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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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40/74

040 虹色の橋

健気な少女の姿を前に、こめかみを強く抑えたセツキは本気で嘆いた。

「ああ、何ていうことだ、こんな年端もいかない少女のテリトリーを無くすなんて。

主人公がどんな男か知らないが、そいつは血も涙もないヤツなんだな。」

ペガサスはうっすらと涙を浮かべるセツキの耳元に、神妙な顔をして口をつけて、更にそっと囁いた。

「血も、涙もない、確かにボスの言う通り、ボスは正しいよ。

血も涙も、この世界にあるデータ全部、無いけどね、だけど、きっと、ボスは自分だけは血も涙も通っていると思ってるんだよね。

すごいよ、正しいと言ってるのはいつだってボスだけだ。」

セツキはペガサスの頭を両手で押さえて、おでこを合わせると頷いた。

「そうだな、お前の言う通りだ。

所詮ゲームの中の主人公なんて、ロボットと一緒だ。

プレイしている人間の喜怒哀楽というものは、これっぽっちも分からないんだろう、、、。」

そうやって、流した涙を拭い、盛大に息を吸ったセツキがチャナを振り向いた後ろで、ペガサスの小さな呟き「それはボスもだよ。」はかき消された。


「緑の髪の可愛らしいお嬢さん、それとオウムだな。

俺のテリトリーでは安心していい!

主人公の無慈悲な攻略行為、いや侵略行為に傷ついた心をこのセツキテリトリーで癒すと良いだろう。」

右手を胸に、左手を大降りしたセツキは、チャナの前に片膝をついた。

「何言ってるのか分からないんですけど?

侵略って、宇宙戦争や陣取りゲームじゃあるまいし、そんなものじゃないですよ?

銀髪の可愛らしい少年主人公とメインプレイヤーのタクトさんからテリトリー攻略されただけの話なんですけど?」


「メインプレイヤー、タクト?」

セツキはその名前に聞き覚えがあるような無いようなと、必死で記憶を探ると、ヨウキの隣にいた男、それに我が女神を恋人呼ばわりしていた男の名前に思い至った。

「ああ、あの薄ら寒い笑い顔をする奴だな?

なんだ、あいつがメインプレイヤーなのか、道理で無慈悲なはずだ。」

目の前で片膝をついたままのセツキが1人で言って、1人で納得して頷くと、チャナはワナワナと肩を震わせた。

「う、うすら寒い笑いって、、誰のことですか?」

片と腕と拳まで震わせ始めたチャナの横では、アンズとハトバが、首を盛大に傾げていた。

「えっと、セツキさんはいい人ですよね、アンズさん。」

「そうね、私も基本的にはいい人だと思うわ。」


「けど、セツキさんが言うタクトさんの表現、というか印象は、我々のタクトさんの印象とはかなり不一致のようですね。

何故だと思われますか、アンズさん。」

「確かにそうだけど、そんなの分かるわけないでしょ。

知ってる間柄みたいだし、何かあったんじゃないかしら。」

「タクトさんの笑顔を、「薄ら寒い」と表現するなんて、ただ事じゃないですね。」


チャナ自身もタクトのことをよく知ってるわけではないが、薄ら寒い笑顔だと感じたことはない。

中々言葉が出てこずにもどかしい。

「タッ、タクトさんは、プログラムのこともしっかり考えて、バグが出そうなところも予想できて。

そんなところもすごくて。

それからマシロさんをすごい、馬鹿みたいに愛していて、最近ではキャラ変する変な人って感じだけど、でも。

皆に平等に優しい人で、それから、えっと。」


「なんで、中途半端に庇うんだ?

碌な説明もできないってことは、本当はそうじゃないんだってことだろ?

俺が思うに、あんなにいつ何時も笑っていられるなんて、人間じゃないな。

まず、人情を感じられない。

そうだ、あいつの方がAIなんじゃないのか?

