031 モブ落ち
入手したアイテムカードを早速剣に変えて握ると、グリップが妙に手に馴染む。
更に、鞘をつけたままの剣を上下左右に振ってみると、見た目より軽く思ったように振り回すことができた。
「何だか、始めて持ったって感じじゃなくて、自由に動かすことができる。」
何故かと戸惑いを見せながらも、飛ばしてしまった木の棒の代わりにソードホルダーに剣を装備した。
「すごい!かっこかわいい!さすが主人公!」
「素振りも様になるー!」
「アンコール!今度はその岩を切って見せて!」
ティラノザウルスが消失し、広くなった巣穴の周りを飛び跳ねていたウサギたちから、思いもよらぬアンコールの拍手を送られたブランは頬を染めた。
「だから、俺の名前はブラン、だってば。」
照れながらもアンコールの期待に応えるべく、ブランは腰の剣を抜き、3mほどの巨大な岩を蹴って飛び上がると、真っ直ぐに剣を下ろした。
ブランが着地すると同時に、巨大な岩に亀裂が入り、左右に分かれた。
「おおおおおおおおおお」×ウサギの数
ウサギの大きな歓声が後ろから聞こえる。
この一連の動作、鞘から剣を抜き、岩を切って、そして剣を鞘に納める動作にまったく違和感がない。
どころか、何も考えずとも自ずと体が動く。
ブランは剣を持っていた手を広げ、これが”剣士”の感覚なのかと聞こうとタクトを振り向くと、自分を見守っていると思っていたタクトは大勢のウサギの前で合唱の指揮をしていた。
「何してるの?」
「ああ、このウサギモンスターたち、同じことを言うと声が揃うから、どこまで揃うのかと思って合唱を試してた。
コンマ1秒以下の狂いも無いから、1つの声に集約されて音の大きさだけ拡張されているのが面白い。
これはこれで、有りかもしれないけど、リアルではありえないからプログラム感が出てしまうかな?
複数いる場合は多少のブレを出した方が自然か、、、。」
自分を見ていなかったことにイラつきを覚えたブランは、ブツブツと考え出したヒヨコを強引に掴んで自分の肩に乗せると、ウサギたちに背を向けて歩き出した。
「どうしたんだ?」
ブランの顔を羽で撫でると、フイッと反対方向に顔を逸らされてしまった。
「何でもないよ。
先を急ごうと思っただけ、チャナテリトリーのボスに会うんだよね?」
「ああ、そうだな、チャナを見つけないといけないな。」
足元を跳ねていたウサギたちは、二人の会話を聞くと顔を見合わせてひそひそと話しだし、代表で黒うさぎが手を挙げた。
「ボスはねー、今あまり城に居なくて。
今日とかは、城から茶畑を抜けた先の城下にある街にいると思うよ。」
耳やひげをピクピクと動かし可愛さアピールに余念のないうさぎに、ブランはそっけなく答えた。
「そうなんだ。」
「あのね、あのね。
ボスと仲間たちは茶摘みをしてすぐに街に行って、茶葉を作ってもらってるんだって。」
「仲間もいるのか、分かった、ありがとう。」
醒めた目で見ているブランの代わりにタクトが手を振ると、ウサギたちも一斉に手を振り返した。
「気を付けてねー。」×ウサギの数
「頑張ってねー。」×ウサギの数
「また遊びに来てねー。」×ウサギの数
ウサギたちの声援に送られて、足早にその場を去ったブランは岩山を迂回し森を北側に抜けた。
「ここからどっちに行けばいいのかな?」
「山へ向かうなだらかな道か、丘を登るか、丘沿いの下道をいくのが正解か、こういう時はマップだな。
マップオープン。」
ブランの目の前にチャナテリトリー内だけを拡大した地図が現れた。
「岩山の周りの森を抜けたところがここだから、城から一番近い街までのルートは。」
タクトが羽で現在地と目的地を設定すると、最短ルートが地図上に点線で表示された。
「案外近いな、丘沿いの下道を行って、別れ道で丘と反対方向に進むと街がある。
しかし、城の周りの茶畑が広すぎないか?」
「この城の周りの緑のとこ、全部葉っぱのマークがついてるってことは、全部茶畑?」
「そうみたいだ。」
応えたタクトの目から目を離さずに見続けるブランの視線が妙に痛い。
ウサギモンスターと別れてから、何度も感じるもの言いたげなブランの視線が妙に心に食い込んでくる。
「えっと、やっぱり何か怒ってるかな?
