032 レンタルテリトリー
「あら、テリトリー線が一つ消えたみたい、緑色だからチャナテリトリーね。」
黒い玉座の重厚なひじ掛けにもたれ足を組んで座り、暇つぶしに遊んでいた地球から突然緑の線が消えたことに気づいたココアは真っ赤な唇の口角を上げた。
「ふふふ、なんて都合のいい展開。」
白い礼服姿に黒いマントを玉座に広げ、背中で緩く結んだ癖のあるオレンジ色の前髪を片手でかき上げるココア。
「「「ほうっ」」」
ココアの強い視線を受け、感嘆とも、喜びとも、服従とも思われる、漏れた息が玉座の間に広がった。
玉座の下で控えている黒い服のメイドとギャルソン、加えて黒服タキシードの執事に、黒マントを羽織った騎士たちが羨望の眼差して、一つの仕草も見逃すまいとココアを見つめている。
朝も昼も無い黄昏の国と化したココアテリトリーにて、さらに癖のあるAIキャラたちがココアの城に十数名集まっていた。
「チャナがモブ落ちしたってことね。
じゃぁ、次は、主人公をモブ落ちさせて、こっちの世界に引き込まなきゃ。
皆と戯れてもらわなきゃ、楽しみ。」
玉座の間にある鳥かごの前で、AIタランチュラたちと戯れていた黒いストレートのおかっぱ頭の幼女姿をしたニコが、純粋無垢でそこはかない笑顔を見せた。
セリフが違えば、おもちゃで遊んでもらっている座敷童が純真無垢な笑顔を向けているように見える。
「と、言うことは、チャナは境界線関係なく移動できるようになったということね。
いつでも、どこでもカードが渡せるチャンス到来ね。」
白い手袋をはめた指にフイッと出現させたカードを挟みニコに向かって弾くと、ニコは難なくカードを受け止め、最上の笑顔をココアに向けた。
「うん、じゃ、届けてくる。
解釈違いだって、ココアに理解してもらいたいしね。」
その挑戦受けて立つわと言わんばかりの強い目力をニコに返すと、座ったまま玉座の下に置いている黒い鳥かごをさし、クイッと指を動かしてリモートで籠の扉を開けた。
「カーラを使って、蝙蝠姿じゃ乗りにくいと思うから、そうね白いカラスがいいわ。」
突然開け放たれた扉から急いでバタバタバタと蝙蝠にあるまじきを煩い羽音ならして、城の天井まで飛んだカーラは不満を漏らし始める。
「ケケッ、ここまでは届くまい。
誰がカラスになるかって、蝙蝠がカラスになるなん・・ ダッシュッ、グイッ、、ヒュー、スタン。
カーラが拒否の言葉を言い終わる前に、黒いメイドがギャルソンの組んだ両手に足を賭けてバネ替わりに飛びあがり、天井から吊るされたシャンデリアに逆さまに止まっているカーラを捕まえていた。
着地した黒い服のメイドはココアに向かってカーテシーを行った後、カーラの両羽根を両手で掴み、伸ばせるぎりぎりまで左右に引っ張った。
「ココア様のお言葉は絶対です。
あなたが痛みを感じないのは分かっていますが、このまま羽を引っ張って千切るとネズミに差し上げてもよろしいんでるよ?」
震えるカーラに襟元を正して近づいてきたギャルソンがカーラの体ぎりぎりまで唇を寄せて囁く。
「白い実験用のマウスと、白いカラス、どちらが良いか早く選ばれた方がよいですよ。」
「ひぃぃぃぃ。
か、カラスでお願いします。」
カーラの悲鳴を聞いたニコは、モフモフとしたタランチュラを肩と頭に乗せて立ち上がって、フレアスカートをはたくと、黒いメイドとギャルソンを「メッ」っと叱った。
「もう、カーラをいじめないで、この子も私が作ったんだから。」
叱られたメイドとギャルソンは瞳を喜びで揺らし両手で鼻と口を押さえ、その周りにいた騎士たちは二人に羨望と嫉妬の眼差しを向けていた。
ニコがメイドに両羽を引っ張られているカーラに優しく手を伸ばすと、白い蝙蝠の目からは一筋の涙が流れた。
「うう、ニコ様、あなたの為ならカラスにでもハゲワシにでも、なんにでもなります。」
「ふぅ。」
ニコの小さな手に抗うことはできず、黒いメイドは瞳を揺らして仕方なくカーラをゆっくりとニコの手に乗せたが、手を離した瞬間にカーラは目を光らせわざと羽の途中についている手の爪でメイドの手をひっかいた。
もちろん、ニコには背を向けてそのワザとらしい、憎らしい笑みは見せていない。
「あ、ご、ごめんなさい、当たっちゃった、テヘッ。」
「ふふふ、大丈夫ですよ。」
ニコとカーラ間の温度と周りの温度にだんだん差がついていき、黒いメイドとギャルソンの背中には木枯らしが吹いている。
ーーーーー
同時刻、チャナは自分のチャナテリトリーが消失したことに愕然としていた。
小さなヒヨコに戻ったタクトが羽の上に浮かべた地球上には、確かに、チャナテリトリーを表す線が無くなっている。
「そ、そんな、そういえば、そういうルールもあったような。
というか、そういうゲームでしたね、お茶に夢中で忘れてました。
やっぱり私って、ダメな子。」
ガックシと力尽きたチャナは、足元から崩れ落ち、両肘、両膝、そして頭を地面につけて落ち込んでいる。
「うう、ヒフミヨイのまさかの裏切りも。」
それにはヒフミヨイはすぐさま反論した。
「けっ、何言ってやがる、お前の方がさきだったろ。
何が、推すーーーだ!」
「だって、しかたないでしょ?キラキラ銀髪の美少年よ?そこに大きなヒヨコよ?
