無事
「そうかしら?」
シームァは思う。
もしも、また呼ばれたとしたら、それは何かのピンチの時だ。
そういう展開にはならないほうがいいに違いない。
「異常はないね」
シムィンは研究所に戻ろうとした。
「私はもう少しここにいるわ」
シームァは言って、液晶の端末を触ってみる。
シームァが触っても、それは反応しない。
シムィンは見てはいけないものを見てしまったような気がして、さっと研究所に戻った。
シームァは液晶端末を触ってみた後、扉を見た。
扉を眺め、機械の目の焦点距離を上げてみた。
そんなことで、ここにないモノが見えるわけもなかった。
だが!
ぼんやりと見え始めた。
それは昨日の女の子と犬だった――
*
それは幻のようで、幻じゃない。
ここにはないけど、どこかに確実にあるもの。
シームァにはそれがわかった。
少女はしゃがんだ姿勢で何か操作している。その仕草はおそらくゲートの点検だろう。
その後ろにいる犬は、わんわんちだった。
ふと、シームァはわんわんちと目があった。
「あなた、私が見えてるの?」
そんな言葉も、わんわんちに聞こえてるはずはないのだが。
だが、わんわんちはシームァを見て、嬉しそうに尻尾を振る。
そして、少女の身元で会話するように口を動かしていた。
一通り、会話が終わると、少女はシームァに向かって手を振ってきた。
思わず、シームァも手を振り返す。
少女は笑顔だった。
名前すら知らない少女だが、無事なのが知れてよかった。
可能性は低いがいつかまた会えるかもしれない、シームァはそんなことを思っていた。
終
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