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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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036 シキとヨウキ

自動ドアの中で席が空くのを待って座っている人たち、その中にアオバの見知った顔が3つあった。

その内椅子に座っている2人と、その前で2人を見下ろしてるもう1人、後者がヨウキ。

「なるほど、あの顔ぶれはヨウキさんでも困るか。」

システム室から出たアオバはシキが言っていた”ヨウキが困ってるかもしれない現場”が見える場所に来ていた。

オフィスの1階にあるショールームに隣接する店の入り口付近はガラス張りで、だから外から中の様子が見える。

そう、ゲームテスト前にオフィス近辺で会った、アオバには碌な印象が無い2人の男性。

「俺とシキさんの区別がつかないセツキさん。

と、何故か俺の次にヨウキさん、の次にセツキさん。

に付きまとうようになったフワフワ茶髪の人。」

その2人に対して、と言うよりは主に1人に対して、困っているというよりは、もっと珍しい姿。

「イラついて、と言うより本気で怒っている?」

何を話しているのか分からない、でも、確かに怒っているのが見て取れるヨウキにアオバは好奇心をそそられる。

「いや、あの2人、絶対面倒くさいんだ。

あの2人には、関わりたくはないんだけど、でも、ヨウキさんがあれだけ怒ってるってことは、確実にシキさん絡みだ。

だから、シキさん絡みなら仕方ない。

そう、仕方ないから。」

自分で自分に言い訳をしているうちに足が進んで、お店の自動ドアの前に立つと当然のごとくドアは左右に開いた。


自動ドアが開く前に店の前に立ったアオバを見たヨウキは、驚きのあまり大きく目を見開いた。

いつもなら気配を殺して決して自分からは近づいてこないアオバが、わざわざこんな面倒だと分かる2人がいるところに来たのだから無理もない。

店内に入って数歩先にいるヨウキと目が合ったアオバは多少の背徳感を無表情で繕った。

「ヨウキさん、何かこの世のものじゃない物を見た顔になってますよ。

俺を見てそんな驚き方するなんて、失礼じゃないですか?」


片手で顔を覆ったヨウキは、顔を撫でてその手を下ろした。

「アオバ、おまえ、分かってそんなこと言ってるだろ。

自分から進んで俺のとこには来ないし、しかもこんな面倒なのが2人もいる。

そんなところに自分の意志で来てるところなんて初めて見た。

俺が驚くのも計算してたな。」

コテンと首を傾けるアオバ。

「もしかしなくても、シキから何か聞いただろ。

それで確認(傍観)するだけじゃなくて、こちらに自分の意志で来たってことは、シキ絡みで何か話してると思ったからだろ。」

怒ってる姿もそうだが、困惑しているヨウキの姿もとても珍しい、しかもいつもと違って自分は歓迎されていないと感じたアオバは、ふっと小さく笑う息を吐いた。


「なんだ、シキ、やっぱり来たのか、兄さんに会いたかったんだろ?」

自分の前に立つヨウキに半分隠れてアオバが見えなかったのだろう。

セツキは、また、170cm前後の身長の黒髪黒縁眼鏡で白衣っぽい上着を着ているアオバをシキと間違えている。

目の前のアオバの薄ら笑いにヨウキは全身に鳥肌を立てた。

「シキさんに間違われて悪い気はしませんが、俺はシキさんじゃないです。」

ヨウキの隣に立ったセツキは、目の前の人物をシキだと思い込んでいるので何を言っているのかと首を捻った。

アオバの否定、聞こえたはずだが人違いにまだ気がついていない。


「アオバ君じゃないか。

久しぶり、一緒に食事どう。

後、30分くらい待つみたいだけど。」

セツキの横に座っていた茶髪のフワフワ頭のお兄さんが、片手を上げて呼びかけている。


「いや、アオバも忙しいんで30分も待てないから。」

アオバの肩を抱いて回れ右させたヨウキは、そのまま店外に押し進んだ。

「いいんですか?

あの2人なんか叫んでますけど。」

「いいよ別に、こっちが気にすることでもないだろ?

