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第十二章・解散(一)

心を閉ざしてしまった司に歩み寄ろうとする秀也。しかし・・・。そして、事件の真相の意外な事実が明らかになる。

第十二章 解散(一)


 あれからちょうど二ヶ月が経った。

皮肉にもニューヨークで亮と別れた日と同じ日で、天気も同じように明るい灰色をした冷える朝だった。

 知らせを聞いたメンバーやスタッフ、それにファンにとっては、今年最大のクリスマスプレゼントとなった。

新聞や週刊誌も、ここの所大して世間を騒がせるような記事もなかった事から、メンバーや関係者を巻き込んで、大きく取り沙汰していた。

取材を受ける側も明るい話題なだけに、皆狂喜していた。

 ただその中に、紀伊也の取材だけはなかった。

当然のように拒否していたのだが、いつものように取材嫌いなだけではなかった。

司の生還の第一声に、戸惑いを隠せないでいたのだ。

誰にも言ってはいないが、司が本当に『死』を望んでいた事を確信したのだ。


『お前か、オレを呼び続けたのは。なぜ、そんな余計な事をする?』

虚ろな目でこちらを見て、責めるように呟いた。

その深い絶望に満ちた瞳に紀伊也は何も言えなくなってしまった。

『もう少しで追いつくとこだったのに・・・。お前の声に振り返ったら、また置いて行かれたんだ』

司はそう言い放ちキュッと目を閉じて、唇を噛み締めていた。

ふっと向方を向いた時には、涙が頬を伝っていた。

『兄ちゃん、何でまた置いて行っちゃうんだよ・・・ ずっと、ずっと、一緒にいてくれるって、約束しただろ・・・』

向方を向いたまま、声を押し殺して泣いている司に何も言えず、紀伊也は黙ってその場に立ち尽くしていた。

それが、司の目覚めだった。


 ******


 年が明けても誰にも会おうとしなかった。

秀也でさえも、面会を拒絶された。

仕方がない、それは秀也本人も解っていた事だ。

あの時は、自分から司を突き放したのだ。

秀也にしてみれば、「あれから」二ヶ月以上が経っていたが、司にしてみれば、「あれから」時は止まったままだ。

晃一は憤慨していたが、それをナオがなだめていた。

新たな溝がまた一つ出来た。

 司の傷の回復は雅の手のお陰で順調だったが、まだベッドから起き上がる事も出来ないでいた。

司本人に、意志が全くないのだ。

雅もユリアも和矢も、苛立って来ていた。

“らしくない”皆そう思っていた。

何か話しかけても、「ああ」、「そう」という生返事しか返って来ない。

聞いているのかさえもはっきりしない。

それに、和矢の封印が解けてしまった事にさえも『そう』としか言わず、特に驚いた様子さえも見せずにいた。  

が、和矢の顔をまともに見る事はしなかった。


「何、それ」

初めての司の問いかけに、紀伊也は顔を上げて、手にしていた物を掲げた。

「この前出した写真集。チャーリーが持って来てくれたんだ。見る?」

微かに頷いたのを見て、写真集を差し出した。

 弱々しく手が動く。

点滴の管さえも、重たい鎖につながれているかのように動きが弱い。

体を起こそうとしたが、力が入らない。

どこにどう力を入れていいのかさえの感覚も忘れているくらいだ。

紀伊也に支えられ、ようやく体を起こす事が出来た。

背中にいくつものクッションを当てなければ、一人で支える事も出来なかった。


 真っ白な表紙に『Juliett 5'th』と書かれたページをめくる。

最初のページは、岡山で行われたライブのステージだった。

今にも音が聴こえて来そうだ。

一人一人のアップでは、躍動的で真剣でかつ、生きて輝いていた。

 ページを捲って行く。

紫陽花あじさいに囲まれた司は、ステージで歌い・踊る、躍動感溢れた司とは対照的に、何か物憂げな優しさに包まれていた。

 そして、紫色のラベンダーに囲まれたに目が留まった。

晃一とナオは当てもなく広がる空を見上げ、これから始める自分達の未来を想像しているかのようだ。

紀伊也は足元に広がるラベンダーに、何か語りかけるように、優しく見つめていた。

そして秀也は、そのラベンダーに誰か愛しい者を重ねているかのように、微笑んでいた。

 包んで守ってあげたい、そう言っているようだった。

『柔らかい、守ってあげたい』

彼女の事をそう言っていた。

そして、

『お前に俺は必要ない』

そう突き放すように言われた。

その言葉通り、紫のラベンダーがナイフのように突き刺さって来たのだ。

司は、皆とは対照的に、切なく打ちひしがれた顔をしていた。


「司、どうした? 顔色悪いよ」

「え、あ、ああ・・」

心配そうに覗き込まれ、慌ててページを捲る。


 思わずドキッとした。

中央のアップの写真を囲むように、連写された描が載っていた。

 裸の秀也に抱かれた司が肩を露わにし、ギターを抱えて挑発的な視線を送っていた。

それを取り囲むように、司が秀也を抱き、秀也が司を抱いていた。

あの時に、秀也は変わってしまった。

常に司を責めていた。

 何故、お前は俺の前に現れたのか?

 何故、お前は生きているのか?

そう責められているような気がしていた。


「その写真、すごい反響だったよ」

「え?」

思わず紀伊也を見ると、複雑な顔をして、その開かれたページを見ていた。

「いわゆる賛否両論ってヤツでね、好き勝手言ってた。 ま、言いたいヤツには言わせておけばいいんだけど。・・・、そんな表情かおで撮れるなんて、お前らじゃなきゃ、出来ないよ、な・・・」

そう言って言葉を切った。

「・・・・・」

司は、じっと秀也を見つめていた。

確かに愛されていた。

この熱い胸に抱かれていたのだ。いつも傍にいて抱き締めていてくれた。

それが、いつから遠くに感じてしまったのだろう。

気が付いた時には、手の届かないところへ行ってしまっていた。

 本当に、あの日に終わってしまったのだろうか・・・。

何気にページを捲って行き、最後のページを見た時、息が詰まった。

「それ、皆でどうしようか迷ったんだ。 出版すんの止めようって言うヤツもいたんだ。でも、もし司に訊いたら、そのまま出せって言うだろうからって、そのままにしたんだ。かしわっちも相当悩んだらしいよ。まさか自分の撮った描が、あれ、と重なるなんて思いも寄らなかっただろうからな。・・・、司、柏っちに言ったんだって? 真紅のバラの花びらが好きなんだって。それはまるで、自分の血のようだって」

「・・ああ・・」

司は、真紅のバラの花びらに埋め尽くされたマイクを見つめながら返事をした。

それは、あの時の司の血に埋もれたマイクのようだった。



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