予知夢
はぁ、、はぁ、、、はぁ、、、
酷い夢を見てしまった
少し離れたところで暮らしている俺の彼女
彼女は大手の会社で働いているので割と定時で帰れているが
俺の仕事はやや不規則であるのでなかなか会う事ができない
週に1回だけ駅の改札から家までだけ一緒に帰ったり
通話やメッセージで
「もっと会いたいね」
「結婚して一緒に暮らせればいいね」
とやり取りするだけの日々が続いている
そんなある日に
俺は夢を見た
~・~・~・~
彼女は仕事帰り
同僚の女友達の4人とスーパーで食材の買い物をして
19:00過ぎにその場で4人は解散
彼女は自宅方面ではなく
俺の知らない地下鉄に乗り
俺の知らない町に降りる
彼女はどこかへ通話しながら歩き出す
何を話しているのかは分からないが
視界の端に突然包丁が見えた
誰目線の視界かと考えが至る
きっとヤバいやつだろう
※※※!叫びながら走り出して
彼女に駆け寄り彼女の背中を刺す
倒れた彼女にまたがり
何度も彼女の腹に包丁を刺した
夢の中だからか彼女の声は聞こえない
物凄い形相で悲鳴を上げているのは分かる
そしてしばらくして
彼女は動かなくなった…
最後に包丁を腹に突き立てたところで
包丁から手を離し
空を仰ぐ
その直後に通行人の男性数人に取り押さえられ
意識はぼやーっと途切れていった
~・~・~・~
何だか恐ろしく生々しい夢を見た
これまでの経験上
俺は夢を見てもすぐに忘れる
ただ今しがた見た夢はまるで経験したことであるかのように
確実な記憶になっている
心臓も強く拍動している音が聴こえる
まさかとは思い
TVで直近のニュースやスマホでのニュースを確認する
そのような女性が害された事件があれば
大きな報道がなされるであろうが
そのような事件は無く
幸い昨夜の出来事の正夢ではなかったようだ
ふぅ、、、
ただの夢だったのかな
スマホを開いていたついでに
地図アプリを起動して
彼女の会社の最寄りのスーパーを確認
夢の中で彼女が行っていたスーパーである
ここは彼女と俺が一緒に行った事もあるので実在する
そこから彼女が夢の中で歩いた景色を
ストリートビューで確認する
…
ヤバい…
…
彼女が夢の中で進んでいた景色と
ストリートビューの景色が一致する
過去に俺は行った事の無い場所
ここを曲がると〇〇駅の地下鉄があって…
地下鉄の〇〇駅で降りて…
先ほど変質者が彼女を刺した現場となる
歩道もばっちり確認できた…
俺は次の日から会社に頼み込んで
仕事のシフトを変えてもらった
彼女が夢の中で着ていた服は夏服
1年後の夏、2年後の夏の予知夢を見た…
それは可能性が低いと思う
今年の冬
彼女の誕生日に俺は彼女にプロポーズをして
仕事を辞めてもらい今後は俺と一緒に住む計画だ
確定事項ではないが
彼女は普段から
「仕事を辞めたい」
と愚痴をこぼしている
もちろん時期によって事情が変わって
彼女は仕事を続けたいと言うかもしれないが…
まぁ何にせよこの夏、、、
特に今月中ぐらいが
俺の人生を左右する大事となるかもしれない
夢で見た内容に振り回されるなんて
バカバカしいと感じるヤツもいるかもしれないが
もし俺のいないところで彼女が殺されたとニュースで見たならば
俺はもう生きていけない
俺はさっそく彼女にメッセージで
「夜道に気を付けてね」
という何だか気持ちの悪いメッセージを送り
こちらも変質者に対抗すべく凶器は購入し用意しておく
仕事のシフトは早番にさせてもらったので
朝4:00~14:00まで拘束される
その後に電車で1時間半程かけて
彼女の勤める会社まで行き
仕事終わりに合流
そこから彼女の自宅までを護衛する
という日を1週程続けるが
特に何も起こらない
ほっ・・・・
良かった
何も起こらないならそれが一番良い
備えこそすれど
実際に包丁を持った変質者と取っ組み合いなんて
絶対に嫌だ
こちらが捕まってしまう可能性もある
そして彼女の護衛8日目、9日目、10日目と
続けるが何も起こらない
電車での長時間の移動があったり
朝早くから起きているので寝不足ではあったが
連日彼女に会える事は思いの外に楽しく
愛する人を守る充実した毎日だと感じ始めていた
ところが護衛11日目
彼女の仕事が終わってから
「今日みんなでスーパー行こうよ」
という同僚からの誘いがありそちらを優先するようだ
スーパーに行く4人の顔ぶれは夢の中の4人と同じ
否応なしに緊張が高まる
俺はその4人から離れたところで見守る
もしかするとこのスーパー内に変質者が…?
