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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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050 モブのログインポイント2

「有難うございました!!!」

一通りの浴衣に袖を通した後、貸し浴衣屋を後にするブランとタクトを店員一堂は二人が見えなくなるまで見送っていた。

「これもらっても良かったのかな、いろんな浴衣を着た写真をショーケースに飾っただけなのに。」

「あちらにとってはそれだけの価値があったってことだから、大丈夫だよ。

と言っても、色々都合よく使い回されないように、位置拘束とかちゃんと制限かけといたけどね。」

ブランとタクトが去った後、貸し浴衣屋のショーケースの前を通ったモブIDプレイヤーが、それに気がついたのはすぐのことだった。


「あれ、何かしら、さっきはあんなに人はいなかったと思うけど。」

紫芋金時クリームかけのソフトクリームを堪能したアンズが、川の反対側にあるお店の前のざわつきに気がつき、チャナとハトバに声を掛けた。

「ほんとですね。

ついさっきまではあんなに人がいなかったのに。

何があるんでしょうか、行ってみましょう。」

「うん、何か楽しいことでも始めたのかもしれない。」


三人が橋を渡ると人だが利ができているのは、暖簾に貸し浴衣屋の文字のある店子だった。

ショーケースに近づくことはできなかったが、店の入り口の方はまだ人の隙間があったため、長い暖簾を手でよけた隙間から中を覗いてみると、数人の店員が慌ただしく、十数人の客の対応をしていた。

入口の近くで浴衣を着た店員に、1人の女性が胸に握りこぶしをあてて圧をかけて迫っている。

「あの、ショーケースの写真の男の子が着ている浴衣と同じ柄の浴衣はありますか?」

「はい、もちろんございますが、本日は女性用の浴衣がすべて出払っておりまして。」

「じゃ、明日の予約をお願いします。

後、写真撮影も、場所は橋の欄干の前で。」

「はい、明日ですね、午後からならまだ空きが有難うございます。

ところで只今、手前では、色合いを出すためのアイテムが不足しておりまして、そのようなアイテムカードをお持ちであれば優先的に、、、」

店員が言い終わらないうちに、圧をかけていた女性の後ろから数人の客がカードを持った手を上げて店員に見えるように振り出した。

「私、私、染色カード持っています。」

「僕も持っています。

優先してもらえるって本当ですか?」

それに慌てた女性が対応していた店員の肩を持って揺さぶり出す。

「ちょっと、順番は守ってよ、今私が話してるでしょう。」


店の外にまで響く声に、ショーケースの前の人だかりが店の方によってくると、チャナたちは逆にショーケースに近づくことができた。

ショーケースには、小さな浴衣のサンプルと、その浴衣を着た子どもの写真が飾られて、チャナ、アンズ、ハトバは目を丸く見開いた。

そこには、様々な浴衣姿のブランとタクトの写真が飾られていた。

「な、何これ?

