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死燐集書  作者: 黒漆
12/13

変意

インタビューC


 ああ、確かに見た。あれは女の子だったよ。赤い着物を着た昔風のおかっぱの女の子。そいつが俺達の目の前、木々の間に開いた空間をすっと横切ったんだ。一瞬の間だったけど、俺達は確かに見たんだ。あれはなんだったんだろうな。やっぱり幽霊なのか? 空飛ぶ人間なんて居る訳ないものな、今思い出しても背筋が寒くなるね。そうそう、声まで聞いたなんて奴も居たよ、確か。怖いね、まだまだ俺達の知らない世界ってのが確かに有るのかも、そう思ったよ。


 うん、そうね。確かに見た。私も見た。日本人形みたいな綺麗な女の子だった。切れ長の目で長い髪をなびかせて空を横切ったの。同時に私には声まで聞こえたのよ。背筋が寒くなる、体が震え上がる声だったわ。あの日の夜金縛りにまであったのよ。全く冗談じゃないわ。あなたも寝ている間、人形風の女の子に顔を見下ろされてみなさいよ。でも、あの日以来、私の元には来てないのよね。もしかしたらあの女の子、ただ寂しかっただけなのかもしれない。


インタビューB


 うーん、どうなのかねえ。確かに俺も視界を横切った赤い布みたいなものを確認したよ、でも女の子だったかどうか、と言われるとイマイチ思い出せないんだよな。でも、俺以外の奴等がそう言うんだから、確かにそうだったのかも知れないな。だとしたら少し怖いよな。俺ってさ、霊とかそう言う奴、今まで一度も見たこと無いんだよね。だから少し、今回の事面白いなって思ったんだよ。女の子の幽霊ね、確かにそうだったかも知れないなあ。


 女の子、女の子。どうだったかな? 確かにそう言われて見ればそうだったかも知れないわね。あの時私、風の音聞いたのよね。今日って比較的風の無い日じゃない? だけどこんなに日に風が耳元で吹くなんておかしいなってずっと思ってたのよ。そうね、そうだったかも知れない。あれってやっぱり幽霊だったのかしら。だとしたら怖いわね。どうしよう、眠れなくなるじゃない。やっぱりそういうアルバイトだったのね。それを知っていたらやらなかったのに。


インタビューA


 これって一体、何のバイトなの? 夜の間に街中の公園を知らない奴等と歩くだけなんて、こんな訳の分からないバイト初めてだよ。ま、俺としてはさ、これでバイト代貰えるなら楽だから良いんだけどさ。しかしあんたらも暇なやつらだね。こんなの何の役に立つ訳? 俺みたいな凡人には解らないってか。実際、別に解らなくても良いんだけどさ。ちょっとは気になるだろ。あ、赤い布? 見たよ。なんだよあれ。訳わかんないな、あれに何か意味有るのかなって俺は思ってたけど。やっぱりあれに意味があったわけ?


 これ、本当にバイト代貰えるの? ただ数人で歩いただけだけど。でも偶には悪くないわねこう言うの。知らない人達と何も考えないで雑談しながら公園を歩き回る。意外に楽しめたわ。で、これってどういったアルバイトなの? コンパとか、この後企画されてるわけ? 私はパスするわ。だってそんなに暇じゃないもの。私には彼氏がちゃんといるし。え? 布? ああ、確かに見たわよ。風で舞い上げられただけじゃない? またこういうアルバイト貰えるなら言って。私参加するから。



 さて、このインタビューですが同じ日にAとBについては同一人物から撮らせて頂きました。この実験はまず、5人で夜の公園を貸切して歩いていただく事から始まりました。5人中3人はこちら側の人間で残り2人は全く何も知らないただのアルバイトです。そうして途中、黒塗りしたワイヤに子供大の赤い布を通して木々の間を飛ばす仕掛けを、こちら側の人間がアルバイトの2人に意識させるように仕向けました。3人が同時に同じ一点を注視するといった動作を行ってですが。


 こうしてこの後、歩く事を中止していただき、一人一人個別に別れていただいて撮ったのがインタビューAです。その後、5人に意図的に集まって貰い。こちら側の人間3人にあるエピソードを語って頂きました。


 なあ、俺さ。指差しただろ? あの赤い服着た女の子だよ。実はさ、前から噂があったんだよな。この公園出るって話。ここは昔、人形の工場があったらしいんだよ。それが戦時中焼夷弾によって跡形も無く焼かれちまったらしい。だけどな、そんな中で一体だけ無傷な人形が有ったらしいんだよ。それに気がついた周りの人間が祟りを恐れてね、その人形を寺に預けたらしいんだ。だけど、何日かに一度、その人形が寂しがってこの公園まで飛んで舞い戻って来るんだと。だけどさ、そんな話本当だと思わないだろ? でも、俺見ちまったよ。なんだよあれ、俺、怖いよ。


 あ、私もその話聴いたこと有ります。確か、日本人形風の女の子でしたよね。私あの女の子見た時、幻覚かなって思っていたんですけど、だってほら、皆さん平然としていらしたじゃないですか。でもやっぱり見えていた人もいらしたんですね。私、怖いです。この公園で追いかけられたなんて話も良く聞きましたし。


 すまない、俺も見てたんだ。今も気配を感じてる。だから余りそれに関して話したくなかったんだが、でもこうなった以上仕方が無い。人形の話あっただろ、その人形、依頼した人間が亡くなった自分の娘を偲んでそっくりに作り上げた特注品らしいんだ。俺も実際、その人形を寺で見て来たんだけどな。あれは怖い、体の作りが妙に生々しくて、息遣いを感じたり、なぜか触ってもいないのに肌に弾力があるのがわかるんだ。それよりも、本当にこの公園に現れるとはね。これ以上は拙そうだ、後はこっちで何とかするから今日の所はここで解散しよう。アルバイト代は払う、今日は有難う。


 こういった話をこちら側の3人がしてアルバイトの2人に聞いていただいた後、公園の外で個別に撮ったものがインタビューBです。この時点でお気づきかと思いますが彼らの記憶が微妙に変化してきているでしょう?


 その後、数日を明けて撮ったものがインタビューCです。ここまで来ると完全に最初の感覚は失われていますね。実際の地元の怪談を利用した事で彼等2人の感覚を変化させる事は容易でした。結局の所、人間の記憶は大人数の側に寄る事が多く、後から自分が体験していない事までがまるで体験した事のように改変されてしまう。そういった状況を証明するためにこの実験を行ったのです。


 私は自分の記憶がどこまで正しいのか、疑ってしまいます。こういった事が簡単に起きてしまう事をあなたは恐ろしいとは思いませんか。



 所で申し訳ありません、そのこちら側の3人のスタッフなのですが、劇団の方を雇って演技していただいたのです、ですがその内の1人が数日前から行方不明なのです。レポートを纏めるためにどうしても彼の話を聞かなければいけないのです。あなたも彼からお話を聞くおつもりでしたら一緒に探していただけませんか?


 演技に必要とかで、本物の人形を寺まで見に行ったそうです。気配についてのアドリブを入れて下さった方ですよ。そう言えば、随分と熱のこもった演技だったなと今更ながら思うのですが。


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