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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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017 セツキの要塞

最初に体験テストでゲーム世界にログインしたセツキは、システム文字を無視して、平原の中を膝まである草をなぎ倒しながら歩き回っていた。

最初は物珍しさが先行し大笑いもしていたが、探しモノが見つからないことに苛立ち、大の字で寝ころんだ。

この様子をヨウキはセツキに最初だからとモニタリングすることを伝えていたのだが、そんなことはとうに頭から抜け落ちていた。


「くそっ、見つからないな。」

空を見てぼやくセツキの前に、白い文字が浮かんだ。


<基点カードを使用してください>


「基点カード、使用、なんだそれは?

ゲームのくせに俺に指図するのか?」

不機嫌に文字に向かってぼやくセツキだが、相手はセツキが言ったようにゲームなので、気を悪くすることはなくプログラムにある返答を行ってくれる。


<ここはあなたのテリトリーの基点です>

<城の絵のあるカードをイメージして、手を前に出していただくと、スタート準備ルームで選択したカードを出すことができます>


「基点カード、って、スタート準備ルームで選択したカードのことか、それを探してたんだ。

カードをイメージ、手を前に出す、なんだ、それだけでいいのか?

どこかに隠れているのかと思って、散々草を踏み倒してたんだぞ、早く言えよ。

使えないな。」


システムからのメッセージは何度も出ていたのだが、自分のすべきことを自分で決めて行うのがモットーのセツキには、無視というよりは、その存在がまったく目に入っていなかったのだが、そう自覚の無いセツキにとっては、相手が使えない存在であるという認識になっている。

寝ころんだまま赤い籠手のついた腕を伸ばして空に向けて5本の指を開いた。

「カードのイメージ、カード、確か攻撃ができる城を選んだ。

鉄壁の要塞でもあるカードだ、要塞カード、出てこい!」

出てこい!を力強くめいいっぱいに叫ぶと、指を延ばした手のひらの先にカードが現れた。


「おお、出てきたぞ。

それで、これをどうするんだ?」

<これから出す城のイメージングを行ってください>

<選択した戦闘系の城、鉄壁の要塞になるように、細部までできるだけしっかりとイメージしてからカードを離してください>


「なるほど?細部まで細かくイメージするのか。」

<脳内のイメージをプログラムが読み取りますので、このテリトリーのボスであるあなたがイメージを詳細に行うほど、再現率が高くなります>

「そうか、そうか、具体的に考えると、プログラムがそれをコピーしやすくなるってことだな。」

セツキはシステムの説明をほとんど理解せずに適当なことを言っているだけなのだが、何故か的を得ているように聞こえる。


「よし、イメージ、要塞、砲台がたくさんある城、堅牢で、形はそうだ半円形のイグルーのような。

だが、どこから入ったらいいのか分かってはダメだ。

材料は、硬質で、完全な半円でそれから、、、。」


ポッ、ポクッポクッポクッ、と、どこかのお坊さんのように、両手の人差し指を頭のこめかみに当てたセツキは、イメージし終えると、両手の指でカードに皺が寄るほど強く握りしめ、グッと額に押しつけた。

「よし、イメージは出来たぞ。

かなり良い具合に出来上がっているはずだから、ちゃんと読み取ってくれよ。」


<カードをリリースしてください>

いつまでもカードを強く持って手を離さないセツキに、システムからあ解点滅の警告が発信された。


「むっ、なんだその赤い点滅は、お前に指図されなくてもわかっている。

歳上に指図するとは、ダメな奴だな。

平和主義の俺でなければ生意気だと殴られていたかもしれないぞ。」

<カードをリリースしてください>

「だから分かっている。

手を離すんだろ、さあ、俺の基地を出してくれ。」

セツキが手から力を抜くと、待っていたようにその手をすり抜けたカードは、頭上に浮かび、ピーーーーッと鋭い音を立てて一直線に空高くあがり、瞬く間に小さくなって、見えなくなる寸前にまばゆい光を放って、辺り一面を照らした。


突然の光にセツキは頭を抱えて(うづくま)り、両眼を固く閉じた。

起き上がるタイミングが分からずじっとしばらく待ったが何も起こらない。

蹲ったまま目だけを開きキョロキョロと視界に写る体の下の狭い場所を確認すると、先ほどまで足元にあった柔らかな草が無くなっていることに気がついた。

足元が冷たい鉱物となっている。

もう光にさらされていないことに気がつき、その場に立つと、赤い甲冑の表面を滑るように強い風が通り過ぎた。

周りを見渡すと、セツキがイメージした半円のイグルーのような要塞の真上に立っていた。

「こ、これはどうやって降りたらいいんだ?ここから飛び降りるのか?

