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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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047 配分の間違い

「おまえは、俺と言うものが有りながら、白っぽいフクロウと蹴り合って遊んでいたのか。」

キーボードの上に両足を投げ出して、前かがみになるホワイトタイガーも珍しい。

「そうか、ヨウキさんのサポートキャラのフクロウの性格、何だか親しみがわくと思ったら、お前に似てたんだな。」

ロウテーブルに両肘を立ててあごを抑えたタクトが覗ホワイトタイガーをき込むと、キーボードに伸ばされた長い尻尾が揺れる。

「俺に、サポートキャラのフクロウが似てた?」

自信過剰なのに憎めないところが、とは言わず頭を頷かせると、ホワイトタイガーの返す笑顔の後ろから眩しい後光が差す。

「ブランをからかっていたから、フクロウの頭にケリを入れんだ。

そしたらヒヨコに、フクロウがでかい足を向けてきたから、10倍速で蹴り返して、それがお互いに楽しくなって。

そうか、慣れ親しんだ性格だったから、何も考えずに遠慮なくケリを入れられたんだな。

すぐにヨウキさんに止められたけど。」

ゲームからタクトがログアウトしたとたんに、ノートパソコンのディスプレイから出てきて愚痴を言い始めたホワイトタイガーは、「じゃあ仕方ねーな。」と腕を組んでツンと横を向いたが、尻尾と耳の先をピクピクさせていた。


「お、コールがくるぞ。

シキからだ。」

通話システムのコールが表示される前に、受信を感じたホワイトタイガーがひげをピクつかせて立ち上がりディスプレイに近づいた。

「シキから?

相変わらず早いな。」

ディスプレイに表示したコール通知アイコンがホワイトタイガーの手の肉球によって押されると、タクトも同時にイヤホンマイクを耳に付けた。


「タクト、お疲れ様。

今回のゲーム時間、今までのの最長だったみたいだけど、どうだった?」

イヤホンからいつものシキの声が聞こえてくる。

テスターを始めた当初から、このやりとりは変わらない。

「シキ、お疲れ様。

俺の体長に問題は無いけど、問題があるとしたら俺のホワイトタイガーがゲーム内のフクロウに焼きもち妬いてたくらいかな。」

”俺のホワイトタイガー”に照れかけて、続く”焼きもち妬いてた”にギョッとしているホワイトタイガーは、タクトが思った通りの反応で自然と口が弧を描く。

「そうなのか?焼きもち妬かれるのが嫌なら、データ変更して更新するか?」

本体のプログラムデータがPC内にあるホワイトタイガーにはもちろんシキとタクトの会話が聞こえている。

他でもないプログラマーのシキの言葉にホワイトタイガーは額から汗を流し、肉球同士を合わせてお願いのポーズで頭を下げている。

「嫌じゃないから大丈夫だよ。

問題ない。」

額の汗を拭った前足でタクトの手の甲に肉球を当てたホワイトタイガーは、目元を「分かってるじゃないか」とばかりにキリッと整えタクトに親指を立てたイイネサインをおくった。

「そうか、問題ないのか、わかった。

今回テリトリー間をかなり移動してたからか、主人公の子の動きが激しかったな。

それから、保護していた記憶データの分割方法が甘かったみたいで、アクセスが頻繁に起こっていた。」

「ああ、そうか、そうだよな。

そっちのデータにも出るよな。

確かに、記憶の出戻りがあったみたいで、やっぱりこれってバグかな?」

「うっ、、、。」

バグの言葉にシキの言葉が詰まらせると、通話システムにアオバからの追加ユーザーの許可申請アイコンが表示され、気づくとホワイトタイガーが許可を押していた。

「タクトさん、お疲れ様です。」

「アオバ、お疲れ様。」

「記憶の出戻りですね。

主人公が思い出す該当データ範囲というか区分けですね。

そこに重複があることが分かって。

思い出す該当データへのアクセスがあったときに、渡すデータの順番はランダムなんです。

そこで今回、主人公が取得した記憶データの重複や一部クリアされる事象が発生してました。」

「うん、そうなんだ。

それで、どうしてシキは言葉に詰まってるのかな?

