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ウォークスルー テリトリー  作者: 傘の下


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011 サブプレイヤーへの説明

オフィス外部に設けられたテストルームに入ったセツキは、準備されていたハード機器を頭部と両耳、両手首に付けるとゆっくりとデスクチェアを倒し、目を閉じて耳掛けのないアイマスク型の特殊な機器を瞼の上に張り付けて装着した。

室内の様子をリモートしていたヨウキはセツキのリラックス状態を確認し声を掛けた。

「セツキ、これからゲームのスタートルームに降りてもらう。

体調はこっちのグラフに出るから分かるけど、気分的に落ち着かないようだったら言ってくれ。」

「わかった。」


「本来なら、自動でナビゲーターが案内するんだけど今回は俺がするから、気楽に聞いてへんじをしてくれ。

じゃあ、スタート。」

1つ目のモニターにセツキのいるリアルな部屋の様子を表示し、2つ目のモニターにセツキが入り込んでいるVRの世界を表示させ、3つ目のモニターにはセツキの健康状態がモニタリングされグラフが作られている。

2つ目のモニターには、白い格子が張り巡らせられた真っ暗な球体の中にセツキ本人が浮かび上がっていた。

セツキは目を開けると頭を上下左右に振り、自分の立っている周辺を確認し始めた。


「セツキ、聞こえてる?

ちゃんと空間を認識できてる?

今、セツキは球の中心に立っていて、円形に格子が入っているのが見えるのなら、それが正常な状態だ。」


「おお!見えてるし、動けている。

足元も見えない板に立っているようだが、透けているから球の内部がすべて見える。

俺自身は寝てるはずなのに、全然、何の違和感もないぞ。」


「いいみたいだな。

今からいくつかのカードがセツキの目の前を飛び回る。

その後、自分の周りをゆっくり回り出したら、その中からどれか1つを選んでもらう。」

ヨウキが言ったように、球の中心にいるセツキの周りを色とりどりのカードが飛び交った後、整列してセツキの周りを1列になって回り出した。

「ほう、ここから1つ選ぶのか。」


「サブプレイヤーのテリトリー基点に置くもので、大切な機能を持つアイテムになるから慎重に選んでくれ。

どの機能にするか時間をかけて選んでくれて構わない。」

一列になってゆっくりと回るカード群が自分の前を通るのを待たずに、体を逆回転させたセツキは、1枚のカードに手を伸ばした。

「これだ!」

ババ抜きのカードを引くように、手に取ったカードを勢いよく引き抜き、両手でカードを掲げて仰いだ。

「俺の直感がこれだと言っている。」

時間をかけて構わないと言ったそばから、瞬時にカードを選択するのはとてもセツキらしい、セツキの行動だ。

「全部のカードを見終わっていないようだけど、まぁ、そのあたりを選ぶとは思ってたよ。

俺も。」


引き抜かれたカード以外のカードが、飛び散り徐々に消えていくと、セツキの目の前に直径1mくらいの球体が現れた。

「今度はテリトリーを決めてもらう。

この世界では、セツキも入れて4人のサブプレイヤーが存在して、サブプレイヤーの数=テリトリーの数になる。

だから、今回は4つのテリトリーからどれかを選んでもらう。」

目の前の球体に地形が表示され、その中に4つの領域が浮かび上がった。

「なるほど、この4つの範囲のどれかを選ぶのか。

これはどうやって選ぶんだ?」

国境ではないので、いずれのテリトリーも隣接はしておらず、間に川や湖、森、平原、砂漠、海などのテリトリー外の領域が存在している。


「それぞれの形をしたカードが出てくるから、今度は捕まえてくれ。

他プレイヤーが捕まえたカードは、その瞬間に消える。

今は、他プレイヤーは参戦していないから、セツキが好きなものを捕まえたらいいよ。」

「なるほど、なるほど、俺が一番乗りって訳だな。」

頷いているセツキの目の前を、光る蝶がヒラヒラと飛び始めたので目で追うと、その先には蝶と同じ大きさの光るライオンが中を蹴っていた。

「ん?カードは?」


「その蝶やライオン、馬にゲームコントローラにノウム、複数の形はしてるけどタイプ分けすると、どこかのテリトリーに属するものだから、好きなものを捕まえたらいいよ。」

「だが、これ、動いても大丈夫なのか?