主人公とモフモフなのよ?
誰だってふら~ってなるでしょ?」
「だから、そんなことしてたら、すぐ先が読めるだろ?
その美少年たちから、「その黄色くて奇麗で可愛くて賢そうな鳥を、ちょうだい?」なんて上目遣いに言われたら、ホイホイ渡すんじゃないか?
えっ、どうだ?」
「ひ、否定できない。。。」
「ほら見ろ!
引き渡されるくらいなら、自分からこっちに来た方がマシってことだ。」
普通に考えれば、他人にどうこうされるより、自分で先手を打つことを選ぶだろう、自分の迂闊な言動がヒフミヨイに即決に砂がったと改めて気づいたチャナは地面につけていた頭を上げた。
「うう、ごめん、、、ん?」
頭上にいるヒフミヨイを見上げつもりが、その手前にある地球が目に入り、自分のテリトリー以外の線がまだ存在することに気がついた。
「あれ、他の3つのテリトリー線があるってことは、一番に私のテリトリーが攻略されたってこと?」
間をおいてチャナはあることに思い至った。
「あっ!やっぱり簡単に攻略できるから、タクトさんは一番に私のところに来たんですね。
最初から勝てる気はしてなかったけど、一番っにって早すぎます。
せめて、お茶のお店のフランチャイズとかチェーン店をテリトリー内に広げてからにして欲しかったです。」
半泣きになったチャナは、再び地面に付けたおでこをさらにめり込ませている。
「うーん、そういわれると悪いことしたかな。
ただ、簡単に攻略できると思ったわけじゃないからね?」
「違うんですか?」
「チャナは俺にとって理解し難い人の一人だから、予想できないことで逆転されるのが怖いってのがあったから最初にしたんだけど。
そこまで落ち込まれるとは思わなくて、ごめん。」
タクトからの思わぬ謝罪の声に地面につけていたおでこを上げると、目の前で小さなヒヨコが足を隠してちょこんと座り、頭を下げている。
「かわいい、へへっ。
じゃなくて、私がタクトさんの脅威になってたってことですか?」
「まあね。」
コテンと首を倒したヒヨコを見てチャナが悶えだすと、顔に鋭いケリが入り、さすがのチャナも本気で怒った。
「ヒフミヨイ!顔に何てことすんのよ!
せっかくかわいいアバターにしたのに!」
「怒るとこ、そこか?」
本気で怒っているチャナを前に、本気で呆れているヒフミヨイ、二人のことを他所にブランはタクトに手を伸ばした。
「タクトもだよ、何で地面に這いつくばってるお姉さんに合わせて、目の前に座って、かわいいとか言われてるの?」
チャナがヒフミヨイの首を両手で締めると、ブランはヒヨコの頭を鷲掴みにして持ちあげた。
優しく素直で、ちょっと泣き虫な友だち思いだが、少し思いもよらぬことをするやんちゃな少年、の位置づけのはず。
まぁいいかとタクトは目を細く瞑り、ブランに頭を鷲掴みにされたまま好きなようにさせているヒヨコ。
周りではそんな4人?の掛け合いを気にも留めないAIキャラの街人たちが、道の真ん中にカフェテーブルを移動させて、お茶の準備をしていた。
「ブラン様、ヒヨコ様も一緒にどうぞ、お菓子も用意しましたよ。」
「ヒヨコ様?
俺のことか、って、道の真ん中を塞いでお茶会って、普通じゃないよな。
道路、街道、環境認識のバグか?」
AIキャラたちの非常識な行為はバグだろうとタクトが疑っている反面ブランは、街の人たちに取り囲まれた状態に戸惑っている。
「なんで急に見ず知らずの人とお茶会って。
いいよ、お茶会なんて、さっさと次に行くから。」
AIキャラたちは、イベント変更ごとににデータが更新されて、行動パターンを変えていくが、主人公にとってはその変化の意味が分からない。
「そう、そうだよな、これはこれで、柔軟性が必要なのかな。」
「柔軟性ですか、そうですよね、そうしたらお城にお届けしましょうか?
ほら、子どもたちが届けてくれますよ。」
カフェテーブルの周りでは、お菓子いっぱいの籐の籠を、頭の上に担いだ子どもたちがワイワイと駆け回っている。
「お城?俺はお城になんて住んでないよ?」
「いえいえ、ここの城主はブラン様ですよ。
茶畑を超えた丘の上に立つ白いお城が小さく見えますでしょ?
あそこが城主様のお城です。」
数人が遠くに小さく見える白い色の城をさしている。
更に困惑するブランに、テリトリーボス変更後の主人公とAIキャラとの整合性の悪さを感じたタクトはブランに提案を行ってみた。
「テリトリーボスの城には、便利な女神像がいるんだけど、それに頼んでチャナを城主代理に任命してみたらどうかな?
テリトリーとサポートキャラをチャナに一時的に貸し出せばいい。」
「レンタルってこと?そんなことできるんですか?」
タクトの提案に一番驚いているのは、元テリトリーボスのチャナだった。




