044 誤算2
「ヒャッホーーーッ」
「うわーー」
「「流石、我々のデバイス!この体感はすごい。」」
「だけど、衝撃が今一な感じがする!」
「ギャーーーーー」
「痛覚値のゼロは変更できないが、衝撃の値の調整はぁぁぁーーー」
線路を登る1つのトロッコの前後に乗っていた二人の子どもが、万歳と手をあげて発している悲鳴と叫びを織り交ぜた言葉は、トロッコが急斜面を落ちて行くと風に消された。
「いつの間にトロッコに乗り込んだのか知らないけど、あの叫び内容からして、あの2人はハード機器製造チームのコウガとオウカかな?
ヨウキテリトリーで遊んでたのか。」
トロッコが急降下からのカーブに差し掛かると、トロッコに乗っていたメンバーは再び余裕が出てきた。
「衝撃の値の変更はーーー、難しいーーでーす!」
それなりのスピードが出ていて風の唸りに声がかき消されないように大声で叫んでいる。
「ヘルスケアの問題が、ちょっと昔のように、常に脳波と身体の測定をしながらゲーム何てやってられないでしょ!!」
「でも、カプセルに入るのは、っぽくて、いいかもしれなーい。
トロッコは3つ連結しており、全てのトロッコに子どもが2人ずつ乗って、スピードに負けないように一所懸命に他のメンバーに向かって叫んでいる。
「ハハハッ。
もしかしなくても、あれらはハード機器製造チームのメンバーだよね。
一緒にログオンしてたのか。」
トロッコに乗って騒がしくしているメンバーを見てタクトは呆れていたが、ブランは感心するように息をついた。
「うん、俺も、あれに一緒に乗ってくる。」
「一緒に?空いているトロッコではなくて?」
「そう、あの人たちのトロッコに。
タクトは空からついて来るんでしょ?
ちゃんと一緒に来ないとだめだからね。」
地を蹴ったブランの頭上から、思わず放り投げられたタクトだったがすぐに羽をパタつかせてバランスを取った。
「なんだか、乱暴てきなような?。
反抗期から、乱暴的になって、と言う感じかな?」
タクトがブランに放り投げられてバランスを取っている間に、ブランは壁沿いや窓などを次々と蹴り飛んで、トロッコの次の急勾配の頂上となる城の三角塔の天辺に立ち、トロッコがくるのを待ち伏せた。
コウガとオウカ乗せた一番前のトロッコは、ブランの待つ位置よりまだかなり離れた位置の線路のカーブを回っていた。
ブランから振り落とされたタクトは、仕方なくブランの立つ位置より高い高度まで飛んで、トロッコが走る線路の全貌を捉えていた。
「あれは、線路が半透明なテリトリーカーテンを突き抜けて外部に出ている場所がある。
ありえないはずだけど、まさかとは思うけど、ヨウキさん、そこまでやるかな?」
タクトは牧場からここに来るまでに、そしてテリトリー内に入ってからも感じ続ける違和感と、テリトリー外部に続く構造物との関係について関連する可能性に思い当たることがあった。
「タクト!ついてこないと先に行くよ!」
タクトが線路の行き先に気をとられている間にブランは、待ち伏せていた位置から、三角塔に登ろうとするトロッコの先頭に飛び移っていた。
いきなり人が乗ってきたうえにトロッコが大きく揺れて、驚いたのはコウガとオウカだった。
「うわ、なに?あれ、銀の髪の可愛い美少年!
もしかしなくても主人公だ!」
先頭のトロッコに乗っていたIDプレイヤーをブランが見下ろすと、後ろ座席に座っていたオウカも叫んだ。
「ほんとだ、主人公だ。
名前なんて言ったっけ?
