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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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042 痛覚値ゼロの災難

センヤがそれに捕まったのは、セツキテリトリーのはずれにある鉱山の採掘坑で、地面から突き出た岩から掘り出した宝石を手放そうとした時だった。

鉱山の中で様々な宝石を採掘して、ジャケットのポケット、ミニスカートのポケット、全てのポケットに詰め込んでいた。

スカートやジャケットのポケットの中は、ぎっしりと破れそうなほど宝石が詰め込まれていた。

「何の道具を使わなくても、指先でこすると土が剥がれて、カット済みの宝石がポロッと手の中に落ちてくる。

さすが、ゲームだ。

原石じゃなくてそのまま使えそうな宝石が壁の中に埋まっているなんて。

もう少し奥に行ってみるか。」

赤いツインテールと膝上20cmのスカートのフリルを揺らして、足取り軽く奥に進むと、地面から30cmほど飛び出ている歪な三角錐の形をした突起がでていた。

その頂点には白く鈍い光を放つ石が見え、気になって形に添って指先で土を掃っていくと、楕円のような形だった。

指先でつまんで目の上まで持ち上げてみたが、他の宝石のように透き通るような美しさもなく、カットもされていない。

「なんだこれ?卵型?

光も鈍いし、他のに比べてだいぶ見劣りがするな。

いらないか。」

薄汚れた小さな卵型の石を投げ捨てようとしたまさにその時、いきなり背後から大きな影が被さると、白い足から伸びる鋭い爪で両肩を掴まれ宙に持ち上げられた。

「えっ?いや?えっ????」

まったく持って、自分の身に何が起こったのか理解できなかった。

採掘場の穴の中で、足が着くか着かないかくらいの高さに持ち上げられ、驚きで手の中に持った石を強く握りしめた。

その後は、肩をつかむ鋭い爪に恐怖し叫ぶこともできずに硬直してしまった。


心の中では、「嘘だろ?ナニコレ?信じられない?この両肩をつかむ大きな爪はなんだ?」と大きな叫びがあがっていたのだが、実際には一言も発することはできなかった。

両肩を持たれて、狭い穴の中を縦横無尽に飛び、時々足が岩壁にぶつかりもしたが、鉱山の外に出ると大空高く舞い上がられて、地面との距離がどんどん離れていく恐怖に支配され、何も考えられなくなった。

鉱山が遠のきセツキテリトリーの赤い線を越え、山を越え谷を超え、平地が広がると遠目にモブのログインポイントらしき集落が見えた。

更に2つ目のモブのログインポイントを越え、その高さに慣れてきた頃、オレンジ色の境界線、誰かのテリトリー線が見えたと理解する頃には、既にそのテリトリー内に入っていた。

テリトリー線の内側は、茜色の暗い空が広がる世界だった。

陽が沈む一歩手前の茜色の空の下、複数の小さな村を通り過ぎると、大きな鉄格子の黒い門が見えてきた。

鉄格子の先には底の見えない崖があり、中央の小島にある城への道は1本だけ架かっている幅20mほどの石畳の橋のみ。

高さに慣れてきたのもあるが、その先にある城に連れて行かれる恐怖に、センヤは今まで硬直していた口を無理やり動かした。

「お、おい、まさか、俺、を、あの中に連れて行く気か?

あんな、見るからにヤバそうな恐怖の城的なところに、、、。」

センヤの両肩を鋭い爪で掴んでいる白い獣は、今までの移動中もそうだが、自分が捉えている獲物を一瞥もしていない。

「じょ、冗談じゃない。」

雲と同じ高さから徐々に高度が下がりはじめ、鉄格子の門が近づくにつれてさらに地面との距離も近くなると、センヤは手足をばたつかせ始めた。

「ちょっと、暴れないでくれる?

落としちゃうよ?

ケケケ」

地面との距離を気にして下ばかり見ていたが、自分を捕まえている獣の声が聞こえ、その顔を見上げた。

体こそ白いが顔、羽、体つきは巨大ではあるが蝙蝠そのものだった。

「コ、ウモリ、しゃ、喋った、、、。

は、話せるんだな。

頼む、今すぐ降ろしてくれ。」

「今すぐ?いいぞ。」

「わーーーーーーーーーーーっ」

地面まで100mはあるだろう高さからいきなり肩を放され垂直に逆さまに落ちて行くセンヤと、そのポケットから零れ落ちる宝石たち。

ズンッ

センヤは勢いよく落ちた先の土の中に50cm程の深さまで人型にめり込んだ。

ショックのあまり30秒はじっとしていたが、土の中に顔がめり込んでいることに耐えられず、グッと腕を伸ばして土から顔を出すと、腕で体を支えて起こし、何とか土の中から這い出ると、顔や髪、服泥を掃った。

「イキテル。

あの高さから落ちて、痛くもかゆくもない。

骨が折れるどころか、かすり傷一つない。

ゲームだからか、そうだ、ゲームだからだ。

だからって、こんなイベント起きるなんて、聞いてないぞー!」

「煩いモブだな。

ケッ、しかもかわいい赤い髪のツインテールの女の子かと思えば、中身男のプレイヤーか。」

「わーーーーっ!

何だお前は、いきなり人を攫っといて。」

「なんだと言われても。

ちょっと散歩に出たら今までなかった山ができてて、洞穴が見えたから入ったら、赤い髪のツインテールの女子がいたから、マスターのお土産にと思ったのに。」

白い蝙蝠は肩をすくませて、首を振ると大きなため息をついた。

「こんなんじゃ、マスターのとこに連れていけない、ケッ。

無駄骨踏ませやがって。」

カーラはセンヤを見下ろして鋭い牙で歯ぎしりをして見せた。

「えっ、いや、なにそれ?マスターのお土産?