本当に人間っぽくなくて、薄気味悪いんだ。」

セツキはタクトのことをAIと言ったのが気に入ったらしく、何やら笑っていた。


黙り込むチャナの横では、アンズとハトバはセツキが人の話に耳を貸す人間ではないことを理解し、セツキの耳に届かないように、お互いに耳打ちあっている。

「タクトさんのことを薄気味悪いって。

確かにいつも笑ってくれてるけど、だからって、それを薄気味悪いって思ったことなんかないですけどね。」

「うん?薄気味悪いんじゃなくて、薄ら寒いって言ってたの。

薄気味悪いというのは、チャナの前に跪いて、悦に入って、ニヤついている、ダンディな男性の方が、、、。」

アンズとハトバは「薄ら寒い笑い」って、絶対こっちだと口に出さず、目で語り合った。

そんな二人とは裏腹にチャナの方は、気持ち的に一杯一杯になっていて、涙がにじんできている。

「なんで?どうして?

何も知らないのに、そんなこと言えちゃうの?

言葉がすべてだって、そんなこと絶対ないから!

タクトさんもマシロさんも、私のこと応援してくれてるのがすごくわかるんだから!」


半泣きになってしまったチャナにたじろぐセツキを横目で見ていたペガサスは、チャナの頭の上にとまって欠伸をしているヒフミヨイに訳ありげな視線を投げ、ヒフミヨイもまた、それに訳ありげな視線を返していた。

さすがに女性に泣かれた戸惑ったセツキ。

「おいおい、ここはそこまで泣くところでもないだろう。

まるで俺が悪役のようじゃないか。

女の子を泣かせるのは俺の本意ではないんだ。

よくわからんが、とりあえず、俺のギルドの塔に案内するから、そこで落ち着いて話しをしよう。」

チャナの前に膝間づいていたセツキは立ち上がると、ペガサスの背を軽くたたいて見せた。

スンと鼻をすすりながら目頭を服の裾で拭いたチャナ。


「そう言えば、先日、赤い髪のツインテールのお嬢さんも来てくれていたんだ。

今頃は、鉱山に行っていると思うが、鉱山で見つけたものを交換できるのは俺のギルド塔の中だけだから、その内顔を出すだろう。

確か、名前は、センヤ、IDプレイヤーのお嬢さんだ。」

セツキは他プレイヤーもいるギルドのことを三人に話したが、そこにも期待とは違った別の反応が返ってきた。


「「「えっ?センヤ(さん)。」」」


ーーーーー


ブランが、目の前の崖をどうやって越えるかを模索していると、崖下から登ってくる何かがいることに気がついた。

その場に座り込んで下を覗き込むブランを不審に思い、タクトも崖下を覗き込んでみると、頭に青いAIの文字を浮かべた人が、崖の凸凹に手をかけては登ってくる姿があった。

「ロッククライミング、してるようだけど、イベントキャラがこんなところにいたのか。」

タクトは先の失敗を思い出し、その場から離れ、近くの木の枝にとまって様子を見ることにした。


青いAIキャラは器用に岩から岩へと渡り歩きながらだんだん近づいてきて、最後にはブランの前に登りついた。

「おや、こんなところに人がいるなんて珍しいこともあるもんだ。」

崖を登ってきて、自分を見下ろす男性は、思ったよりもほっそりとした体つきだった。

「えっと、こんな崖を登って、何してるんですか?」


「おやおや、何してるのかだって?

見て分からないかな?

自分の手足を使った技術を駆使しての岩登りだよ。

要するにロッククライミング、ただの趣味だから気にしないでくれ。」

「趣味で、この崖を?」

ブランは目を丸くして目の前の人物を上から下まで見ると、その腰に下げているものに気がついた。

「ああ、これかい?

