039 セツキとチャナの邂逅
「すごい、テリトリーの入り口からこんなに整備された道があるなんて。」
周りは乾いた土の上に背の低い岩が転がっており、その合間に低木、セイタカアワダチソウのような背の高い植物、服につきそうなオナモミ、ひっつき虫などの雑草が生えるばかりだが、その間に幅10mほどの煉瓦の道が長く伸びている。
「それに、この中?
暖かい。」
アンズとハトバはセツキの立つテリトリーに踏み入れた足、その境界線内に入った体前側と、境界線を挟んでまだ外側にある後ろ側では肌にあたる空気に温度差を感じていた。
テリトリー内側に入った体の部分、顔、肩、足などの前半身が温かく、境を完全に超えると全身にその温かさを感じられた。
「そうね、ほら。
こんな風に肩手だけをテリトリーの外に出すと、外に出てる部分と中の部分で温度差があるのがはっきり分かるわ。」
「そうですよね、何だかこちら側だけ生暖かいのは何故でしょう?」
2人の行動を見ていたセツキは、何かしら思いついたように頷いた。
「そうか、私のテリトリーのこの場所は、外部より暖かいんだな、ということは向こうは寒いということか。
俺はここから外に出られないから分からなかったが、だから、お前たちは厚い上着を着てるのか。」
セツキ自身は相変わらずの、白Tシャツに白短パンであるため、なおさら二人の服装を暑苦しく感じている。
アンズとハトバは単に、防御力の高い厚めの皮のジャケットをモブ装備をアップグレードするために身に付けただけなのだが、セツキはそれを見て同情心を抱いていた。
「この道を真っ直ぐテリトリー内を進んで行と、木々や植物が減って、その内周り中が砂漠に変わる。
暖かいというよりは、さらに暑くなる。
だから、そんな厚いジャケットなど着なくても、今までのように寒さに震えることはなくなるぞ。」
「いえ、寒いからこれを着ている訳ではなくて、ですね。」
「いえ、寒さに震えるほどではなくてですね。」
折角の装備を防寒対策ととられていることがわかり、二人は訂正しようと同時に話し出すが、大きな頷きを繰り返すばかりのセツキには、どう見ても届いていない。
「ほら、遠慮せずに脱ぐと良い。
私のように軽装備で十分だ!」
2人は頭を左右に思いっきり振って、体全体で拒否しているが、それもセツキが意識できているかどうか、怪しい。
「そうしたらこの道の先のギルドの塔に行くぞ。
真っ直ぐな道とは言え遠いからな、歩くと丸一日はかかるだろう。
だから、俺のペガサスに乗せてやろう。」
「人の話を聞かない人、、、って?ペガサスですか?」
ペガサスと聞いて、勢い良く振っていた頭を止めた2人の顔に輝きが差した。
「ペガサスに乗せてもらえるんですか?
すごい!モブなのにそんないい思いしていいんでしょうか。」
「ハトバ、モブだからったそんな卑下しなくても。」
「ハハハハッハッハッ、モブだろうが、なんだろうがかまわんさ。
俺のテリトリーに来たんだ、俺が面倒見てやるのはあたりまえだろ?」
二カッと白い歯を見せてウィンクするダンディな男性に、二人は思わず見惚れてしまった。
一度下がったセツキへの好感度は、ペガサスと聞いた二人のテンションと同じく舞い上がった。
「ねえ、やっぱりこの人、いい人ですよね?」
「そうね、まああれだけど、話を聞かない人なんてよくいるし、それよりも面倒見がよくて。
何よりペガサスに乗せてくれるなんて、夢のようだわ、ってゲームならではだったわ。」
2人のひそひそ話の最後を聞き取ったセツキは、ポソリとつぶやいた。
「んっ、ああそうだな、ゲームだったな。」
「それより、モブの二人とも、この遥か先を見てみろ。
この砂漠の真ん中にギルドの塔があり、そこから我が城まで続く道もある。
まあ、これもサポートキャラが俺に断りもなくやったことだが、無駄にするのも忍びないのでそのままにしてある。
塔の次には、君たちをそこに連れて行ってやろう。」
ふふんっと、得意気な鼻息が聞こえてきそうなドヤ顔で、セツキは大きく長い腕で道の行く先を指して見せた。
土の上に煉瓦で舗装された奇麗な道、その先は果てしないように感じるが、目を細めて最果てに思えた道の先を見ると、確かに小さく塔のようなものが見える。
「確かに、遥か彼方に何となく建物らしきものが見えるような?」
2人が陽炎のように見える塔を必死で確認している横で、セツキはいきなり大声を出した。
「おーい、ペガサス、戻ってこい!」
セツキの空に向かって叫んだ声に驚き、あまりの大きさにアンズとハトバが思わず耳を塞ぐと、遠く響いた声のやまびこが返ってきた。
見える範囲に山は無いのだが、声はこだましている。
空の彼方に白い光が現れ、ひかりはこだまと一緒にセツキの元までやってきた。
頭上で止まった白馬は、白くきれいな背の羽を大きく広げ羽ばたかせた。
消えたこだまの代わりに、壮大な曲が流れているように聞こえるのは幻聴か、はたまた挿入曲なのか、アンズとハトバはその姿に圧倒されていた。
「す、すごい、ペガサスだ。」
「本物、いえ、リアルじゃないけど、ここでは本物だわ。」
ペガサスは二人を無視したまま、セツキの前に降り立った。
「ボス、呼んだ?」
「おう、新しい客だ。
この2人を乗せてギルド塔まで行くぞ。」
ペガサスはアンズとハトバを一瞥もせず、セツキに向かってそっぽを向くとそのまま尻尾を向けた。
「やっぱり、ペガサスってプライド高いからモブを乗せるのは嫌なんじゃないでしょうか?」
「うん、そんな感じするわね。」
「いや、こいつは甘えているだけだ。
俺のサポートキャラなんだから俺の言うことは絶対だ。」
「「そうなんですか?」」
サポートキャラ別名ナビキャラと呼んだりするが、その名の通りでテリトリーボスを補佐したり、分からないことがあれば案内したりするが、子分ではなかったはず。
「あのー、でも、嫌がっているみたいなんで。」
「そんな、無理矢理なことはしたくないですし。」
「かまわん、俺がいいと言っている。
分かってるだろ、ペガサス。
お前だって役に立つことがあるんだから、乗せてやれ。」
アンズとハトバが顔を見合わせていると、テリトリーの外からよく知っている声が聞こえた。
「やっと、追いついた!
