051 AIでもないのに
自分のテリトリーをブランにレンタルしたことで一時的にテリトリーの束縛から解放されたヨウキは、ヨウキテリトリーでブランやタクトと別れた後、サポートキャラの白いフクロウの足につかまり、主人公の出発点でもある遺跡を隠す深い森を越えて、セツキテリトリーに近いモブのログインポイント近くまできていた。
ヨウキは、セツキテリトリーの近づくにあたってリアル自分アバターから他のアバターに姿を変えている。
「この辺で降りるから、手を離してくれ。」
モブのログインポイントより手前の地上近くでヨウキが伝えると、フクロウは大きく羽を上下して体制を整えた。
「では、離しますね。」
フクロウが摘め足を開くと同時にヨウキも掴んでいたフクロウの足を離した。
「システムマップ、オープン」
数メートル下の地上に足が着くと、緑の地球を浮上させた。
「現在地、セツキテリトリーに近いモブのログインポイント。」
ヨウキが地球上の現在地であるモブのログインポイントに視線を向けると、そこから光が表出し四角い半透明のスクリーンを作った。
「大丈夫そうだな、ちゃんとログインポイントのステータスが表示してる。
テーマはB級グルメ。
現在、こちらにいるIDプレイヤーは数名程度。
オフィスメンバーからの募集で100人に絞ったから、割り振り的にそんなものか。」
ヨウキの見ているスクリーンには、ログインポイント座標、広さ、テーマ、現在のAIキャラ数、IDプレイヤー数、総合的に利用したIDプレイヤー数、AIキャラの入れ替わりに、交換アイテムと交換率、ログポイント内の人気商品、使用頻度の高いアイテムなど、その他様々な詳細が表示されている。
「主人公とメインプレイヤーの履歴も残っているな。」
スクリーンに表示された詳細表示の値の確認を終えると、ヨウキは空を仰いだ。
「シキ、こっちの声は聞こえるか?」
ヨウキが地球に向かって呼びかけると、地球の表面にシステムからのテキストで返事が来た。
<位置確認>
<音声は届いていない、サポートキャラからの信号を受信している>
「サポートキャラね、そう言えば上空を旋回しているな。
本人がゲームを始めるリアルな場所での音は、もちろん耳から個人に届くけど、外のシステムから大多数に高低の無い音データを直接出力するのは難しい、か。
次は、こちらから基点カメラの位置確認。」
スクリーンに表示されていたカメラアイコンをクリックすると、地球の点を頂点とした四角錐が浮き出てその中にカメラの位置が表示された。
「あっちか。
表示範囲、最大。
うん、下を向いている俺のアバターが映っている。」
「主、私も映っていますか?」
空を旋回していた白いフクロウが、ヨウキの横まで下りてきて、胸の羽を上下させて期待に膨らませて映像を覗き込もうとしている。
「いや、残念ながら、このスクリーンにはAIサポートキャラのイメージデータは映していない。
この緑の地球が必要とする情報の主なターゲットは、IDプレイヤーだからね。」
「そうなのですね、折角私と主のツーショットとやらが見れるかと思ったのですが。」
「今テストしているのは、うちのシステム室にある地球と、ゲーム内の地球が同じデータを表示するかを確認しているんだ。
これから一般のユーザーが使用するようになった時、何らかのトラブル発生時にAI管理者がゲームの中に介入して、この中の情報を把握できるようにするためにね。
これもシキが、「出来そうだからやってみる」とか言って、やらかしてくれるた結果なんだけど。」
「はぁぁぁ、シキ様と言う人は聞けば聞くほど素晴らしいですね。
AIでもないのに、どうしてそのような正確な処理が分かるのでしょうか。」
「くっくっ、はっ」
サポートキャラの言葉にヨウキは笑いが止まらなくなった。
「はははははっ、ははっ
そうか、AIでもないのにか、ははは。
うん、AIじゃないから、その発想が、情報が無いところから、新しい発想、それができるんだけどね。
はははっ。」
「そうなのですね、何故主がそこまで愉快に思われるのか理解しかねますが、主が楽しいと私も楽しいですね。
はははははっ!」
ヨウキは穏やかな笑みで隣で笑うフクロウの背に頬をあて、羽の柔らかさ生き物の体温を感じていた。
「俺が楽しいと楽しいか。
この仮想空間で感じられる体温さえも、リアルを模写した疑似的なものなんだよね。
けど、お前がすごく可愛いって、改めて思ったよ。」
シキがいるシステム室には、ヨウキ専用の部屋にあるシステムと同等の機能を持つモニターが設置されている。
こちらのモニターには、サポートキャラも含めて、ゲーム内の映像がすべて映し出されている。
ヨウキと連携しての確認作業中だったのだが、モニター映像を見ていたシキは、ヨウキとサポートキャラがいきなり大笑いしている意味が分からない。
「なんだ?
