到着したら、自分たちで帰るって聞いたから賢い馬だとは思ったけど。
何だか、遠目に憐みの目を向けられているような気がするわ。」
「ああ、アンズさんもですか。
僕もです。」
チャナの足につかまっている二人は、どんどん高度が増す高さに手を離すこともできずに、ただただ、遠くを見つめることしかできない。
「まあ、これはこれで、いいんじゃないの?
こんな経験、リアルじゃできないし、ハトバも酔わないし?」
「確かにそうですが、十代の女の子の足につかまって飛ぶなんて経験、したくはなかったです。」
ハトバは情けない声を出して小さく呟いている。
「ケケケケケッ、もうすぐですよ。
ほら、今向かっている方角を見ると、オレンジの夕闇の空が見えてます。
あそこが我がご主人様、ココア様のテリトリーですよ。」
カーラが説明している間にも、チャナたちは黄昏色の空に近づき、テリトリー線なのか空の色なのか区別が付かないうちに黄昏色の世界に入っていた。
「ここがココアさんのテリトリーですか、沈みかけた夕日がキレイですね。
この状況でなければ、もっと感動的だったのですが。」
「けけっ、ほらあっという間にココア様のお城に続く石橋の前の黒い城門まで来ましたよ。」
「ほんとだ、高い城門が有って、その向こうに崖が、、、ちょっと怖いくらい下が見えないんですけど。」
アンズは捕まっていたチャナの足をなおさら強くつかみ直した。
「あれ?暗くてよく分からないけど、城門の向こうの崖の底で一瞬何か光ったような?
ねえ、アンズ、見えなかった?」
「全然、真っ暗なだけで光何てどこにも見えない。
ただでさえ、このテリトリーは茜色の夕暮れに染まってるのに、崖下なんて闇そのモノじゃない。
光何てある訳ないわ。」
「そうですね。
あんなとこ見ているだけで闇に飲まれそうで怖いです。」
ハトバはチャナの足を強く抱きしめて震えている。
三人の様子にカーラはニヤッと笑い、澄ました声を出した。
「さあ、城門の前で降ろしますから、門の前にいるゴーレムたちに挨拶して門を開けてもらってくださいね。
頑張って石橋を渡って行ったら、お城まですぐ着きますから。」
「「「はっ?」」」
その言葉に三人は耳を疑ったが、既にカーラは足指を広げて掴んでいたチャナの襟首をはなしていた。




