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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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005 焦げる直前の焼けてる熱いにおいって?

隣の席で納得とばかりに頷いているシキを見るアオバは、ヨウキから「セツキ」の名を教えられた先日のことを思い返していた。


ーーーーーーーーーー


他メンバーとのコードレビューを終えたあと、いつものようにシキの隣を陣取り、修正、改善、追加事項を整理して、キーボードを叩く。

不明点を見つけ、思案したアオバは考えがまとまらず首ってから座っていたデスクチェアを後ろにひき、白衣を羽織って隣でなめらかにキーボードを打ち続けるシキの方に体を向けた。


紫稀(シキ)さん、これ、ちょっと相談させてください。」

シキは、キーボードを打つ手はそのままで隣の声の主に向かって首を傾けた。

「どれ?」

アオバのパソコン画面をシキの方に向けると、見やすいように表示させたエディタの上を指でなぞってテキストの背景を反転させた。

「このコード、これだとこちら側をスキップできなくて、その為の新たな関数を追加する方がいいですよね?

ただ、それだと、、。」

「うん、そうだな。

でも碧葉(アオバ)はあんまり新しい関数の追加はしたくない?

それだったら、こっちのコマンドを使った後に、コモンモジュールを使ってえっと、、」


シキが自分の机の上で何かを探し出すと、アオバは引き出しからA4用紙とペンを取り出してシキの前に置いた。

「どうぞ。」

シキは黙ってペンをとると、A4用紙に記号や英数字を連ね始めた。


「この中で、最初の関数を呼び出した後に、スキップ条件が揃えば次の関数に移るようにして、ここで有効、無効を選択させるように組むとか。

どうかな?」

シキは自分が書いた文字にさらに文字を付け加えて、アオバの顔を覗き込んだ。


「はい。

いいです、さすがシキさんです。

俺の案よりさらに、動作可能で効率良いですし、何より奇麗です。

すっきりしました。」

アオバの言葉に頷くシキと、目の前のシキに尊敬の熱い眼差しを向けるアオバ、その後ろから二つの人影が近づいきた。

「何がすっきりしたって?

シキとアオバに限って何もないと思っていたのに。」


顔を見なくても声の主を察したアオバの瞳からスンッと熱が去った。

シキの方は、声をかけてきた本人の後ろから顔を覗かせていた男性の顔を見て、すぐにペンを置いて立ち上がっていた。

「タクト、ちょうどよかった。

また、タクトが最初のテストメンバーになったって聞いたけど、メインプレイヤーってことでいいか?」

「もしもし、シキ、アオバ、俺は無視ですか?」

振り向かないアオバと自分を素通りしてタクトに向かうシキに、半笑いで両手を筒状にして口元にあてて声をエコーさせてみた。


それでも、ヨウキの横をすり抜けてタクトの前まできたシキだったが、何かしら懐かしいにおいを感じてヨウキを振り返った。


「あれ?セツキ兄さんのにおいがする?」

シキの放った言葉に思いもよらず、ヨウキは心臓を押しつぶされたような重さを感じたが、幸いシキにヨウキの顔は見えておらず、シキを振り返ったときには半笑いに戻っていた。

「セツキ兄さんの臭いって、どんなだよ。」


「セツキ、ニイさん?」

アオバは聞きなれないその名前を思わず復唱していた。

タクトに向かって歩くシキを目で追っていたアオバの視界に、先ほどのヨウキの様子が入っていたので不穏さを感じたのだが、シキの方は表情が乏しいので分かりにくいが明るい顔をしているようで、チグハグさを感じる。


「どんなって、何というか、うーん?

何か焦げる直前の焼けている、熱いにおい?とか?」

考え、考え、においの説明を言葉にするシキ。


「シキにしては、表現が抽象的で珍しいね。」

タクトは自分の前でめずらしく首をひねっているシキを見て、同じように首をひねった。

「確かにさっきセツキさんという人に会ったけど、シキの言う匂いのイメージ、、、分かる気がする。」


「タクト、セツキ兄さんに会ったのか。

そうか、あの人熱いよな?」

「さっき、カフェルームのサーバー交換のときに、偶然会ってね。

確かに、熱い人だったな、匂いは気がつかなかったけど。」


シキとタクトがセツキのことを話しだすと、シキに背を向けたヨウキは大きく息を吐いた。

「ヨウキさんは何しにここに?

何か用事があってきたんじゃないんですか?」

アオバは、セツキという人物が、恐らく、ヨウキが以前に言っていたシキにとってのNGなのだろうと推測したが、シキの様子を見る限りでは何がNGなのか分からない。

「忙しい人がわざわざこんなところまで来て。」


「そんな怪訝な顔を向けなくても。

タクトはプログラムソース見に行くっていうから、俺もついでにちょっとだけ、様子見に来ただけ。」

座っているアオバに向かって前かがみに顔を近づけたヨウキは胸ポケットから取り出したスマートホンを数回タップして画像をだした。

それをアオバに向けると、秘密だというように人差し指を自分の唇に重ねた。

「これ、要注意人物だから、周りをうろついていても絶対に近づかないようにね。

さっき名前が出てた人だから、NGってことで。」


飛行機をバックにして手を振っている男性は、体形はともかく、どことなく顔立ちがシキに似ている。

「ついでにって言ってますけど、タクトさんが言ってたカフェルームで?さっきまでその人と会ってたんですよね?

