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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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049 モブのログインポイント


タクトがログインしたとき、ブランとAIタクトのヒヨコは、ヨウキテリトリーとココアテリトリーの間にある、ヨウキテリトリー寄りのモブのログインポイントに入っていた。

人の集まるテーマパークのようなヨウキテリトリーの近くにあるためか、そこは温泉宿のある街並みで、多くのAI、IDプレイヤーモブたちで賑わっていた。

「一ヶ所くらいこういう和風なところがあってもいいよね。」

「う、うん?

和風?」

今までとは全く異なる雰囲気にブランはかなり戸惑っている様子で、すれ違う浴衣を着たモブIDプレイヤーたちをどう捉えていいのか混乱しているらしい。

「あ、あんな布を巻いた服装で大丈夫なの?

あんな、カタカタ音の鳴る歩きにくそうな靴?をなんで履いてるの?

それにここ、変な臭いがする。」

「浴衣に、下駄に、硫黄の匂いだね。

それにしても、並んでる宿がみんな2階建てか平屋で、江戸時代風ってのもすごいな。」


「タクトさん、今度はこっちのモブログインポイントに来たんですね。」

頭に畳んだタオルを乗せ、浴衣に羽織を着たIDプレイヤーが、タクトたちがちょうど前を通りかかった宿から暖簾を手でよけて出てきた。

「えっと?」

出てきたIDプレイヤーたちの顔を見ながら後ずさりし始めたブラン。

下駄をカタカタとならし近づいてきたモブIDプレイヤーは、ブランの顔を覗き込んで笑顔を向けた。

「あれ、服が変わってるから分からないかな?

チャナテリトリーの近くのモブログインポイントで苺のクレープあげたんだけど、覚えてない?」

その言葉を聞いて後ずさりをやめたブランは瞳を輝かせた。

「あの時のお姉さん。

クレープ美味しかった、有難う。」

ブランの笑顔を目の当たりにした、IDプレイヤーは瞳を潤ませて小刻みに震えだし、抑えた口から小さな呟きを漏らしだした。

「何このふわっとした笑顔、かわいいって言葉じゃ足りない、癒される、素直、持って帰りたい。」

気がつくと、ブランの横を飛ぶタクトの前に”ギュンッ”と背景に音喩が書かれそうな勢いで移動していた。

「はい、言いたいことは分かるような気がするけど、何かな?」

宙に浮きながら首をコテンとするわざとらしいヒヨコを前に、IDプレイヤーは両手で顔を覆った。

「そ、それもいいです、ヒヨコかわいい。

お願いです、このテスト版のスチル、別で出してくださいいいいいい。

できれば、アクスタと缶バッジは76mmで。

お願いしますぅ。」

「そういうは俺じゃなくて、ヨウキさんに言って?

マーケティングは別だから。」

IDプレイヤーは覆っていた両手を開くとタクトに「おやっ?」と疑問の目を向けた。

「ですが、タクトさんてヨウキさんの補佐じゃないんですか?

最近ずっと一緒に行動してるから、みんなそう思ってますよ?」

「・・・そうなんだ?

そう思われているんだ、既にもう?」

ヒヨコにない肩を落とすタクトにIDプレイヤーはもちろん気付かない、何なら自分の肩に力を入れて力説する。

「はい、タクトさんが器用なのは周知の事実ですし、何を言われなくても皆納得してます!

ヨウキさんにタクトさんを加えれば、鬼に金棒!

いえ、鬼は例えが悪いですね。

桃太郎に黍団子?、それも違うような。」

「うん、違うと思うけど、黍団子ってある意味賄賂的な道具だよね。

せめて、桃太郎と三匹のお供のどれかにして欲しいけど?」

「ですが、例えでも三匹以上の働きができるくらいに、タクトさんは器用です。

はっ、そういえば、誰かタクトさんのことを”器用貧乏”とか発言してましたね。」

ますますどうでもいい話題になったと感じたタクトは、ブランの肩に乗って先に進むことを促すように羽を前に出した。

迷いながらもコクンと頷いたブランは、まだ力説しているお姉さんに小さく「じゃ、またね。」と囁いて歩き出したが、きっとお姉さんには聞こえていない。


「タクトは器用貧乏なの?」

温泉街の広いメイン道路で、IDプレイヤーたちの視線を集めていると気付いていないブランは肩に乗るタクトに、先ほどのお姉さんが言っていた言葉を何とはなしに聞いてみただけなのだが、IDプレイヤーたちの背景には瞬発力のあるフラッシュが放たれた。

「んっ?」

一瞬の異様な雰囲気を感じたブランが周りを見回したが、そのときにはIDプレイヤーたちは平静を装い、自分たちの役割であるただの通行人(モブ)と化していた。

「えっと、器用貧乏だっけ?

