029 領域の境目
「そこの君、お嬢さん、こんなところで何してるんだ?
ここから先は俺のテリトリーだから、来るなら歓迎しするぞ。」
砂漠に建てた砂を固めた塔から自力で飛び下りたセツキは、塔までやってきたAI商人に、物々交換を申し込もうとしたが渡すものが無いことに気がつき、同情されたAI商人にモンスターを倒す方法を教えてもらっていた。
そして、ここ数日をかけて塔の内部をギルドらしくするために奔走していた。
奔走し過ぎて意図せずセツキテリトリーの端まで来ていたのだが、そこで、赤い髪のツインテールの十代くらいの女性が座り込んでいるを見つけて声を掛けたのだ。
「ん?お嬢さん?
あ、俺、いえ、私のことね。
あの、実は、この地面から出てずっと横に延びている赤い線状の光が何かなと思いまして。」
「ん?なんだこれは?」
セツキは線状の赤い光を踏もうと足を上げたが、赤い線からは見えない壁が出ているようで、つま先を線上から出すことができない。
「なんだ?何かに当たる。
足をこれ以上は前に出せない、何故だ?
赤い線を越せないじゃないか。」
座り込んだ女性は、セツキを見上げてキョトンとした。
「えっ、そんなことないですよ、ほら。」
センヤはその場に立つと、まず赤い線の反対側に両手を伸ばし、そしてセツキの目の前で赤い線をひょいと飛び越えてみせた。
セツキの隣に立つと、ほら、と肩をすくめせ見せた。
「ん、おかしいな、君は平気なのか、ほんとだな、よしもう一度。」
セツキが勢いをつけてタックルでもするように赤い線状の光を飛び越えようとしたが、弾力のある見えない壁に弾かれてしまった。
「うっ、こ、これは一体?」
弾かれてしりもちをついているセツキの頭上で、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「それが、セツキエリトリーの境界線だってば。
サブプレイヤーは自分のエリトリーを出ることはできないんだって。」
セツキの頭上から、光を浴びた翼を羽ばたかせた白馬が舞い降りてきた。
「おおお!ペガサス、探してたんだ、どこに言ってたんだ。」
セツキがペガサスに駆け寄って頭を撫でようとすると、ふいッと流れるようによけられてしまった。
空を切った手を見ているセツキにペガサスがにあどけない顔を向けた。
「んーー?どこだと思う?
ボスのために色々頑張ってたんだけど。」
羽を背中に畳み、カッポカッポとセツキの周りを歩いていると、セツキに疑いの眼差しを向けられた。
「ペガサス、前にも言ったと思うが、俺が言ってないことをやったんじゃないだろうな?
お前のために言ってやったんだぞ?」
疑心の目を受けながらもペガサスは笑みをこぼしている。
「ぷぷぷっ、言ってないことはやってないよ。
ちゃんと言ってたことをやったよ。」
ペガサスに見惚れていたセンヤは、二人のやりとりにやっと我を取り戻すと、感動の叫びをあげた。
「うわ、ペガサスだ。
本物?うわ、初めて見た、え、触っていいですか?
いいですよね?」
センヤの延ばした手を、流れる動きで交わしたペガサスは、思いっきり顔をしかめた。
「何こいつ?
ボスの子分1号?」
モブの分際でサポートキャラに触ろうと思うなど一千万年はヤイッチューノ!という心の声は一応押しとどめたが、ペガサスの顔には出ていた。
だが、それをセツキは見ていない。
子分という響きにかなり心を持って行かれたようだ。
「おお、そうか、お前は俺の子分になるために来たのか!」
両手を広げて歓迎の意を表すと、赤い髪のツインテールの女の子はオロオロと後ずさった。
「えーー!違いますけど、俺はセツキエリトリーに向かってただけで、誰かの子分になろうなんて・・・」
「俺?女の子と俺とは。
まあいい、ここは俺のエリトリー!つまりセツキエリトリーだ。
自分の意志でここに来たってことは、やはり、感じるものがあったんだろう。
よし、分かった、子分1号歓迎するぞ。」
「いや、白Tシャツに短パン姿か人に言われても。」
センヤに言われて自分の装備を思い出したセツキは、ペガサスを見た。
「おお、そうだった。赤い甲冑はどこかに置いて来てたな、よし、ペガサス取ってきてくれ。」
すぐに探しに行くだろうと思われたペガサスは、セツキを悲しく見つめるとフルフルと首を振った。
「ボス、残念ながらそれはもうないんだ。」
ペガサスの様子にただ事ではない気配を感じたセツキは、額に汗をにじませ、ゴクッと喉を鳴らした。
「どうしたんだ?
残念ながら、とは、どういうことだ?
俺が甲冑を置いてきた場所が分からない、と言うことではないのか?」
「実は、」
ペガサスは一呼吸置くと勿体ぶって口を開く。
「鉱山に、、、、
ボスが言っていた鉱山に、なんやかんやで化けたんだ!」
最後は早口で叫ぶと、口の先にいたセツキの顔に色々なものが飛んできた。
「なんてことだ。」
「ほんとになんてことなんだ、ペガサスの口から、ビックリマークや怒りマーク、涙に汗、ガックシマークが飛び出てきている。
知らなかった、ペガサスって残念マークを吐くんだ。」
格好だけ遠目に見ると、センヤは美少女がキュートなジェスチャーをしているように見えるが、言っていることは残念だった。
「な、なんだと、鉱山に?
そうか、それがサポートキャラの力なんだな、いや、分かった。
お前より、シキの方がマシなどと思って悪かった、思っているよりお前は気の利く奴だったんだな。
もちろん、甲冑より鉱山優先だからな。」
「イエッサーボス!