アンズたちに置いて行かれちゃったかと思って、焦ったわ。
このテリトリーに一番近いログインポイントにいないんだもの。
ヒフミヨイを連れてきて正解だったわ。」
セツキテリトリーの境界のすぐそばまで、ヒフミヨイに先導されたチャナが走り寄ってきていた。
「あ、チャナ!
早かったわね、もう少しかかるかと思ったわ。」
「秒で終わらせました!」
ピースサインと共にセツキテリトリーを越えたチャナは、アンズの後ろのハトバの更に後ろにいる、背の高いマッチョなボディで白Tシャツ、短パンの男性に気がついた。
頭の上にはAIの文字もIDの文字もない。
「えーっと、この薄装備の、男らしい方はどなたかしら?」
何となくわかったような気はしていたが、念のために聞くと男性はニカッと白い歯を見せた。
「俺はこのセツキテリトリーのボスのセツキだ。
何だ、この緑の髪の女性はお前たち2人の仲間か?」
「「あ、はい。」」
チャナは、良く分からないがアンズとハトバはテリトリーボスと仲良くなったんだと、勝手に納得していた。
「ヒフミヨイ、案内有難う、もうアンズとハトバ見つけたから、女神さまのとこに戻っていいよ。」
「やな予感がするから、一緒に行ってやるよ。」
テリトリー線を越えたチャナと一緒に、ヒフミヨイもぶつぶつ言いながらもついてきてくれていた。
「ん?なんだその黄色いインコは?」
「インコ?違いますう。
ヒフミヨイはオウムです!」
「む、そうか、すまんな、どうも小動物のことはよくわからなくてな。」
「ほら、ヒフミヨイには頭の上にきれいな三色の冠があるでしょ!」
チャナが無理やりヒフミヨイの体を持ってセツキの前に差し出すと、セツキは冠羽を見て頷き、「ほう、確かに美しいな。」と感嘆した。
「分かってくれたらいいのよ。
ふふん、お兄さん、なかなか素直じゃない!」
ぶっぷっぷっぷっぷっぷー
いきなり大きな声というより、我慢できずに連続で吐き出した息の音は、セツキとチャナ、そしてアンズにハトバ、ヒフミヨイまでも注目を集めた。
「あ、ごめん、おかしくて。」
声の主は、セツキにそっぽを向いていたペガサスだった。
奇麗な背中の白い羽を小さくパタつかせて、体を微妙に震わせ前足後ろ足を曲げて座り(?)込んでいた。
「ペガサス、失礼だろ?
お客さんのことをそんな風に笑ったりしたら、ほら、この人も乗せていくから、4人乗れるくらいの大きさにだな。」
セツキがペガサスを宥めていると、境界線を越えたチャナが「大丈夫です!」と元気よく答えた。
「私はヒフミヨイに乗っていくので、ね!」
チャナがヒフミヨイにウィンクを投げると、ヒフミヨイは「けっ、」と鳴くと、羽で鼻をこすった。
「もうテリトリーボスじゃないが、代理だからなしかたねーな。
乗せてやるよ。
心配して付いてきた俺も体外大概だしな。」
「照れてるー、可愛い!」
「気やすく触りやがって、まあいい、ほら、どけとけよ。
俺の体の大きさ変えるから邪魔だ。」
チャナとヒフミヨイを横目で見ていたペガサスは、その関係性にピンッときて、馬なので分かりにくいが口角を微妙に上げていた。
「ボス、あのチャナって人、もしかしてだけど。」
追っていた四つの足を立てて、セツキの耳元に口を寄せたペガサスはさらに小さな声で、かすった声を出した。
「元、テリトリーボス、なんじゃないの?
ほら、オウムってサポートキャラっぽいし。
テリトリーから出てるってことは、きっと、攻略されちゃったんだよ、主人公に。
可哀そうに。」
ペガサスの囁きに頷くセツキの目には、緑のフワフワ髪の少女が、少女の元サポートキャラと一緒に精いっぱい強がる姿のように映っていた。




