車いすのアイツが残してくれた体育祭の想い出
俺のクラスには車いすに乗っている生徒がいる。
難病で身体の自由が利かず、一人では歩けないそうだ。
でも、明るい性格でうじうじしたりせず、みんなの人気者だった。
クラスの馬鹿にノリを合わせて一緒に盛り上がり、どんな時も楽しそうにしている。
んで、体育祭にそいつを競技に参加させてやろうっていう空気になった。
俺はあんまり気乗りしなくて、クラスメートの一人が注意してきた。
みんな一緒に頑張ろうって言ってるのに、アンタは何なのって突っかかってきたんだよ。
でも、車いすのそいつが言うんだよ。
そんなの人の自由だろって。
みんなの価値観を大切にしようぜって。
それ聞いてすげーなって思ってさ。
俺もちょっとだけ、力になろうかなって思って。
体育祭のリレーで、そいつは車いすでリレーに参加することになった。
んで、俺はそいつにバトンを渡すことになって、どうせやるんなら精一杯頑張ろうって思ってさ。
運動苦手だったけど、スムーズにバトンを渡せるように何度も練習をした。
そしたらもう……なんかすげー熱くなってさ。
本番は皆が注目していた。
車いすの奴がリレーに出るってんで、地方新聞の記者まで取材にきた。
物々しい雰囲気のなか、レースがスタート。
俺の番が回ってきた時は心臓がドキドキのバクバクだった。
バトンを受け取り、がむしゃらに走った。
あいつが待つ場所まで全身全霊で力を込めた。
「頼むぞ!」
俺がバトンを渡すと、アイツは必死に車いすを走らせた。
時間はかかったけど、最後までちゃんと走り切った。
ゴールテープを切った時、会場から拍手が起こったけど、なんか違うなって思った。
あいつは最後まで普通に走っていただけなんだからさ。
あれから十数年。
俺はおっさんと呼ばれるくらいの年齢になった。
今でもクラス仲間で集まって同窓会をしている。
楽しく酒を飲みかわすこの場に、アイツはいない。
病気が原因で卒業を待たず、この世を去った。
みんなあの体育祭の話をする。
そしてアイツの話をする。
一緒に卒業したかった。
酒を飲んで思い出話に花を咲かせたかった。
でも、それは叶わなかった。
お前が生きられなかった時間。
俺に与えられた時間。
精一杯、生きようと思う。
一秒たりとも無駄にできない。
俺さぁ、友達もいないし、いまだに独身だし、生きてて何も良いことがないけれど。
お前のことを思い出すと強く生きようって思えるんだよ。
だからさ……そっちで待っていてくれよな。
必ずバトンを届けるから。