そう言ってもらえたら嬉しい!」
セツキに褒められたペガサスは空高く飛びあがって1回転をし、喜びを体で表した。
「え、ここって鉱山なんかあるっすか?
何の鉱山ですか?」
2人?のやりとりを横で見ていたセンヤは、鉱山という言葉に目の色を変えた。
「ん?そういえば、何の鉱山だ?」
セツキとセンヤが目を合わせると、ペガサスに同時に振り向いた。
「何でも出る鉱山です。
でも、数に限りがあるので、早い者勝ちですよ。
ぷぷぷ」
ーーーーー
イベントキャラからのアイテムは逃したが、チャナテリトリーには向かうことにしたタクトとブランは、「また会おうね。」というモブキャラたちに見送られて、ログインポイントを後にした。
「マップオープン」
ログインポイントからしばらく歩き、見晴らしのいい草原の道なき道を歩くブランの肩に乗ったタクトは、ブランが歩く少し先に直径30cm程度の地球を出した。
目の前を浮かんで進む地球の上では、小さな文字があちこちで動いている。
ブランの肩の上から羽を地球にかざして動かしていたタクトは、目当ての文字を見つけると地球の回転を止めた。
「あった、青いAIの文字、イベントキャラが1つだけ南半球から北半球にかけて動いてる。」
小さなAIの青い文字は今自分たちがいる位置より、ずいぶん遠いところにいる。
「さっきの人?」
ブランが首を傾げながら聞くと、タクトは首を横に振った。
「いや、別だよ。
一度、イベントキャラからのアイテム入手に失敗すると、普通のAIに戻って、次にアイテムを渡す準備ができるまで、青いAIに戻らないから。」
「そうか、そうなんだ。
じゃ、これから今わかっている青い人を追うの?」
「うーん、イベントキャラのアイテムが必須条件って訳でもないから、一度チャナテリトリーには行こうと思う。
この辺だけど、どうかな?」
「うん、いいよ。
ここから一番近いテリトリーだし。」
「そう、モブのログインポイントの反対側から出ると、セツキテリトリーが近いんだけど、こっちだとチャナテリトリーが近い。」
念のために周辺を確認することにしたタクトは、肩から羽ばたいてブランの頭より高く飛びがった。
「タクトどうしたの?」
空に向かったタクトをまぶしそうに見上げたブランに、遠くを見渡しているタクトの様子が見えた。
「この草原の先に森があって、うん?
何だか地形が変わってるけど、あの森というか山?に向かって歩いていくと、チャナテリトリーに入るかな?」
空高く飛んだタクトにはチャナのジェ〇シック〇ークもどきエリアが見えるが、ブランには見えない。
「なんだかすごく遠くから、悲惨な叫び声が聞こえる気がするー!
何かわかるー?」
上空にいるタクトに向けてブランが叫ぶと、タクトも叫び返して降りてきた。
「チャナテリトリーに入った先の山でなんか色々いるみたいだ。」
「チャナテリトリーか、ワクワクするかも?」
銀の髪に風を受けながら、期待に胸を膨らませているブランを見たタクトは、ブランに付けた職業のことを思い出した。
「そうだ、チャナテリトリーでは、ブランにあった剣を探そうと思ってるよ。」
肩に戻ってきたタクトが自分の羽を剣に変えてブランに見せたが、ブランは困惑した顔を見せている。
「剣を探すって、俺は剣で誰かと戦うの?」
不安そうにグレーの瞳を揺らすブラン。
タクトは主人公の職業に”剣士”を選択していたが、それだけで、ブラン自身にはその自覚はまだない。
「そうか、職業とか分からないから、まぁ、そんな反応になるよね。」
「職業?」
「剣士は、剣を使う仕事、一度剣を握ってみると自分の適性が分かると思うよ。
それに剣で必ずしも人と戦う必要は無いから。
剣を使えると、モンスターは倒せるし、邪魔な木々も薙ぎ払えるし、他にも便利だと思うよ。」
「う、ん?そうなんだ。
要するに、便利ってことだよね。
タクトが言うなら、適正ってのを試してみる。
それで自分の剣を探してみる。」
戸惑いながらも、両手のひらを強く握ってこぶしを作り、タクトに向かって「うんっ」と力強く腕を弾ませて見せた。
「モンスターも倒してみるよ!」
「うん、目が覚めた頃のブランに比べて、すごく頼もしく感じるよ。」
タクトの言葉にブランは照れてしまい、頬染めて恥ずかし気な笑いを見せた。
広がる草原を抜け、意気揚々と歩いていると、叫び声の主であろうモンスターの集う山の頂点が見え始めたところで、地面に緑の線から緑の光が延々と延びているのを見つけた。
「これは何?
透明なカーテンに色がついたような、薄くて頼りなくて奇麗な壁のような緑の光は。」
ブランの視線の先にあるモノにはタクトも気がついていた。
「ああ、これは、チャナテリトリー境界線だな。
ほら、マップに出ているだろう。
マップのこのテリトリーを囲む線が目の前の境界線だ。
色はボスごとに違っていて、緑がチャナテリトリーの境界線の色。」
「境界線?」
「そう、サブプレヤーは自分のテリトリーつまりこの境界線を越えられないという制限がついてる。
けど、ブランはもちろんだけど、他のプレイヤーも難なく通れるからそこは心配しなくていいよ。」
「じゃっ」とブランが境界線をまたぐと何の抵抗もなくチャナテリトリーに入ることができた。




