引き返す
「行ったというより、呼ばれたの」
きっと溺れて意識のない少女を助けたいと思ったあの犬が自分を呼んだんだろう、シームァはそう思った。
そういえば、どうして溺れたのか、それどころか少女の名前も聞いてなかった。
「あなたたち、帰ったんじゃなかったの?」
「大きな魔法を感じて、引き返してきた」
「ゲートの向こうにシームァがいるような気がして、名前を呼んだんだ。そしたらシームァが出て来た」
とシムゥンが言った。
「私のこと呼んでくれたの、シムゥンでしょ」
シームァの問いに、シムゥンは頷く。
「ありがとう。おかげで迷わず帰って来れたわ」
シームァの言葉にシムゥンは得意げにに笑う。
ジーラは信じられない思いで、シームァを見ていた。
* * *
翌日――
シームァは、兄のシムィンとゲートの前にいた。
シムィンがゲート横の液晶端末を操作する。
「開いた形跡がある」
シムィンはそんなこと言った。
「シームァが開けたの?」
「違うって。私は呼ばれただけ」
「僕も異世界行ってみたいな」
「私ももう一回行きたい」
軽い口調で行ってみたシームァだが、あの犬と一緒にいた少女は無事なのか気になっていた。
「扉を開けたら、異世界が……」
なんて言いながら、シームァは扉を開けてみた。
扉の中は、特に別の星でもなければ、異世界でも何でもない。
そこにあるであろう至って普通の狭い室内だった。
「……なわけないか」
シームァはため息をつく。
「また呼びに来るんじゃない?」
シムィンはよくわからないなりに、なぐさめてみた。