意味的には何でもできるけど、特出すべきものは無い人って感じなんだけど、否定はしないかな?

ブランはどう思う?」

「うん、俺もタクトはそうだと思う。」

再びIDプレイヤーたちの背景には瞬発力のあるフラッシュが放たれ、そこに白目が加わっていたことは言うまでもない。

「んっ?」

先ほどとは異なる性質の異様な雰囲気を感じたブランが再び周りを見回すと、そこには、座り込んで鼻緒を結ぶ(ふりをする)人々や、橋の欄干に身を乗り出す人々、抱き合って泣く人など、先ほどとは違う行動をする人もいたが、多くのIDプレイヤーたちは、自分たちの役割であるただの通行人(モブ)を全うしていた。

「すごく見られているような気がしたけど、気のせいだったみたい。」

「そう、だね?」

「ところで、さっきの、器用貧乏だけど、タクトは特出すべきものがないだけで、何でもできるもの。

貧乏ってイメージとはかけ離れているし、かっこいいし。

ヒヨコなのに。」

「うん、リアルでも貧乏ではないかな。」

「特出すべきことがないくらいなんでもできる器用な人=貧乏というのは、意味が通らなくなってきてるから、器用と貧乏はくっつけない方がいいと思う。」

「そうか、それは今度彼に会ったら言ってみようかな?」

「タクトに”器用貧乏”だって言った人に?

うん、俺もその人に教えてあげた方がいいと思う。」

温泉街の広いメイン道路で、腰に剣を下げた旅装姿の銀髪の15歳の男の子とその肩に乗るヒヨコを、後ろから拝む人々がいた。


「幌馬車の旅もいいものよね、チャナ。」

「うん、ありがとう。

2人ともごめんね、折角ペガサスに乗れるチャンスだったのに。」

「チャナさんが気にすることないですって。

あのペガサス絶対性格悪かったですし、そもそも無理やり乗ったところで途中で落とされるのがオチでしたよ。」

「ハトバもそう思う?

私も思った。

あれ、絶対途中で私たちをわざと落として、セツキさんの前ではワザとじゃないとか泣きながら言う腹黒タイプ。」

「はっははは。

白いペガサスなのに、腹黒タイプって!」

チャナの笑顔にアンズとハトバが安堵した頃、目的地に着いた馬車が二頭の馬の(いなな)きと共に止まった。

「お客さん、モブのログインポイント、和風温泉街バージョンに着きましたよ。」

幌馬車のAI御者が、馬車の後ろに回り、乗客が降り易いように階段式のステップを下ろして声を掛けてきた。

「ありがとう、長椅子のクッションが気持ちよくて座り心地抜群だったわ。」

「この世界じゃ、馬車酔いもしませんしね。」

チャナの次に機嫌よく降りたハトバはリアルでは乗り物に弱い。

最後に降りてきたアンズがステップを踏み目の前を流れる川の先に目をやると、川に架かる橋の欄干にもたれる人々が見えた。

「何かお祭りでもやってるのかしら?」

「アンズ、どうしたの?」

「ほら、あそこ、川沿いに人が集まってるように見えない?」

「ほんとだ、他の通りより人が多いようですけど、だからと言って何かやってる風には見えないですね。」

「あそこは、この温泉街のメイン通りです。

川沿いにあるのもあって、お風呂に入った人たちが夕涼みがてら歩いたりもしますから、他の道より人が多く通るんですよ。」

教えてくれたのは、幌馬車のステップを直していたAI御者だった。

「そうなのね、そうだ。

おじさんは、この温泉街のお勧めって何か知ってる?

やっぱり、温泉饅頭とか温泉卵?」

「そうですね、お嬢さんみたいな方たちなら、和風ソフトクリームとかどうでしょうか?

