異世界
犬が前足で押すと、扉は開いた。
「今度、またゆっくり話そうね」
少女はにこりと微笑んだ。
その顔を見て、シームァにやはりかわいいと思った。
その後ろに、アンドロイドが迫っていた。
「さあ、早く」
「え?」
犬――わんわんちが、シームァのズボンの咥え引っ張っていた。
展開が急すぎる。
戸惑うシームァ。
少女はアンドロイドに対峙していた。
あんなアンドロイド相手にこの少女を一人にするのは気が引けた。
だがシームァの思いは知ってか知らずか、わんわんちはシームァを引っ張っている。
「必ず、また会おうね」
シームァはそんなこと言った。
今生の別れになる、なんてことにはなりたくない。
その声は少女に届いたかどうか。
わんわんちに引っ張られ、シームァはゲートの向こうへと足を踏み入れた。
*
扉の向こうは光のない空間。だけど真っ暗というわけではない。
足に触れるものがなく、それでいて歩いている実感はある。
わんわんちの後についてシームァは歩いた。
そして、扉が見えた。
扉の向こうから自分を呼ぶ声が聞こえて来た。
わんわんちは振り返り、シームァを見た。
「もう大丈夫。あなたはあの女の子の所に戻ってあげて」
そう言うと、わんわんちは元来た道をダッシュで引き返して行った。
シームァは目の前の扉を開けた。
* * *
扉を開けると、そこにジーラとシムゥンがいた。
「シームァ!」
シムゥンが泣きそうな顔で抱き着いてきた。
「なんでぬれてるの?」
ずぶ濡れの少女とハグしたから。
それを思い出して、恥ずかしくなるシームァだった。
その少女とキスまでしてしまった。
「ちょっとね……」
「シームァ、異世界に行ったのか?」
ジーラは信じられない思いだった。
シームァには魔力はないと思っていた。が、シムゥンの実の姉だけある。本当は強い魔力を有しているのかもしれない。