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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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12/27

012 悪い話じゃない

ゲームをスタートさせ、セツキが個人のスタート準備ルームから完全に消えてゲーム本編に移動したことを確認したヨウキは、次にタクトのスケジュールを確認した。

「シキのレビューに参加してるのか。」

この時間のタクトのスケジュールはプログラムレビューへの参加となっていた。

特例のセツキのために既にゲーム世界の構築をして、サブプレイヤーとしてスタートさせているが、本来は順番が逆で、テストプレイ前に行うレビューを本日行っている。


「とりあえずプログラマの部屋だな。」


自分専用の部屋から出たヨウキは、別の階のプログラマの部屋の前まで行くと、中に入る前にドアを少しだけ開けて先に様子を伺った。

レビューに集中しているならそれを邪魔しないようにと気遣ったためだ。

そっと中を覗くと、レビューを行っているシキと他のプログラマたちの後ろから、ディスプレイにスクロールされていく文字を瞬きもせず見ているタクトがいた。


「コード確認中か、今回はいつになく熱心だな、セツキの影響か、そうだよな、良くも悪くも影響受けるよな。」

目立たないように腰を落として頭を低くして様子を伺っていたヨウキの後ろから妙な声が掛けられた。

「ヨウキさん、ソコデナニシテルンデスカ?アヤシイヒトノヨウデスヨ。」

自分の名前を呼ぶ声には聞き覚えがあったが、その後にデータ音で抑揚のない音が続いた。

振り向いたヨウキに近づいて来ていたのはマシロで、その胸に少し大きめの箱が抱えられている。


「?、何今のその声?変成器かなんか?」

頭を低くしているヨウキのちょうど目の前に、マシロの胸に抱えられた四角い箱の表面が近づけられた。

「さっき黄雅(コウガ)黄禾(オウカ)にこれを渡されたの。

トウリとアオバも協力して作ったみたいなこと言ってたけど。

何かに使えないかシキにも見てもらおうと思って、こっちにきたのだけど、その前にヨウキの猫背が見えたから、ちょっといたずらをね。」

いたずらな笑みのマシロは箱の中に手を入れると、起動させていた装置の電源を切った。


「渡されたって?

その箱の中の装置?」

少し頭を上げて覗くと、小さなスピーカーとスイッチのついた鉄板でできた箱があり、箱の底に小さな基盤が置かれているのが見えた。

鉄板から外の箱に線が伸び、カメラがついているようだ。

「そう、さっき私は「ヨウキさん、」としか発話してなかったんだけど、次の言葉を予想して、続きをかわりに話してくれたのがこの箱の中の装置。

事前にいくつかの質問に答えて登録しておくと、性格傾向とかを分析して、その人が何か言ったら次の発話を予想して、代わりに喋ってくれるの。

ほら、前にカメラがついてるでしょう?」

「それで、人の名前が呼ばれた後に、カメラに映った俺を怪しい人だと認識して、代りに声を掛けてくれたと。」


「そう、確かにわたし、そう声を掛けていたと思うわ。

プログラマの部屋を覗き見る怪しい人だったから。」

マシロがくすくす笑っていると、自分の体制を見たヨウキは背を真っ直ぐにして腰に手を当てて伸びをした。


「うん、この恰好ね。

シキたちのレビュー中で邪魔したくなかったからだけど、ちょうどもうそろそろ終わる頃かな。

俺はタクトに用があってきたんだけど、かなり熱心にレビュー見てるよ。」


部屋の中を肩越しに差すヨウキの親指の先をマシロが追うと、シキやプログラマたちの横顔が見え、その後ろにタクトの横顔も見えた。

「うん、すごい集中してるって一目でわかる。

今回は、今までに無いくらいの熱量があるって感じね。」

「今回はって、マシロもそう思うのか、やっぱりセツキの影響かな?

なんせ、シキどころか、マシロにまでコナかけてるし、すまないなホント。」

申し訳なさそうに頭を少し下げたヨウキを意外そうに見たマシロは、かすかなほほえみを見せた。

「ふふっ、私は大丈夫。

私より、たぶん、タクトが気になってるのはシキの方じゃないかな。」

「そうかな?どうしてそう思う?」

「セツキさんがシキをどう思ってるのかってことと関係してると思う。

ヨウキさんは、タクトの家族のこととか、聞いたことある?」

「多少はある、かな、

タクトにも兄がいたってこととか、両親が音楽家だったってことくらいで。

詳しいことは知らないよ?」


「ん、私も同じくらいしか知らないけど、何となくお兄さんが関係しそうな、、。

あっ、レビューが終わったみたい、タクトがこちらを見てる。」

マシロがタクトの視線に気が付き、名前を呼ぶと、タクトは既にドアを大きく開いていた。

「マシロさん、これから休憩なら、一緒に行きませんか?」

目の前のヨウキを通り越して、その背中越しにいるマシロに声を掛けているタクトに悪気は無いと寛容に受け止めたヨウキだったが、タクトに用事があるのは自分なので、そこは譲れない。

「俺を透明人間扱いするのはいいけど、マシロはシキに用があって、タクトに用があるのは俺の方だから、休憩は後にしてくれるか?」

「用事ですか?」


「タクトに作ってもらったゲーム世界へ先行してセツキを入らせたから、中の様子をちょっと見に来てほしいんだ。」

「今日セツキさんの体験テスト始めるって、そうえいば、俺、聞いてましたね。

ゲームスタートの準備の様子はどうでしたか?セツキさんってテストできそうですか?」

「予想外のことをするって意味では、いいテスターになってくれるかも?