俺が見てない時に、ウサギモンスターが何かしたとか?」
「ううん、タクトもウサギモンスターも何もしてないよ。
それより、街まで背中に乗せて飛んで欲しいけど、いい?」
小さな声で言い終わると俯いたブラン。
遺跡の中でも、岩山でもまったく頼ってこなかったブランが、初めて、自分から乗せて欲しいとタクトを頼ってきたのに断れる訳が無い。
自分がヒヨコの姿をしているのにも関わらず、雛に頼られた親鳥の気分を味わいながら、タクトはブランに向けて羽でピッと親指(?)を立てて見せると、羽を広げて体を大きく変化させた。
「もちろん、いいに決まってる。」
背中に乗ったブランは両手をヒヨコの首の後ろから前に回してギュッと抱きしめた。
「やっぱりタクトのモフモフが一番だ。」
やんちゃ系を少し加えてもらったけど、執着系は無かったはず。
15歳の子どもはこんなものなのかなと、タクトは首を絞められたまま空に舞い上がった。
一気に丘を越え、平原を越えると賑わっている街が見えてきた。
中でも、街の中央にある大きな噴水の周りが特に賑わっており、人だかりの中心には緑のポニーテールをした目立つ女の子がいた。
「井戸から噴水に進化よ!
奇麗な水が出るから、お茶を沸かすには持ってこいだし!」
もちろん、その中心にいるのはチャナだ。
「チャナ姫様、あそこ見て!
お空の上を大きなヒヨコが飛んでるの。」
「えー、ヒヨコは空を飛ばない、の、あっ。」
小さな子どもの言うことなので、まったく本気にしてなかったチャナだが、空にあるその姿を見てアッと口を開けたままフリーズしてしまった。
「んっ?見つけた。
あの緑色のフワフワポニーテールの、おてんば姫風なのがチャナだな。」
「緑の髪の?
あの噴水の真ん前にいる子?」
「そう、降りてみようか。」
人だかりより少し離れた場所に降りたヒヨコからブランが降りると、我に返ったチャナが人だかりをよけて走ってきた。
「うわ!主人公だ!
それに、ヒヨコはタクトさんですよね。
どっちも可愛い。」
チャナには初めて会うのに、かなり親しげな態度をとられたブランは狼狽えて、思わずヒヨコの後ろに隠れてしまった。
「あ、隠れちゃった、それも可愛いからまあいいか。
せっかくだから、タクトさんをモフモフさせてください!」
嫌だという前に、両手を広げてタクトに抱き着こうとしたチャナは、首先に冷たいものを感じて飛びのいた。
「な、何!?」
「タクト、このお姉さんと知り合い?」
醒めた声でタクトに問うブランは、鞘から剣を取り出して、タクトとチャナの間に割り込ませていた。
「け、剣?切れちゃうとこだった、危なー。」
ブランのこの態度は、怒っているというか、これは焼きもちだろう。
「このテリトリーのボスで、まあ(中身を)知ってる人ではあるよ。」
「えっえっと。
モフモフ?」
狼狽したチャナが手の先を羽を触っている感触を表すようにワシャワシャと動かすと、ブランの醒めた瞳に鋭さが増した。
「テリトリーボスってことは、タクトを奪おうとしてるってこと?
だめだよ、これは僕のだから。」
剣をブンッと一振りして鞘に戻すと、タクトを庇うように前に立ち腕を広げた。
「だ、こっ、から!
かっ、かわかっこいいーーーー!
推すーーー!」
「「だめだよ、これは僕のだから」というセリフに感動して、言語障害が発生したんだな。」
チャナの頭上を飛んでいた羽が黄色で尾の長いオウムが、不機嫌な声でチャナの今の行動に解説を入れた。
「あ、ダメじゃない、ヒフミヨイは出てきちゃ。」
「うるせー、浮気者!
俺以外を推しやがって!」
円を描きながら飛ぶヒフミヨイを追いかけながら、チャナは思わず叫んでしまった。
「だから、大きな声出さないでって、ヒフミヨイを主人公に取られちゃうじゃない!」
焦ったチャナはヒフミヨイに向かって、あっち行ってと腕を大きく振ったが、ヒフミヨイはまったく言うことを聞かない。
「取られちゃう?
