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第七王女は旅に出たい!!  作者: 夏野 夜子


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62/70

南方フェトイの丘では31

「お待たせいたしました、殿下」

「さすがねキース! 物語の主人公みたいな活躍だわ!」

「光栄です」


 王女が光る剣に夢中になっている間に、キースは手際よく敵を排除した。剣を使わずに戦ったため、全員が気絶、もしくは血を出さずに戦闘不能状態になっている。


「さっそく剣を見せてちょうだいな! あら?」

「ギイ?」


 パンを抱えながらぱちぱちと侍従を称えた王女は、ふと近場に目を移す。ぱちぱちと大きな目を瞬いたツィーヤ・ンイバーヤがまとめて握っていた、入り口の枠とそれに接する檻の柵。握られていたそこが、握られすぎて一体化していた。


「まあ! ツィーヤ・ンイバーヤ、あなたの手の形に曲がっているわ!」

「ギ」

「どうなっているの……えいっ……全然開けられないわ」

「ギ、ギイイ……」

「こんな硬いものを握り潰してしまうなんて、ツィーヤ・ンイバーヤ、あなた見た目以上に力があるわね」

「ギギ」


 金属が粘土かなにかのようにぐにゅっと形を変えているのを、王女はつんつんと指で確かめる。ツィーヤ・ンイバーヤはその隣でちょっと得意そうな目をしていたものの、キースの視線を感じて目を泳がせた。


「キース、そんなに怒らないでちょうだい。ツィーヤ・ンイバーヤは手でここを開けられるもの。そうよね?」

「ギイ!」


 ツィーヤ・ンイバーヤが変形したところを掴んでめこっと広げると、王女はそれにも拍手をおくった。お姉さまが通るのだからもう少し広めに、足元もちゃんと空けてちょうだいな、などといった注文にもツィーヤ・ンイバーヤは丁寧に応えている。


「あっ、棒が取れてしまったわ!」

「ギ、ギギ」

「尖っていて危ないわね。こう、くるくるっと丸くできないかしら?」

「ギイー?」

「そうそう! とっても上手じゃないの! ツィーヤ・ンイバーヤ、あなた芸術の才能があるんじゃなくて?」

「ギ……ギイィ〜〜〜」

「殿下、出てから遊んでください」


 キースは剣をしまい、金属工作をたしなむツィーヤ・ンイバーヤとステラ王女を牢の外に出してから、ブルーローズ王女に手を差し出した。


「第五王女殿下、どうぞ外へ」

「ありがとう……見事なあしらい方だったわね。わたくしはあなたを称えます、キース」

「身に余るお言葉でございます」

「わたくしの妹は、あなたのすごさをよくわかっていないようね……もう少しきちんと労うように教えなくちゃ」


 狭い廊下での戦いだったとはいえ、武器を持った相手を大勢ねじ伏せることは容易ではない。それを剣なしでやってのけたことは、わかる人から見れば奇跡のような強さである。

 国王陛下の御身さえも預けられるほどの実力だというのに、ステラ王女はにこにこといつも通りに誉めただけだ。

 王族のために捧げられた優秀さは、それに見合った言葉が必要。ブルーローズがそれを指摘すると、キースは微かに笑いながら頭を下げる。


「殿下の御身を守ることは私の役目。たとえ言葉がなかったとしても光栄なことです」

「まあ、健気なこと。わたくしの妹は幸せね」


 優しげな目が、妹姫を守る侍従に向けられる。


「ステラローズはあなたとトゥルーテにばかり頼るから、あなたがたの負担も大きいことでしょう。けれどね、わたくしたちからすれば、それほど信頼できる相手というのは幾千の財宝よりも価値が高く、かけがえのないものよ」

「殿下を負担に思ったことなど、出会ってから一度も感じたことはありません」

「あらあら」


 ブルーローズ王女は、何年経っても変わらない妹の侍従ににっこりと笑う。その笑顔は、キースが毎日飽きるほど見ているステラ王女のものとそっくりだった。


「負担に思わぬだなんてとっても頼もしいわ。では、ここにあるわたくしのドレスをすべて運んでちょうだいな」

「……かしこまりました」

「お姉さま! 見て! ツィーヤ・ンイバーヤがはがねのリボンを作ったわ!」


 おっとりしていて、ちゃっかりしている。

 愛らしい人形のような姉妹は、そんなところも似ているのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 大変な戦闘後に労っておいて疲れたところに荷物持ちさせるとか姫姉様何気に鬼畜
2022/07/02 02:36 退会済み
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