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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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037 様子を見る

ゲームテスト進行中のタクトは、先に進むブランの背を追っていた。

先ほど気付いたブランのバグについては、本日のログアウトまで様子を見て決めることにした。

これからこのバグがどういう方向に生成されていくのか興味は尽きないが、放置も良くないということは分かっている。


ここまで極端な変化なら、きっかけ、要するにトリガーも分かりやすい。

「一番可能性として考えられるのは、ボステリトリー境界線越え、かな。

それだけじゃなく、いくつかの条件での組み合わせのような気もするけど。」


考えている間にタクトを置いて、岩から岩へと跳ねて、谷間をどんどん前に進んで行くブラン。

「チャナテリトリーでは、俺への嫉妬心が強くなってたような、というか、独占欲か?」

独占欲と言えば、チャナのサポートキャラのヒフミヨイが強そうだった。

独占欲が強いがゆえに、チャナを浮気者呼ばわりして、すぐにこちらに寝返ってくれたのは幸いだったけど。


「もしかして、テリトリーに入るとそこのサポートキャラの独占欲か何かの値に影響を受けるとか?

だとしたら、これから行くボステリトリーではどうしたらいいのか、サポートキャラの性格なんか分からないし。

いや、結論付けるのはまだ早いか。」

結論付けるには情報が足りないため、ブランに聞こうと前を見ると、姿が見えなかった。

「こっちの方が速いか、テレポート。」

タクトの姿が消え、次に現れると猛スピードで進むブランと並んで飛んでいた。

同じ方向に同じスピードでブランの顔の横を飛べるチートヒヨコなタクトには、ブランがどれほどのスピードを出しても全く問題にならない。

「ブラン、何から解放されたって?」

いきなり隣に現れたタクトに話しかけられたが、ブランに全く動揺は見られない。

「あれ、かなり後ろにいると思ったのに、いつの間に?

さすがタクト!

えっと、解放だっけ?俺そんなこと言ったっけ?」

「境界を越えたときに言ってたよ、ちゃんと聞こえてたから。」

とぼけた振りをされても、タクトはブランがちゃんと自分の言ったことを認識していると確信している。

人の記憶と違ってAIは無意識の発言はしないし、発した言葉を忘れるということはないからだ。


「すごく興味あるんだけど。」

上空高く飛んだブランは走り幅跳びの着地のように、次の岩の上で足を微塵も動かさずに着地した。

同様にタクトもブランの肩に見事に着地して見せた。

「俺に興味あるの?」

「そう、だから何から解放されたのか知りたいと思ってるんだけど。」

ブランが着地した岩の下で惰眠を貪っていただろう小さな生物たちが、突然の岩の大きな揺れに耐えかねて四方八方に散っている。

その小さな生き物を見ながらブランはニッと笑った。

「なんだと思う?」

可愛らしい笑顔で笑うところはそのままなのだが、性格まで変わったように思えるのは、やんちゃ気質を足したせいかもしれない。

「まず分かるのは、俺への態度だな。

チャナテリトリーをクリアする前まで、あんなに甘えてくれてたのに、今は全然それが無くて早い独り立ちのようだよ。

だから、俺から解放されたってことかな?」

ブランは盛大に笑った。

「当たった!すごい、そうだよ。

俺は、タクトの後ろに隠れる必要がなくなったんだ。

けどそれは半分。」

「半分、そうなんだ?

俺以外に、ブランが縛られているものってあったっけ?」


「テリトリーをクリアしたら、元の世界の友だちのことを思い出したんだ。

あと、その世界の誰か、人か神様かも分からないけど、空から聞こえたその声も思い出せて、温かい気持ちになった。

俺は、自分の世界を少しだけ思い出して、自分が何か分からない不安から解放されたよ。」


「ああ、そうか。」

本来は、”自分が何者か分からない不安”だけから解放されるはずが、メインプレイヤーからも解放された気になっているってことだ。

神様ではないけど、別のゲームではプレイヤーの声が主人公に届いていた瞬間があった。

テリトリークリアという条件の下で解放される領域、ブランがアクセスできるようになるデータ範囲(記憶)、ようするに前の世界の記憶。


「領域線がクリアされることでデータ範囲と領域線のどこかで不整合を起こしたのかも?」

「タクトが何言ってんのか分からないけど、他にも思い出したことあるよ。

空から聞こえた声はタクトの声によく似てたってこと。」

「っつ、俺の声に似ていたことを思い出したのか?

もしかして、俺の過去のプレイデータを使って設定したのかな?」


もしかしてバグの原因は、攻略済みデータのキャラの使い回しによるものかもと疑うタクト。

けど、それはそれで、転生設定のキャラクターなんだから、バグと言わなくてもいいかもしれない。

ただ、これがプログラム的には意図的な動作ではないから不具合となるだけで、仕様不具合とすれば、プログラムではなく仕様の変更ですむ。


「都合の良い考え方かな?