金曜の夜
辺りを見回すとスーパーは客でごったがえしている
全ての人間が怪しく見える
夢の中では変質者が男性であるか女性であるかも
分からなかったのだ
彼女は今日俺が来ていることをおそらく知らない
スーパーに行くということが俺に伝わっているので
俺は来ていないと思っているのだろう
そしてスーパーを19:00過ぎに出て
案の定4人は解散した
本当にただ買い物をしただけであった
その後に誰かの家で夕食を作り
女子会のような流れであって欲しかった
…頼む、このまま何も無く家に帰ってくれ…
と願ったものの
彼女は俺の知らなかった地下鉄へと向かって歩きだした
やはり夢と全く同じ
俺の心臓が早くなり、脚が震える
近くに変質者がいる確率が高まってくる
確率が0からどんどん1に向かっている気がして
頭から血の気が引いていくが気合を入れ直す
…これから変質者と対峙して彼女を守るのだからそんな事でどうする!
頬をパシンと叩き、闘魂を滾らす
彼女は地下鉄の駅へと入っていったので跡をつける
スーパーのWCで化粧直しをしていたからか
彼女は今日は妙に綺麗だ
服装も気合の入ったものに見える
どこに行くのかとこれまで考えた事が無かったが
電車の中でふと頭をよぎった
俺は辺りを警戒しながら
地下鉄の電車を降り
改札を抜けて
駅前広場に出た彼女を見る
彼女はスマホを取り出して
どこかに通話の発信をし始めた
ヤバッ!
彼女の跡をつけている事は絶対にバレてはいけない。
気持ち悪すぎる!
と思ったが通話の相手は俺では無く別の相手であったようで
俺のスマホの着信音は鳴らなかった
…あぶないあぶない
「……あ、ヒロキ!もしもし~!今着いたよ。今から家に向かうね。うん、うん。そんな、いいって。私が無理言って行きたいって我儘言ったんだから。付き合ってから初のお泊りだね。えへへ。うん。嬉しい。夜ご飯はさっきスーパーで食材買ってきたから作ってあげるよ。楽しみにしててね。うん。うん。一緒に食べようね。うん。うん。いつも相談乗ってくれて本当にありがとう。元気出たよ。うん。でも、ちょっと最近深刻なんだ。ストーカーここしばらくずっとなんだよ。ごめんね。ヒロキにも迷惑かけちゃうかもしんない…。え?…嬉しい。えへへ。でもほんとしつこいんだよ。帰りの駅で金曜日なんだけど毎週待ち伏せされてたり、『もっと会いたいね』『結婚して一緒に暮らせればいいね』とか、夏でも目深にフードかぶってるからあんたの顔も知らないのにって。
あ!ごめんね。気持ち悪いよねヒロキ。え?ホント?ありがとう!…でもさ、ここ1週間くらいかな?ずっと仕事終わりにつけられててキモいの。「夜道に気を付けて」とかのメッセージを警察に相談してもダメだし、ほんっっと変態死んでほしい!」
(※※※ 繰り返し)
俺は空を仰ぐ
一筋の涙が頬を伝い包丁の柄へと落ちた
その直後に通行人の男性数人に取り押さえられ
意識はぼやーっと途切れていった