それは、さっき空から見えた吸血鬼城みたいなとこに住んでる奴のお土産ということ?」

足を内またに構え、腕を伸ばしてスカートの前でギュッと手を握り、ツインテールの髪を揺らしてコテンと首を曲げると、白蝙蝠はさらに鋭い牙を前に出してセンヤを威嚇した。

「はっ?奴?住んでる奴って、お前がそんな風に呼んで言い方じゃないんだよ。

マスターは。」

「こ、怖くはないぞ、所詮ゲームだからな。

結局お前もストーリー通りに動いて、決まったセリフを言っているに過ぎないんだ。」

「何言ってんじゃ、こいつ。

このゲームにストーリーなんてものがあると思ってるのか?

さっきイベントがどうとか言ってたが、モブなんかにイベントがあると思ってんのか?

えっ?」

センヤは口を大きく開けた口をパクパク動かすだけで、言い返すことができなかった。

「なんだ?今頃気がついたのか?

ゲームだからって、AIキャラだからって舐めてるんじゃ?

乙女ゲーでもあるまいし、このゲームにストーリーなんてものは無い、だからこそボスたちの才が光るんじゃ。」

巨大な白い蝙蝠は鉄格子の向こうにある石畳の橋から繋がる小島の天辺に聳え立った城をうっとりと眺めた。

「はっ?くだらない。

俺がボスだったら、もっと大きくてすごくて、さらにえっと、とにかくドンッとしてバーンとしたすごい城を建ててたさ。」

白い蝙蝠は呆れた目を向けて、「こいつ、何でここにいるんだっけ?」などとぶつぶつ呟き始めた。

「お前が勝手に連れてきたんだろ。

折角鉱山でたくさんの宝石を入手出来ていたのに、これを物々交換でもっといいものに変えて、そしたら、俺だって。」

「その宝石よりも、もっといい物ってなんだ?」

「良い物は、良い物だよ。」

「わかったわかった。

まったくわからんが、わかった。

崖の下にでも捨てた方が早いかな、こいつ。」


センヤが顔を引き攣らせると、鉄格子の門が鈍い音を立てて開き、石畳の橋を黒いメイド服を着た冷たいまなざしの女性と、黒い執事服を着た怪しい細いネコ目の男性がセンヤと白い蝙蝠に近づいてきた。

「ゲッ、ゲゲッ」

「カーラ、何をしているの、そんなところで。」

「また、何か変な物を拾ってきましたね?」

カーラは急いでセンヤを盾にその後ろに回った。

「まったく隠れていませんわ、出て行ったきり戻ってこないと思ったら。」

黒メイド服の女性は、センヤの足元に宝石が転がっているのを見つけ、その一つを拾い上げた。

「あら、可愛らしい緑色、苺の形にカットされたエメラルドだわ。」

「それに、これはムーンストーンにしては大きいですね、しかも卵の形をしている。」

隣にいた執事服の男性も、足元に転がっていた、他の宝石よりも大きな宝石を拾い上げた。

「な、それは俺のだ、俺が手に入れたんだから、欲しかったら何かと交換してくれ。」

「別に欲しくはありませんが?

ここに落ちていたものですから、それでこれらがあなたのものであるという証拠は?」

「何を言ってるんだ、俺が落としたものだ。

他にもほら同じような宝石がこのポケットに。」

センヤがスカートのポケットに手を入れると、左右にあるポケットの両方に穴が開いており、中は空っぽになっていた。

空から落ちる時に暴れたのが悪かったのか、宝石の重さで破けてしまったらしい。

「いや、ジャケットのポケットにまだ宝石がある。」

ジャケットのポケットを探ってみたが、逆さまに落ちたときにすべてあふれ出たようで、こちらにも何一つ残っていなかった。

顔色を変えて焦るセンヤを見た黒メイド服の女性は、赤い唇で弧を描き、ふっと笑い声にならない息を漏らした。

「まぁ、証拠が無くても良いでしょう。

物よりも、労働でお返しさせていただきましょうか。

ねっ、カーラ。」

「そうですね、それがいいでしょう。」

「ゲゲッ、何をしろと?」

牙の出ている口をへの字に曲げて、カーラは大変嫌そうな抗議の目をメイドと執事に向けたが、二人は圧のある笑顔で言葉を揃えた。

「「元いた場所に返してらっしゃい。」」

「やっぱり、それか、そこの崖に捨てたらいいと思う。」


「あら、こんな品の無いIDプレイヤー、ココア様のテリトリーに存在するだけでも死刑だわ。」

「そうですよ。

それに元の場所に戻すこと、その労働を宝石の対価としますので。」

「ケケケケ」


「ココア様?ここはココアさんのテリトリーだったのか。

なるほど、言われてみればザワザワとそんな感じだった。」

「本当に、き様は想像力がないな。」

「なんだって?どういう意味、、、」

白い蝙蝠は、フリルのスカートの破れたポケットを出しっぱなしにして抗議しようとしたセンヤの肩を掴み、空高く舞い上がった。

「わーーーーー、またかぁーーー。」

空高く舞い上がったカーラに、執事が大きな声で伝えた。

「カーラはココア様とニコ様が戻られる前には、帰ってくるんですよ。」

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