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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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024 俺には無理

システム室から移動して、シキとアオバはトウリのいるAI開発ルームに来ていた。

「シキ様、アオバ様、ようこそ、わが図書館へ。」

アオバの後ろからついて来ていたシキは、ドアの前にかけてあるネームプレートを見て、「わが図書館へ」と発言した目の前の細いつり目の男性を見て、を2回繰り返した。

「シキさん、大丈夫です。

ここがトウリさんのいるAI開発ルームで合っています。」

「でも、この人が図書館って。」


臙脂(エンジ)は、ここの端末で全国のライブラリにアクセスできるから、そんな言い方をしてるだけよ。」

目の前の男性エンジの後ろから、トウリの声が聞こえる。

「トウリさん、少し聞きたいことがあってきたんです。」

部屋を覗き込んで、エンジの後ろにいるトウリに、アオバは話しかけたのだが、エンジはお構いなしに返事を返した。

「わかりました、シキ様とアオバ様のために、私がなんでもお答えしましょう。」

「いえ、エンジさんじゃなくて、トウリさんにです。

あと、”様”付けはやめてください。」


「いいえ、とんでもない、AIと言っても所詮データベース、プログラムの一部。

それを有効利用していただけるあなた方は、”様”をつけるべき存在なのです。」


「「やめてくれ。」」

シキとアオバの声が揃うと、エンジはつり目の眉をハの字に下げた。

「わかりました、何を嫌がるかは個々それぞれ、お二人の嫌がることはやめましょう。

心の中だけにしておきます。」


それもやめて欲しいと言いたかったが、それを言う資格は自分にはなく、だからと言って尊敬される自分でも無い。

「AIがプログラムの一部なんてとんでもない、それが無いと成り立つことができない。

そんな要を作っている人に、そう思われるのは、悪いというか、違うというか、、、」

エンジの細い目で送ってくる強い視線を感じたシキは言葉が続けられず、言い淀んでしまった。

「シキさん、大丈夫です。

エンジさんは何かしら感動しているだけのようですので、あれは睨んでいる訳ではないので気にしなくていいです。」


「ああ、失礼しました。

シキ様の奥ゆかしさに思わず感動を、と、つい”シキ様”と声に出してしまいました。

失礼、黙っていると、よく、怒ってるのかと聞かれるんですよ。

それより、こちらに、さあ、入ってください。

他のメンバーは、先ほど休憩でカフェルームに行ったところですので、遠慮なく話ができますよ。」


エンジに促されて部屋に入ると、まず、物置状態となっている長机が目に入った。

両側の壁沿いに壁を向いて机が並べられており、中央の広いスペースには2m弱の長机が置いてあり、長机の上以外は整然としている。


「散らかっていて失礼、机の上を開けますので座ってください。」

エンジは机の上に重ねておいてある書籍や書類を入口側から窓側に向けて力任せに押しやった。

机の半分には何もなくなったが、反対側の半分の重量が倍になったのは、特に気にする必要はないらしい。

つり目で口角を上げて、ささっどうぞ、と、シキとアオバの背を押して二人並んで長机につかせると、向かい側ににエンジも機嫌よく座った。

「あの、別にエンジさんとの面接に来たわけじゃないんですが?」


「いえいえ、もちろん面接ではありません。

実は私も話は聞いておりまして、いつかいらっしゃると思っていました。」

アオバから、何の話を?と、との視線を受け取ったエンジは、つり目をさらに吊り上げた。

「先日、カフェルームでシキ様を愚弄した者がいるという話です。」


「だから、様付けは、ちょっと違うというか、?愚弄って?」

「ああ、失礼しました、シキさ、、ん。

ん、ん、コホン。

アオバさん、あの日のカフェルームには、トウリさん以外にも、うちのメンバーがいたんですよ。

だから私も伝え聞いてましてね。

腸が煮えくり、ではなく、何とか懲らしめ、ではなく、そう、改善の余地有りかと思いまして、思案していたところなのです。

本日はシキさ、、ん、もいらっしゃったことですし、少し改良したものを使ってもらえないか相談させていただくということで。

