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南方フェトイの丘では30

「おい、囲め! 一気にかかれ!!」


 男たちの怒号が聞こえる中、キースはいまにも飛びかからんばかりの男たちに対していまいち集中しきれていなかった。


「まああ!! キースキース! あなたの剣、うっすら光っているわよ!」


 牢の中に放り込んだ王女がかぶりつきで見てくるからである。


「青白く光っているわ! どうして? とってもきれいよ!」

「殿下、壁際へ下がっててください」

「なんて美しいの……もしかしてあなた、世界に選ばれし勇者というやつなのかしら……!!」

「危ないですからはよ下がれ」


 男たちをぶちのめすために抜いた剣は、王女をオヤツを前にしたポメラニアンのように興奮させてしまった。金属の柵を握り、目をキラキラさせてすごいわすごいわと夢中になっている。


「キース、ちょっと見せてちょうだい。まあ、剣を降るとまるで流れ星みたい! なんてすてきなの!!」

「殿下、いやもういいです」


 王女を守るためなら千人でも万人でも切り捨てる覚悟のあるキースだが、王女に実際人が死ぬ様を見せるとなるとまた別の話である。大事に大事に育てられてきた宮殿入り娘である王女にグロテスクなものを見せるだなんてとんでもない。

 キースは剣を諦め、床に置いた。殿下が見やすいように、かつ、殿下が手を伸ばしても届かない位置である。

 お茶菓子を3日分食べてやろうと心に誓いながら、キースは鞘を構えて男たちに向かう。


「ツィーヤ・ンイバーヤ、あれを見てちょうだい! なんて美しいの。月光を秘めた剣ね……」

「ギイ……」

「キース、がんばって! そしてあとでわたくしに剣を見せてちょうだいな!」

「はいはい」


 最初の男の剣を避け、空いた脇を蹴り付ける。キースは倒れた男から取り上げた剣を槍のように投げて後方の男たちを牽制し、近場にいる者を次々に倒していった。ぱちぱちと拍手する音が聞こえるので、間違っても刺激が強すぎる状態にはできない。キースは戦いながら、この3倍の人数で襲い掛かられるよりも難しいことを要求されている気がした。


「すてきね……きれいね……」

「ギイ……」

「本当に美しいわね。宝剣クィンカレーナは」

「お、お姉さまご存じなの?!」


 ツィーヤ・ンイバーヤと並びしゃがんで剣を眺めていたステラ王女の背後で、ブルーローズがおっとりと頷いた。


「我がサフィリア家に伝わる宝剣よ。選ばれた者のみが使うことができるというわ」

「まあ! わたくしのキースが持つのにぴったりね!」

「ちなみに、前の持ち主は250年前の大河戦争を勝ち抜いた勇王マージツェーリさまよ」

「まああ!」


 ステラ王女は目をさらに輝かせた。

 勇王マージツェーリは祖王の再来といわれたほどの強さを誇った王である。その剣は岩を切れば粉々に砕き、地に刺せばその熱き思いが噴き出たと伝説が残っている人物だった。ちなみにその伝説の地はいまは温泉街として賑わっている。


「そんな剣を持っていただなんて知らなかったわ」

「一のお兄さまが与えたのでしょうね。あなたを守るために」

「お兄さま……」

「ギィ……」


 ステラ王女は兄王太子の慈愛に感動し、思わず手を組んで天を仰いだ。

 お礼の手紙を書かなくては。もっと早く教えて欲しかったと一言を添えて。


「この剣は、選ばれた者が持つとこうやって光るらしいわ。祖王さまの時代、わたくしたちのご先祖が目に見えぬ力を持っていた頃は、サフィリアの名を持つ者はみんなこの剣を光らせることができたというけれど……わたくしには無理だったの」

「お、お姉さまもあの剣を持ったことがおありなの?!」


 静かに頷いた姉王女に、ステラ王女はわなわなと震えた。


「ずるいわずるいわ! いつもわたくしばかりのけものにして!」

「手に取ったのは、あなたがまだゆりかごで眠っていた頃の話だもの。それにステラローズ、あなた今でもあの剣を持てないのではなくて?」

「……持てないわ……」


 ブルーローズ王女とステラローズ王女の年齢差は6歳。ステラ王女が赤ん坊の頃に宝剣を握ったということは、当時ブルーローズ王女は6歳かそこらである。

 6歳でも持てた剣の重さを、16歳なのに持てなかった。同じ姫なのに。

 若干プライドが傷付いた王女は、ひそかに重いものを持つ練習をしようと誓ったのだった。






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