おい、なんとか言え!」

慌てて見まわして叫ぶが、システムからの応答はなく風だけが強く吹き抜ける。


「本当に、肝心な時に役に立たない奴だな。

俺はどうしたらいいんだ、そうだ、入口だ。

入口を天辺に作ったんだった、どこかに階段があるはずなんだが、そうでなくても砲台が出せる窓がそこら中にあるはずだ。

そこから入れる。」

セツキは自分が作ったイメージをもとに半円の要塞上を歩き回って、元いた場所の足元、要塞の天辺にやっと入口を見つけたときには、最初の体験テスト終了の時間となっていた。


ーーーーー


そして、本日が2度目のログインとなるセツキは、スタート準備ルームからゲーム世界にログインすると、テリトリー基点にたてた自分の要塞にある教会のような様相の部屋にいて、白い女神像と向き合っていた。


「ここは、要塞の天辺から昇降用のポールで降りた1階の部屋だな。」

女神像からこの部屋の出口に向かうバージンロードのその中央の床には、直径1mほどの円がぶち抜かれていて、そこで昇降用ポールがウィンウィンと音をたてて稼働している。


地下1階からこの要塞の天辺にある出入り口まで、長くポールが伸びており120cmおきに手掛かり棒がついている。

片方が昇りのポールで天辺の出入り口で折り返して、そのまま下に向かうポールとなってベルトコンベアのように回っているため、立ったままポールから伸びる手がかり棒を持ち、足をかけると、各階を移動することができる。


「うん、中央に位置する場所を吹き抜けにして、階を移動するための昇降用のポールを設置したが、この教会のような部屋になっているとは思わなかった。

天辺の入り口から真っ直ぐ昇降して各階に飛んで降りれるように、邪魔なものは置かないようにしたはずなんだが、なぜこんなものが。」

先ほどから行ったり来たりしている登り用と下り用のポールを見て、もう一度女神像を見て唸る。

「うーん、これは俺がイメージした覚えのない様相だ。」

首を傾げるセツキは、ヨウキが言っていたテストの内容を思い出した。

「はっ!もしかして、これが不具合(バグ)ってやつか?」

システム的なものかどうかを考えることもなく、自分が作った覚えのないものがあるということでバグ認定をしたセツキ。


「最初からこんなバグに当たるなんて、これが終わったらちゃんと言ってやらないとな。

まったく、今日は、サポートキャラ、ナビキャラだったかを探しに行くはずなんだが、時間を無駄にされてしまった。

どこにナビキャラがいるのか。」


女神像が持つ分厚い本にまったく目が行かないセツキは、甲冑の音をガチャガチャと鳴らして大股で、ただ、ただ、女神像を周回していた。

「よし、わかった。

確か、この要塞のどこかにあるという説明書を探すんだ。

よし、そうと決まれば行動だ。」

セツキがバージンロードを走って、昇降用のポールを掴もうと手を伸ばすと後ろから呼び止められた。


「待ちなさい。

自分で作っていないものなら、ちょっとは調べようとは思わないのですか!?」


「誰だ!」

セツキは振り向くが、そこには誰もおらず首を傾げた。

「なんだ気のせいか?」

女神像が喋るとは考えないセツキの目には、女神像が映っていない。

「気のせいではなく、私が呼び止めているのよ。」

喋る女神像に上から見下ろされたセツキは、カッとなり腰の剣を抜くと下から上に振るって女神像に切り付けていた。


「これもバグか!

俺の城に化け物を呼び込むとは、なんて手抜きしやがる!

平和主義の俺でも化け物相手では容赦しないぞ!」


切りつけられた女神像の手から説明書が離れ、パラパラと1枚ずつに分かれて、剣を腰に戻すヨウキの前に並んだ。

「なんだこれは?」


「説明書よ、いきなり切りつけるなんて、このテリトリーのボスはなんて野蛮なの?」

切りつけられた女神像はすぐに修復がはじまり、切り口に光のドットが砂のように流れ込んだ。

「言っておくけれど、私の存在は仕様よ。

バグじゃないわ。

ゲーム初心者なら初心者らしく、もうちょっと謙虚に調査しなさいよ。」

女神像に説教されたセツキは、目の前に並べられた透明感のある黒いパネルの文字を読み、それが説明書であることを改めて認めると、女神像に頭を下げた。

「いきなり切りつけて申し訳なかった。

だが、もうちょっと、優しく呼び止めるとか、ゲーム初心者の俺の立場に立って、物を言うべきだったと思うぞ。」

謝っていたはずが、逆説教を行ったセツキにとっては女神像のことはもう済んだことになった。

「よし、これだな、ナビキャラの見つけ方は。」

目の前の説明書からナビキャラの見つけ方を探し出したセツキは、意気揚々と進む。

「まず、名前だな。

ペガサスはペガサスだ!

後は好きなものだな、よし、要塞中をひっくり返して探そう!

まずは地下だ。」

高笑いをしながら、昇降用ポールの手掛け棒を持ち、足を賭けると地下に移動した。


セツキが見えなくなると女神像は頭を抱えた。

「人の話を聞かないプレイヤーね、ここのボスには説明書(ワタシ)は邪魔な存在かも、ほんとハズレだわ。」


地下から昇ってきたセツキは、目的の物を見つけて腕に抱えて、悩める女神像には目もくれず1階を素通りして天辺まで行った。

天辺の出入り口をガコンッと開けて、強い風の吹く屋根に立つと、おでこに手を添えて要塞から遠方をグルっと360度見まわす。


「おお、何か知らんが人がいるな、頭の上に何か文字があるが、あれがAIとかIDとかいうやつか?

俺の領地(テリトリー)へようこそ!

ハッハッハッハッー」

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