どうでしょうかね?」


アオバの顔から疑問符が消えた。

「その話、詰めましょう。

俺もちょっと思うことがあって、それができるか確認しに来たんです。」

エンジの隣にトウリが座ると、疑問符の消えないシキが助けを求めたが、黙って笑顔を返された。

アオバに続いてトウリも何かしら怒っているのを感じたが、シキにはそれをどう聞いていいのか分からない。


「あ、わかった、エンジ?とアオバが詰めた改良版を使うって話だな。」

「はい、そうです。

シキさ、ま、じゃない、シキさん、有難うございます。」

机に体を乗り出したエンジが正面の式の両の手を掴んでくると、シキは思わず椅子を引いて体を離した。

「エンジ、落ち着いて座って話しましょうね?」

「は、はい、トウリさん、怒らないでくださいね、シキ様に直接来ていただけて、ちょっと興奮しただけですから。

シキ様、いえ、シキさん、すみません。」

トウリが暴走するエンジを宥めて元の体制に戻すと、シキは俯いてホッと息を吐いた。

「いや、俺はこんなことくらいしかできないから。」


シキの言葉にアオバは、困っているのか悲しんでいるのか複雑な気持ちを抱え、体をシキの方に向けた。

「いいんですよ、それで。

こんなことだけ出来ていれば、シキさんはそれで十分です。

シキさんが言う”こんなこと”は他の誰にもできないんですから。」


「そうか、いいのか?

でも、誰にもできないことじゃないぞ?」


シキの正面に座るエンジの顔には”信じられない”と書いてある。

アオバはシキを真っ直ぐに見て、両こぶしを膝の上で強く握った。

「おれはあなたのことを尊敬してます。

誰にも出来ないことをしているあなたにいつか追いつきたいと思っています。

あのゲーム外部で投影された3DCG地球のゲームとの連動だって、テスト中のゲームそのものだって、コアはシキさんの発想、解析、創造から生まれたものです。

新しいものを常に生み出すなんて、こんなこと、誰にだってできる訳じゃないです。」

真剣に語るアオバに向き合っていたシキだが、どう反応していいのか分からず顔をそらした。


挙動不審になっているシキの瞳に気づいたトウリは思案したことを提案してみた。

「シキ、提案なんだけど、今回のテストゲーム、どんな様子か中に入って確認してみない?」

「俺には無理だ。

プログラムは書けるけど、ゲームとは言え、たくさんの人の中に入るのは苦手だ。」


「シキさん、俺もトウリさんの提案いいと思います。

中に入って自分がどれほどすごい物を作ったか確認しましょう。

たくさんの人の中じゃなくていいです。

モブ参加なので、どう動いても自由です。

何なら、モブID枠とは別に、ストーリーに強制介入できるスタッフIDがあるから、それ使ってもいいです。」


「どちらにしろ、俺には無理。

ところでモブって、なんだ?」

”信じられない”と書かれた顔からキョトンと表情を変えたエンジは、次に笑い声をあげた。

「は、ははっ、ははははっ、シキ様らしいです。

モブが何か知らなくてもいいんです。

そうです、プログラムを組むこと、それ以外できなくても、いえ、あなたはそのためだけにある存在で十分です!

その他のことは我々を使っていただければ、いえ、使っていただくという思いなど烏滸がましい。

ゲーム内では我々が傅いてサポートさせていただき、その上で・・・」

エンジは勢いよく立つと胸に手を当て、自分の思いの丈を語り出した。

「いや、あの、」

自分の発言のせいで、つり目の怖い人が挙動不審な人に変わってしまい、シキは困惑して狼狽えて口を挟むことができない。

その横で、アオバとトウリが二人で打ち合わせを始めていた。


「俺には無理だって。」


ゲームからログアウトした後、ゲーム監視のためにシステム室で待機しているはずのシキとアオバが居なかったので二人を探していたヨウキは、アオバとシキがAI開発ルームに入るのを見かけ、廊下で二人が出てくるのを待つことにした。

立ち聞きする気は無かったものの、閉められていないドアから4人の会話が聞こえて全部聞いてしまった。


「アオバ、自分の気持ちをぶつけるだけじゃ、セツキから言われてきた幼い頃からの思い込みを解くことはできないよ。

本当に、困ったもんだ、どっちの気持ちも。」

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