2人で待ってるところに、いきなり1人増やすって。

テーブル調整している店の人にとっても、後ろで待ってる人にとってもいい迷惑だし。」

「そうですね、どちらにしろ、あの2人と一緒では、こちらに利はありませんし。」

「そうだな、アオバと同席なんて、向こうが得なだけだな。」

お店に隣接したショールームの前を歩き、アオバに振り払われた腕を頭の後ろで組む。

ショールームのガラスに映る人々の中に、自分の隣で笑いをこらえているアオバの姿を見つけ、ヨウキの口角は知らずに上がっていた。

「あの2人の迷惑行為もたまには役に立つってことかな。」


「それじゃ、俺、システム室に戻るので。」

オフィスに戻ろうとするアオバを引き留める手段は1つだけだろう。

「シキと俺たちの昔の話、子どもの頃の話でもしようかと思ったけど、本当にシステム室に戻る?」

表情が抜けたアオバの後ろに、スンッとした文字が大きく見える気がするが、そんなことを気にするヨウキではない。

と言うより、織り込み済み。

「どうする?」

「そんなキョトンな顔しても、俺が断らないことを織り込み済みで聞いてるってのは、バレバレです。

本当に、あざといですよ。」


そして、個室のある日本料理店に連れてこられたアオバ。

「ここなら、他の奴らにばったり出くわすこともないし、誰にも話、聞かれないしな。」

機嫌よく割り箸を割るヨウキに、確かにそうだけど、だまされたような、負けたような気分を味わっている。

「シキがまだ幼年の頃なんだけど」と、話を始められて割った割り箸をヨウキから渡されたら、反射的にアオバは受け取るしかない。

シキの幼年の頃の話を遮ることは絶対にしたくない。

「シキは幼年と言っても年長クラス、俺は小学生で、奴は中学生、ショウキ兄さんは高校卒業、それくらいだと思ってくれ。」

受け取った割り箸を両手に携えたまま、頷くだけで目の前の料理に箸を付けないアオバを見たヨウキは、目の前の食事を「食べて」と手で促した。

アオバが、小鉢に箸を付けると、ヨウキはゆっくりと話し始めた。


「シキは1つのピースがかなり小さめの2000ピースのパズルをやってたんだ、1人で。」


ーーーーー


遊んで帰ってくると居間のテーブルに完成間近のパズルと、それを目の前に黙々とピースを繋げる、小さな弟を見つけた。

「へー、2000ピースのパズル一人でここまでやったのかすごいな。

あれ、でも俺が外に行ってきます、したときには、こんなの無かったよな?」

ヨウキがのぞき込むとシキは手に持っていた残りのピースを見せてくれた。

「ヨウキ兄ちゃんが行ってきますしてから、お父さんがくれたから、そしたら作った。」

「ああ、お父さんと一緒にやってたんだ。」

シキはキョトンとした後首を振って、たどたどしく人差し指をヨウキに向けた。

「えっと、お父さんじゃなくて、シキが1人だけでここまで作ったの?」

頷くシキを見て、口を大きく開けたヨウキ。

「すごい、俺昼ごはん食べて遊びに行って、おやつ食べに戻ってきたから、えっと、」

ヨウキが時計の針を見ながら、自分の指を曲げて数えると、3時間ちょっとしか経っていない。


その間もシキはパズルをはめ込んでいる。

「あと、5つで終わる。」


そこに、セツキが帰ってきた。

「シキ、こんなとこにいて何さぼってんだ、ほらこい。

庭でバットの素振りの練習しとくように行ったのに、全然使った形跡ないし、俺が一緒にやってやるから。」

セツキに腕を掴まれたシキは残り3つとなったピースを畳の上に落としてしまった。

「セツキ兄さん、待ってよ、ほら、シキすごいんだ。

あと、3ピースで完成だ。」

得意気にヨウキが、散らばったピースを集めてセツキに見せたのは、「きっと、セツキ兄さんもシキをすごいと思うはず。」と子ども心に思ってのことだった。

だけど、まったく逆の反応が返ってきた。

「は?何がすごいんだ?

あと3ピースなら、誰だってはめれるだろ?」

ヨウキの手から3つのピースを拾い上げたセツキに小ばかにした顔を返され、自分が想像した態度とは真逆なその態度に焦りと怒りを感じた。

「違う、全部シキ1人でやったんだ。

しかも、3時間くらいで!」


「はっ?幼稚園児がこんな短時間でできるわけないだろ?

どうせ、父さんかお前が手伝ったんだろ?」

「違うってば、本当にシキだけ、」


「全部やったっていうんなら説明してみろ、シキ、どうやってやったんだ?」

「えっ?

セツメイ、えっと、ここの」

突然自分に向けられたシキは、パズルを指してたどたどしく答え始めたが、セツキはため息をついてシキの隣に座るとパズルを指す指を握った。

「違う、指をさすな、口でちゃんと説明しろ。

やったことを説明できないならやっとことにならない。

例え、自分のやったことでも説明できないと理解できたことにならんだろ?

だったら、ただのまぐれでできただけってことになる。」

セツキの最もな(と、その当時は思えた)言い分に頷いたシキを、ヨウキは心の中で「頑張れ、言える!」と応援してしまった。

シキは本当に、一所懸命に考えて声を出していた。

「えっと、最初はえっと。

あの、父さんがパズルをくれて、あっ、絵がきれいだったから、すぐに開けて。

んっと。」

3分ほどシキの説明を聞いていたセツキは、もう、無駄だとばかりに自分の持っていたいピースをパズルにはめだした。

「もういい、ほら、3つくらい誰だってできるんだから。

本当に、俺が手伝ってやらないと、なんにもできないな。」

「セツキ兄さんが、手を出したらだめだって。」

「ほら、完成したろ?

本当に何やらせても駄目だな、」

シキは最後のピースをセツキがはめるのを黙って見ていたが、ヨウキはそうではない。

「と、途中からきて、最後だけ手だして、最低だ。」


「何言ってる、シキのためにやってるんじゃないか。

こんな誰でもできることができないから、ダメなシキの代わりに俺が代わりにやってるんだよ。」

「誰でもできる?

そうか、俺がやってることは誰でもできるんだ。」


ーーーーー


「そんな感じで、おいしいとこ取りしてるだけのセツキを、シキは妙に感心していて。

当時の俺は言葉でも体力でもセツキには叶わないし。

反発だけ強めていったって感じかな。」


「セツキさん、最悪ですね。

そして、年長の頃のシキさん。

全てのピースの角度と絵の位置を把握しなければ、そんなスピードでできないですよね。

天才ですね、いえ、天才+天使すぎましたね。

それが原因ですか。」


「まぁ、似たようなことがショウキ兄さんが帰ってくるまで続いて、俺は後悔ばかりだよ。」

「ははっ、ヨウキさんが弱ってる。」

笑い声を出してはいるが、顔は笑っていないアオバ。

「何かデザート食べる?」

「いえ、近くで俺とシキさんの分を何か買って帰ります。

・・・ヨウキさんも一緒にシステム室に戻るなら、おごってあげてもいいですけど?」

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