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【恋愛 現実世界】

あの病院には幽霊が出る

作者: 小雨川蛙

 

 あの病院には幽霊が出る。

 女の人の幽霊だ。

 不慮の事故で亡くなった女の人。

 その身体は見るも無残で病院に運ばれたけれどお医者様は彼女を見てすぐに言った。

「これは助からない」

 彼女はそのまま死んでしまった。

 その日から、あの病院には幽霊が出るようになった。

 見るも無残な姿でずるずる、ずるずると這い続ける。

 聞くのもおぞましい声で助けを求め続ける。

 お医者様はその幽霊が怖くなって病院を逃げ出した。

 後任のお医者様達もすぐに逃げ出した。

 だから、あの病院には入院をする他ない患者と半年を待たずに次々に変わっていくお医者様しかいない。


 ある時、またまたお医者様が変わって若い医者がやって来た。

 当然、その医者の下にも幽霊は現れた。

「助けて。助けて」

 恐ろしい姿で泣きながら、這いずりながら新しい医者に言う。

 すると、その若い男の医者は言った。

「分かった。そっちへ行くよ」

 きょとんとする幽霊に彼は微笑んだ。

「幽霊の手術なんてやったことないけれど、とりあえずやれるだけのことをやってみよう」

 そう言って彼は彼女の体に触れようとしたけれど、その手と体が触れることはなかった。

 一瞬、浮かんだ希望が絶望に変わり幽霊は再び泣き出した。

 けれど、医者は優しい笑顔を浮かべながら言った。

「ごめんね。少し時間がかかるかもしれない」

 触れることも出来ないのに抱きしめる形を取りながら。

「だけど、一緒に色々と試していこう。医者と患者さんは二人三脚なんだよ」



 あの病院には幽霊が出る。

 女の人の幽霊だ。

 不慮の事故で亡くなった女の人。

 痛々しい傷痕はあるけれど、そのほとんどが白衣で覆われて言われなければ中々気づかない。

 いや、あんなにも堂々としているから幽霊だということにも気づかれていないかもしれない。

 禿げた頭を隠すためにバレバレのカツラをつけたおじいちゃん先生の後ろにいつも彼女は立っている。

 幽霊だから先生のサポートはほとんど出来ないけれど、代わりに患者さんたちといつも笑顔でお話しをしている。

「大丈夫。安心して」

 手術が怖くて泣いてる女の子に幽霊は微笑む。

「お医者さんと患者さんは二人三脚で進んでいくんだよ。だから、あの先生を信頼してあげて」

 幽霊さえも手術をしたという逸話を持つおじいちゃん先生は今日もまた病院で穏やかに患者さん達を助けている。


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