興味ないから忘れちゃったよ。」
「ブランだ。」
自分のことを話されていると気がついたブランが名乗ると、ブランが立つトロッコ後方のトロッコに乗るIDプレイヤーたちも騒ぎ出した。
「主人公、ブランって名前だった、そうだった。
銀髪でグレーの瞳、なるほどなるほど、瞳の色がマシロさんに似てるね。」
オウカは、後ろの騒ぎを無視して、自分の名前を名乗ったブランに手を振った。
「マシロ?」
聞きなれない名前にブランが問い返すが、IDプレイヤーたちは、まったく聞いていない。
「そうだ!AI主人公が、何で我々のトロッコの先頭を占拠してるんだ?」
「まったくだ。」
「ストーリーには関係ないところだと思ったが、そうではなかった?」
「いやいや、何を言ってるんだ、このゲームにストーリーなんかないだろ?
主人公が思うように進めていく、、、ストーリー、、だった、はず?
ねえ、ブラン君?だっけ?」
自分より小さい子どもたちに、君付けで呼ばれる戸惑いはあるが、聞かれたことに答えようとするブラン。
「えっ、あっ、うん、たぶんそう。
俺は記憶を取り戻すために、テリトリーボスを、」
そんなブランの言葉を遮り、また、好き勝手に話し出すIDプレイヤーたちは、見た目相応の子どもと言えるだろう。
「そうだ!テリトリーボスだ。
その領域というだけで、主人公の進む道にいつ曹禺したっておかしくなかった。」
ブランの返事を聞こうとも思っていない。
「こら、ブランが、困ってるじゃ、ないか、会話、する気、あるのか?」
見かねたタクトが、かなりの高度から落下し、順番にメンバーの頭の上を跳ねて行き、最後はブランの頭の上に落ち着いた。
だが、IDプレイヤーたちは、キッパリと言いきった。
「我々が興味あるのは、我々が作ったデバイスの性能だけです。」
「まあ、そうだよね。
からかってる訳じゃないところが、たち悪いかな?」
タクトの含みのある言いようにコウガが小さな手を顎において口角を上げた。
「なるほど、先ほどの“たぶん、そう”発言からすると、AI主人公は何だか迷っているみたいだね。
AIだから、迷うことが無いというかと言うと、そうではないよ。
それさえもプログラマーの手腕だ。
最善を選択する、選択しないを選択する、選択を次に持ち越すことを選択する。
どちらにしろ、いくつかの選択肢から、現状の状況にあったことを選択、バグに見えても仕様になくても、人間であるプログラマーの思惑によってプログラミングできるからね。」
コウガの後ろからオウカが、言葉をつなげた。
「我々からしたら、このデータの世界は仮想現実だが、データの世界が生きる世界であるAIは、リアル世界の方が仮想現実何だろうね。
だから、AIだって、選択肢がある以上、迷っていいんですよ。」
「っ、うあーーーーーー」
三角塔の天辺まで来たトロッコが角度を変えて、急斜面を落下するとブランの体が宙に浮いた。
コウガは目をギラギラに輝かせて落ちる先を見て感動の声を上げた。
「目に風が当たっているのに乾かない!瞬きすることなく落ちて行く様を確認することができる。
これは有用だ!。」
先ほどブランに何かいいことを言っていたような気がするが、もうすでに吹き飛んでしまっている。
「コウガさん!それより、これ、リアル体の心拍数ってどのくらいになってるんでしょう?
怖い夢を見たら心拍数上がるじゃないですか、一緒でしょうか?」
「いや、確認する限りでは、このゲーム内で起きた事象に関してリアルな体への影響はほとんどないことは確認できている。」
オウカの問いに、トロッコと同じスピードで飛ぶタクトがあっさりと答えた。
「もちろん、興奮して血圧が高くなることもないし、ドーパミンその他の脳内物質が過多になることもない。」
「なるほど、なるほど、そのあたりはソフトウェアと我々の、コッホン、我々のハード、デバイス、インターフェースで、で、で、コントロールできているわけですね!
なるほど!!!」
急傾斜をさらに落ちるトロッコの端を持って、はしゃぐコウガとオウカは現在のアバターの年齢相応に見える。
「分かってて聞いてるだろ?