こいつがテリトリーボスの大切なもの?」
「あっ!」
チャナが自分の口をふさいだ時には、ブランはヒフミヨイめがけて飛んで片手でその首を捕まえていた。
「さすが、ブラン。」
一瞬の出来事だが見逃さなかったタクトはブランに称賛の拍手を送った。
タクトの拍手に照れて笑うブランに、自分の口を塞いだまま目を眼福状態にして見惚れているチャナを、一番冷たい目で見ていたのはブランに首を掴まれてぶら下げられているヒフミヨイだった。
「タクト、こいつどうしたらいいの?
捕まえたけど、特に何も変わらないし、記憶が戻る気配もないし?」
「ああ、こっちの仲間に入れないとダメなんだ、篭絡しないといけないんだけどできるかな?
今持ってる食べると死ぬキノコのアイテムは、たぶん、こいつ用じゃないし。
こいつ用のアイテムがあれば楽なんだけど。」
「ふーん、アイテムってサポートキャラごとに違うのか、えっと、ヒフミヨイだっけ?
こっちのチームに来た方が、あのお姉さんに推してもらえそうだよ?
どうする?」
声音は優しいが、首を持つ手には力が籠っている。
「ゲッ、わ、わかった。
俺がいないとダメなくせに、あーんな浮気者知ったこっちゃない!
入る、こっちのチームに入る。」
基本的にサポートキャラも痛みや苦しみと言った負の値は0から上がらないのだが、チャナの行動に腹を立てたヒフミヨイはすぐにブランの提案を飲んだ。
「「えっ?もう」」
まさかこんなに簡単に手に入るとは思わず、疑いの言葉を揃って口にしたのはタクトとブランだった。
それに顔色を変えたのは、チャナだ。
「わー、ごめんなさい。
参りました。
だから、その子取らないで!お願ーーーい!」
チャナが顔を覆ってその場に座り込むと、辺りが緑の霧に包まれて、隣にいるはずのタクトもブランには見えなくなった。
「タクト?」
ブランが呼びかけると、霧の中に影が浮かんだが、それはヒヨコではなく、大人と子ども二人が剣の稽古をしている姿だった。
「誰だ?大人の男の人と、その人に似た顔の7,8歳くらいの青い髪色の子ども、親子?」
もう1人、同じ年くらいの銀色の髪にグレーの瞳の子どもがいる。
その子どもたちが、剣の稽古をやめ、何故かおでこをぶつけ合い、青色の髪の子どもが銀色の髪の子どもに「絶対一緒だ」と叫んでいる姿が見えた。
「そっか、俺の記憶の断片か、やっぱり俺にも友だちがいたんだ。」
まだ、何かが見えそうな気はしたが、緑の霧が薄くなるにつれて、その姿は霞んで消えていった。
「お願い、帰ってきて。」
足元にひれ伏すチャナにギョッとしたブランが焦って片足を浮かせると、バランスを崩して後ろにいたヒヨコのモフモフに倒れ込んだ。
両羽で支えたブランに「何か見えたか?」とタクトが聞くと、ブランはこくんと頷いて見せた。
「俺、早く帰らなくっちゃ、待ってる人たちがいる。」
「モフモフと銀髪の美少年、と、尊い。」
「まだ言うか!俺と言うものがありながら!」
ブランがまだヒフミヨイの首を掴んでいたことを思い出し、手を広げてリリースすると、ヒフミヨイは勢いよくチャナの頭めがけて嘴を突き立てた。
「なによ!そっちのチームに入ったくせに、「まだ言うか」とか、私のセリフだからね。」
「仲、いいんだね。」
ブランがチャナとヒフミヨイのやりとりを見て、先ほど見た霧の中の子ども二人のことを思い返していると、見ず知らずの街の人に声を掛けられた。
「あら、ブラン様、こんな城下町まで来てくださって、有難うございます。」
「こちらでお茶を入れてますよ。
一緒にどうですか?」
騒ぎに気付いて近寄ってきた街の人たちだが、様子が変わっていた。
つい、先程まで「チャナ姫様」と呼んでいたチャナに全く見向きもせず、一様に「ブラン様」とブランを取り囲んでいる。
「どういうこと?
お茶は私が摘んで持ってきたのよ?」
「マップオープン」
タクトがチャナの前に小さな地球を出すと、あったはずのものが消えていた。
「ほら、チャナテリトリーの線が消えてるだろ?
モブ落ちしたから、チャナテリトリーが無くなって、基点にある城は主人公の物になったんだ。」