ヨウキさんの様子だと、かなりやばそうに思えるんですけど、ほんとにそうなんですか?

シキさんを見るとそんな様子に思えないんですけど。」

ヨウキ越しにタクトと話をしているシキの後頭部を見るアオバは、警戒も恐れも含まずにセツキの名を出すシキの声を聞き、ヨウキに戸惑いのを向けた。


「少なくとも、俺とショウキ兄さんにとっては、一番の頭痛の種になってる。

別に悪い奴じゃないし、何なら友達も多いヤツだけど、会わせたくはないけどアオバも一度話してみたらわかると思うよ。

手っ取り早くどんな奴か知りたかったら、個別に後で教えるけど?」

スマホを直しながら、更に顔を近づけるヨウキにスンッとした顔に戻ったアオバはデスクチェアを後ろに引いて距離を取った。

「タクトさんも会ってるみたいなんで、知りたければタクトさんに聞きます。

こういうのは、第三者に聞いた方がいいと思いますので。」


ーーーーーーーーーー


結局、アオバはセツキがどういう人物かについてタクトに聞かなかったが、まさか、ここで名前が出てくるとは思っていなかった。

他人に関心は無いがシキの関係者となると話は別で、誰かにセツキのことを聞いてみようかとアオバが思案していると、シキを挟んで反対側に座っているトウリと目が合った。

シキの恋人のトウリなら何か聞いているかも知れないと思ったのが伝わったらしく、そのままトウリを見ていると、何か聞きたそうなアオバの気配を感じたトウリがアオバに視線を返した。


トウリの視線を「シキのことで何か聞きたいことでも?」と解釈したアオバは机の上のパソコンに手を伸ばして、トウリにチャットを送ってみた。

「セツキさんという人のこと御存じですか?」

自分に送られてきたメッセージを見ているトウリは何とも言えない顔をしていて、その反応の意味が読み取れないアオバはまずいことを聞いたのかもと思いつつもトウリからの返信を待つことにした。


コウガとオウカの抗議の叫びを笑顔で交わしたマシロはパソコンのキーを打って、中央のホログラフの映像を切り替えると、円柱状のホログラフが天井まで届いて、大きく長い光の柱を作り、その中をゲーム世界でプレイヤーたちが使用するたくさんのカードが、噴水から飛び出るように舞いだした。

水が循環するように、カードも循環し現れては消えて、を繰り返している。


「これはゲーム内のキャラたち、AI主人公、メインプレイヤー、サブプレイヤー、モブプレイヤー、モブAIが使用するカードで、世界のどこかに存在している、もしくは売られているものです。

種類と数、それにカード入手の難易度などについては、他の資料にまとめているのでそちらを参考にしてください。」


中央で舞うカードを見ているとアオバのパソコンにトウリからのチャットの返信が返ってきた。

「ヨウキさんやシキの子守をしてたお兄さんだということは聞いたことがあります。

ヨウキさんより、過保護みたい。直接会ったことはないけど。」


「過保護?ヨウキさんより?それでNGってどういうこと?」

シキさんがセツキさんに対して負の感情を抱いている訳ではなさそうだし、でも、なんでヨウキさんどころかショウキさんまで?」

アオバの中でシキとセツキの関係は更に謎が深まってしまった。


カードが舞う光を受けながらしばらくアオバが考え込んでいると急に回りの明るさが変わった。

カードの説明を終えたマシロがミーティングルームの電気をつけたので、中央に照射されていたホログラフの明かりが薄れて周り全体が明るくなったのだ。


「今回のメインのハード機器製造チームからのハード紹介とテストメンバーの報告は以上です。

ゲーム内容については、最終的に詰めたものを次回のテスト前のミーティングで報告します。」


ゲーム内容を聞き足りないと不満そうなコウガとオウカ。

「ゲーム世界も気になってくれてるみたいなので、オフィス内でモブプレイヤー希望を募ったあかつきには、そちらへの参加よろしくね。」

マシロはモブプレイヤーへの参加勧誘を行うと、「「もちろんです!」」と気持ちの良い返事が返ってきた。


「それでは、今後のスケジュールに調整が無いかを確認して、次回のミーティングのスケジュールを組みますので、皆さんよろしくお願いします。」

マシロがパソコンを閉じると、参加メンバーもパソコンを閉じて各々の席を立ち始めた。


「タクトさん、この後ちょっとお時間もらってもいいですか?

焦げる直前の焼けてる熱いにおいについて教えてください。」

混乱したままの状態を気持ち悪いと感じたアオバは、マシロに声をかけようとしていたタクトのそばに急いで近づくと声をかけた。

「焦げる直前の焼けてる熱いにおいについて?」

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