いつもならそのくらいの説明は反射的に変えしてくれるのに?」

シキとタクトのコールにアオバが入ってくるのは初めてのことで、不具合よりもそちらの方が気になった。


「それが、データ範囲の重複を許可するか、しないかで意見が分かれて。

お二人の会話を邪魔してすみません。

俺も実際にゲーム内にいたタクトさんの話を聞きたくて。」

「意見が分かれてって、もしかして、シキとアオバの?」

ゲームログをリアルに確認できるのは、今タクトが話をしているこの二人以外にはいない。

たった今終えたゲームの内容を他メンバーと話す時間などなかったはずで。

「本当に?」

「はい、シキさんはこのままでいいん派で、俺は直した方がいいと思ってるんです。

アクセス条件をもう少し制御するのと、戻す記憶データ範囲の値を重複しないように訂正するだけなので。」


「そうか、戻る記憶がランダムはことは変わらないのか。

アクセス条件の制御は、テリトリー内、テリトリー間、テリトリー内外の移動のときの挙動への影響が無くなるってことかな?」

「それもあるけど、記憶データを主人公に戻すタイミングがテリトリー攻略をした瞬間から一定時間となっていて、そこにタクトが言った条件が加わってる。

戻す記憶範囲全体を配分した小さい単位で時間と場所をトリガーとして、数回戻してる。

この配分の間違いも訂正する。

俺としては、記憶が出たり戻ったりしたら気持ち悪いんじゃないかとは思うんだが、人ならそれも有りかなって。」


「シキさんの言う気持ち悪さは分かるんですが。

最後には全データが主人公の中にで埋まるので整合性は問題ないし。

ただ、ゲームとしては、今のままだと途中経過でどんなトラブルが起こるか想定できないのではと思うんです。

要するにメインプレイヤーの主人公に対するコントロール難易度があがります。」


「ああ、なんか、両方とも気持ちは分かる。

うん。」

どちらがいいか、考えこむタクトの手の甲から飛び上がりふわっと浮いてきたホワイトタイガーが、目の前でにんまりと笑っている。

「俺たちは記憶が戻るってのはどっちでもいいぞ。

ただ、俺たちが変わってしまうようなことはしないでくれよ!

別人になっちまうからな!」


仮想に本体を持つホワイトタイガーがリアルに本体を持つタクトに背を向けて尻尾を振って見せている。


「そうだな、主人公の性格によっては難易度がかなり上がると思う。

俺の選んだキャラは、過去の記憶を既存リリース製品の1ルートから選んでいるから対応できているだけで。

そうだ、シキも一度はゲームの中に入ってみたら?

参加とかじゃなくて、観察と言う意味で、俺みたいに人じゃないアバターでもいいんだから。」

「人じゃなくてもいいのか、タクトが言うなら、その考えて、みる。」

無理だと返答されると予想していたタクトは、声は小さくなっていくものの、シキの前向きな返事に嬉しさを感じずにいられない。

「俺はこの通話が終わった後に、チェック項目入力とレポート付けとくから、それも精査で。」


「わかった。

そうだな、タクトだから柔軟にできてるってのもあるし、他の人のこと考えて無かった。」

声のトーンを下げたシキの様子が手に取るようにわかる。

そして、隣で落ち込むシキを見たアオバが慌てる様子も。

「し、シキさんが落ち込むようなことじゃないです!

直す方がいいとは言いましたけど、俺はシキさんの考え方の方が俺は好きです。」


アオバが何か言っても、俯いたシキが頭を上げないことが容易に想像がつくタクトは苦笑交じりでシキに話しかける。

「アオバがシキと対等に意見を言えるようになるほど成長しただけなんだから、そこは喜んでいいと思うよ。

ほら、いつも頑張ってるアオバを見てるから分かってるだろ、シキは。」


「えっ、あっ、うん、わかる。

アオバはいつも頑張ってる。

こんな俺を助けてくれて、今は別開発グループのリーダーとかもできてるし。」

「えっ、あの。」

シキからの思わぬ誉め言葉に今度はアオバが言葉を詰まらせている。

「そうだな、アオバ、有難う。

タクトや他メンバーの報告を待ってから、マシロに報告を入れよう。」

「はい、わかりました。」


「俺はログアウトしたけど、主人公は今ヨウキテリトリーでヨウキさんと一緒にいるから、そっちのレポートも参考にすると良いよ。」

「そう言えば、そうでしたね。

主人公の位置は現在ヨウキテリトリーの中ですね。」

「ふっ」

途端にぶっきらぼうな声を出すアオバに笑いが漏れそうになったタクトは急いで口を抑えた。

「そうだな、AIタクトと、主人公と、IDヨウキとそのサポートキャラ、近くにコウガたちもいるけど、ちょっと離れてるか。」

「そう言えば、ヨウキさんはリアルな自分の姿をアバターにしてたけど、いつの間に対応したんだ?

最初はできなかっただろ?」


「あれは、特例で、他メンバーには対応してないよ。

できるかできないかで言えば、出来るという話をしたら、通常のゲームには入れないけど、今回テストしておきたいって、言って。」

「なるほど?

通常のゲームに入れないのは、入れない方が俺も賛成。

そう言えば、AIか本人か確認するために、アオバと最近どう、みたいなこと聞いたら、個人情報はロックされていると言ってた。

そういう対応の入れてるんだな。」


「うん、もちろん入れないと、AIは相手の思惑とか考えずに最良の回答をしようとするから。」

「ちょっと待ってください。

何でタクトさんがヨウキさんにそんなこと聞くんですか?」

今度はアオバの声のトーンが重く下がっている。

「なんでって、だから、AIか本人かを確認するためだけど?」

ビデオ通話ではないのでお互いの顔が見えていないことを幸いだった。

タクトは表情を取り繕うことなく話をしている。


「タクトさん、今絶対他人が周りに居たらしないような顔してますよね。」

「そんなことないと思うけど?」

「タクト、他人が周りに居たらしないような顔ってどんな顔だ?」

「さあ?

それと、ヨウキさん、俺には結構機密事項まで話すから、それくらいでないとダメかなと思っただけだよ。」


「タクトさん、それくらいって。

もうやめてくださいね。

ヨウキさん、すぐ俺のことシキさんの代わりにするから。」

「そうなのか?なんで?」

「あー、そう、だからその態度なのか。

なるほど、そうも思えるね、確かに配分的にはシキの方に軍配があがってるし。

アオバの気持ちも分からなくはないよ。」


「そうも、ではなく、そうとしか思えませんが?」


「何かよく分からないが。

最近のヨウキは俺とアオバの面倒をよく見てくれるのは確かだな。

うざいけど。」

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