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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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048 こぼれる笑み

基点のログハウスの離れにある教会で、女神(説明書)からテリトリー代行カードを出させたヨウキは、そのカードを流れるようにブランに渡すと、女神(説明書)からは、テリトリーに寄りつかないサブプレイヤーだと非難の目を向けられたが、「また来るから」と宥めた。

教会から出たヨウキは、貸し出したテリトリー内を案内するために、ブランとAIタクトと共にログハウスを円状に囲む紫陽花園を歩いていた。

その頃リアルでは、タクト、シキ、アオバの間で、主人公の記憶戻り値の不具合(バグ)の話から、自分の話題に飛び火していたことは知る由もない。


円状に並ぶ紫陽花の花壇に添って歩く、ブランとヨウキの間を羽をパタつかせて飛ぶAIタクトは、ログハウスと今出てきた教会を見比べていた。

「離れと言ってる教会の方が、ログハウスの城の3倍は大きいから、そっちが基点の建物っぽいですね。

城の大きさで、ヨウキさんのやる気の度合いがよくわかります。」

「ハハッ、AIタクトも言うことは言うね。

やる気がないわけじゃなくて、他メンバーがやらないことをやってるだけだよ。

基点の建物はサブプレイヤーの夢の城ってだけのことで、俺は城を外見よりも住み易い我が家にしただけ。」


三人の後ろから音もたてずに飛んできた白いフクロウはヨウキの肩に静かに止まるとコホンと咳払いをした。

「確かにそうです。

こんなこと誰も思いつきません。

お城と言う言葉に囚われずに、自身の大切なものを見失わない、そして、誰も行わないテリトリーへの放置プレイ。

何より、テリトリー代行カードの逆使いをされるとは。

さすが我が主でございます。」

隙あらば主自慢を差し込んでくるフクロウに、ブランとAIタクトから生暖かい目が送られている。


「お褒めの言葉、ありがとう。」

腕を伸ばして肩にとまったフクロウの頭を撫でたヨウキは「マップオープン」と、その手に地球をだした。

「あれ、攻略されていなくて、テリトリー範囲を貸し出しただけでもテリトリー線ってMAPでは認識できなくなるんだ。」

左手に掲げた地球を回してみると、ヨウキテリトリーの境界線が認識できなくなっていた。


「テリトリー代行カード使用時の処理結果は変わらないってことですね。

攻略後でも前でも、テリトリー境界が無くなり、戻すと復活みたいなことしてるってところですか。

確かに、テリトリーを攻略されたとしても、ゲームクリアまでは取り返す手段がないことも無いですし。」


地球を見ていると、セツキテリトリーの赤い線とココアテリトリーのオレンジの線はしっかりと出ている。

「セツキテリトリーは、相変わらず明るいですね。

砂地に、鉱山、地形があまりデコボコして無くて、見晴らしよさそう。

反対にココアテリトリーはかなり暗い部分が多くて、拠点の城は高い位置にあってその周りが暗くてよく分からない。」


「ねえ、タクト。

この花壇に咲いている紫陽花、変じゃない?

ほら、円状に並べている花壇の1つ1つに違う色の紫陽花が咲いている。」

ブランは、隣を飛ぶタクトの羽に手を添えると、紫陽花の花壇の前に誘導した。

「ああ、本当だ。

一株に、青、赤、紫の紫陽花が咲いている。

リアルだと土成分によって色が変わるからありえないな。

よく気がついたね、ブラン。」

「これくらい誰だって気がつくよ、タクトがそのお兄さんとの話に夢中で気がつかなかっただけだよ。」

AIタクトとブランの視線を感じたヨウキは、頬を掻いて照れた笑いをしている。

「よ、ヨウキさん?」

「あ、ああ、それね。

俺であって俺じゃない俺が作ったものだけど。

紫陽花は親が好きな花で庭に咲いてたんだ。

シキがその花を見て奇麗だって、笑みをこぼしてたんだよ。」

「それでなんでそんなに照れてるんですか?」

「みんなの色があればいいのに、って、小さなシキが言ってたのを思い出したんだ。」


「みんな?

もしかして、ご兄弟青稀(ショウキ)さん、赤稀(セツキ)さん、紫稀(シキ)ですか?」

「まあそうだけど、そこには俺も入っているから。」

「確かに葉稀(ヨウキ)さんも、入ってますね。

兄弟仲がいいですよね、なんだかんだ言っても。」


「タクト、どうしたの?

紫陽花見るの嫌だった?」

紫陽花の前でタクトの羽根に手を添えていたブランは、タクトを自分の頭の上に乗せてまた歩き出した。

「いや、どちらかと言うと”羨ましい”と思って。」

「羨ましいの?

タクトもあまり家族のことは覚えていないから?」

幾つもの輪を作るように並べられた紫陽花の花壇の間をすり抜けて、園の外側に抜けたブランの後をヨウキがついて歩く。

「羨ましい?何が?何故?」

AIタクトの”羨ましい”という発言は、タクトらしいとは思えないが、ヒヨコの背中からは何も感じられない。

「質問が多いですね。

ヨウキさんに対してロックはされていないから答えますけど。

何が、は、兄弟仲。

何故、は、兄には好かれていなかったし、それが特に気にもならなかった、から。

ですね。」

「えっと?そういうのは、自動でロックかけといてくれ。

本人じゃないAI本人に聞かされても困るから。

ここでは、タクトに迂闊に質問もできないな。」

しまったと頭に手をやるヨウキとは逆に、ブランは納得したように頭を左右に振ってタクトごと揺らした。


「タクトはお兄さんに好かれていなかったことを思い出したの?