硝子盤か何か知らないが、足元にしかないぞ?」


「硝子盤じゃないから好きに動いてもらって構わない。

足をつけたら、そこが、地面的な役割という認識になるから。」

「そ、そうか。」

恐る恐る足を一歩踏み出すと、何もないはずの場所から足の裏に地面の圧を感じる。

「階段を上るつもりで足を踏み出すと階段を上るように歩けるから、例えば15cmくらいの高さの階段を上るイメージで試してみて。」

「そ、そうか。

階段だな、よし、15cmくらいで。」

また、恐る恐る足を上げ15cmの段差をイメージしつつ足を置くと、今度も何もないはずの場所から足の裏に地面の圧を感じた。

「おおお、これなら、飛んでる奴らも捕まえることができる。」

ゲーム内ではしゃぐセツキが映るモニターの隣のモニターには、リアルの部屋やでデスクチェアを倒して静かに寝ているセツキの姿が映し出されている。

「よし、白馬を捕まえたぞ!」

「へー、白馬にしたのか、まあ、動物系を捕まえるかなとは思ったけど。」

「やっぱり、姫を助けに行くのは白馬に乗った王子と決まっているからな。

運命の女性のために、俺は王子にならなければ。」

階段を上りかけた態勢で、白馬を胸に抱き恍惚とするセツキに寒気を感じたヨウキはマシロに同情の念を覚える。

セツキに握りしめられた白馬は1枚のカードになり、その手からすり抜けると、最初に選んだカードと共に球体のテリトリーに吸い込まれていく。

「カードが吸い込まれたところが光り出しただろ?。

そこがセツキのテリトリーだから、位置とどのくらいの範囲か覚えといて。

あっちに行っても、テリトリー範囲だけはMAPとして呼び出せるから、範囲と発展状態はMAPを呼び出して確認するように。」


「あっち?ってどっちだ?」

「本来のゲーム世界のこと。

今モニタリングしてるのは個人の環境で、本来のゲームの世界じゃないから。

さっきの、何もない場所を駆け上がるようなことも、ゲーム世界では基本的にはできない。」


「なんだ、できないのか。

つまらん。」


「じゃあ、テリトリーが決まったところで、アバターを決めようか。

体のパーツごとのカードが並んだら、カードをさわって顔や髪形、体つきに服装、年齢とか、好きなように変身できる。

変えたかったら、違うカードを触り直したらいいから・・」

「いや、俺はこのままでいい!

この俺が変身する必要性を感じない。」

セツキは胸を張ってどや顔をしている。

何にどう自信を持っているのか、セツキだからそんなものかと納得はしても、システム上そのままの姿をベースにするのは難しい。

「悪いけど、そこまでの機能は作り込んでないから、システムが出すパーツを選んで?」

「はっ?

変身する訳ではなくて、このままでいいと言ってるじゃないか?

その方が簡単だろ?」

「一人用のゲームなら、個人の記憶と照合して姿形を作り出して動作させられるけど、多人数のゲームの場合は記憶の共有はできなくて、セツキを知らない人にセツキのリアルな姿を映しこむことは、そっちの方が難しいんだよ。