初心者だからラッキーチャンスでバグをぶち当てるか、それがバグだと気がつかずにスルーしてしまうか、ってところじゃないかな?」

不具合(バグ)?」

プログラマの部屋の扉付近のヨウキとタクトの話の中の「バグ」に反応したシキがフラッと寄ってきて「でたのか?」と低い声を出した。

「いや、ヨウキさんとこれからの話をしてただけ。

バグはでていない、まだね。」

こういう言い方はずるいと思うが、テスター(タクト)としては「出ない」と言い切ることはできない。

不具合(バグ)は出ないことにこしたことはないが。

「まだ・・・。」

しかめた顔に暗く影を落としたシキの髪をクシャッとなでたヨウキは、ドアの外で箱を抱えているマシロを呼んだ。

「とりあえず、タクトは連れて行くから。

シキ、マシロが見て欲しいものがあるって、コウガとオウカ、それにアオバとトウリも関係してるらしい。

使えるかどうか見てくれるか?」

「アオバとトウリも?わかった。

見てみる。」

マシロの箱に興味を持ったシキは頭の上のヨウキの手を払って、箱の中を覗き込んだ。


プログラマの部屋を後にしたヨウキは、タクトをセツキをモニターしている部屋に案内した。


エレベーターの中では、ヨウキに隠れて何階のボタンが押されていたのか気がつかなかったタクトは、エレベーターを降りた場所が初めて来た階であることに気がつき、ヨウキを二度見していた。

何も説明をしないヨウキに不審な目を向けるタクトを無視して、自分専用の部屋まで来ると、ヨウキは警戒しているタクトを「セツキの様子を見るだけだから」と、開けた扉の中に押し込んだ。

「この階って、特定の人間以外は降りることを制限されてますよね?

しかもこの部屋も、俺が入っていいところだとは思いませんが。」

ヨウキに連れてこられた部屋には、壁際から背の高い本棚が背中合わせに3列ほど配置されて、どの棚もバインダーで埋まっている。

「ネットから隔離された状態で保管される情報のある部屋に俺を連れ込んで、社長に怒られないんですか?」

落ち着かないタクトとは逆に飄々として、タクトをさらに部屋の奥に押し込むヨウキ。

「怒られないよ、話はしてるし。

ちなみにこの部屋の隣が社長室だから、今は不在だけど。」

「知りたくない情報でした。」

ジト目でヨウキを見ると愉快そうに笑っている。

その笑いで、本人に確認をもせず、断る隙も与えず、確実に社長ぐるみでヨウキの仕事の補佐としてロックオンされていると確信した。

「誰にでも優しいと言われている人間に、そんな目を向けられるなんて、心底楽しいな。」

一方でタクトは抑揚のない、低音で小さい笑いをこぼしている。

「誰にでも親切と言われている人間に、仕事を押し付けられそうになっている俺は、マシロさんとの時間が減るので、心底楽しくないですけどね。」

やれやれと肩をすくめて3つの27インチモニターが並ぶ机の前にある2つの椅子の1つに座ったヨウキは、隣の椅子に座るようにとタクトの背を押した。

隣の椅子に座るタクトを見ているうちに、「そういえば、」と、ヨウキはマシロのことを思い出した。


「マシロも幹部候補だよ?」

「えっ?」

向かい合わせて椅子に座るタクトの額には絶望とまではいかないが、暗い気持ちを表すように顔上半分に影が落ちている。

「マシロには先日伝えといたんだけど。」

と、一呼吸おいたヨウキは、マシロはまだタクトに伝えていなかったのか、俺から伝える形になるけど、仕方ない、と開き直って話を続けた。

「マシロが企画を出すのは今回が最後で、今後は他メンバーが出す企画の採用判定をする側に回ってもらうことになった。」

タクトの顔上半分の影がさらに下降している。

「って。露骨にそんな暗い顔をされたら、すごい罪悪感を感じるんだけど。

悪い話じゃないだろ?」

「悪くはないです、けど、同じ場所に住んでますけど、すれ違いが多いんですよ。

お互いが忙しくなったら、それこそ一緒にいる時間減るじゃないですか。」


「情けない声出してないで、その辺は自分たちで何とかしてくれ。

能力的には適任だから俺は譲る気ないし、マシロはちゃんと納得して、何なら楽しみにしてる。」

それを聞いたタクトの顔からは影がスッと引いて、瞳には真剣な、やる気に満ちた光が灯り出した。

「マシロさんの楽しみを奪う訳にはいかないので、わかりました。

協力しましょう。」


「うん。

考えを180度回転させた前向きな返事を簡潔にもらえて嬉しいよ。

納得してくれたところで、こっちのモニター見てくれるか?」

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