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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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046 交代だ

「俺は泣いてなんかない。」

抱きしめたタクトのモフモフした頭に自分の顔を埋めてグリグリと押し付け、ブランが顔をうずくめている間にも、AIヨウキは容赦なく次の攻撃に入った。

「ちょうどいい、そのまま二人とも、捕縛。」

AIがヨウキが言い終わると同時にブランの足元の白い小石が次々と割れて、タクトを抱きしめたブランごと囲むように膨大な本数の糸が二人を包み込むように下から上に右から左に伸びてきた。

「糸が絡まり合ってまるで繭のようで、ある意味奇麗だけど。

このままだと何重もの真っ白な糸の分厚い壁ができて閉じ込められそうだ。

そうだな、凍らせてみるかな。」

周りを囲む糸の壁を見上げるブランの手の中で、タクトは小さな口を精一杯大きく開けて、周りに向けて絶対零度の息を吐いた。

「すごい、奇麗なスターダストのような息!」

ブランの手の中から飛び出したタクトが上下左右の壁に息を吹きつけて奇麗に氷漬けにすると、ブランはその美しさに大きな拍手を送った。

タクトの吐く息で氷が広がり、糸の隙間からもタクトの吐く息は漏れ、足元の白い石で作られた砂利道までもすべて凍らせ、その先にいたヨウキの足元まで届こうとしていた。

「おっと、これはすごい、避けなければ俺の足まで凍ってしまうところだった。」

氷が届く前に飛びのいたヨウキの肩から、白い鳥が驚いて羽を大きく広げている。


「ブラン、この氷をその腰の剣で叩き割ってくれるか?

谷間の岩をたたき割ったみたいに。」

「うん、いいよ、全部粉々にするくらい叩き割って見せる。」

腰の剣を抜いたブランは剣を大きく振りかぶると素早く前後左右に振り、自分たちを取り囲む寸前で凍った糸の壁をすべて切り裂いてみせた。

糸の壁は音もなく散り散りにくだけ霧のように吹き飛び消え去った。

「うん、おみごと。」

今度はタクトが羽でパタつかせてブランに拍手を贈る。


「せっかく俺のサポートキャラが他のテリトリーから集めてくれた白い小石が台無しになったな。」

ヨウキの肩で大きな羽をばたつかせていた白い鳥は、羽を畳んで頭を右へ左へと回転させると、キリッと顔を整えて大丈夫だ”とアイコンタクトをヨウキに向けた。

「うん、石はダメになったけど、攻撃手段はまだ用意してある。

次は、ダミーの半透明のテリトリー線の外側にいる、モンスターに振ってきてもらおう。」

「モンスターって、そのオーロラみたいなテリトリー線モドキの外にいる、あの牛とか馬モドキ?

振らせるの?

それはさすがに見た目可哀そうなのでは?

このゲーム、一応全年齢対象だけど?」

「ダミーテリトリー線解除」

タクトは牧場の動物たちのあの攻撃的な歯のことを思い出しながらも同情したが、ヨウキは何ら気に掛けることも無いようで、ダミーのテリトリー線に向かって手をかかげた。


「ダミーテリトリー線解除ストップ」

ヨウキは、ダミーのテリトリー線に向かって伸ばした手を自身の頭に向けると髪をかき上げた。

「交代だ。

危なかったな、タクト。

AI俺は、本人よりゲームに真面目で、しかも攻撃的だったみたいだな。」

俄かにヨウキの雰囲気が変わると、サポートキャラが目を輝かせ始めた。

「あ、(あるじ)、戻られたんですね。

お帰りなさいませ。」

肩のサポートキャラをひとなですると足元にめり込んでいるヒヨコを拾ったヨウキに、今まで一言も喋っていなかったサポートキャラが大きく羽を広げてパタつかせながら喜びを表していた。

「ああ、テリトリーの中がずいぶんと様変わりしてるな。」


「ヨウキさん、AIと交代した?」

同情しながらも身構えていたタクトは、ヨウキから攻撃的な気配が消えた途端に体の力が抜けた。


(あるじ)、ずいぶんご無沙汰ぶりですよ。

おかげで、AI(あるじ)が随分と張り切って、本来のテリトリー線を牧場の柵に変えて、薄透明のオーロラをテリトリー線に誤認するように細工されてました。」

「そうか、今解除をストップした、このオーロラのように揺れる半透明の光の線ね。」

ヨウキは目の前で揺らいでいたテリトリー線を通り抜けて、中に入ると立ち止まり、腰に手を当てて周りを見回した。

「うん、初回にログインしてから、今までほっとくとこうなるのか。

最初はログハウスくらいしかなかったはずなんだが。」

「AI主は好き勝手やってるし、私は主がなかなか来ないから、サブプレイヤー交代の危機かと不安で不安で仕方がありませんでしたよ。」

と、羽で汗を拭うフクロウも珍しい。

「ハハハハハッ。

流石、好き勝手やってたんだ。

サブプレイヤーのAIって今何世代目だったっけ?

