1.パーティー離脱
カナン王国の冒険者ギルドにてLRランクパーティー【疾風の剣】に加入している黒髪黒目の俺の名前は“キール・バグスレイヤー”、武器は蠅叩きで【蠅】と認識した者を叩くことで即死させる能力を持っている。
「で、今日は急に呼び出して何の話だ?」
「何の話だと? 最大ランクに上がったんだ分かってるだろ、武器が蠅叩きなんて奴が居たら格好付かねえだろうが!」
「要は俺にパーティーから離脱しろと言う訳か……」
彼はLRランクパーティー【疾風の剣】のリーダー“バアル・ゼブル”筋肉質な体躯に背中には巨大な手斧を携え茶色い髪に翠色の眼をしている。
「話が早えじゃねえか……」
「そんな気がしてただけさ、パーティーを抜けるのは構わないがコレだけは言っておく。」
「俺様に助言か? 要らねえよ、これ以上生意気な口聴くつもりなら殴るぞ……?」
「ならいいか、じゃあな俺は1からソロ攻略でもするとしよう。」
徐に席から立ち上がり起立すると冒険者ギルドのカウンターへと歩み受付嬢へ【疾風の剣】からのパーティー離脱の旨を伝える。
「ええ!? 本気ですか、折角LR冒険者になったのに最低ランクをソロから始めるなんて!!」
「ま、俺なら一週間もあれば余裕でソロでもLRランクまで伸し上がるしな。」
「そうですね、では最低ランクのNランクから始めましょうか。」
「そうしてくれ。」
【冒険者ランク】とは最高ランクLRからUR、SSR、SR、HR、R、HN、Nの8ランクまでありギルド職員による昇格テストに合格することでランクを一つ上げられる。
「はい、手続きが終わりましたのでソロ冒険者用のギルドカードをお渡ししますね。」
【ギルドカード】とは冒険者に必ず渡される身分証で名前や年齢が記載されており【ソロ】と【パーティー】用の二種類が有り、それぞれ倒した魔物から排出されるマナを吸収し自動で解析を行い討伐した数や個体名が解る様になっている。
「早速ですが依頼を受注しますか?」
「いや、今日はゆっくりするとしよう。」
「そうですか、ゆっくりお休みになられてくださいね。」
踵を返し冒険者ギルドから出て街中を歩いているとLRパーティー【疾風の剣】の紅一点“サラ・フレイヤ”が紅い長髪をなびかせ黄色い眼で俺に気付くと高身長で大きな胸を揺らし手を振りながら近付いて来る。
「おーい! キール、私達ついにLRランクまで登り詰めたね! 今夜はパーティーだね!!」
「それがな……俺はパーティーから離脱したから二人でお祝いしてくれ。」
「え? どう言う事?」
「俺はお払い箱ってことさ。」
「はあ!? 何よそれ信じられない!! 仲間を何だと思ってるのよ、あの力馬鹿!!」
「つー訳で俺はソロで迷宮攻略することになった、まあ俺が離脱した時点で疾風の剣は崩壊した様なもんだしどうするかはサラに任せるよ。」
「辞める。」
「ん?」
「キールが居ないなら疾風の剣に居る意味ないし話ししてくる!!」
「そっか、実質解散だな。」
サラはムスッとした表情で冒険者ギルドへ向かい入るとバアルが気分の良さそうな表情をしながら酒を仰いでいた。
「か〜っ、美味え! 今夜は最高のパーティーになりそうだぜ!!」
(キールの奴、以外と聞き分けが良かったな……だがこれで今夜はサラと二人きりになれるぜ。)
「随分と機嫌が良さそうね?」
「おお、来たか! 今夜はパアッとやろうぜ、晴れてLRランクになったんだ!!」
「キールをパーティーから離脱させておいて良くそんなこと言えるわね?」
「あいつか、あの野郎は今までランクが上がっても“蠅叩き”を武器にしてダサいったら無かったろ? 俺達【疾風の剣】に前々から相応しくないと思ってたんだ、サラもそう思うだろ?」
「そうね、確かに相応しくないわね。」
「だろ? これからは二人で冒険者活動を」
「私も抜けるわ。」
「は? 何言ってんだ?」
「仲間の武器がダサいって理由でパーティーから追い出す奴と冒険者活動なんて誰がするのよ、一人で頑張りなさい!」
「お、おい!?」
サラはカウンターへ向かい受付嬢に疾風の剣からパーティー離脱の手続きを行いソロ冒険者へとなりNランクになる。
「じゃあね。」
冒険者ギルドを出て行くサラの後ろ姿を見ながらバアルは飲んでいた酒を一気飲みし机にダンッと置く。
「何なんだよ、またキールかよ! あんな蠅叩き野郎の何処が良いってんだ!!」
(今夜プロポーズやる予定だったのによ! 購入したダイヤの指輪が台無しじゃねえか、あの女!! キールがやった事なんて荷物持ちと斥候と迷宮のマッピングをして地図を作ったり罠の解除したり雑魚処理ばっかで誰にでも出来る雑用ばっかじゃねえか!! それに引き換え俺様は依頼の討伐モンスターを自慢の筋肉に膂力とパワーを乗せて一撃で斬り伏せて来たってのに、大した事をしてないキールにばかり色目使いやがって所詮は雌豚だったと言うことか。 好きにすれば良い、どうせ後から泣いて謝ってパーティーに戻して♡なんて言う気だろうが……その時は身体で支払ってもらうがなグヘヘヘへ今から楽しみだぜ。)
バアルが気持ち悪い妄想をしている頃、街中に現れた蠅をキールは叩き落とし駆除していた。
「そこだ!」
蠅叩きからパァンと音が鳴り響き打ち飛ばされた蠅は壁や地面にクレーターを作り絶命していく。
「まさか、街中に蠅が出て来るとはな……警戒した方が良さそうだな。」
「あぁん、相変わらず激しくて素敵だわ〜♡ 二人きりになるまで全然話せなくて退屈してたのよね〜。」
「おい、ミランダ! ……ったく、聴かれてるぞ?」
「ファッ!? あらやだアタシったら、あら? パーティーに居た娘じゃない?」
俺は蠅叩きのミランダと会話しているところをサラに見られてしまいサラは蠅叩きが喋っていたことに驚いているようだ。
「え、え? 今蠅叩きが喋ってなかった?」
「はぁ、こいつは俺の相棒のミランダだ。」
「相棒?」
「こんな姿じゃろくに挨拶も出来ないわね、よっと。」
ミランダは俺の手から離れると蠅叩きの叩く部分が人間の頭部へと変わり持ちて部分が人間の身体へと変化していくとプルンと大きな胸が揺れ、くびれはキュッと締りプリッとしたお尻をサラに見せつけ女体化する。
「に、人間になった!?」
「あら、そんなに驚くことないじゃない。 ほら、よく言うでしょ? 大切にしてきた物には魂が宿るってやつ。」
「そうなの?」
「武器としてだがな。」
「あぁん、もう照れ屋さんなんだから♡ 好きなら好きって言ってもいいのよ?」
「黙れ……」
「な、なんかあまり仲良さそうに見えないわね……」
「それより、サラもパーティーを離脱したのか?」
「あ、うん……なんか嫌な感じだったし気に食わなかったから辞めてソロ冒険者になったわ。」
「そうか、なら俺とパーティー組むか?」
「え、良いの? 勿論よ、キールなら安心できるし宜しくね。」
疾風の剣を離脱した者どうしで新たにパーティーを結成し、その夜は三人で祝杯を上げた。