飴を作る道具だよ。

鍋のカードに、砂糖のカード、水飴のカード、とね。

火を焚いて、この砂糖と水飴を煮詰めて、おや、そんなに見つめて、作って見るかい?」

「うん、作って見たい。」

話を聞くブランの興味津々な瞳に気がついたAIキャラは、即答したブランに口角を上げた。

「ロッククライミングもそうなんだけどね、これもかなり技術のいることだよ。」


離れた場所から見ていたタクトは、イベントキャラのアイテムが誰向けなのかと思案し始めていた。

「今入手しているのは、食べると死ぬキノコだけ。

恐らくこれは、セツキさんか、ココアのサポートキャラ向けだろう。

今回のが、チャナのサポートキャラ向けのアイテムなら、無駄になるけど、どうだろう。」


AIキャラはあっという間にそこら中に置いていた枯草や、乾いた小枝をかき集めると火を焚き始めた。

「ほらこれに、鍋をかけて、と。」

腰に付けていた袋からカードを取り出すと、すぐに砂糖と水飴を出して鍋で煮詰めだした。

「すごい、甘くていい匂いだ。」


「ほら、いい感じに溶けてきただろう?

少し冷ましたら、ここで、この棒の先に飴を巻いて、引っ張ると細く伸びるんだ。」

AIキャラが、大きく棒を振り空中でハートの形を作ると、棒の先についた飴がそのまま伸びて、ハートが形作られた。

「ほら、君もやってごらん。

好きにやっていいから。」

ブランが鍋の中の木の棒を掴んで高く上げると、棒の先についた水あめが長くどこまでも伸びた。

「これって、崖の向こう岸に投げたら、そのまま飴で繋げられないかな?」

「ほう!」

AIキャラが感心して声を上げると、ブランは足を高く上げて振りかぶり、野球のボールを投げるように勢いよく崖の向こう岸まで棒を放り投げた。

「やった、向こう岸に刺さった!」

弧を描いて向こう岸に刺さった棒の先を繋ぐように鍋から雨の線がつながった。

「へー、お見ごと。

こんな使い方ができるなんて、思いもよらなかったよ。

勉強させてもらったな。

もっとやってごらんよ。」

思いもよらぬブランの行動に感心したAIキャラは、素早くブランの前に幾つもの鍋を並べて飴を煮詰めだした。

「これを同じように投げてごらんよ。

もしかして橋ができたりするんじゃないかな?」

「そうか、固まったら渡れるかもしれない、全部俺が投げてもいいの?」

「ははは、嬉しそうだね、楽しいね。

もちろんいいよ、そうだ、どうせなら水あめに色を付けてあげよう。

そしたら、虹色の橋ができるんじゃないかな?」

AIキャラの言う通りに、ブランが次々と投げた飴つきの棒は見事に反対の崖に刺さり、飴でできた虹色の橋がかかった。

「じゃあ、私も投げてみようかな?」

AIキャラは棒状に伸ばした飴を、橋の両脇に立つように幾つも投げ、ブランは棒から棒に繋がるよう飴を波打つよう揺らして投げた。


「すごい、すごいよ、何と言うか芸術的だね。

柱にそれを繋ぐ欄干まで、奇麗な網目模様で、君は天才かも知れない。」

「そうかな?

ははっ、適当に投げただけなんだけど。」

褒められて照れているブランに、青いAIキャラが、1枚のカードを取り出して見せた。

「なに?」

「飴でできているからね、そのままだと足にくっつくから、これで魔法の粉をかけてあげるよ。」

AIキャラが持ったカードを大きく振ると、きめ細かな粉が噴き出し、その粉は反対側の崖まで橋全体に降り注いで、遠目に見ていたタクトにも、まるで粉雪のように降り注ぐ美しい景色のように見えていた。


「ほらね、君のおかげで、大傑作の飴細工ができた。

だから、お礼にこれをあげるよ。」

「お礼?

お礼を言うのはこっちだよ?

おかげで飴の橋を渡って、崖の反対側まで行けるから。」

「いや、なに、大したものじゃないから受け取ってくれ、ほら。」

青いAIのキャラが出してきたのは、真っ赤なバラの飴細工だった。

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