いいの?こんな可愛いことしていいの?」

口を両手でふさぎ、目を潤ませて食い入るように見るチャナは、今にも顔面をガラスに付けそうで、アンズとハトバは瞬間的にチャナの肩を抑えていた。

「チャナさん、落ち着いてください。

ほら、これって、この世界限定みたいですよ。

ショーケースの中の方に張り紙が、この店のこのショーケースの中だけ限定して飾られてる写真って書いてあります。」

周りにいた冒険者風のモブIDプレイヤーたちが、ブツブツとぼやいている。

「じゃ、ここに来ないと見れないってこと?」

周りのモブIDプレイヤーたちが一斉に頷いた。

「タクトさんが、この店を出る時に座標を固定させて、しかも複製、移動、縮尺や改変ができないようにロックかけたようです。」

「チートヒヨコは何してくれてるんですか?」

「所詮今見えているものはすべてデータなので、タクトさんの手のひらの中ですね。」

「このゲームが終わったら破棄される運命かも知れないので、こうやって目に焼き付けてリアル世界に持ち帰ろうかと。」

周りの声に、チャナはポンと手を叩き「その手があった!」と目を凝らした。


「チャナ、でもいつまでもお店の前に陣取る訳にはいかないでしょう?」

「チャナさん、目に焼き付けるよりヨウキさんやタクトさんにスチル出してくれるように拝み倒しましょうよ。

それより、もうそろそろ次のモブのログインポイントに移動しましょう。」

「そうだわ、ココアテリトリーに行くって話したわよね。」

アンズとハトバも写真には後ろ髪は引かれるが、ココアテリトリーに行かなければという使命感が勝っていた。

無事にチャナにカードを渡せたものの、それをいつのタイミングで使用しなければいけないのか全く分からない。

タイミングを誤ると、この世界でもリアルでも、ココアの視線から逃げ回る羽目になるかも知れないと、チャナには内緒だが、二人とも戦々恐々とした思いを抱えている。

「せっかくヒフミヨイにココアテリトリーの様子を先に見に行ってもらったんだから、早く待ち合わせの次のモブのログインポイントに行きましょう。」

「そうですよ、チャナさん、さあ行きましょう。」

仕方なく、ハトバに背中を押されてその場から去るチャナ。

「うーん、どうにかならないかしら。」


ーーーーー


「さあ、準備はいいかしら。

彼らは、我らがご主人様のココアテリトリーにもうすぐ入るわ。」


「はい、門番として置いているのは、中途半端なゴーレム、ゴーレム風のゾンビです。

さらに、城ににつながる唯一の橋の端に並んでいる十字架の立つ墓の中にはダンス好きのゾンビを待機させておきました。」

「油断するとすぐに谷底に一緒に落ちようとする奴らです。

きっと、この城にたどり着く前に落ちてしまうでしょう。」

「あら、この城にはたどり着いてもらわないと、ココア様、ニコ様は楽しめないわ。」


「ケケケケ、これから、この招待状をチャナって子に渡してきます。」

「あら、カーラ、その招待状はもう一度ココア様に確認してもらってね。

何と言っても、鍵になる方に送るのですから。」

「分かってる、ココア様のいる広間に寄ってから、届けに行こうと思ってた。」


黒服メイドと、城の門を守る騎士たちは目の前の丘を下る石橋の遥か先にある黒い城門を眺めていた。


大広間の前に立つ騎士が二人がかりで重いドアを開けると、パタパタパタと軽い羽ばたきの音と共に白い蝙蝠がココアのもとに飛んできた。

王座に座るココアは、袖と胸元をエレガントなレースで飾られた赤いシャツは胸元が深くあき、足のラインを美しく出す黒いパンツ、腰には繊細な刺繍がほどこされた幅の広いストールを巻いて織り込み、後ろで1つに括ったオレンジの巻き毛と、耳の前を流れる長めのおくれ毛が妖艶さを増している。

王座のひじ掛けに肩ひじを突き、ゆったりと足を組んで座っているココアは、飛んできたカーラの前に手を伸ばした。

目の前に差し出されたチャナへの招待状をココアが受け取ると、カーラは天井から下がったガラスのシャンデリアを一周して王座のひじ掛けに止まった。

「チャナ好みの明るくてかわいい招待状を選んでくれたのね。」

封筒の中は白い蝙蝠をかたどったカードが入っていた。

「はい、ご主人様。

そちらに、本日お越しいただきたい旨の言葉を添えておりますので、カードを受け取っていただけましたら、すぐにワタクシがお客様をお連れ致します。」

ケケケケッと目を光らせて笑うカーラは、王座の後ろに控えている騎士ににらまれ、ゲホンッとせき込んだ。

「それにしても本日のいでたちもなんと艶めかしく、妖艶で、谷間の無い胸の開いたドレス、ワタクシまた魅了されてしまいました。」

「毎日口上が上手になるわね。

さすがディープランニングが多様なキャラだわ。」

「お褒めにあずかって恐悦至極でございます。」

ココアは蝙蝠をかたどった白いカードに薔薇のマークを付けると、封筒に戻しカーラに戻した。

「それでは、ご主人様、行ってまいります。」

カードを受け取ったカーラは勢いよく広間の窓からでていった。


「あら、カーラったらずいぶん張り切ってるのね、何か面白いことでも考えてるのかしら。」

騎士たちが開けた重厚な扉から入ってきたニコは、黄昏の空を上下に揺れながら飛んでいるカーラの姿を見ただけで、カーラの愉快な気持ちを感じ取った。

「ニコ、準備は順調?」

「もちろんよ、ココア。

中庭のゾンビの皆さんや骸骨の皆さんにも協力してもらうようにお願いしたらとっても喜んでくれて、主人公は休む暇ないくらいにダンスの申し込みが殺到すると思うわ。」

「それは楽しみね。

さあ、チャナを迎える準備をしなくちゃ。

カードを使うタイミングをきちんと作ってあげなくちゃね。

今回は、私が勝たせてもらうわ。

そして、他のテリトリーもすべて私の配下において、すべてをこの逢魔が時の色に染めて見せるわ。」

「ココアは、メインプレイヤーにはならないのね?」

「ええ、人の物を奪うのが面白いんじゃない。」


ーーーーー


和風温泉のモブのログインポイントから、次のモブのログインポイントに行く手段をどうするか、貸し浴衣屋から離れた三人は相談している。

「ログオフして、ログインが一番早いんだけど。」とアンズ。

「早いのはそうですけど、せっかっくなので馬か何かの移動手段を入手して、峠越えっていうのもいいと思います。

リアルじゃまずできない経験ですしね。」

リアルで乗り物に弱いハトバでも、ここでは気持ち悪くなることはないため、積極的に案を出していく。

「そうね、ペガサスとまではいわないけど、それもいいよね。

アンズとハトバが移動手段について話していると、チャナが手を入れていたポケットから何かを取り出した。

「そう言えば、幌馬車の御者のおじさんと交換したこれって何かな?」

チャナが小さなソルトケースを光にかざすと、中に入っている粉がキラキラと光っていた。

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