それが気にならないんだったら、別に悲しいことじゃないからいいんじゃないかな?」

ブランが首を傾ける度にAIタクトも一緒に傾いて、後ろから見るとヒヨコの背中が妙におかしい。


「うん、ブランの言う通り、俺もそう思う。

ただ、話を聞いていて、”羨ましい”という表現が正しい選択であったと言うだけだから。」

アジサイ園を抜けた先には、テーマパークにつきものの、ポップコーンやドーナッツなどのワゴンが並んでいた。


ヨウキの肩の上で、フクロウが落ち着きを無くし羽を膨らませてソワソワし出した。

「おお、主、あれは綿菓子ではないですか!

ちょっとワタクシあれを所望してきてもよろしいでしょうか?」

「ああ、行っておいで。

食べ放題だから、綿菓子だけでなく、好きなものをチョイスしてくると良いよ。」


「・・・ここに白い葉ってないの?」

ブランが首を傾げて聞くと、見上げられたヨウキは満面の笑みを返した。

「うん、残念ながらね。

攻略アイテムは、青いAIしか持ってないから無いよ。

ここにサポートキャラのフクロウの好きなものはあるけど、攻略できるほどじゃないかな。

あ、そうだ。」

ヨウキはポケットの中にあった白い卵のような石を出して、ブランの目の前に出して見せ、

「これあげるよ。

使い方は見てたからわかるよね。」

と言いながら、ブランの手を取って石を握らせて、その手を包む。


「何かと交換しないとダメなんじゃないの?」

ヨウキの手に抑えられて、意図せず手の中の石を握りしめたが、それはブランが思ったよりも柔らかく軽かった。


「あれ?白い鳥がいる。」

「あれって、プテラノドンに乗ってたやつじゃないですか?」

ワゴンの間から聞こえてきた声は、牧場で倒したモンスターからアイテムをゲットしたコウガたちだった。


「あ、ヨウキさんがいる。

タクトさんと主人公も、ヨウキさんに会えたんですねー。」

わらわらとワゴンの間から、思い思いのお菓子や飲み物を両手に持って騒ぎながら出てくる子どもたち。


ヨウキは空を仰いで少し考えてから、子どもたちに向かって厳しい口調で聞いた。

「コウガにオウカ、念のために聞くけど、このゲーム内にリアル時間で何時間いる?

タクトがログアウトする前からいたようだけど?」

2人ともギクッと体を強張らせ、他の子どもたちはワーッと叫びながら散り散りに逃げた。


「も、もう少しだけ時間があります。

大丈夫です。」

焦る二人の後ろから、また音もなく飛んできた白いフクロウがヨウキの肩に静かに止まったが、口には白い綿あめがついている。

「主、本当のようです。

リアル時間であと、5分ほどあるようです。」

「あ、さっきプテラノドンに乗っていた白い鳥さんだ。」

「プテラノドン?何のことですか?」


「「あれ?違った?

我々の見間違い?」」

コウガとオウカはお互いの顔を見合わせて首を傾げた。

遠くから2人の様子を見ていた他メンバーたちが、時間がまだあると聞いてヨウキに怒られないと判断して戻ってきた。

「そんなこと良いから、コウガさん、あとこの世界で15分何しますか?

一度ログアウトしたら、またモブのログインポイントからやり直しですよ。」

「は、そうだった。

満腹にはならないんだから、ワゴンの料理食べつくしを再開だ。

味覚、嗅覚、触覚をちゃんとレポートできるように、全種類試すんだ!」

「「「「おーーーー」」」」

ワゴンに散って行く子どもたちを見送ったブランは、もらった石を握りしめたままだったことに気がつき腰のポシェットに直した。

「交換はしなくていいってことだよね?」


「うん、きっと役に立つよ。

それでブラン君は、これからどうするの?

俺はモブのログインポイントを回ろうと思ってるんだけど。」

「俺の優先順位は、記憶を取り戻すこと。

だから、もちろん、次のテリトリーに向かうよ。」


「次のテリトリーに向かうのはいいとして、優先順位ほんとにそれ?

メインプレイヤー(タクト)がいなければ、いくら主人公でも1人ではテリトリー攻略はできないよ?

AI俺にやられかけたの忘れた?」

明らかにムッとした顔をしたブランだったが、本当のことなので違うと言い返すことはできない。

「テリトリー攻略の必須があるんだったら、そしたら優先順位は変わるよ。

優先順位の1番はタクトになる。」

そう言ったブランは、何かに思い当たった表情になっている。

「うん、そうだよね。

大丈夫、15歳くらいの年齢なら、小さな失敗は沢山していいと思うよ。

ただし、それが取り戻せる失敗だったかどうかは、先の未来でしか分からないんだけどね。」


「ヨウキさん、あんまり虐めないでください。

自分の経験談ですか?

小さな失敗を沢山って。

そんなこと言ってると、年齢で上げ足取られますよ。」

「AIタクト、本当に容赦ないな。

もう上げ足取られてるから今更構わないよ。」

フッと遠い目をしたヨウキをブランがもの言いたげに見ていたが、あえて気づかないフリを装っている。

「取り戻せる失敗?

そんなものあるのかな?

少しだけ戻った記憶に振り回されてたらそれも分からないや。

早くすべての記憶を取り戻さないと。」


「ブラン、次に行くテリトリーはココアテリトリーだ。

ここから一番近いモブログインポイントを抜けて、更に先。

ほらここ。」

ヨウキが浮かべたままにしていた地球のオレンジの線で囲まれたテリトリーをタクトが羽の先で示すと、ブランは強く頷いて笑みをこぼした。

「うん、暗いところだね。

タクト、今までごめん、俺一人でやらなきゃって焦ってたみたいだ。

一緒に攻略しよう。」

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