ほら、ちょうどさっきおっしゃってたメイン通りから橋を渡った反対側。

そこに好きな味のソフトの上に抹茶や小豆やらをトッピングしてくれる店があるんですよ。」

「うわ、何それ、絶対美味しい奴じゃない。

有難うおじさん、行ってみる。」

「はい、他にもお店が並んでいるので楽しんでください。」

「おじさん、有難う、あっチャナさん待ってください。」

挨拶もそこそこに走り出したチャナを、アンズとハトバは急いで追っていった。


「お客さん、お客さん、記念に浴衣を着てみませんか?

それで記念写真なんてどうですか?

ヒヨコ用も有りますよ?」

同じ街の馬車停まりにチャナ達が到着した頃、ブランは貸し浴衣をやってる店の前でAI店員に捕まっていた。

「俺、そういうの興味ないから、でもタクトの浴衣は見てみたいかも。」

「何故?」

「そうでしょう、そうでしょう。

うちは、人だけじゃなくて、小動物から大きな動物が着れるサイズの浴衣を扱っています。

例え羽があろうが、角があろうが尻尾があろうが、何が何でも着こなしていただいています。」

自信満々に圧をかけてくる店員に、ブランは”目を逸らしたら負ける”と睨み返した。

「いいです、いいです、その目のその気概!

心打たれました。

もう、お代の交換品はいりません。

その代わり写真をこの店のショーケースに飾らせてください。

ささっ!ささっ!」

「気概?俺の?」

「心打たれるか、AIの心を打つブランはすごいな。」

「すごい、すごいの、俺?」

普段可愛いなどの子どもに使う言葉でしか褒められたことの無いブランは、気概を褒められたことですっかり油断してしまった。

「はい!じゃあ店の中に入ってください。

色々合わせてみましょう!」

「えっ?えーー?」

いつの間にか後ろに回られた他の店員に背中を押され、無理やり店の中に連れ込まれたブランを追って、タクトも店の中に入っていった。

「とりあえず、ブラン、諦めてきてみたら?

浴衣もいいもんだよ?

ブランなら、濃い色の浴衣も淡い色の浴衣も似合いそうだよね。」

「さすが、お客様、ヒヨコ様はお目が高い、先にブラン様?の浴衣を見立てますので、ヒヨコ様はこちらでお待ちください。」

ショーケース前のテーブルの上に若草色の上品な湯飲みに入った煎茶が出された。

もちろん、茶菓子も添えてくれている。

「店の前で客引きをしていた割には、お茶も茶菓子も一流だな。」

テーブルの上に置かれた座布団に座り、ヒヨコでも持てる湯飲みを持つとタクトは外に目をやった。

外からはショーケースの中に飾られた浴衣しか見えなかったが、店の中からはショーケースを通して外が見えるマジックミラーになっていて川向こうの通りまで見える。

そこには、最近見たアバターがいた。

「あれは、ハトバにチャナ、それにアンズも。

ハトバが手に持ってるのはアイテムカード?」


「やっぱり私、そっちのトッピングにしたらよかったかも。

でも抹茶に小豆は定番だし。」

バニラと抹茶のミックスソフトクリームに小豆を乗せたソフトクリームと、ハトバの持っているソフトクリームを見比べて、チャナは悩んでいた。

「チャナさん、いいですよ。

ストロベリーソフトの白玉みたらしかけで良かったら、交換しますって。」

「うーん。

定番も食べたいし、交換はちょっと。

でももう一つ頼むのも欲張りって思われるかもしれないし。」

「そんなこと気にするなんて、チャナってば、成長してる?」

アンズは金時イモのクリームをかけた紫芋のソフトクリームを手に持って、今は自分より年下のチャナの緑色のフワフワ髪を撫でた。

「もう、アンズってば、子ども扱いしないで。

リアルでは同じ歳だからね。」

「そうだ、交換じゃなくて、交換条件です。

もしよかったらこのアイテムカードと一緒にもらってくれませんか?

俺が持っていたらちょっとまずいような気がするので。」

「そうよ、それ!

私も気になってたの、ハトバじゃなくてチャナが持っていないといけないんじゃないかって。」

「なにそれ?」

「前に小さな女の子からもらったレアアイテムカードです。」

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