最終章
赤や黄に彩られた木々の中を、一人の男性が二つの花束を手に、時折遠くに波の音を聴きながら石段を昇っていた。
一つの墓石の前で止まり、33本の赤いバラの花束をその墓の前に置いた。
『一条家之墓』
刻まれた文字をじっと見つめると、もう一つの43本の白いバラの花束を隣の墓の前に置いた。
『光月家之墓』
二つの線香の束に火をつけ、それぞれの墓の前に置くと、いくつもの白い糸が天に向かって流れて行く。
11月16日
今日は、司と亮の命日だ。
一度手を合わせ、目を閉じて再び目を開けた紀伊也は、司の墓石に刻まれた文字を、手首に何もないその右手でなぞった。
「司、あれから1年だ。俺は今こうして生きている。お前が生きろと俺に言うなら俺はまだ生きる。
お前が感じたかった事、俺が感じてやる。 お前がこれからどう生きたいかは知らないが、俺は自分の為にお前の分まで生きてやる。
お前の与えてくれたこの命、大切にするよ。だから一緒に生きて行こう。
・・・それに、お前のやり残した事、ありすぎて終わらないよ。まったく何だってあんなに遺言あるんだよ。チャーリーが怒ってたぞ」
そして、隣にある亮の墓に目をやった。
「司、亮さんと何話してたんだ?」
再び司の墓を見つめ、空に昇る何本もの白い糸を辿って行くと、微笑んだ。
「また、来る」
そう言って紀伊也は踵を返すと歩き出した。
〈完〉
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
つらつらと書いてしまい、読みづらかったと思いますが、感謝です。
『生きる事』は本当に難しいのか、個人的には永遠の疑問です。
次章は、外伝「イミテーション(継母)」です。