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第十三章・『運命』・Ⅲ・別離(一)

愛してさえいればやり直す事は出来るのだろうか?

 『運命』 Ⅲ 別離 (一)


「珍しいな、お前が俺を呼び出すなんて」

玄関の扉が開かれるなり、そう言った。

司は黙って和矢を中へ入れると、居間へ入り、そのままサイドボードを開け、グラスを二つとブランデーを一本出すと、それをグラスに注いだ。

一つをテーブルに置き、一つを手に窓際へ行くと、外を見ながら黙ってグラスを口につけた。

「なぁ、和矢、お前は今の暮らしに満足してるのか?」

グラスをサイドボードに置き、代わりにタバコを取ると、火をつけて天井に向かって煙を吐いた。

「まあね、命を懸けるなんてサバイバルな事しなくていいから、気楽にやってるよ。まぁ、多少のしがらみなんかはあるけど」

「そう、・・お前らしいな」

思わず笑ってしまった。

 余り深く考え込んだり、くよくよ悩んだりせず、とりあえずやってみて、それから何とかする。和矢らしい答えだった。

昔とちっとも変わっていない。

「・・・、それがどうかしたのか?」

自分を見つめる司の眼が、違うと感じた。

何か思い詰めてもいるようだ。

「このまま、若宮和矢として、生きて行きたいとは思わないのか?」

「司?」

「 ・・・、指令が出た」

「え?」

いつもの司らしくない。

そう思った。

何をそんなに迷っているのだろうか。

司は一服吸って、横を向いて煙を吐くと、視線だけを和矢に向けた。

「お前の全ての記憶を戻す」

そう言うと、目を伏せて再びタバコを吸った。

「それじゃあっ」

やっと対等に司の力になれる。

一瞬、和矢の目が鋭く輝いた。

 まるで、野原の真ん中に柔らかいウサギがんでいるのを見つけたたかのようだ。

和矢はソファから勢いよく立ち上がると、司の傍へ寄り肩を掴んで振り向かせた。

「やっと、お前の力になれる、昔のようにっ」

「・・・、ああ」

一瞬、ビクっとした司だったが、目を反らせたまま呟いただけだった。

 ?

余り嬉しそうな顔をしない司が気になった。

自分が完全に復活すれば、司の負担がかなり減る筈だ。

全てが元通りになる。

それに、ここ最近出ていた指令の数に、和矢は少し驚いていたのだ。

 並木が死んでから、一切の連絡が取れずにいたが、司がタランチュラとして任務をこなしていた事を知ると、不安なところもあったが、何とか司なりに立ち直ってくれたものだと思っていた。

「司、嬉しくないのか? 俺が元に戻る事を」

司は、タバコの火を消すと、窓にもたれた。

「いや・・・、別にどうでもいい、そんな事。ただ、今の暮らしを7年も続けて来たお前にとって、それがいいのかどうか、オレにはよく解らない。記憶が戻れば、また苦しむ事になるぞ。それでもいいのか?」

司の言っている意味がよく解らない。 が、その言葉から気になる事があった。

「司、お前、俺の何を封印した? 能力の他に何を封印したんだ?」

一瞬和矢を見上げたが、すぐに目を反らすと、和矢の手を振り解いて離れようとした。

その瞬間、和矢の手が司の腕を掴んでいた。

頭では何も思い出せないでいたが、その手が思い出したのだろうか、ぐいっと引き寄せていた。

が、司は何の抵抗もせず、和矢の腕の中にいた。

「思い出したのか? オレがお前をどうやって封印したかを」

顔を背けたまま言う司の体から何かを感じた。

 

 どうやって?


一瞬考えた和矢だったが、ハッとすると、そのまま自分の両腕に力を込めていた。

抱き締めた司の身体が細くしなやかに感じた。

ビクッと硬直した司の感触を感じた時、その鷹は急降下し、その鋭い爪が柔らかい野うさぎの身体に襲い掛かった。

引き裂かれた野うさぎの毛皮のように、司の衣服が引きちぎられた。

鋭い爪が抵抗して暴れるウサギの身体を押さえつけ、どこからその鋭い口ばしを入れようか、め回している。

ハヤブサのが怖かった。

あの時はそれ程感じなかったが、今は恐怖だった。


 ******


『和矢の封印を解けだと!?』

思わず目の前のRに喰ってかかろうとした。

『そうだ、お前の能力の限界の前にそれだけはしてもらわないと困る。それがせめてものタランチュラとしての最後の忠義というものだろう。ハイエナも使いものにならない今、それしかない』

『それは断るっ。あいつを元に戻してオレが死んだら、あいつもっ』

『死ぬな』

『分かっているなら、何故だっ!?』

『ハヤブサがそれを望んでいるからだ。お前の為に死ねるなら本望だと』

『嘘だっ! あいつはそんな事望んじゃいないっ、和矢は、本当はっ・・・』

言いかけて口をつぐんだ。

これ以上Rに何を言っても無駄だろう。しかし・・・

『封印をく事だけは断る。他の方法をユリア達に考えさせろ』

そう吐き捨てるように言うと、Rに背を向けた。

『亮には許せても、ハヤブサには許せないのか?』

歩き出そうとした足が止まり、思わず振り向いた。

さげすむように自分を見つめる亮太郎の視線が胸を貫いた。

『お前はタランチュラだ。もう亮はいない。それとも、もう一人の優しい兄を呼ぶか? お前を妹として可愛がってくれた、翔を』

『親父・・・』

息を呑んで目の前の父親を見つめた。

 こいつには血が通っているのだろうか

ふとそう思った。

やはり亮を手に掛けたのは、亮太郎だったのか。

そう確信せざるを得ない。

 ここでRに背けば、次は翔か・・・。

『指令だ。ハヤブサの封印を解け』

『・・・、期限は?』

『いつでもいい』

『・・・。全てをRの名のもとに』


 ******


 ハヤブサが大きな翼を広げ、足に組み伏せた野うさぎに襲い掛かり、その身を食いちぎった。

一声の悲鳴を上げると、生き絶え、食い尽くされた。

一時の静寂が辺りを包むと、 はぁっ はぁっ と息を整える音だけが妙に響いていた。

汗ばむその体を離すと、細く尖った顎を持ち上げ、その薄い唇に口付けをした。

「司?」

「ごめん」

「いいさ、また今度。お前も疲れてるんだ。俺の封印を解くのがそう簡単に行かない事くらい承知している」

そう言うと、司の額に滲む汗を拭い頬を撫でた。




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