野菜居酒屋GIGI
「とりあえず生ビールお願い」
「はぁーい!」
「初めて入る店だし、メニュー見ながら待つか。…………んん? んんん?」
「お待たせしました! お通しの『湯上がり娘』と生です!」
「あの、メニュー見ても分かんないだけど」
「あ、中国語のメニュー持ってきますね?」
「オレ、日本人、日本語わかるから!」
「……日本語分かるのにメニューが分からない? んー、お客さん、ヤってます?」
「何をだよっ!」
「おクスリ……自首しましょ? 警察署まで付き添いま……」
「やってねぇわっ!」
「えー。じゃぁ、なんで分かんないんですかー?」
「字は読める。単語も分かる。でも意味が分からんっ!」
「……やっぱり自首……。」
「やってねぇし!……ちょっと待て。さっきの、お通しの何だって?」
「? 『湯上がり娘』ですよ?」
「枝豆だろ?」
「はい、枝豆ですね」
「?」
「?」
「ねえ! 何なのその「何が分かんないの? 頭、大丈夫?」みたいな表情はっ!」
「だって、ねぇ?」
「枝豆でしょ? 『湯上がり娘』ってなんなの!」
「枝豆の品種名に決まってるじゃないですか」
「あああぁ、もう! そう言うことか! 普通の人は品種名で野菜の種類は分からないの!」
「!」
「「そんなバカな」って顔すんなっ!」
「私も店長も分かりますし……」
「お前ら基準で考えるなっ!」
「ふー。仕方ないなぁ。メニュー名を言ってくれれば説明しますよぉ」
「くっ! ムカつく。ここで帰るのは負けた気がする。これ!『夏の甲子園』のごま和え!」
「はぁ。コマツナのぉごま和えぇぇ」
「くぅぅ、ため息ぃ! 言い方ぁぁ! つぎ、『プリウスアルファ』のおひたし。ホント腹立つ!」
「はぁ。『プリウスアルファ』って言ったらホウレンソウに決まってるじゃないですか。はぁぁ。なんも知らん民いるとか、つらたん」
「今、おまっ! スゴイ顔したな! 普通プリウスアルファ言うたら自動車じゃっ!」
「!?」
「どんな表情っ!? 蔑んでるの!? 憐れんでいるの!?」
「……で?」
「「……で?」じゃねーわっ!」
「ぶふっ! 似てる、めっちゃ草っっ!」
「悶絶すなぁ! 進まねぇ! これ、【『インカのひとみ』、『シャドークイーン』と『デストロイヤー』の素揚げフルール・ド・セルで】って何!」
「フルール・ド・セルは塩ですよぉ」
「ネイル磨きながら説明すな! あと、塩は分かるわっ! 聞きたいのはそっちじゃねぇ!」
「あー。3種のポテトね?」
「最初からそう書けよ!」
「ちっ」
「舌打ちからの「これだから素人は……」って顔ぉ! 表情豊か過ぎ!」
「次は?」
「あー、もう。あぁもぅ。【『ケンシロウ』としゃきしゃき『サウザー』のシーザーサラダ温玉のせ】……分かるけど分からない……」
「……サラダ」
「枝毛さがすな! ケンシロウとサウザーて、北斗のあれかっ!」
「やだなぁ、ホクトはキノコ屋さんですょぉ」
「顔、うざい! うざぁ!!」
「はいっ! 私、宇座見です! あだ名は「ウザ」! よろしくね!」
「…………もういい、注文。生ビール大ジョッキ、【『ケンシロウ』としゃきしゃき『サウザー』のシーザーサラダ温玉のせ】と【『インカのひとみ』、『シャドークイーン』と『デストロイヤー』の素揚げフルール・ド・セルで】を頼むわ。疲れた。喉乾いた」
「はい、ご注文確認します。生、シーザー、3種のポテトですね?」
「ねえねえ、なんでお客が長いメニュー名をちゃんと言ったのに、店員のお前が省略すんの?」
「うざー」
「ウザはお前だろっっ!」
「! あだ名で呼んでくれたっ!」
「まっじ、ウザイぃぃ! 喜ぶなぁ!」
「てんちょー! オーダー!」
「急にいなくなるなぁ!!」
「……くそ。変なとこにこだわるだけあって、野菜ひとつひとつがうまかった。何だこの敗北感。ん? なんだ?」
「これ、サービスのジェラート2種盛りでーす」
「……うま。リンゴとスイカか」
「せーかい!『トキ』と『羅皇』の仲直りジェラートだって!」
「店長ぉぉ! 確信犯だろ、やっぱり北斗ぉ!」
「『羅皇』はナント種苗だよ?」
『◯◯』は実在する野菜、果実の品種名です。
『ケンシロウ』はキュウリ ナント種苗
『サウザー』はレタス タキイ種苗
お暇でしたら検索してみてね。
『夏の甲子園』のごま和え は、秋の桜子さまの提供。ありがとうございます。