現段階ではね。」

そのうちシキがやらかすかもしれないという懸念はあるが、それをセツキには伝えない。


「むー、良くわからんが、ゲームのことは俺は素人だから、とりあえずパーツを選ぼう。」

「そうしてく・・。」

「よし、決めた!」

ヨウキの返事を聞く間もなく、カードを一瞥したセツキは腕を高く上げて、振り下ろし始めた。

「黒髪短髪、力のあるマッチョで、赤い甲冑を着たダンディな俺だ!」

叫びながら次々とカードを触ったセツキは、叫び終わる頃にはその通りのアバターを手に入れていた。

「うん、さすが、直感で決めただけあって良く似合ってるよ。」

球の壁が複数の鏡となり、セツキのアバター姿を前後、左右、上下に映し出した。


「続きだけど、サブプレイヤーのゲームスタート地点は自分がボスとなるテリトリーの中。」

「俺がボスだな!」

「ゲームに入ってすぐ立った場所を基点にして建物を作るように指示されるから、最初に選んだカードで建物を建てて。

それが済むと、建物の中にある説明書が見られるようになるから。

ルールは、テリトリーごとに多少違うから、必ず説明書を読むように。」

説明書と聞いてセツキは苦虫を噛み潰す。

「説明書か、面倒だな。

俺がルールだろ?」

「・・・読むのが面倒なら、サポートキャラを最初に見つけるといい。

というか、セツキはそっちの方がいいだろうな。」

「サポートキャラってなんだ?」

「この場合はさっきの白馬、テリトリーと関連付けられていてテリトリー内のどこかにいるから。

色々手伝ってくれるし、ナビゲーターの役割もあるから、何をしていいか困ったときは聞けばいい。」


「ほーー、そうか、そんな便利な奴だったのか。

移動に乗り回すだけかと思った。」

「それもできる。

ナビはテリトリー内だけの機能だから、まあ、テリトリー外ではただの移動手段と思うと便利かな。

でも、主人公がある一定の条件を満たすと、その白馬は奪われて、同時にテリトリーは無効化される。

だから、白馬を守るのがサブプレイヤーの役割で、このゲームの主軸だな。」

「な、なんだと!

人の物を奪うのがヒーローのやることか?」

「そういうゲームだから、、、。」

「なんて理不尽な、絶対渡さんぞ。」

「ちなみに、主人公にそれを奪われると、テリトリーボスであるサブプレイヤーはゲームオーバーで、いちモブに落ちるルールもある。」


「モブ?」

「そう、モブ落ちね。

ただし、自分のテリトリー内で主人公を逆に倒した場合は、他ボスのナビキャラを奪う権利が与えられる。

ナビキャラを奪うということはテリトリーを奪うことになるから、そのときは他ボスとのバトルとなる。

逆に、他ボスに主人公を倒された場合、主人公を倒したボスにセツキのナビキャラとテリトリーを奪う権利が与えられる。」

「ん?」

「ようするに、4人のサブプレイヤーの誰かが主人公を倒しちゃうと、残ったサブプレイヤーがテリトリーを独り占めするまで戦えるようになるってこと。」

「おおお、世界の覇者だな!」

「世界かどうかは、、、テリトリー外の領域は影響を受けないから、モブキャラたちは誰に支配されることもないし。

サブプレイヤー、テリトリーボスであっても、モブキャラに上げ足を取られないようには注意が必要だよ?

AIモブはそんなことはしないから、IDを持つモブにだけ気を付けて。」


「おおお?AI、ID?」

「ここまでで何か質問はあるかな?」

「うーん、何が分からないのかも分からない、実戦あるのみ!」


「セツキは初めてだから、様子見のためにタイマーを2時間に設定してる。

と言っても、ゲーム世界の方は3倍の6時間になる、絶対無理しないように。

とりあえず、基点の建物を建てたら、さっきも言ったように先にサポートキャラを見つけてみて。」

「分かってるって、俺の基地を建てて、相棒を見つけるんだよな。」

「まあ、そういうことかな。」


「早くスタートさせてくれ。」

「わかった、細かいことは実戦でだな、それじゃスタート。」

「おう!」

ヨウキがゲームをスタートさせると、ニカッと白い歯を見せて笑ったセツキの姿は、振り上げた手と共に、砂が風に吹かれて散るように消えていった。

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