音声出力が無いからどんな話をしているのか分からないな。
音声のイン、アウト出力、仮想空間内での会話は問題ないが、外部からの、いや、音域ではないから。
外部からの音データ変換してデバイスに出力するようにできても、逆に仮想空間内の音は、音振動ではないから、、」
無意識に紙とペンを探して手を動かしていたが、引き出しに手を掛けて、シキは気がついた。
「いや、別にヨウキが何を話していようが構わないんだった。
何で笑っているのかなんて俺には関係ないし。
それより、ヨウキに地球のステータス出力データとゲーム内部の情報の一致を確認するよう催促入れとこう。」
<データ情報の一致を確認してください>
緑の地球の表面に白く大きなテキストが表示された。
「ん?ああ、シキがシステムからメッセージを出したのか。
そうだよな、何で俺とフクロウが大笑いしてるかなんてわからないから、催促するよな。
了解。」
ヨウキは基点カメラ方向に満面の笑みを浮かべて腕で大きく円を作った。
「このログインポイントの中心までもう一度俺を乗せて飛んでくれ。」
サポートキャラのフクロウは、大きく頷き羽を大きく左右に広げた。
「主の仰せのままに」
システム室にある大きな地球のセツキテリトリーに近いモブのログインポイント上を移動するIDプレイヤーの値が表示されている。
モニターには、テリトリー内を移動するヨウキとサポートキャラの映像が出され、連動していることが分かる。
「あそこに行きたいとは別に思わないんだけど。
人ではなくて、誰にも見とがめられない何かなら、行ってもいいかもしれない。」
ヨウキがモブのログインポイントの中央に到着した頃、チャナ達はブランとタクトがいる和風温泉のモブのログインポイントに到着していた。
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「赤いツインテールの十代女子のアバターを使ってるんですか?」
AI開発ルームでは、三人の有志によるちょっとした談話会が開かれていた。
三人の有志とは、臙脂、桃里、碧葉である。
「そう。
けど、臙脂も違う性別のアバター使ってるから、リアルでもゲームでも彼とは同性同士よね。
エンジの方は、彼より年上のストレートの奇麗な金髪、スタイル抜群のお姉様で、上級冒険者風という感じ。」
「ふふふ、その通りです、トウリさん。
そのあまりに美しい私に油断していた奴を、自然にセツキテリトリーに誘導できました。
ですが、聞いた話によると、セツキテリトリーに新しく出来た鉱山にいる時に、白い蝙蝠に襲われて、ココアテリトリーに攫われたようです。」
相変わらず散らかっている長机の隙間に肘を突き、顔の前で手を組んだエンジは、抑揚なく語っている。
「ココアテリトリーに攫われたということは、ココアさんのサポートキャラが攫って行ったということでしょうか。
だったら、ココアさんのサポートキャラは白い蝙蝠ということでしょうか。」
「確証はありませんが、その可能性は高いかと思います。
しばらくすると白い蝙蝠がセツキテリトリーに戻ってきて、奴を鉱山に落として去ったところを多くの者が目撃していました。
きっと、騒がしくして迷惑をかけて、ココアさんに捨ててくるようにでも言われたのでしょう。」
実際にはココアではなく、ココアのメイドたちの命令によるものだが、エンジの予想は的を得ている。
「まさか、ココアの邪魔が入るなんて。」
「その後に入手した情報では、白い蝙蝠に攫われたときに、それまで鉱山で採掘していたものをきれいさっぱり無くしてしまい、今も一所懸命に宝石や鉱石を採取しているようです。」
「一所懸命ですか?」
ゲーム内にいるのに、鉱山で石堀に一所懸命になるその行動はアオバには理解できない。
「そう、彼なりに一所懸命にということらしいんだけど。
それでセツキさんからは、女性にしては根性があると褒められて、気に入られて。
彼、アバターが可愛い女子だから、度々セツキさんに手伝いと言う名の邪魔をされていて思うようにアイテム入手出来てないみたい。」
「それで、奴がなかなか鉱山から出てきてくれないため、同志たちは行動に移せずにじれていのです。」
「同志?AI開発ルームの人びとではなくてですか?」
「はい、かく言う私もですが。
彼の単純な性格は良いとしても、発言を不愉快に思う同志は多いのですよ。」
目元に手を置いたエンジの細い目の奥からキラリと小さな光が放たれている。
「そうなんですね、わかります。
そうですか、なかなか行動に移せないのですね、皆さん。
センヤさんにはかなり反省してもらわないといけないのに。」
「はい、ワタクシことエンジ的には、センヤさんには、絶対土下座してシキさんに謝らせないと、という考えです。」
「土下座まではさせなくても、心から反省してもらえれば。」
トウリの発言に、他の2人が揃って異を唱える。
「「甘いです、トウリさん。」」
「俺自身はシステム室での監視があるので、ゲーム内のことはエンジさんよろしくお願いします。」
「お任せください、アオバ様。
・・・じゃなくて、アオバさん。」
様付けが抜けず、度々アオバに冷たい目で見られるエンジは、その度に申し訳なさ気に呼び方を直しているが、それは建前で、冷たい目で見られる喜びをかみしめている場合もある。
「アオバ自身は、作戦を与えるだけで、これからもゲームに参加しないの?」
「はい、俺が参加するとシステムログの管理がシキさん一人になるので。
シキさんに負担をかけたくないので。」
「でも、もしかしたら、シキはゲームにログインするかもしれないわ。
アオバに負担をかけないようにほんとに少しだけ、って感じだったけど。」
「シキさんが俺に気を使う必要はないのですが。」
「そうなんですか?
シキ様が参加されるのなら、是非ご一緒したいですね。」
抑揚のない話し方から、一転してテンションを上げたエンジは瞳をきらつかせている。
「いつログインされるのか、分からないんですよね?
私は出来るだけこまめにログインするようにします。
数打ち、シキ様のログイン中にあたるかも知れませんし。
そして、もしシキ様に気がついても、邪魔しないように気づかないふりをしてその行動を見守ります。」
「エンジ、ストーカーまがいの行為はゲーム内でも禁止よ?」
「シキさんのログは俺が見守りますので、安心してください。」
「エンジも、アオバも、二人ともメガネの奥の光度があがってるわ。」