俺にそれを言わせたかっただけかな。」
ヒヨコなのでがっくりと落とす肩は無いが、気持ち的にはがっくりを肩を落としている。
会話は問題なく成り立っているが、その間にトロッコは猛スピードで上下左右に振られて進んでいた。
天辺から黒い煙が出ている、低い火山のトンネルの中に入ると出口の光りが遠く見え、その長いトンネルを抜け切ると、また、急斜面を登り、傾斜を降りた先のカーブ付近ではトロッコゾーンを抜けた先にある園内を走る汽車の路線駅が見えていた。
「次の傾斜を降りた先のカーブで、俺降りるから、話したければタクトはその人たちともっと話してきたらいいよ。」
風に煽られる銀の髪を片手で押さえたブランは、トロッコの前に手を添えて中腰で飛び下りる姿勢をとった。
リアルであれば、このスピードでは耳に入る風の音が邪魔をして近くにいる人間の声など全く聞こえないのだろうが、風のうねりはそのままなのに、ブランの声だけはタクトの近くではっきりと聞こえた。
「あの人たちと話すことはないよ。
ブランが最優先!」
話している間にカーブにさしかかったトロッコを、ブランが思いっきり蹴って高く飛ぶと、反動でトロッコが大きく揺れ、そのままのスピードで左右に揺れて進んでいたが、凡そ1キロメートル進んだ先にある、登りから下りへ急傾斜の次のカーブが曲がりきれずに、テリトリー線から出た先で脱線したトロッコは空中で半壊し、乗っていたハード機器製造チームのメンバーたちは牧場に投げ出されたようだ。
テリトリー線が半透明のカーテンのようになっているため、外から中の様子が伺えなかったのと同じく、中からも外の様子が分からないため、ようだ、としか言いようがない。
「あっちって、サメの歯みたいな牛モドキがいたところとは別だけど、何か叫び声が聞こえるね。」
見事に着地して、その場でスタッと立ったブランが、半透明な境界線の向こうを見ようと目を凝らしている。
「そうだね、きっと、もっとかわいい物でもいたんじゃないかな。
悲鳴にも種類があるし、今聞こえる悲鳴からは悲壮感は感じられないよね。」
ブランの着地点まで飛んできたタクトが、ブランの頭上にとまると、慰めともならない遠い目をして言葉をかけた。
「俺が飛ぶことによって、あんなにトロッコが揺れるとは思わなかったんだ。
死んでなきゃいいんだけど。」
「大丈夫だよ。
この世界では誰も死なないから。」
「・・・それは、タクトも?」
ブランの発する言葉に、時々間が空く。
恐らくその、間に選択できない何かがあり、それがブランのバグの原因だろう。
「この世界では、誰も死ぬことはないよ。
だけど、俺がテリトリーボスの手に落ちたら、ブランは記憶が取り戻せなくなって、ゲームオーバーだから気を引き締めてね。」
「うん、・・・わかった。」
「いやー、参った。
死ぬとは思わなかったけど、腰はやられるかと思ったよ。
トロッコが壊れるなんて予想外、だけど、全く問題ない。」
テリトリー線の外に投げ出されたはずの、コウガが息を弾ませ足取り軽くスキップしながら戻ってきた。
見た目は子どもなのだが、言ってることはやはりいつもと変わらない、中年に差し掛かった男性だった。
「だから、痛覚値は0ですし、衝撃値もリアル衝撃の0.1%程度にしか感じないんですって。
これを風を感じる時や痛みを感じる時とかって場合によって分けるとなると、リリースに間に合わなくなりますって。」
コウガへのオウカの突っ込みにタクトは便乗して更に指摘を上乗せした。
「いや、もう、テストに入ってるんだから、今更の値の仕様変更はダメだろ?
痛みや衝撃の度合いによって、健康面の配慮とか、その値だけの問題で済む話じゃなくなるから。」
「ほんとに死んでなかった。
でも、剣で刺したモンスターはこの世界でも死ぬのに。
俺の元の世界でも、同じ?」