俺の性格を模したAIにしては、内側のアジサイ園はともかく、テーマパークにモンスターの牧場って、どんな選択判断を繰り返したんだか。

性能的には主人公の次くらいのAIを使ってたと思うけど。」

もの言いたげなヨウキの視線を受けたタクトは、こくんと頷いてみた。

「主人公のAIは最新。

だから、こっちは不安や焦りやちょっとした感情表現なら、本当に適切に使うようになったよな。

ただ、疑うことをあまりしないから、色々信じすぎだな。

15歳という年齢矯正も入ってるとは思うけど。」

それに反応したのが、自身も現代AIの最高峰を自負しているサポートキャラの白いフクロウだった。

「はい、もちろんです。

我々AIも進化してます。

生成AIやAIエージェントなどの数世代前のAIよりは、より、自分らしくをモットーに表現選択ができていますよ。

我々は、我々のために生きることができるAIですからね。」


ヨウキとタクトは揃って苦笑している。


「ヨウキさん、初回ログインから放置って、本当にギリギリですね。

連続480時間の放置でサブプレイヤー権限が無なってテリトリー消滅、もしくは譲渡する、でしたっけ?」

「そう、その間はサブプレイヤーの性格や考え方を模したAIが担当するから、その間どうなるかが俺のテスト項目にあってね。」


「そうだったんですね。

俺はヨウキさんのテリトリーだから、本人がいると思い込んでて、かなり油断してしまっていました。

ブランを一人にしてしまうほど。」

「タクトは俺のことそこまで信頼してくれてるんだな。」

うんうんと頷くヨウキにタクトは笑ってヒヨコの首を180度左右に回転させた。

「ヨウキさんはゲームの勝ち負けに拘らないと思ってただけですよ。」


「タクトはその人と仲いいの?

何で仲いいんだよ

俺と、、あれ?」

1人不機嫌に顔をしかめていたブランは、タクトに何か言いたいのにその言葉が続かずに戸惑っている。


「テストだしね。

ログアウトしてAIに交代した後、勝手に主人公を攻略したり、攻略されていたりは困るよね。

このゲームをプレイする醍醐味が無くなるし。」

「主たちはそうなんですね?」

物わかりの良いフクロウは、羽先をくちばしに当てて納得だとばかりに何度も頷いている。


「知らないうちにゲームが終わっていることになりかねないし、そこは制限すべきでしょうね。」


「プレイヤーは相手はAIの方が、条件分岐を考えて、情動による相手の迷いを考慮せず対応すればいい。

パターンが読めれば、攻略もしやすい。」

「自分が不在の時の対戦については、プレイヤーごとの設定にしてもいいのでは?

攻略部分は面倒くさいからオートで結果だけ得られればいいと言う人もいるだろうし。」


先ほどまで戦っていたタクトとヨウキの話はつきる気配がなく、待てなくなったブランは2人の間に割り入った。

「みんなで何の話してるのか分からないけど、俺は記憶を取り戻さなきゃいけないの!

だからタクト、このフクロウに薔薇の飴、試してみてもいい?」


「薔薇の飴って、これのことかな?」

タクトが羽の中から飴細工の赤い薔薇の入ったケースを出してブランに渡すと、ヨウキと肩にとまるフクロウが声を揃えた。

「サポートキャラ攻略アイテム。」


「そうだよ、これ、そっちのサポートキャラの攻略アイテムなら、俺の勝ちでしょ!」

ブランがケースを両手で持ってフクロウの前に突き出すと、フクロウはケースの中の赤い飴細工の薔薇を見て固まった。

サポートキャラの固まった様子を見たブランは、この飴が攻略アイテムだと確信し、ケースから飴を出そうと急いで蓋を取ろうとしたが、その手の甲をヨウキが軽く押さえてきた。


「なっ」

キッと自分を睨むブランにヨウキは困ったように笑いかけ、自分の肩にとまるサポートキャラに少しだけ非難を込めた声を掛ける。

「そんな演技しないで、何が好きか教えてあげたら?」

「主がそういうのであれば、仕方ないですね。」

「えっ?これじゃないの?」

白いフクロウはコホンと咳払いをするとタクトを見て舌なめずりしながら答えた。

「私は小鳥の肉が好きですね。」

「いや、それはないだろう?」

すかさずタクトは否定し、小さなヒヨコの足でペシッとフクロウの頭を蹴ると、フクロウは悪気無く笑った。

「冗談ですよ。

私は白い葉が好きですよ。」


「白い葉?」

ヨウキは抑えていたブランの手を離して、ブランの頭にのせ銀の髪をクシャッと撫でて口角を上げた。

「白い葉を手に入れたらまたおいでよ。

その時は、こいつの方から飛びついて行くと思うから。

ああ、でも、そうなると俺も、それまでこのテリトリーから出られないのか。」


ヨウキはフクロウと足の蹴り合いを楽しんでいたタクトの頭を掴むとブランの肩に乗せた。

「なんですか?ヨウキさん。

楽しいことを思いついたような顔をして。」

「タクト、俺もテリトリー外を見に行きたいから、主人公の子とタクトにこのテリトリーレンタルするよ。」


ーーーーー


「カーラ、戻ってくるの遅いわね。

偵察がうまくいってないのかしら。」

空になった黒い鳥かごの中の白い卵のような石をもて遊ぶニコが、ため息交じりの呟きをこぼしていると、広間の高い位置にある椅子に座るココアから小さく漏らした笑い声が聞こえた。


「あら、ヨウキテリトリー境界線が消えたわ。

まあ順当に攻略したようね。

次辺りは、やっと、主人公の子とタクトがこちらのテリトリーにきそうね。」

「あら、じゃあ、カーラが戻ってきたらどんな様子だったのか聞かなくちゃ。」

声を弾ませるニコと怪しく笑うココアを、ココアの城の広間に並ぶ家令たちは、恍惚と眩しそうに見つめていた。

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