南方フェトイの丘では31
「お待たせいたしました、殿下」
「さすがねキース! 物語の主人公みたいな活躍だわ!」
「光栄です」
王女が光る剣に夢中になっている間に、キースは手際よく敵を排除した。剣を使わずに戦ったため、全員が気絶、もしくは血を出さずに戦闘不能状態になっている。
「さっそく剣を見せてちょうだいな! あら?」
「ギイ?」
パンを抱えながらぱちぱちと侍従を称えた王女は、ふと近場に目を移す。ぱちぱちと大きな目を瞬いたツィーヤ・ンイバーヤがまとめて握っていた、入り口の枠とそれに接する檻の柵。握られていたそこが、握られすぎて一体化していた。
「まあ! ツィーヤ・ンイバーヤ、あなたの手の形に曲がっているわ!」
「ギ」
「どうなっているの……えいっ……全然開けられないわ」
「ギ、ギイイ……」
「こんな硬いものを握り潰してしまうなんて、ツィーヤ・ンイバーヤ、あなた見た目以上に力があるわね」
「ギギ」
金属が粘土かなにかのようにぐにゅっと形を変えているのを、王女はつんつんと指で確かめる。ツィーヤ・ンイバーヤはその隣でちょっと得意そうな目をしていたものの、キースの視線を感じて目を泳がせた。
「キース、そんなに怒らないでちょうだい。ツィーヤ・ンイバーヤは手でここを開けられるもの。そうよね?」
「ギイ!」
ツィーヤ・ンイバーヤが変形したところを掴んでめこっと広げると、王女はそれにも拍手をおくった。お姉さまが通るのだからもう少し広めに、足元もちゃんと空けてちょうだいな、などといった注文にもツィーヤ・ンイバーヤは丁寧に応えている。
「あっ、棒が取れてしまったわ!」
「ギ、ギギ」
「尖っていて危ないわね。こう、くるくるっと丸くできないかしら?」
「ギイー?」
「そうそう! とっても上手じゃないの! ツィーヤ・ンイバーヤ、あなた芸術の才能があるんじゃなくて?」
「ギ……ギイィ〜〜〜」
「殿下、出てから遊んでください」
キースは剣をしまい、金属工作をたしなむツィーヤ・ンイバーヤとステラ王女を牢の外に出してから、ブルーローズ王女に手を差し出した。
「第五王女殿下、どうぞ外へ」
「ありがとう……見事なあしらい方だったわね。わたくしはあなたを称えます、キース」
「身に余るお言葉でございます」
「わたくしの妹は、あなたのすごさをよくわかっていないようね……もう少しきちんと労うように教えなくちゃ」
狭い廊下での戦いだったとはいえ、武器を持った相手を大勢ねじ伏せることは容易ではない。それを剣なしでやってのけたことは、わかる人から見れば奇跡のような強さである。
国王陛下の御身さえも預けられるほどの実力だというのに、ステラ王女はにこにこといつも通りに誉めただけだ。
王族のために捧げられた優秀さは、それに見合った言葉が必要。ブルーローズがそれを指摘すると、キースは微かに笑いながら頭を下げる。
「殿下の御身を守ることは私の役目。たとえ言葉がなかったとしても光栄なことです」
「まあ、健気なこと。わたくしの妹は幸せね」
優しげな目が、妹姫を守る侍従に向けられる。
「ステラローズはあなたとトゥルーテにばかり頼るから、あなたがたの負担も大きいことでしょう。けれどね、わたくしたちからすれば、それほど信頼できる相手というのは幾千の財宝よりも価値が高く、かけがえのないものよ」
「殿下を負担に思ったことなど、出会ってから一度も感じたことはありません」
「あらあら」
ブルーローズ王女は、何年経っても変わらない妹の侍従ににっこりと笑う。その笑顔は、キースが毎日飽きるほど見ているステラ王女のものとそっくりだった。
「負担に思わぬだなんてとっても頼もしいわ。では、ここにあるわたくしのドレスをすべて運んでちょうだいな」
「……かしこまりました」
「お姉さま! 見て! ツィーヤ・ンイバーヤがはがねのリボンを作ったわ!」
おっとりしていて、ちゃっかりしている。
愛らしい人形のような姉妹は、そんなところも似ているのだった。