本来なら、主人公のメインプレイヤーからの解放(親離れ)というのはあってはいけない。

から、仕様不具合だけで済む話でもないのかな?」


ポンっと両羽を叩いたタクトは、ブランの頭の上に乗ると羽で銀の髪を撫でた。

「そうか、神様の声と一緒か。

自分が何者か分かって、前の世界で俺みたいな声の神様がいて?

もう、この世界の俺に固執する必要がなくなったってことかな?」


「そうだよ、だから俺は解放されて、自由にやっていいんだ。」

岩を勢いよく蹴ったブランは次に着地した岩を蹴って、また先へ先へと進んで行く。

「そうか、自由か。

解放されたら、自由になる。

それはそれで合ってると思うし、それが本当の自由なんだろうな。」

「違うの?」

「どうなんだろう?逆パターンを知ってるもので。」

「逆パターン?なにそれ?」


「本来は自由なはずなのに、自分から何かに固執して解放されない人もいたって話。」

ブランが先に進むのをやめて止まったのは、ちょうど谷間の切れ目、下にさらなる崖が広がる場所だった。

タクトの言葉を考えているのか、どう進もうかと考えているのか崖下を睨んで考え込んでいる。


ブランと一緒に崖下を覗き込むタクトは自身の兄が言っていた言葉を思い出した。

ブランに伝えた逆パターンを行っていた人でもある。


ー俺は、お前という存在から解放されたいんだよ。-

ー俺の前を歩かないで欲しい。-


そんな風に、相手に縛られるというか自分の前に人がいるという気持ちはタクトには理解し難かった。

自分にできる事はやってやろうと、兄の望みは叶えた。

両親の望みで入った音大から、別の道を進んでその後は疎遠にもなった。

結局、タクトが目の前から消えた後で本当に解放されたのかどうかは、本人に聞いてみないと分からない。

最後に見た兄の顔からは何も読み取れなかった。


タクトに乗れば1日でヨウキテリトリーに着く距離でも、この調子でブランが自力で進むなら着くのに、少なくとも3日はかかるだろう。

「俺が近くにいてもずっとその自由な解放気分というのは変わらないものかな?

もう少し、様子を見るかな。」


ーーーーー


「このカードと変えてください。」

小さなおかっぱ頭の可愛らしい女の子に差し出されたカードを見て、チャナは見覚えのあるカードだと思った。

頭の文字がAIなのかIDなのかモザイクがかかってはっきりしないのは気にしないことにしたけど、と考えこんでいるとハトバがそのカードを受け取ってしまった。

「このカードって、かなりレアアイテムですよ!

何と交換したらいいかな?」

「じゃぁ、ハトバが持ってる、トンカチカードで良い。」

「ほんと!ありがとう」

ハトバがトンカチカードを渡して、手に入れたカードを喜々としてみていたが、んっと首を傾げた。

「あれ?今の女の子、ボクの名前も持ってるカードも何で知ってたの?」

ハトバが周りを見回したときには、女の子の姿はすでに無く、横では首を捻っていたチャナがやっと思い出したと大きな声を出していた。

「そうよ、カード交換。

ちょっと前に私が持ってた果物籠と交換しようって言われたアイテムカード、それよそれ。」

「えっ!そうなんですか?

何で交換しなかったんですか?

このカード、うまく使えばテリトリー守れたかもしれないのに。」

「ふーん、そう言えば、果物屋さんのお姉さんもカード見て、良いとかなんとか言ってたかも。

でも、あの時はヒフミヨイを誘い出すことの方が優先だったし。」

頬を膨らませたチャナがそっぽを向くと、ハトバは困ってアンズを見た。

「このカード、交代カードよ。

こんなカードをよく交換してくれたわよね、怪しくない?」

「そう言えば、突然現れて、俺のこと知ってて、俺の手持ちカードも知ってて、これって、あれじゃないですか?」

アンズは深く頷いた。

「私もそう思う。」

「「小リボンチームが何か企んでいる」」

2人の声が揃ったところでチャナを見たが、頬を膨らませたチャナは当にどこかに行ってしまっていた。

「これは、俺が持っててもいいんでしょうか。」

「多分チャナに渡せってことだと思う。

これ、渡さなかったら、ここでもリアルでも、ちょっと怖いことになりそう。」

「そうですよね。

何が何でもチャナさんに譲渡さないとって、このゲームのルールって絶対的な物々交換ですよね、どうしよう。」

「オロオロしないで、今アイテム0のチャナに何か入手してもらうのが先でしょ。

せっかくだから、他テリトリーに行こうって誘って、途中で何かゲットしてもらうとか。」

「そ、そうですよね。

タクトさんたちは、ヨウキさんのテリトリーに向かったみたいだから、そこはとりあえず避けましょう。

よく知りませんが、セツキテリトリーってとこに行ってみませんか?」

「私も賛成。

そのテリトリーの様子も知りたいし。」

「そうと決まれば、このお茶会を解散させて、チャナさんを説得して。」

アンズとハトバが慌ただしく動き出すと、AIキャラクターたちがそれに合わせてチャナが座る席までの道を広げた。

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