終章
懐かしい程に眩しく優しい笑みにぶつかって思わず目を伏せたが、そっと目を開けると顔を上げた。
「ジュリエットは笑ったか? ・・・、ねえ、兄ちゃんはどう思うの?」
答を出さずに訊いてみる。
「司はどう思うんだ?」
再び微笑み返された。
観念したように考え込むような素振りを見せたが、思い切って言ってみる。
「多分・・・、そうだな、オレは微笑ったと思う。胸に剣を突き刺す時、ジュリエットはこう言ったろ。 自分の胸が鞘だ、と。 きっと剣を刺したとき、幸せの鍵を刺したんだ。 鞘は鍵穴だったんだよ」
「死んでも幸せだと?」
「え?」
「だって、死んでしまったら終わりだ」
「 ・・・。そうだけど・・・、難しいな。 死んでしまったら何も無くなってしまうのかもしれないけれど・・・。 そりゃ、生きていればこれから先どんな幸せが待ち受けているかもしれない・・・。でも、辛い事も山ほどあるかもしれない・・・。
そうだなぁ、生きていれば・・・、幸せな事も沢山あると思う。けど、やっぱり、ジュリエットはロミオと生きる事を選んだんだと思う。
けど、本当にジュリエットは幸せなのかなぁ。
死んでも幸せなのかなぁ・・・。 ねェ、兄ちゃんはどう思うの?」
あれこれ考えた挙句、結局答が分からなくなって、亮を見上げた。
「そうだな・・・。もし、お前が先に死んでしまったら、俺はジュリエットと同じ事するかな。司は?」
え?
包み込むように抱き締められて思わず戸惑った。
「考えた事ないよ、兄ちゃんが死んじゃうなんて」
「生きてて、もし俺だけ生き残ってしまって、もし他に素敵な女性が現れて、その人と一緒になったとしても、きっと司の事は忘れられないし、司以上に愛する事は出来ないと思う。 俺はお前と生きる事を決めたんだ。 ジュリエットがロミオと生きる事を選んだように」
「死んでも・・・生きるの?」
「そうさ。だからジュリエットは微笑った。最期の自分の選択に間違いはない、愛する人と添い遂げたいってね」
「これから生きるって決めた誇りの笑みか」
そう呟くように言うと、その温かい胸に体を預けた。
これから生きる事を決めた誇りの笑みなのか、それとも生きて来た中で、大切なものを見つけられたという満足な笑みなのか。
『ジュリエットの微笑み』
きっと誰もが持っている筈だ。
司はそう信じていた。