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南方フェトイの丘では5

「というわけで、何とかなったのよ」

「よろしゅうございましたね、ステラさま」


 宮殿へと戻ってきた王女は、トゥルーテが淹れたお茶を飲みながら結果報告をした。メイドであるトゥルーテは公の場に出ることは少ない。王族との面談の際などは部屋に控えており、王女が戻ってくるとお茶を用意して、どんなことがあったのか話を聞く。トゥルーテは、小さなことでも身振り手振りで話してくれる王女の話が大好きだった。

 トゥルーテの言葉に相槌を打つように、ツィーヤ・ンイバーヤが「ギィー!!」と音を発している。


「ええ。でも、これからしばらくは忙しいでしょうね。なにしろ、神話に出てくる存在を持って帰ってしまったのだもの。騒ぎになること間違いないわ」

「ステラさまがお叱りを受けないか、トゥルーテは心配です……」

「そうねえ。王太子のお兄さまはちくちく言ってくるでしょうけど、むしろツィーヤ・ンイバーヤの話を利用してできることもあるでしょうし。二のお兄さまはどこにいらっしゃるやら。厳しいといえば三のお兄さまだけれど、辺境伯のところに滞在しておいでだからお言葉をもらうとしたらお手紙ね」


 首を傾げつつ、王女は指折り兄弟を数える。


「四のお兄さまは留学中、五のお兄さまは俗世に興味がないから安心だわ」

「ステラさま、姉君さまたる王女殿下の方々はいかがですか?」

「う……そっちはちょっと心配かもしれないわ……で、でも! 一番厳しい一のお姉さまはお嫁ぎになってらっしゃるし大丈夫よ!」


 大丈夫じゃなさそうな予感がしたものの、トゥルーテはステラ王女に頷くことにした。

 ツィーヤ・ンイバーヤも同意するように「ギーギー!!」と鳴いている。


「うう、王宮に帰る前に三のお姉さまにお会いできたら、きっと喜んで味方になってくれたわよね……」

「第三王女殿下は、シーラバス国の研究所で何年もお過ごしですからね……」


 王が奮闘したおかげで、ステラ王女は生まれてこのかたお説教をしそうな兄姉には困らない生活を送っている。王妃は2度交代しているため異母兄妹もいるものの、それぞれの関係は非常に良好だったのが幸いである。周辺貴族が王位継承を狙って王子らを傀儡にしようと企んだことも何度かあったものの、兄弟間の連携と優秀な配下によってステラ王女が物心つく頃には大体決着していた。


「でも、ちょっと騒ぎになったくらいのほうがいいかもしれないわ」

「ステラさま、それはやっぱり旅に出る口実になるからですか……」

「そうよ。ツィーヤ・ンイバーヤが国を旅しているとなると姿勢を正す人もいるでしょうし、怖がり屋さんの貴族のかたがたも、王宮を出たら追いかけてまで文句は言わないでしょうしね」

「うぅ……あの巨大な存在と旅をするのは想像するだけでも大変ですよステラさま……」


 トゥルーテが眉尻を下げて言うと、ステラ王女は「そうねえ」と頷く。


「ギー!!」

「今だって、こんなに叫んでいるのだもの。街中で宿を取るのは難しいかもしれないわね」


 先程からギーギー鳴いていたツィーヤ・ンイバーヤは、この王女とメイドがお茶をしている部屋にはいない。そもそも宮殿に入らないサイズなので、外に置きっぱなしなのである。

 それを不服に思っているらしいツィーヤ・ンイバーヤは、先程からギーギーと大きい鳴き声を発し続けていた。その音量は大きく、窓を閉めているにもかかわらず、王女とトゥルーテのそばで鳴いているのではと思うほどである。

 ふたりしてしばらくギーギー響く鳴き声に耳を傾けていると、侍従が部屋へと戻ってきた。


「殿下」

「キース、おかえりなさい。あなたもお茶をお飲みなさいな」

「そんな場合ではありません殿下」


 非常にめんどくさそうな顔をしたキースが、背後の階段を指して言う。


「ツィーヤ・ンイバーヤが無理やり宮殿へ入ろうとドアを軋ませています」

「なんてことなの! 小屋ができるまでお庭で大人しくしているように言ったのに!」

「騎士はともかく、他の者が怯えていますよ。お早めに対処を」


 自分で拾ってきたんだから自分で何とかしろ、という気持ちを隠さないキースの視線に、王女はカップを置いて立ち上がった。このまま騒がれては、騒音問題でお説教の雨を食らうことになってしまう。


「仕方ないわ。こうなったら一刻も早く旅に出るしかないわね」

「まず大人しくさせてください殿下。じゃないと王太子殿下にとても旅に出られる状況じゃないと進言しますよ」

「まあ! なんてひどいことを思いつくのキース! あなた参謀に向いているわね!」

「お褒めにあずかりまして」


 王女はぷりぷりしながら階下へ降りる。キースはしれっとした顔で、トゥルーテはハラハラしながらその後ろをついていった。






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